3
時は同じくしてまどか宅。
まどかは自室のベットの上でうずくまっていた。
「…………」
ほむらと別れた後、さやかとマミに何かを言われた記憶はあるが何を言っていたのかは覚えてなかった。
そしてその後の記憶も曖昧なままで気が付いたら自室にいた。
その間に彼女は、ひたすらにほむらから突き放されてしまった理由について考えていた。
どうして、どうして、と自問を繰り返す。
そうしていると、コンコンと誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「まどかー、入るぞ」
ノックした人物の声を聞いて顔を上げる。
そこにはまどかの母親、鹿目詢子がドアを開けてひょっこりと顔を出していた。
「ママ…どうしてわたしの部屋に?」
「帰ってきてからずーっとドンヨリとしたままで、何を聞いても上の空の生返事をされてたら気にならないわけないだろ?」
まどかの様子を見て、やれやれといった感じにため息をつく。
「ほら、そんなところで丸まってないで下の方で話そうや」
手のひらをあおいで、まどかを部屋の外から誘い出す。
まどかはそれに対して言われるがままに詢子の後についていった。
そして二人は下の階、家のリビングに着いて向かい合うように椅子に座る。
「やっぱこっちの方が話しやすいなー」
「そんなこと言って、ホントはお酒飲みながら話したいだけでしょ?」
「バレてたか」
ペロッと舌を出して、そのまま悪びれる様子もなくテーブルの上にあったグラスにお酒を注ぐ。
「あんまり飲みすぎると明日の朝ツラくなるよ?」
「いいんだよ別に。アタシにとってはシラフんときより話しやすいんだよ」
「もー、ママったら」
まどかの口元が緩む。
その様子を見て詢子は「やっと笑ったな」と嬉しそうな顔を見せた。
「それで? 一体何があったのさ」
身を乗り出して聞いてくる詢子になんて話すべきか迷うまどか。
さすがに何も知らない母親に対して魔法少女のことを話すわけにはいかないので、内容を少しぼかしてこう伝えた。
「実はね__」
数日前から仲良くしていた友達に困りごとがあってその子は悩んでいた。
自分もそれを解決する為に手伝っていて、これからも助けていきたいと思ってる。
その旨を今日改めてその子に伝えると、急に態度が急に変わってしまい、私とは関わりを断つと言われてしまった。
説明をしている中、詢子は時々相槌を打ちながらも無言で話を聞いていた。
話を続けている内にまどかは徐々に目頭が熱くなっていくのを感じる。
だが泣きたくなる気持ちをグッと堪えて事の顛末を話し終えた。
「なるほどねー。うーーーん」
話を聞き終えてしばらくの間何かを考えながら唸る詢子。
自分より遥かに経験豊富なママにとってもこれはとても難しい問題なのかな…と肩を落としていると、詢子が自身の考えを述べた。
「詳しい事情までは分からないけど、その子はこれ以上自分の困りごとに巻き込みたくがない為に敢えてまどかを突き放すようなことを言ったんじゃないかな?」
「…………」
(魔法少女の件に関わるのは命の危機にも繋がってしまう。生半可な気持ちで、いやたとえどれだけ覚悟が決まっていたとしても余程のことがない限りそんな世界に踏み入るべきではない。ほむらちゃんは何度も何度も私とさやかちゃんに警告していた。
やっぱりママの言う通り、ほむらちゃんはもう私をこれ以上巻き込まないようにする為にあんなことを言ったのかな? ……でも)
「その反応だと自分でも大体の見当はついてるって感じだな。
ならついでに一体まどかは何に悩んでいるのか、当ててやろうか?」
「うん……」
「その友達の意図してることは分かった。けどそれに対して自分はどうしたらいいのか…ってことだろ?」
「そうだね……」
当たり前のことだ。そう思っていると
「いや正確にはもう何をしたいのかは決まってる。
まどかは例えその子が拒んでるのを分かってる上で力になりたいと思ってる。
だけどもそうすることで、更にその子から嫌われてしまうのではないかと恐れている」
「え?」
自分の思ってること全てを見抜かれて、まどかはあっけにとられる。
どうして?って顔をしていると詢子はその考えすらも見抜いて話す。
「何年まどかの母親やってると思ってんのさ。自分の子が何を考えてるのかなんてすぐに分かるもんさ」
「ママ…凄い……」
「まっ、まどかの場合は昔から真っすぐで分かりやすい性格してっからってのもあるけどね」
「それで……私はどうすればいいのかな?」
「方法は一つしかないな、その子としっかり話し合う。そしてアンタの考えを伝えるんだ」
「でもわたしは今日しっかりと伝えたつもりだったんだよ? だけども__」
「それはきっと覚悟がしっかりと伝わってなかったからじゃないかな?」
「そ、そんなことないよ! わたしは…!!」
あの時告げた言葉は、まどかなりに覚悟を決めていったもののつもりだった。
それを否定されたと思ってしまったまどかは強く反発しようとする。
「まあ落ち着きなって、別にまどかの覚悟が足りてないとかを言いたいわけじゃなくてな。
きっとその覚悟はその子には完全には伝わりきらなかったんだと思うんだ。
まどかがどういった理由で力になりたいのか、思ってること洗いざらいぶつけないときっとその子は差し伸ばされた手を掴んでくれない。それ程までにアンタの友達は大変な境遇にいるんじゃないのか?」
「…………」
(魔法少女という命懸けの戦いを日々強いられるほむらちゃん、わたしはそんなあの子の力になりたくて一緒に魔法少女として戦うことを望んだ。
だけどもそれを認めてもらうにはいくつもの目を逸らしてはいけない問題がたくさんある。それを全て受け入れるというわたしの想いを伝えることであの子はわたしを隣に置かせてくれるのだろうか。もしもそれを認めてもらえず、またあの冷たい目で拒まれてしまったら……)
『ならあなたとの関係はここまでよ。鹿目まどか』
結界内で起きた出来事がトラウマに感じてしまい、思わず弱音を吐いてしまう。
「でも…それでもし本当にほむらちゃんに嫌われちゃったら……」
「嫌われるのは怖い?」
「……うん」
「たとえそうだったとしても思いきってぶつからなきゃ、何もわからないままだ。
それが怖くて逃げだしちまったら、ずっと後悔することになるはずだ」
それでも不安そうにするまどかに詢子は優しく頭を撫でた。
「大丈夫だ。アンタは昔っから優しい子だ。きっとその気持ちも届くはずだよ」
「……ママ。うん…私、やってみる。頑張ってほむらちゃんと話し合ってみる!」
きっと気持ちは届く。母からの言葉がまどかを決心させた。
「その意気だ。じゃあ今日は明日に備えて早く寝なくちゃいけないな」
「うん! おやすみ!」
詢子からの励ましで元気を取り戻したまどかはリビングを出ていこうとした。
が、一旦足を止めて改めて詢子の方に向き直った。
「ママ」
「ん? まだ何か相談したいことでもあった?」
「ううん。…ありがとうね」
「私はただ背中を押したげただけさ」
「そうだとしてもママに相談してよかったよ。じゃあ今度こそおやすみ」
そう笑ってまどかはパタパタと階段を上がっていった。
詢子はその様子を嬉しそうに見届けた後、グラスに残った酒を一気に飲みほした。
4
翌朝、家を出たまどかはいつもの待ち合わせ場所に向かった。
そこにはさやかと仁美がおり、二人ともまどかが来たことに気付いていたのか大きく彼女に手を振っていた。
「さやかちゃん、仁美ちゃん。おはよー」
「おはようございます。鹿目さん」
「おっはよー! やっと来たね~この寝坊助さんめ」
「あはは…昨日の夜、考え事してたら眠れなくて……」
「この歳で夜更かしとは感心しませんな~。夜更かしは美容の天敵って言うし」
「さやかさん。『天敵』ではなく『大敵』ですわ」
「そだっけ? まあどっちも敵なことには変わらないから問題なーしよ。そ・れ・にぃ~」
手をワキワキさせながらまどかに近づく。
その行為にまどか、身の危険を感じる。
「寝不足になるとぉ~、身体の色んなトコが成長しなっちゃうんだぞー」
さやかがまどかの全身をくすぐる。
「さやっ…ふふっ、そこっ…やめっ、あはははは!!!」
「ほれほれ、ここか? ここがええのかぃ?」
「!!」キマシッ
「何で…ちょっとおじさんくさいのっ、あっはっはっは!! 仁美ちゃんも、見てないで助けてよー」
「あぁ…いけませんわ、さやかさん。
鹿目さんには暁美さんという運命の人がいるのに…禁断の恋が始まってしまいますわ~!!」
「まどか諦めな。仁美は完全に自分の世界に入り込んじゃったみたいだ」
「そ、そんなぁー」
ニシシとイジワルそうに笑うさやか。
だが仁美の様子を確認して直ぐに表情を変え、まどかに耳打ちする。
「……それでまどか、アンタ大丈夫なの?」
「えっ、大丈夫って…?」
「昨日あんな打ちひしがれた様子見せられちゃ心配もするって」
突然の様子の変化に戸惑うまどかだったが、質問の意味を理解しさやかに自分の気持ちを伝える。
「全然平気!…ではないけれど、あれから色々と考えてみて私決めたの。
一度ほむらちゃんとしっかりと話し合ってみようって」
「…………」
「いきなり突き放されちゃって最初はビックリしたけれど、きっとほむらちゃんには何かワケがあったからあんな風になったんだと思うの」
「あったんだろうね。それもアイツにとって都合の悪い『ワケ』が……」
「うん。でもそれがどんなのかは正直何でもいいの」
「どういうことさ?」
「私は、またほむらちゃんと一緒に居られたらそれでいいの。たとえそれが魔法少女としての仲間でも、普通の女の子としての友達でも」
「まどか…」
まどかのほむらを思いやる気持ちになんとも言えない気持ちになる。
少し迷ったけども、まどかの意を汲むことにする。
「わかった。アンタがそういうんなら邪魔はしないよ。
でももしアイツに何かされそうになったら、すぐにあたしやマミさんに言うんだよ」
心配するさやかを見て、まどかは笑う。
「まさか、ほむらちゃんはそんなことしないよ」
楽観的な様子を見て、更に心配になる。
「だといいんだけどねぇ…__にしてもだ」
「?」
「あんだけ落ち込んでたというのにここまで元気に、前向きになってたなんて、さやかちゃん嬉しいぞ~」
再び態度が変わり、ニコニコしながらまどかに頬擦りする。
「ちょっ、ちょっと! やめてよ~」
こうしてさやかちゃんの後押しもあって、いざほむらちゃんと話をする為に学校へと向かいました。だけども__
「ほむらちゃ__あれ、いない…」
「机にはもう既に鞄が置かれてるってことは、あの転校生もう学校に来てるっぽいね」
「ほむらちゃん、どこ行っちゃったんだろう…」
「まー、別に休んでるわけじゃないんだしどっかのタイミングで話せるっしょ」
「うん。そうだね」
なんて思っていたけども……
朝は、HRのチャイムが鳴って先生が教室に入ってくるのと一緒に来たせいで話せず。
仕方がないので一限目が終わった後に話そうとしたんだけども。
「ねぇさやかちゃん…ほむらちゃんに何て話しかければいいかな?」
「え?」
「昨日あんなことがあったばかりだから、どうしても緊張しちゃって…」
「気持ちは分からなくはないけども、どうにかするしかないでしょ。あたしが関わるとかえってややこしくなりそうだし……」
「確かにもっとこじれちゃうね」
「ちょっとは否定しろ」
「じゃあ早速ほむらちゃんの所へ…ってもういなくなってる?!」
「あら、暁美さんでしたら授業が終わるやいなや直ぐに出て行きましたわよ」
「アイツ…今朝のことといい、あからさまにあたしら避けてるんじゃ…」
「そ、そうなのかな……」
「お二人とも暁美さんと何かありましたの?」
「ちょ、ちょっとね。ははは……」
わたしが勇気を出せなかったせいでこの時間は話すことは出来なかった。
そして次の時間も……
「ほむらちゃ__」
「ねーねー、暁美さん。さっきの授業で聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「…………(さすがに邪魔しちゃ悪いよね?)」
その次の時間も……
「ほむらty__」
「暁美。すまないがこのプリント職員室まで運ぶの手伝ってくれないか?」
「はい、先生」
「わ、わたしも手伝います!」
「いやこの量なら二人で十分だ」
「…………」コクリ
「そうですか…」
更にその次の時間でも……
「まどか、次の時間は体育だからさ。上手いこと転校生と一緒になれれば__」
「そうだね。でも…さっきからほむらちゃんの姿がどこにも…」
「よーし、それじゃあ授業始めるぞー」
「先生。あの、ほむらちゃんがまだ来てないんですけど…」
「暁美さんなら具合が悪くて保健室で休んでるみたいだ」
「そ、そうですか……(わたし保健委員なのに…)」
そしてお昼休みには……
「失礼します! ここでほむらちゃん休んでるって聞いたんですけども!」
「あら暁美さんなら体調が優れないから早退するって言って帰っちゃったわよ」
「…………」
__私は、ほどんどほむらちゃんと話すことが出来ませんでした。
5
昼休み、結局ほむらと話すことが出来なかったまどかはさやかに連れられて屋上にて昼食をとることとなった。
「…………」
「な、何というか…ドンマイ」
「きっと今日は暁美さんの調子が悪かっただけよ。きっと……」
「マミさん。二回言っちゃってます」
事情を聞いたばかりのマミも何とか励まそうとしたが、あまり効果はないようだ。
「もうほむらちゃんとずっとこのままなのかな……」
「転校生は具合悪くなって早退したんでしょ? なら学校終わりに直接家に押しかけてやれば__」
「でも本当に具合が悪かったとしたら、ほむらちゃんに悪いし……」
「な、ならお見舞いに来たていで行けば__」
「でも居留守使われちゃったら……」
「だァーーー!! ストップ、ネガティブシンキング!!!」
「……ごめん」
後ろ向き発言に耐えかねて頭をガシガシするさやか。
激しく落ち込むまどかを見かねて、マミはこんな提案をしてきた。
「今日はお互いに都合が嚙み合わなかったってことにして明日、また話してみるのはどうかしら?」
「そ、そうだよ。これからまだ話をする時間なんて沢山あるんだし長い目で見てこうよ」
「うん……」
「そうだわ。今日のパトロールが終わったら帰りに何処かでお茶してかない? 私いいお店を知ってるんだけども」
「おっ、マミさんナイスアイディア! まどか、転校生のことは一旦忘れてパァーっとやっとこう?」
「……ごめんなさい。マミさん、ちょっと考えさせてください」
「「…………」」
さやかとマミは顔を見合わせる。
自分達が思っていたよりも遥かに重症なようで、どう声をかけたらいいか困惑していた。
それからも昼休みの時間が終わるまで二人は何とかして、まどかを励ましたり別の話題で気を逸らそうとしたがどれも大した結果は得られなかった。
そして放課後、昼に話したようにさやかはまどかをマミの魔女退治の見学に誘おうと声をかけた。が__
「ごめん、さやかちゃん。今日は先に帰るね……」
「……わかった。気を付けて帰りなよ」
結局何もしてやることも出来ずにまどかを帰してしまうのだった……
「さやかちゃん…ごめんなさい……」
今日一日ずっとわたしのことを心配して気を遣ってくれていたのに…
何とかして励まそうとマミさんと一緒に頑張ってくれていたのに…
頭の中が申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
このままじゃわたし、さやかちゃん達に迷惑かけ続けちゃう。
これ以上、二人に心配されない為にも急いでほむらちゃんと話し合わなくちゃ…!
そうしないと……きっと__
『たとえそうだったとしても思いきってぶつからなきゃ、何もわからないままだ。
それが怖くて逃げだしちまったら、ずっと後悔することになるはずだ』
面と向かって話し合うのは怖い。
だけどもそれから逃げて、こんな状況が続くのはもっと怖い。
「今から家に行っても、大丈夫だよね…?」
お昼休みの時、居留守を使われるかも。なんて変なことを言ってた気がするけども、きっと大丈夫なはず…ほむらちゃんに限ってそんなことするわけが……
__今日あんな冷たい態度取られたのに?
だけどもほむらちゃんなら…事情を説明すればわたしの話を聞いてくれる。
__でも、もし聞いてくれなかったら?
そしたら私は……どうすればいいんだろう。
__何も出来ないよ。
そうかもしれない…。何も出来ずに一人でうじうじと悩んでるだけで……
__後悔したままずっと皆に迷惑をかけ続けるんだろうね。
うん。そうだね……
__そんな人生なんてくだらなくない?
嫌だよ。わたしそんな生き方なんてしたくない。
__でもわたしはずっとそう生きていくことになるんだよ?
友達一人ともちゃんと話すことが出来ないから?
__そんなことも出来ないわたしに。人生を選べれると思う?
無理だよ。
__そうだよね。
じゃあどうすればいいの?
__逃げちゃえばいいんだ。
でも逃げたらずっと後悔することになっちゃう。
__そんなことはないよ。苦しまずに逃げられる方法をわたしは知ってる。
それってなぁに?
__簡単だよ。ここから……
「飛び……降りる?!」
信じがたい言葉が頭に浮かんできて、咄嗟に我に返る。
さっきまでモヤがかかってたような感じだった視界が一気に晴れる。そこでわたしの目に映ったのは__
「ひっ__!」
何もない空間へと踏み込もうとしているわたしの足だった。
慌てて足を退かせて、後ろに倒れる。
「痛てて…わたし、何で…それにここって屋上?」
打ち付けた背中に手をあてながら周囲を見渡す。
そこが何処か知らない建物の屋上であろうことを考えた瞬間、目の前の景色が一転した。そしてそこでようやく理解した。
なぜ自分はこんなところにいたのか。
なぜ自分の考えていることに答えるモノがいたのか。
なぜ自分が屋上から飛び降りようとしていたのか。
いくつもの風船が空へと昇っていく。
チャラチャラと金属がぶつかる音が辺りに響く。
間違いないここは__
「魔女の…結界だ……」
☆See you!! Next story……★
結界に囚われてしまったまどか。さやか、マミ、そしてほむらは彼女の危機に気付けるのか?
第15話に続く……