6
見慣れない格好をしている自分の親友…と思われる少女に対してさやかは恐る恐る声をかける。
「まど……か、だよね?」
するとその少女はさやかの方を振り向いて笑顔で答えた。
「うん、私だよ。さやかちゃん」
声はまどかそのもの…だが姿は少しだけ違った。
彼女が先程まで着ていた見滝原中学の制服は、黒を基とした落ち着いた服装となり、左腕には円盤型の盾が取り付けられていた。
そして顔つきも変わり、中学生とは思えないくらい大人びたものとなっていた。
「でも何だかちょっと変っていうか、らしくないっていうか……?」
『元々のベースはまどかだけど、そこに私の要素も組み込まれているからね。変に思うのも仕方がないわ』
苦笑いしながら答えるさやかに聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「その声…もしかして転校生?」
『ええ、そうよ』
倒れているほむらに近づいて耳を澄ませるが、声の発信源はここからではないようだ。
「こ、コイツ直接脳内に?!」
「違うよ。ここだよ、ここ」
まどかがそっと自分の胸に手を添える。
さやかはほんの少しだけ訳の分からない様子でいたが、すぐに理解した。
「えええええ?! もしかして転校生とくっついちゃったの?!!」
「ん~『くっついた』って言うか…なんて言えばいいんだろう?」
『簡単に言えば、まどかと私の精神を一つにした。という感じね』
「精神を一つに?」
まだ完全に理解しきれずに頭を悩ませるさやかだったが、その思考は何処からともなく響く奇声によって阻まれた。
『ちょっとおしゃべりが過ぎたようね』
「そうだね」
『奴はこの前に逃した魔女のようね……』
「今度は逃がさないよっ」
『一気に決めなさい、まどか』
精神体となっているほむらと短い会話を終えたまどかは、盾の中からサブマシンガンとグレネードユニットを取り出して二つを組み合わせた。そして組み合わせて完成した武器を魔女へ向ける。
「…………」
「さやかちゃん!」
「!!」
華の女子中学生にあるまじきものを構えるまどかにあんぐりと口を開ける。
「本当はしばらくは隠しておくつもりだったんだけどね。ごめんね、巻き込んじゃって」
「い、いいよ別に。私も何がなんだかさっぱりだし……」
「ありがとう。でもこれだけは約束して」
「何?」
まどかは一瞬だけさやかに目線を向けて小さくウインクをしてこう言った。
「クラスの皆には、内緒だよッ!!」
声と共にランチャーは発射され、魔女は悲鳴もあげずに散った。
それ同時に辺りの景色が歪み始めて、気がつけばまどか達は元の夕焼けの路地にいた。
「あれ、戻ったの?」
ほむらを腕に抱えたままでいたさやかは気が抜けて、その場にペタンと座りこむ。
まどかの方も安心した表情を浮かべてはめてあった指輪を外して、倒れているほむらの指に戻した。
「ん……」
「あっ、転校生! 気がついたんだね!」
「お疲れ様。美樹さんも私の身体ありがとうね」
起き上がったほむらは、何事もなかったかのように二人に話しかける。
「ほむらちゃん、どうだった? 私の戦い方?」
「そうね。前回と比べても格段と良くなっているわ」
「えへへ、ほむらちゃんに誉められちゃった///」
賞賛の言葉に嬉し恥ずかしい表情をするまどかだが、ほむらの顔はまだ真剣だった。
「でも、油断しないで。使い魔であっても一瞬の油断でその命を失う可能性があるのだから、例えそれがベテランの魔法少女であっても」
「ごめんなさい…ほむらちゃん。変にうかれちゃって……」
「そんなに落ち込まないで、いざとなったら私が何としてもあなたを守るから」
「ほむらちゃん…ありがとう」
小動物のようにしゅんと萎んでいたまどかだが、その後の言葉に満面の笑みを見せる。
そして嬉しさのあまりほむらの手を握り、じっと彼女の顔を見つめた。
「はいは~い、そこまで」
間にさやかは割って入り、二人を引き離す。
「いちゃつくのはいいんだけど…いや、よくないか。とにかく、状況の説明をしっかりとしてくれないかな?」
「!!」
今自分のしていたことに気づいたまどかは恥ずかしそうに顔を赤める。一方、対照的にほむらは特に気に止めた様子を見せずに面倒そうにしていた。
「私としてはあまり気は進まないけど……」
「え~、なんでさ~」
「はぁ…どうしたらいいかしらまどか?」
「…………」
「まどか?」
反応しないまどかを不思議に思い、下から顔を覗きこむ。
「ひゃっ?! べ、べ、別にいいんじゃないかなッ!!
ほ、ほらもしかしたら、さやかちゃん気になって夜も眠れなくなっちゃうかもしれないし?!」
「あたしゃ小学生か」
「仕方ないわね。それじゃ、これから私の家に行きましょう。ここで話すようなことでもないし」
「おっ、転校生の家か~。どんな感じなのかな?」
「あなたが期待しているような物は置いてないわよ」
「ちぇっ、つまんないの」
「逆にどんなもの期待してたのよ」
「ライフルとか日本刀とか手榴弾とか」
「あるわよ」
「え゛っ……じょ、冗談だよね…?」
冗談半分で言った言葉なのになに食わぬ顔で答えられて、さやかは言葉を詰まらせる。
「嘘じゃないわよ、ほら」ゴソゴソ
「いい、見せんでいいから! 早く転校生の家に行こう!」
盾を具現化させて、中身をあさるほむらを制し、惚けているまどかと一緒に再び帰路を歩き始めた。
一瞬だけ、何か緑色の網目の入った球体が見えたような気がしたが、さやかは懸命にあれは小さなメロンだ…とほむらの家につくまで自己暗示をかけていた。
7
ほむら達が魔女を倒してから数分後、魔女のいた場所に一人の少女が現れる。
少女は不思議そうな顔をしながら辺りを見回し、小さく溜息をついた。
「おかしいわね。ついさっきまでここに使い魔の気配を感じたのだけど…無駄足だったかしら?」
『どうやらまた例の魔法少女に狩られてしまったようだね』
ただの独り言かと思われたが、それを返す声が辺りに響く。
少女は特に驚きもせずにその声の主と普通に会話を続けた。
「どういうつもりかしら? やっぱりグリーフシードを狙って……」
『だとしたら彼女は魔女だけを狙うはずだ。使い魔なんて狩っても何の利益にならないからね』
「そうね……」
『キミとしても都合が良いんじゃないかい? 代わりに戦ってくれる魔法少女がいることは』
それに対して少女は首を横に振った。
「そうかもしれないけども、そんなことを続けられてしまったら私の魔法少女活動にもいつかは支障が起きてしまうわ。
やっぱり早い内にどんな人物なのか確かめなくっちゃ……」
『そうだね。彼女は現段階では極めて異質な存在だ。警戒するのに越したことはないよ」
「異質…? そうなの?」
『うん。例の少女の出す魔力は普通では考えられないくらい強力でかつ不安定だ。
このまま放置しているといずれこの街…いやこの星の存在自体が危うくなってしまう』
「そんなこと…流石に冗談でしょう?」
『……事実ではないけども、可能性の一つとしてあることは覚えておいた方がいい』
「……そう」
少女は一瞬、怯えた様子を顔に見せたがすぐに隠してその場から去った。
☆See you! Next story……★
次回、第3話 始まりの日①