数日前の朝……
「それじゃあ行ってくるね、パパ」
「行ってらっしゃい…そうだまどか」
「どうしたの?」
「最近、物騒だから気を付けるんだよ」
「物騒?」
「ここしばらくの間、不審者が目撃されたり、行方不明の人がたくさんいたりするんだ。
テレビとかでもかなり話題になっているんだよ」
「そうなんだ……」
「だからなるべく人通りの少ない裏道とかは通らないで暗くならない内に帰って来るんだよ」
「分かった、気をつけるね。それじゃ行ってきまーす!」
この時のわたしはパパの言葉を特に気に留めていなかった。
そんな人通りの少ない道とかには入らないし、暗くなるまで家に帰らなかったこともほどんどなかったから。
もしもパパの言うことを守っていたら、わたしの運命は大きく変わっていたかもしれない。
でもわたしは後悔していないよ。誰かの役に立ちたい…そんなわたしの願いがここで叶ったんだから……
4
目の前に倒れている女の子は間違いなくほむらちゃんだった。
「ど、どうして…こんな怪我を……!!」
私は今この置かれた状況でどうしたらいいのか分からなかった。
命に関わるレベルの傷を負っているさっきなったばかりの友達。
突然、現れた不思議な空間。
そして眼前にいるたくさんの異形の怪物達。
怪物達はわたし達を取り囲んで、見つめ合って話し合い(?)をし始めた。
『$B$^$??/F~<T$@(B』
『$B$I$&$9$k!)(B』
『$B$d$C$D$1$h$&!*(B』
『$B$=$&$7$h$&!*!*(B』
よく分からない会話に怯えていると、震えるわたしの手をほむらちゃんが力強く握る。
「まどか…何でこんなところに……」
「ほむらちゃん…ここはどこなの? あれは一体何?」
「あれは……」
ほむらちゃんが説明しようとしたその時、怪物達が一斉にこちらに視線を向ける。そして唸り声をあげてわたし達に襲い掛かって来た。
「詳しい話はあと…今は逃げるわよ…!」
「う、うん!」
離れ離れにならないようにしっかりと手を繋いでわたし達は謎の回廊を走り続けた。
しばらく走っていると身を隠せそうな物陰が見えたので一旦そこに隠れることにした。
『はあ……はあ……』
先程まで聞こえてた怪物の唸り声はもう聞こえない。安心したわたしはその場に座り込んで、ほむらちゃんの元に寄り添う。
「大丈夫…? ほむらちゃん」
「平気よ。これくらいの傷どうってこと…ないわ」
「ねぇ…さっきの怪物は一体何だったの? それにこのオカシナ場所も…わたしさっきまで路地裏にいたはずなのに……」
わたしの問いかけにほむらちゃんは口籠ったけども、大きく息を吐いて説明してくれた。
「ここは魔女の結界…と言ってもサッパリ分からないでしょうね。 順を追って説明するわ。
さっきの怪物は魔女の使い魔、この世界で災厄と絶望を振りまく存在…その手下達ね」
「災厄や絶望…?」
「簡単に言うと人間の負の心を増大させて、自殺や殺人事件を引き起こしたりする存在よ。他にも人間を連れ去って自らの糧にしたりもするわ」
「もしかして…最近テレビで話題になってる…?!」
「ええ、あの事件の大半は魔女の仕業でしょうね」
「そんな……」
「そして私は魔法少女。魔女と戦う使命を課せられた存在」
「魔法…少女……」
「たった一つの願いと引き換えに命懸けの戦いを強制される宿命を背負わされるの…今の私みたいにね」
「ほむらちゃん……」
現実味のない話を聞かされて正直頭の中がこんがらがっている。
でも今、話してくれたことは全て本当のことであることは理解できた。
「ねえ…わたしに何か出来ることってある…かな?」
「えっ?」
「だってその魔女のせいでみんなが…ほむらちゃんが大変な目に遭っているんだよね? そんなの見過ごすわけには……」
「何もないわ」
全て喋る前にほむらちゃんはピシャリと言葉を遮った。その目はとても冷たく、さっきの河川敷のときみたいにとても怖く感じた。
「で、でも……」
「ダメよ。あなたみたいな一般人が関わっていいような問題じゃないのよ」
「だけどもう巻き込まれちゃってるよ?」
「…………」
一瞬、静寂の時が流れる。
わたしは余計なこと言っちゃったなぁ…と軽く後悔した。
「……とにかくこの場所から早く出ましょう。またいつ襲われるかも分からないわ」
「そ、そうだね……」
大分体力も回復したし、出口に向かおうと立ち上がった瞬間だった。
突然ほむらちゃんがわたしの方に覆いかぶさってきて、同時にザシュッ…と鈍い音が耳に入る。
押し倒してきたほむらちゃんを見ると背中に大きな切り傷が出来ていた。
見上げてみるとそこにはさっきの怪物たちが鋏みたいな物を持って、わたし達を睨んでいた。
「ほむらちゃん!!」
「これくら…い…どうってこと……」
「どうってことあるよ! 早く逃げないと…!!」
ほむらちゃんを抱えて怪物達から逃げようとするも、全く前に進めない。
傷を負いすぎて動く力がなくなってしまったのか、ほむらちゃんはわたしの背中でグッタリとしていた。
「まどか…私のことは、いいから…はや…く逃げて……」
「嫌だよ! こんな状態のままほむらちゃんを置いてなんかいけないよ!!!」
「でも…このままじゃ、二人とも……!!」
「絶対やだ!!!」
残った僅かな力で離れようと身を揺するけども、わたしはそれに全力で抵抗して前へと歩を進めようとする。でも無防備な後ろ姿を怪物達が見逃すはずはなかった。
鋏みたいなものを構えて一斉にわたし達へと襲い掛かる。わたしはほむらちゃんの『左手』を強く握りしめて強く祈った。
「誰か…わたし達を……ほむらちゃんを助けて!!」
その時不思議なことが起きた。
身を寄せ合っていたわたし達、二人の体が突然光出したのだ。
その光は結界全体を覆って、使い魔達も驚いた素振りを見せる。そして光が晴れた後、その場には……
「『えっ……?!』」
不思議な格好をしたわたしがいた。
「な、何が起きたの?」
謎の現象におろおろと辺りを見渡す。
そして自分の足元にほむらちゃんがいることに気付いて、慌てて体を揺する。
でもほむらちゃんは何の反応もせずにまるで死んだように横たわっていた。
「ほ、ほむらちゃん…しっかりして!!」
「」
返事が返って来ないことに血の気が一気に引いてくる。でもわたしの待つ声は予想外の場所から聞こえてきた。
『これは…一体どうなってるの?!』
「ほむらちゃん?!」
不思議な感覚に戸惑っていると、視線が勝手に動いてぐったりと地面に倒れているほむらちゃんの体をじっくりと見ていた。
『どうして私の体が…? それにこの感覚…自分の身体じゃないような……』
「ほむらちゃん、ちょっと待って!!」
『まどか?』
色々なことが一辺に起こって頭の中がパニックになっていた。
取り敢えず、ほむらちゃんには一旦黙ってもらって自分の体と服装を確認してみた。
見慣れない服装に左腕についた大きな円盤のようなもの。
すらっとした手足に少しだけ高くなった目線。
腰の辺りまで伸びた癖が全くないピンクの髪。
外見だけ見ると髪の色以外は全てほむらちゃんの特徴と一致している。
倒れていた時にしていた彼女の服装。
それに加えて、直接語りかけてくる彼女の声。
これらを考えてわたしはある結論に至った。それはほむらちゃんも同じだった。
「わたし、ほむらちゃんとくっついちゃった?!」
『私、まどかと合体したというの?!』
わたし達が驚いていると、そこへ動揺していた怪物が再び彼女達へと襲い掛かって来た。
『……!! まどか、避けて!!!』
頭の中からほむらちゃんが警告をしてくれる。
慌てて横に転がって怪物の攻撃を回避して、倒れているほむらちゃんの体を拾い上げる。
さっきまでとは違って楽に持ち上げられて少しびっくりしたけども、もう一々反応してる暇はなかった。
『まどか! そのまま次の角を左に曲がって真っすぐ進んでちょうだい!』
「わ、分かったよ!」
ほむらちゃんの指示に従って走っていくと、目の前に光の渦のようなものが見えた。
あれがきっと出口だ。と瞬時に悟ったわたしは勢いよく渦に向かって飛び込んだ。
気が付くとわたし達は薄暗い路地裏にいた。
多分だけど…戻ってこれたのかな?
「ふ、ふへぇ……」
そう思うと一気に身体の力が抜けて地面に両膝をついてしまう。
すると急にわたしの体が光り出して、元の制服を着た姿に戻った。
「ううん……」
「ほむらちゃん!!」
意識を取り戻したほむらちゃんの手を強く握る。
無事が確認出来てホッとするわたしだったけども、ほむらちゃんの方はまだ混乱していた。
「まどか…? 私…元の体に……」
「ほむらちゃん…だ、大丈夫?」
「え、えぇ…問題ないけど……」
「血がいっぱい流れていたけど、ほんとに平気なの?」
「心配には及ばないわ」
「そっか…良かったぁ~ほむらちゃんが無事で」
「私もまどかが無事でよかっ__」
ピリリリリ
ほむらちゃんが言い終える前に突然わたしの携帯が鳴った。
「えっと……」
「気にしないで」
電話に出ようか迷っていると、ほむらちゃんが出るように促す。
着信元を見てみると、それはパパからだった。
ピッ
「もしもし、パパ? えっ…あっ、大丈夫だよ。
ちょっと寄り道してて…うん、すぐに帰るから。
心配かけてごめんね…分かった、それじゃあ」
どうしよう…買い物の途中だったことすっかり忘れてた……
「あのね…パパが早く家に戻ってきなさい、って心配していたから。あの…それでね……」
「おつかいの途中だったものね。今日はひとまず家に戻りなさい」
「でも……」
「明日、あなたの学校が終わった後にしっかりと話してあげるわ。だからもう帰った方がいいわ、あまり家族を心配させてはいけないし」
「…………」
まだ胸にモヤモヤとした感じが残っていたけども、わたし達は路地裏から離れることにした。
しばらく歩いていると見慣れた通りに出れて、わたしはホッと息を吐いた。
「家に帰る道は大丈夫よね」
「うん、ちゃんと帰れるよ」
「よかった。それならもう寄り道せずに行くのよ」
「し、しないよぉ……」
「それじゃ……」
「あっ、待ってほむらちゃん!!」
背を向けて去ろうとするほむらちゃんを見送ろうとしたけども、大事なことを聞き忘れていたことに気付いて急いで呼び止める。
「何?」
「明日、どこで待ち合わせすればいいの?」
「向こうの通りある総合病院の一階の受付で待ってて。昼過ぎに検査も終わって、退院も出来るから」
「分かったよ。じゃあバイバイ、ほむらちゃん」
「また明日ね、まどか」
わたし達はお互いに手を振って、お互いの帰る場所へと向かっていった。
☆See you! Next story……★
次回、第5話 始まりの日③