※2月24日に投稿する予定だったのですが、途中で体調を崩して色々とゴタゴタしてる内にかなり遅くなってしまいました。次は早めに投稿します(断言)
1
「まどか…ちょっと一つ聞いてもいい?」
「?」
ほむらの家を出てしばらく歩いた後、ふとさやかがまどかに話しかける。
「正直言ってさ、あの転校生のことどう思ってる?」
「ほむらちゃんのこと? うーん、とっても優しくて格好良くてでもちょっぴり不思議な感じがする大切な友達だよ」
「おーおー、ベタ褒めするねー。そんなにアイツのこと気になるの?」
「き、気になるって言ってもへ、変な意味じゃないからね! ただ…何て言うか……」
「放っておけないって感じ?」
「うん…それに何だか河原で初めて会った時も、本当に初めて会ったって気がしなくて」
「何だそりゃ…まあアンタが転校生のこと好き好きだってことはよーくわかったよ」
「だからそんなんじゃないってば!!」
「どうどう」
顔を真っ赤にして怒るまどかを笑いながらさやかは落ち着かせる。
それからさやかは頬を膨らませたままのまどかに対して、静かにこう言った。
「でもあたしはアイツのことそこまで信用はしてない」
「えっ…?」
「さっきの話で何となくだけども、分かっちゃったんだよね。あの転校生はあたし達に何か隠し事をしている。
しかもそれはアイツにとってかなり不都合な情報を」
「不都合な情報…?」
「だって転校生ってさ、アンタとの出会いや魔法少女については話してくれたけどもアイツ自身については何も喋ってなかったじゃん。それに執拗に魔法少女になることを止めようとしていたし」
「でもそれはさっきわたし達が話した……」
「だったら何でアンタが戦うことを止めなかったの?」
「!!」
「魔女との戦いは命懸けなんでしょ? それなのに魔法少女でもない一般人のアンタをどうして巻き込ませようとしてるわけ?」
「わ、わたしがそれを望んだから……」
「本当にそう思ってる?」
さやかの鋭い視線がまどかに刺さる。
不可解な事実と目の前の親友の圧に押されて、まどかは何も言い返すことが出来なかった。
そうこうしてる内に分かれ道に差し掛かる。
「じゃ、あたしこっちの道だから…まどか気を付けなよ」
「う、うん…またね、さやかちゃん」
別れを告げて、まどかは家路へと歩き出す。
これまで考えたこともなかったほむらへの不信感、真実が分からない今の彼女はそれが杞憂であることを望むしかなかった。
2
まどか達を見送り終えた私は部屋に戻り、フラフラと力なく椅子に座り込んだ。
「……美樹さやかがあんなことを言うなんて、少し予想外だったわ」
彼女は現段階ではただの一般人で本来なら関わらせるべきではなかった。だが今回は何をやっても回避することは出来なかったであろう。私達と共に魔女の結界に入り込んでしまったのだから。
「いや……以前の私なら無理やりにでも誤魔化して事実を教えなかったでしょうね」
自分の左手を恨めしそうに見ながら呟く。
"時間停止"私が魔法少女としての対価を支払って手に入れた能力。
あまり優れた素質を持っていない私の最大の武器であり、奥の手でもある。
これまで繰り返してきた時間軸でも何度も助けられていた。
だが……今回は違った。
「これも…罰なのかしらね……」
[数日前]
私は病院の一室で目覚めた。再び始まる一ヶ月の戦いへの嫌気とまた鹿目 まどかを救うことが出来なかった後悔が心を締め付ける。
それでも私は諦めない。いつかの時間軸であの子と交わした約束を果たすまでは……
誓いを新たに私は布団を払い除けて、ソウルジェムを取りだして魔力で視力と肉体を強化させる。そして何も出来なかった弱かった自分との決別の印として三つ編みに縛られているリボンを外す。
早速まどかの監視に移ろうとした時、あることに気づいた。
「私、どうやって時間を巻き戻したの?」
カレンダーの日にちをチェックすると確かに一ヶ月前の見滝原に戻ってこれている。だけども色々とおかしい。だって前回の時間軸で私は……
『危ないッ!!』
まどかに気を取られていた隙にワルプルギスの攻撃を受けて…盾が……
魔法少女の姿に変身する。あの時壊れてしまっていた盾は、しっかりと左腕につけられていた。
けれどその直後、私は今後の戦いにおいて致命的ともいえる問題点を発見してしまう。
「時間を止められない……?!」
どれだけ盾を操作しても、時を静止させられなくなっていた。よく見ると時計の中の砂も固まっていて動かない。
それだけでない、私の魔力も以前と比較してとてつもなく減っていて、魔女はおろか使い魔ですらも倒せられるのか怪しいレベルまで弱体化していた。
ずしんと私の中に絶望がのし掛かる。このままじゃ、まどかを救うことが出来ない…そんなことになってしまったら私のこれまでの努力は……
ソウルジェムが急速に濁っていく気がする…けれど何とか我にかえって考えを切り替える。そうだ、何もまだ全てが終わったわけではない。
そう思い直し、私は病院を抜け出して『ある場所』へと向かっていった。
★
「ほらほら~、ネコちゃん気持ちいい?」
「にゃー」
まどかが魔法少女になる最初の分岐点へとやって来た。今まで通りならここで私が何もしなかったらエイミーは車に轢かれて死んでしまい、その子を蘇らせるためにまどかは魔法少女として契約をする。
これまでは時間を止めて何事もなかったかのように、まどかの腕の中に返していたけれどどうしましょうか…? 時間は止められないからまどかとの接触は避けられない…かといって放っておいたら契約をしてしまう……
あまり悩んでいる時間はない…そうだわ。なら、いっそのことこの段階でまどかと接触を果たして仲良くなってしまいましょう。そうすれば前回みたいな気まずい関係にならずに済むわ。
考えをまとめ終えたところで丁度その時はやってきたようだ。エイミーがまどかの腕の中から抜け出して道路に向かって行く。私は目の前を通り過ぎようとするエイミーをそっと優しく抱き上げた。
「全くあなたは…いつもいつも世話が焼けるわね」
「にゃー」
「ふふっ、くすぐったいわ」
いきなり持ち上げられて驚いている様子だったけれど、私の顔を見ると、すりすりと身を寄せてきて、頬を舐め始めた。
前々から考えていたけど、この子ウチで飼ってみようかしら? まあ、野良猫だから基本は放し飼いみたいなものだけど。
なんてことを考えていると、まどかからの視線を感じる。何か話さなくちゃいけないわね。
「危なかったわね、この時間帯は車がたくさん通るから大事がなくてよかったわ」
話を切り出すことが出来て内心ホッとする。こういうところは昔から変わっていないわね…悔しい。
「えっと…その、ありがとうございます。その子を助けてくれて」
「まるでこの子の飼い主みたいね。でもこのままだったらエイミーだけじゃなく、あなたも危なかったのよ」
「えっ?」
言葉を詰まらせながらもどうにかしてお礼を言おうとする姿が少し可笑しかった。そう思いながら、話し続けようとしたら突然まどかが不思議そうな声を出した。
「どうしたの?」
「えっ、あの、その…どうしてその子の名前がエイミーって知っているの?」
「…………」
迂闊だった。これまで一度もこの段階でまどかと接触したことがなかったからついボロが出てしまった…どうにかしないと……
「さっきあなたがこの子のことをそう呼んでいるのを聞こえたから」
我ながら苦しい言い訳…でもまどかはそこまで気にしてなさそうだった。
「そうだったんだ。ところでその制服って見滝原中学校の制服だよね?」
良かった…変な人と思われずに済んだわ。もしそんなことを思われた暁には…深く考えないでおきましょうか。
「えぇ、あなたと同じ学校の生徒で中学2年生よ」
そう答えるとまどかは嬉しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「そうなんだ! 私も同い年で2年生なんだ!!
あっ…わたし、鹿目まどかっていうの。あなたの名前は?」
「ほむら。暁美 ほむらよ」
「へぇ~、ほむらちゃんって言うんだ。何だかとってもカッコいい名前だね!」
「!!」
それは、まどかとの最初の出会いをしたときに言ってもらった言葉。私はギリッ…と奥歯を噛み締める。
「へ、変な名前じゃないかしら……」
なにも出来なかった頃の自分を思い出してしまったせいか、自信なさげに答えてしまった。こういうところは全く変わっていないわね…自嘲気味に心の中で笑う私にまどかは強くこう言った。
「そんなことないよ、寧ろほむらちゃんのイメージにピッタリだよ!」
「そうかしら?」
「うん、だってほむらちゃん、スゴいカッコいいし!」
「ええっ?!」
予想すらしてない言葉に顔が急激に熱くなっているのを感じる。
「名前負け…してないわよね……?」
必死に捻り出した言葉はあの時と同じ台詞だった。口調は頑張って今のままにしたけど……
「うん! 勿論だよ!!」
「ありがとうまど…鹿目さん」
「まどかでいいよ、わたしもほむらちゃんって呼ぶから」
初対面で名前呼びは流石に慣れ慣れし過ぎる。そう思ったけど、そんなことはなかったようね。
「ねぇ、ほむらちゃんちょっと今時間あるかな?」
「えっ?」
「もしよかったら、わたしとちょっとお話してくれないかな…って」
そう言ってまどかは原っぱの上にゆっくりと腰かけた。
★
こんなにもまどかと話したのはいつぶりかしら? 前の時間軸で全く会話しなかったというわけではない。ただ時間を巻き戻してからこんなにも早く話したという記憶がないだけ。
「そっか、ほむらちゃんは来週から学校に転校するってことになっているんだね」
「ええ、学校生活を上手くやっていけるか不安だけどこうしてまどかと仲好くなれたのだからもう心配なさそうね」
「ダメだよ。ちゃんとわたし以外の人ともお友だちにならなくちゃ」
「善処するわ」
「も~」
さて、楽しい時ほど早く過ぎるというけれど辺りはだいぶ暗くなっていた。名残惜しいけど、そろそろまどかを家に返した方が良さそうね。
「まどか、そろそろ家に帰らないとご家族に心配をかけてしまうんじゃない? 暗くなってきたわよ」
「わっ、本当だ! わたしお使いの途中だったのに!」
「ごめんなさい、私のせいで時間を使わせちゃって」
「謝らないでよ。わたしはこうしてほむらちゃんと一緒にお話しできただけでもとっても素敵な時間を過ごしたんだなって思っているから」
曇りなき笑顔をこちらへ向けるまどか。その笑顔がまた私を明日へと進むための糧となってくれる。その優しさに私は何度も救われたか。そして……
「あなたは…本当に優しいのね」
その優しさのせいで私は貴方を失い続けた。だからこそ言わなければならない。
「そうだ最後にいいかしら?」
今度こそ、貴方を救うために……
「まどか。貴方は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を大切にしている?」
「……えっ?」
戸惑いを隠せない表情でまどかは見つめてくる。変に思われたって構わない。この言葉さえ、しっかり聞いてくれれば安易に契約をせずに済むのだから。
「お願い、質問に答えて」
「えっと…大切に思っているよ。家族も…友達も…勿論、ほむらちゃんもわたしの大切な友達だよ」
「そう、なら良かったわ。貴方は、鹿目 まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも。だから今の自分とは違うものにはならないって決して約束して」
「う…うん」
「それじゃ、また学校で会いましょうね」
ぎこちなく答えるその姿に私は笑みを浮かべながら、まどかの元を去った。
★
本当にこれで良かったのかしら? 振り返ってみてもあれが私に出来る最大の接し方だったと思う。でも決してそれが最良の選択になるとは限らない……
「何弱気になっているのよ……」
頭を振って、後ろ向きの思考を取り払う。逆に前向きに考えよう、あれだけ仲良くなれたのだから今後も努力し続ければ、きっと魔法少女の真実も私の本当の目的も信じてくれる。
心に宿る微かな希望を持ちながら、病院へと戻ろうとした時、ソウルジェムが光り始めた。
「これは…使い魔の気配ね。しかもまどかの家の方角にいる……」
魔力が著しく減っている現状では、戦うのは得策ではない。ましてや、何の利益もない使い魔などもっての他だ。
でも私は使い魔のいる場所へと向かった。
何故かって? まどかを危険に晒さないためよ。
★
「くっ…まさかここまでなんて……」
魔女の結界内。私は大量の使い魔達と対峙していた。
私の戦い方は、時間停止からの奇襲&一斉放火からなっている。逆に言えば、時間停止に頼らないと何も出来ない最弱の魔法少女へと成り果てる。それがここまで酷いものになるとは…はっきり言って予想外だわ。
ワルプルギスを倒した後、まどか達に迷惑をかけないように見滝原から居なくなるっていう考えは間違っていなかったわね。先に知ることが出来て良かったわ…もう必要なくなったけど。
「こんな所で……」
使い魔の攻撃に腹部を射抜かれてその場に倒れ込む。幾度となく時間を繰り返し続け、戦ってきた結末がたかが使い魔にやられて終わるなんて…無様なものね。
私の戦いに意味はあったのだろうか、望んだ未来を掴むことが出来ずに、ただまどかを最強の魔女に仕立てただけの戦いが……
このまま死ぬ前にいっそジェムを濁らせて魔女になってしまうのも悪くないかもしれない。でも、それだとまどかに危害を加えてしまうかもしれないわね……
様々な考えを巡らせていく内に意識が段々と薄れていく。きっとこのまま目を瞑ってしまえば、すぐに楽になれるのだろう。でも……
(嫌だ。誰か助けて……)
こんな所でまだ死にたくない…約束もちゃんと守ることも出来ないまま終わってしまうなんて、死んでも死にきれやしない。
だが現実は非常。そんなことを思ってもどうしようもない。
あの時のように助けてくれるヒーローはいないのだから……
(助けて…まどか……)
かつてのまどかに助けを求めながら、ゆっくりと目を閉じる。
すると突然こんな場所に居るはずのない人物の声が聞こえた。
「ほむらちゃん?!」
★
この時間軸に来てからいくつものイレギュラーに見舞われている。
破壊されたはずの盾が修復されていて、魔法少女としての力が大幅に弱体化。
まどかとの早すぎる出会い…これは自分で引き起こしたものだけども、今まで一度も試したことがなかったから一体どう転ぶか見当もつかない。
そして一番の謎がまどかとの変身。
彼女は私と出会った段階では魔法少女と魔女のことを全く知らなかった。ということはまだあの人とは接触はしてないことになる。
でも…いつか必ず出会うことになるだろう。あの人は私や彼女にとっての先輩であり、仲間でもあるのだから……
もし出会ったとしたらこの世界ではどうなるのだろうか……
「……今考えてもどうしようもないわね」
この変身やあの人との出会いがこの先どんな影響を与えるのかはまだ分からない。
けどこれには確かなメリットが一つだけ存在する。それは……
アイツと契約をしなくても、まどかが魔法少女として戦えること。
それは彼女だけではなく私にとっても都合がよくなる。
まどかと一緒に変身することで私の魔法少女としての力は今の何十倍も強くなり、魔女との戦いも一気に楽になる。今のままでは魔女はおろか使い魔すら倒すこともままならない。
あの子の気持ちを利用しているように思えるけども手段は選んでいられない。
これ以上、悲劇を繰り返さないためにもあの力を手放すわけにはいかないのだ。
運命を変えて、あの子の願った祈りを守り抜く…それが今の私の使命。
その為ならば何だってする……
「もう二度とあの子の夢を壊させない…誰にも、私にも……」
3
ほむら達が魔女を倒し終えてその場を立ち去った後、一人の少女がその場に現れた。
少女はポケットからソウルジェムを取り出して周囲の魔女の反応を探る。
『やあ、また遅かったみたいだね』
「そうみたいね。今度は魔女の反応がしてからすぐに駆け付けたというのに…例の子の姿は見た?」
『残念だけど見れなかったよ』
その返答に少女は深く考え込む。
「おかしいと思わない?」
『何がだい?』
「魔女が現れてから倒されるまでの時間が短すぎるのよ。こんなことって普通あり得るかしら?」
『一回だけなら稀に起こりうるけども、こうも連続して起きたことは一度もない』
「そうね。偶然にしては出来過ぎてる……」
『……もしかしたら何者かが意図的にそうしてるのかもしれないね』
「意図的に?! でも一体何のため…?」
『さあね。さっぱり見当もつかないよ』
「…………」
『じゃあ僕は別の魔法少女のところに行くとするよ』
「わかったわ」
『それじゃまたね、マミ』
「また明日ね。キュゥベえ」
キュゥベえはそう言って少女…もとい巴マミに別れを告げて闇の中へと消えていった。
残ったマミはもう一度だけソウルジェムで魔力の反応があるか確認して、この場には何の痕跡がないことを確認するとゆっくりとその場を後にした。僅かな手がかりも見逃さないように……
☆See you!! Next story……★
次回、第7話 見滝原の魔法少女①