やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#6-2

曇天の雲は雨が降るか降らないかの拮抗状態を維持しつつどんよりと辺りを薄暗くさせる。

流石に外で食べれないと判断した俺たちは、教室棟と特別棟を結ぶ渡り廊下の休憩スペースを利用する事にした。

 

室内なので雨が降ろうが安心だ。

ただ人目につくのが難点な所だがな。

 

「隼人君?うん、知ってるよ。同じクラスだし」

 

どうやら一色の言っていたことは本当みたいだ。

由比ヶ浜も葉山先輩と同じグループに所属している。

となると、もう少し情報を引き出すことも可能か。

 

「そうか、葉山先輩ってなんか部活しているのか?」

 

「確かサッカー部!あと戸部っちも!あれ?もしかしてヒッキー、隼人君に憧れていたりする〜?」

 

んなわけねぇだろ。

その戸部っちって言うのは滅茶苦茶いらねー情報だな。

 

「いや違う…ちょっと色々と1年でも話題になっててな」

 

「あ〜、やっぱり1年にも話題になっちゃう感じ?隼人君スゴイ人気だし」

 

「んで、俺が年上だからって葉山先輩となんか絡みないとか?聞かれるわけだ」

 

一色とか一色とかな。一色しか聞いてこねぇがな。

 

「なんかヒッキー皆のお兄ちゃんって感じだね」

 

なんで俺クラスの代表みたいな言われ方されているんだが…

由比ヶ浜の中で俺は一体どんな設定になってんだ?

 

「いや、お兄ちゃんって呼んでくれるのは妹だけで十分だ…」

 

「確か小町ちゃんだよね…」

 

あれ?なんで知ってんの?

 

「ん?小町を知ってるのか?」

 

「うん、ヒッキーが入院している時、あたし1度小町ちゃんに会ってるんだ」

 

「なん…だと…」

 

あー、俺が寝ている時ね。

見舞いに来たとか小町言えばいいのに。

 

「まぁ見舞いとか来てくれてありがとな」

 

「そんな事ないよ」

 

「っで話を戻すが、サッカー部って事はやっぱマネージャーとかわんさかいるんか?」

 

わんさかいるんだろうなー。

考える事は皆同じなんだよ。

憧れの人にどれだけ身近にいられるかって言われたらそりゃ部活だからなぁ

 

「そうそう、入部希望の女子が多すぎて、マネージャーは入部規制しているって隼人君言っていたよ」

 

おーっ…入部規制って何だよ。初めて聞いたぞ。

想像を絶する人気っぷりだな葉山人気。

作戦が既に瓦解してんぜ…仕方ねぇ、もう少し押してみるか。

 

「由比ヶ浜、ちょっとお願いがあるんだが、葉山先輩と会わせてもらっても良いか?」

 

「えっ?なんで?」

 

まぁそうなるな。

とりあえず体の良い返しを口にすることにした。

 

「実はサッカーに興味がある女子がサッカー部に入りたいと言ってきててな、入部規制されているならなおのこと葉山先輩に話を通さないと入れないと思ってな」

 

「うーん、まぁ一応連絡するだけはしてみるけどー。期待しないでね?」

 

よし、まぁダメだった場合はダメだった場合で諦めよう!そうしよう。

 

「おぅ」

 

そうして焼きそばパンを頬張ろうとした矢先、廊下側で声がした。

 

「あれ、ユイじゃん」

 

由比ヶ浜の肩が少々揺れた。

慌てた様子ですぐに視線を彼女の元に向ける

 

「優美子っ!やっ、やっはろー!」

 

俺も後を追うように視線をその優美子先輩へ向けた。

その女帝と思える佇まいに息をのんだ。

一瞬でその場の雰囲気が緊張感に支配された。

 

「へぇ〜、どこ行ったのかと思ったら1年生に手を付けるなんてやるじゃん」

 

「ちょっ、優美子そんなんじゃないからっ!」

 

「まぁ、どうでもいーけど、それよりもお昼一緒にどう?みんなきてっし」

 

「えっ、うーん…」

 

チラリと俺の顔を見る由比ヶ浜にコクリと頷いてみせる。

あれは逆らえねぇ、なんだよ覇王色の使い手か?

 

「う、うん分かった!それじゃヒッキーまたねっ!」

 

「あぁ」

 

優美子先輩の後を追う由比ヶ浜を見送り、リア充も大変なんだなと小学生並みの感想が出た。

 

***

 

飯を食べて、さっさと教室に戻ったのだがどうも雰囲気が殺伐としている。

と言うか俺をチラチラと見てひそひそと話しすんのほんとやめて欲しい。

 

というか、朝のグループチャットの画像まだ引きずってんのかこれ?どんだけ一色大人気なんだよ。

 

「…比企谷先輩」

 

ひそひそ声で相模が俺を手招いていた。

どうやらこの教室の雰囲気について何か知っているらしい。

 

「いや〜、比企谷先輩流石ですね。まさか2年生の女子にまで手を出すとは思ってもみなかったですよ」

 

んな訳ないだろ。

 

「はぁ?どういうことだ?」

 

「これですよこれ」

 

そう言ってまたグループチャットを見せてもらった。

すると由比ヶ浜と喋っている所をどうやら誰かに撮られていたようだ。

 

「おぉ…マジか…」

 

最初の写真は、一色がいたから撮られているものだと思っていた。

しかしそれは勘違いで、俺がいたから撮られたと言う事だ。

俺が何かしら女子に近づこう物なら向こうはどこからかそれを撮影し、またグループチャットにあげるだろう。

非常に動きづらいな…

 

「相模、とりあえず違うとだけ言っとくわ」

 

「一色さんに続いての可愛い先輩と知り合いとか、比企谷先輩はタラシですかね?」

 

「そんなんだったら今頃俺はラノベヨロシクのハーレム主人公だっつの」

 

「うわぁ…よくそんな返し思いつきますね。引きましたよ」

 

なん…だと…

 

お前明らかにラノベ好きそうな顔してるだろ?通じないとかありかよ…

 

「まぁ、同い年だから知り合いが多いんだよ」

 

とりあえず同い年という理由でごまかしてみることにした。

 

「まぁ確かにそうですよね、いくら比企谷先輩でも知り合いの一人や二人はいますよね。失礼しました」

 

「ほんと失礼だなお前」

 

ナチュラルにディスってくるあたりそこにプロ意識を感じてしまうわ。

 

俺は自席に戻り今後の行動方針を決めることにした。

俺がターゲットっていうのは分かった。

下手に動けばまた噂の種にされるのは目に見えている。

と言うことは俺が何もしなきゃ特に何も動かないって事だ。

 

ならここ数日は何事もなく過ごしておけば諦めるもしくは相手から何かしらの行動を起こしてくる。

 

そう考え自分の机に突っ伏して視界をシャットアウトした。

 

 

***

 

 

それから数日がたった。

4月も残りわずかで終わり、同時に5月の大型連休というビッグイベントの気配を感じる。

 

胸がピョンピョンするような嬉しい感情が日に日に高まっていた。

 

教室ではこれから訪れるGWの予定についての話題で占めていた。

 

俺の行動方針は変わらず何もしないだ。

そのおかげでグループチャットも沈黙したままでそのまま時が過ぎれば忘却曲線に基づき皆忘れていくだろう。

 

しかし、別の問題が発生した。

どうやらGWの訪れに浮き足立っているのか一色に囲っている男子連中がやけに一色に馴れ馴れしいスキンシップをする様になっていた。

 

女子連中はそれを見て遠目で笑っている。

相変わらず同性の敵が多いことで。

 

現状は一色もうまくかわしている様だが、これ以上激しくなるとトラブルになってきそうだな。

 

…とは言っても、結局は自分のブランドとキャラクターを確立させようと愛嬌を手加減なく振りまいた一色も悪い。

自分でまいた種だ、自分で解決してくれ。

 

そうして見ない振りを決め込んだ。

気紛らわしいにラノベでも読んでみる。

聞きたくなくても聞こえてきてしまう一色とその取り巻く男子一同の会話。

 

「なぁ、いろはぁ〜?比企谷先輩とも一緒に行ったじゃん?だから俺ともさ、放課後どっか遊びいかね?」

 

「んー、最近門限早くなっちゃったから早く帰らないといけないんだよねー。ごめーん。」

 

訳:お前と遊ぶ時間、ねーから。って言ってそうな感じだな。

 

「それじゃ、休日とかどう?丁度見たい映画あってさ」

 

「うーん、休日の予定埋まっちゃってて〜…また今度ね?あと女の子に気安く触れちゃダメだよ〜?」

 

その今度はいつになるんでしょうね。

というか、最近周りの男子に触れられることが多くなったな。

スキンシップそんな過剰で大丈夫か?

 

全く内容が頭に入らないラノベを鞄にしまい、俺は机に突っ伏し、考えに更ける。

 

状況を整理する必要がある。

 

まず一色いろはからの依頼、これは葉山先輩に近づくために協力しろというものだ。

 

次に、俺に対しての盗撮問題。

 

…先にゴールを選定しておくか。

まず前者について、一色いろはと葉山先輩をつなげる事で依頼は達成される。

後者については犯人の発見。まぁこれは時間がかかりそうだ。

 

一色いろはからの依頼を考えるに、今彼女にとって『好ましくない』状況だ。

この状況を作り出した要因として俺と一緒に映っている写真が起因している。

 

グループチャットで投稿された画像が大きく一色いろはという美少女へアプローチできるハードルを下げている。

 

今回それに食いついたのがチャンスを伺っていた臆病な奴らだ。

 

美少女と、イケメンと…それこそ魅力的な何かを持っている人と何かをきっかけでお近づきになりたい。

誰もがその願望を持っている。

 

しかし、現実は非情で近づきたいのだけれどもきっかけが掴めず話すことができない。

掴めたとしても一言二言で会話が終わってしまう。

 

踏み込みたいけれど踏み込めない臆病な自分を見て見ぬ振りをして、自分に有利なチャンスがあれば今度こそと身を潜めて伺っている。

 

それがチャンスを伺っていた臆病な奴らだ。長いからお猿さんと訳そう。

 

そんなお猿さん達が何故今回この話題に食いついたのか。

 

皆が知っている話題になっており、かつ自分達よりカーストが下の奴が彼女と近づくことができた前例があるのだ。

 

自分達にできないはずはない。

 

そんな思考だろう。

 

しかし経験が浅いせいか、相手のことを考慮せず身勝手なコミュニケーションを繰り広げている様をみると非常に滑稽だ。

 

さて、次に一色いろはの話だ。

彼女はそれこそカリスマを持っている。

彼女は自分が人よりも容姿が上である事と、それを生かせるキャラクターを理解している。

 

人間関係においても同性を切り捨て異性向けにフォーカスしている。

尖った要素で勝負している辺り、ざっくりと例えるならばベンチャー企業と言った所だ。

 

彼女のキャラクターの特性上、男子と分け隔て無く話すことができる。

というか男心を理解し、いかに異性に可愛く自分を見せるかということに長けている。

 

彼女がやっている事として、可愛い自分、守ってあげたくなるような可愛らしい自分のキャラクターを周囲に認識してもらい、こんな可愛い自分をちやほやしろと自己顕示欲を異性にぶつけているだけに過ぎない。

 

今まで、彼女は可愛いからカースト上位なんだろうな、という思い込みが抑止力として働いていたのだろう。

 

だから彼女のキャラクターが成立し、お猿さん達も社交辞令と認識する事ができた。

理性を保つことができたのだろう。

 

しかし、その思い込みが1枚の写真で崩された。

 

身近になってしまったその可愛い美少女のキャラクターが自分だけに向けられていると勘違いしたお猿さん達が我先にと暴走してしまった。

 

そして現状が作り出された。

外面に翻弄され、言葉、表情を鵜呑みにしているお猿さん達がわんさかと群がっている。

 

あんな格好の男でもあの美少女と一緒に歩けるのだ、この美少女はきっと俺も受け入れてくれる。

あれで大丈夫なら俺はもっと大丈夫だろうと考えての行動だろう。

 

一色いろはは自分のブランド、キャラクターを壊さないようにとお猿さん達とコミュニケーションを取り計らっている。

 

しかし、お猿さん達は彼女の言葉を表情を外側だけ鵜呑みにし、都合良く解釈し、それを彼女に押しつける。

 

皆がやってるからな、誰よりも自分を見てもらいたいにも関わらず、赤信号皆で渡ればなんとやら。

 

…傍から見たら本当に滑稽だな。

 

最終的に一色いろはは自分のブランドもキャラクターも無視してでも彼らを否定しなくてはいけない。

せざるを得ない。

 

なぜか?興味が無いからな。目障りなだけだ。

 

さぁ、愛情が否定された奴らは何をするか。

そいつを排除しようとするだろう。

愛情の裏側は憎しみだ。

 

あの手この手を使って、一色いろはの人格もブランドもキャラクターも全て壊しにかかるだろう。

 

相手は一人でしかも女子だ。

今までの彼女の行動から他の同性からも協力は得られるだろう。

 

ミンナデヤレバコワクナイ。

 

…ヘタな怪談より怖い話だ。

 

では、この問題をどうすれば解決できるかだ。

 

答えは簡単だ。

 

崩れてしまった彼女のカーストを蘇らせて見せつけてやれば良い。

こいつはお前らが相手して良い人間でないと再認識させてやれば良い。

 

だれが?

 

適任がいるじゃないか。

 

葉山隼人という人物が。

 

携帯が震え突っ伏した身体を起こし画面を見る。

 

--- やっはろー、ヒッキー 隼人君話聞いてくれるってさ〜 ---

 

ナイスタイミングだ、由比ヶ浜。

 

 


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