放課後、厚く雲は空を隠し続けている。
最近はこんな天気が続いている。
まるで俺の心の中を映し出しているようだ。
俺の心の中っていつも雲がかってるだろ。
と言うことは未来永劫晴れ渡ることはないと言い換えても過言ではない。
そうなりゃ農作物が多大な被害を被る。
世界的な飢饉に見舞われるかも知れない。
俺の心の中を現実に映し出したら人類が滅亡するな。
日も暮れようとしているのだろう、辺りはいつも以上に薄暗くなっていた。
気温も下がり、肌寒く身震いをしてしまう。
そんな中、俺は中庭で葉山先輩を待った。
しばらくすると、由比ヶ浜の姿が見えた。一緒に歩いている高身長で爽やか系な男子も同時に確認できた。多分あれが葉山先輩なのだろう。
「ヒッキー!隼人君連れてきたよー」
「おぅ、由比ヶ浜。ありがとう」
こう面と向かって立ち合うと、写真で見るよりもかなりイケメンだな。
めちゃくちゃ爽やか系なイケメンで人柄も良さそうだ。
「初めまして。君かな?俺を呼んだのって」
「初めまして。葉山先輩ですよね。お時間頂いてありがとうございます。1年の比企谷です」
「あぁ、そんなかしこまらなくて良いよ。結衣から聞いているが、君も俺と歳は変わらないんだろ?」
由比ヶ浜? おれの個人情報ダダ漏れすんのやめてね? どこまで喋ったのかはわかんねぇけどさ。
「まぁ、そう言ってもらえると助かります」
「それじゃ、用件を聞こうかな? 」
「端的にサッカー部の女子マネージャーに1人勧誘してもらいたいんですよ」
「勧誘してもらいたい? 俺にか? 入部届を出せばいい話ではないのか? 」
「由比ヶ浜からはサッカー部のマネージャー枠は入部規制が敷かれていると聞きました。なので直接葉山先輩にお願いをしに来た限りです」
「そうか…ではその子はここに?」
「いえ、今はいません」
「俺としては、人に頼って自分は出てこないという子をマネージャーに迎えるのは遠慮したい所なのだが…別に理由があるんだろ?」
勧誘してもらいたいということについて何かしらの事情があるとすぐに察したか。
流石カースト上位。
「もっともな話です。それに併せて事情をお話しさせてもらうと…」
俺はグループチャットでの盗撮の件と現在一色が置かれている状況について説明した。
「…なるほど、君と一緒に動いては、いつ誰が撮影してくるか分からない。火に油を注ぎかねないという事か。だから俺が一色さんをサッカー部に勧誘させることでその男子たちから一色さんを引き剥がしたいと。つまりはそういうことだね?」
「なんか、キモいね。女の子1人にそんな群がって、相手のこと全く何も考えて無いじゃん」
由比ヶ浜が口にする言葉の節々に怒りの感情が垣間見えた。
「誰彼構わず愛嬌振りまいていた一色も悪いがな」
「わかった、状況は理解した。ただ、一応聞いておこうと思うのだけど、君ならどうする?」
どういうことだ? 俺ならどうする… 俺が何もできないからこうやって頼み込んでいるんだ。
「俺にできることはそれをお願いするくらいです」
「そうか。いや変なことを聞いてすまない。その依頼、確かに引き受けたよ」
「ありがとうございます」
まずは第一関門突破って奴だな。
不意に安堵の息が漏れた。
「比企谷もサッカー部に入るか? 選手部員は随時募集してるぞ」
葉山先輩は爽やかの笑みを絶やさず部員勧誘を始めたが、俺にそんなスマイルは効かない。
効くのは夢見がちなTHE女子高生だろう。
「遠慮しておきますよ。俺、球技だけ極度の運動音痴なんで。ボール蹴ると真横に飛ぶんすよ」
苦笑交じりに答えてみた。
まぁそんなこと無いんだけれどな。
「そうか、残念だな」
顔をポリポリと掻いているさまも絵になっている。
やっぱイケメンは違うな。
「ヒッキー、その一色さんって人と結構仲いいの? 一緒にデート行ったようにも聞こえたよー?」
聞いて良いのか悪いのか、でも好奇心には勝てず恐る恐る由比ヶ浜が探りを入れてくる。
「確かに少し話す仲ではあるな。それに出かけたのは荷物持ちとしてかり出されただけだ」
「そ、そうなんだ。ふーん」
由比ヶ浜はどうやら納得してくれたらしい。
写真を見せればさらに納得してもらえただろうがあいにく携帯に写真は入っていない。
「そうだ比企谷、連絡先交換しておこう。」
「いいですよ、はい」
そう言って俺は葉山先輩に携帯を渡す。
「比企谷… 歳は同じだとしても先輩に丸投げするのもどうかと思うぞ?」
「葉山先輩、これは効率を重視した施策です。ほとんど連絡先を交換していない俺がやるよりも葉山先輩がやる方がかなり時間が短縮できて互いに余計な時間さかなくても良いと考えます」
「結衣は既に登録されているんだな」
「う、うん。ちょっと色々とあって…っね、ヒッキー!」
「お、おぅ」
もうちょっとごまかしに手を加えて欲しいよ由比ヶ浜。
「葉山先輩… 俺の数少ない連絡先見るのは勘弁頂きたいんですが…葉山先輩と違って友達少ないんでその…恥ずかしいので」
「すまんすまん、少しからかってみたい気持ちになってな」
「まぁ、先輩だから今回は何も言いませんが。次はないですよ?」
「その発言もどうかと思うぞ? もしかして俺を先輩とみてなくないか?」
「そんなわけないじゃないですかぁ〜」
「それは誰の真似だ? 噂の一色さんか?」
「へぇ〜、ヒッキーと一色さん結構仲いいんだねー」
「んな訳ないだろ。あいつの口調がやけに特徴的だっただけだ」
こんなじゃれ合いの時間も悪くないと思えたが、小雨が降り始めた事がこの時間の終わりを告げた。
「それじゃ、俺は部室に顔を出すから、皆気をつけて!」
そういって葉山隼人は小走りでグランドへ向かっていった。
俺たちも中庭から室内に入り、雨から逃れることにした。
「ヒッキーはこれから帰るの?」
由比ヶ浜が俺を気にかけて話しかけてくる。
「そうだな。うちに帰るか、サイゼに寄るかで迷ってる」
「ヒッキーサイゼ好きなの?」
それ聞いちゃう?
語っちゃうとキモがられるから一言で言っちゃうよ?
「あぁ、愛していると言っても過言ではない」
「愛してるって…ヒッキーキモいね」
おい、由比ヶ浜。
いま俺の心を抉ったのと同時にワールドワイドのサイゼファンをディスった自覚はあるか?
言葉に気をつけろよ。
「サイゼ良いだろ。長居できるしドリアうめぇし」
「そうだけれど、流石に愛してるまではいかないなぁ〜、皆で駄弁ろーって時とかに使う程度だし」
リア充さん達は遊ぶ場所がたくさんあって羨ましいですねー。
しかし世の中にはたった1つの愛を育むと言うのが一般的に重要視されてんじゃん?
それを考えると俺のこのサイゼ愛も純愛の1つなんじゃないか?
サイゼの中心でドリアを叫ぶ。
ただの注文じゃねーか。
叫んだら迷惑行為だからな!
SNS拡散からの出禁まであるぞ。
涙なしでは語れねぇ名作だな。
「世の中数多の選択肢が存在すんだろ?俺はその中でサイゼを見つけたんだ。サイゼを愛してるんだ。他は見向きもしねぇよ」
「んんっ?なんかカッコいいこといってる風だけれどちょっと違くない??」
「おっと、流石に一緒にいるとまた写真撮られかねない。俺そろそろ行くわ」
「うんっ、またねヒッキー」
そう言って由比ヶ浜と別れ俺は下駄箱へと向かった。
***
翌日、教室は相変わらず騒がしい。
それは放課後になろうとも変わらず、GWというイベントをどう過ごすかと言う話題で教室に残り雑談をしているクラスメイトが大勢いた。
最高のベストコンディションじゃないか。
俺はと言うと、携帯をいじりながらその様子を観察していた。
さて、あとは葉山先輩が一色を勧誘しにくれば完璧だな。
一色とはいろいろとあったがこれで終わりだな。
最後に俺が出来ることはこの依頼を見届けるだけだ。
そう思いながら葉山先輩が来るのを心待ちにしていた。
「一色さん、あのさぁ」
やけに通る声が教室内に響く。
一色の机の前にいる髪型で誤魔化した雰囲気イケメン系男子が一色に向けて発された疑問の言葉は、放課後暇を持て余した生徒共々には非常に面白そうなエンターテインメントを提供してくれる魅惑なワードだったに違いないだろう。
「GWさ、一緒に遊び行かない?」
このご時世、メールとかチャットで誘うんじゃなくて直接会って口頭で誘うとかなかなか勇気ある行動だと思うぜ。感心感心
「あー、GWなんですがちょっと予定が詰まっていて」
でも可愛い女の子は予定が詰まっているのが世の常だ。
しかもそれが予定と言う名で包まれた暇な時間と言う事まで知っているぜ。
遠回しにお前と過ごすんだったら一人でいた方がましと言われているのだ。
ソースは俺。
「それってまたあの人とかな?」
そう言って何故か彼と俺の目が合った。即行でそらしたけど。
えっ好きになっちゃった?
「まぁそれもありますが」
えっ!? あるの? 何も予定聞かれてないんですけれど。
「まじか。あの人と一緒で大丈夫?」
「大丈夫って何ですか〜?」
「だってあの人ダブっているし、それにたまに本読みながらニヤってしている所とか怪しいじゃん」
なん…だと…まさか教室でもニヤついていたのか…誰も言わねぇから気づかねえよ。
言ってくれる友達いねぇしな。
次から無個性彼女系の小説学校で読むのやめよ。
「あー、大丈夫です。怪しいだけで特に無害なので」
一色ちゃん?それフォローしてる?
「うーん、それでも俺心配かな。どうかな俺も一緒に」
「別に心配される必要は無いですよ。偶然にもせんぱいとは何度か話しましたし」
「へぇ、もしかして比企谷先輩の事…気になるとか?」
「そんなわけ無いじゃないですか。そう思われている事自体心外ですよ」
ちょっと、俺同じ空間にいるんですけれど…
あと、一色?ちょくちょくこっちに視線送んのやめてね。
「そうなんだ。ならさ、彼との予定はやめて俺と遊ばないか?」
「それはなんでですかね?」
「彼よりも俺の方が一色さん楽しませられるっていう自信かな?」
「へぇ〜、そうなんですね」
「だから…」
「ごめんなさい、お断りします」
彼が言葉を全て発言しきる前に一色は曖昧な表現を使わず。
ハッキリときっぱりと断りの言葉を口にした。
その言葉は教室中に響き渡り、聞き耳を立てていた周囲すらも言葉を忘れ一瞬の静寂が教室を支配する。
「えっ、な、なんで?」
彼もここまでハッキリと拒絶の言葉を口にされ焦りの表情が拭えないらしい。
「だって、そういう人に限って大体とりあえず女の子が喜ぶようなお店選んで、とりあえず当たり障りない話題を話して、とりあえず買い物してって…何でしょう当たり障りないテンプレですかね?そこに私も当てはめようとしている感じがしてるんで」
「それが普通なんじゃないかな?だって俺ら高校生だし」
こいつの言う事も間違っちゃいない。
だが、一色の言っている事も分からなくもない。
一色は自分のその容姿から中学の頃から誘われることが多かったんだろう。
誘われてホイホイついて行ったは良いが大体同じ場所、似たような会話、同じ場所で買いもの。
頻繁に誘われる側のみが知ることのできるエンドレスなんちゃらって奴ですかね。
となると一色はそうなる奴をパターン化する必要があったわけだ。
そういう奴の傾向を読み解いて事前に回避する。
一言二言の遠回しで察してくれると嬉しいが、それでも踏み込んでこようとする奴はハッキリと断ってやった方が効果的だと言う事か。
なるほど。
えー、人誘うのにも受けるのにもなんでここまで考えないといけないわけ?
こえぇよ。やっぱりボッチは最高だな。何も考えなくて良い。
「そうだね。それが普通だね。でも私は普通じゃ満足しない。だから断っています」
「なんだよ…それっ!」
彼は怒り任せ、机に手を叩きつけた。
凶暴な音は教室中響き渡り、静寂を与えた。
周りの全ての人の動作を停止させ、その光景に注目させた。
その脅迫にも近い行動に流石の一色も怯んでしまった。
流石に見ていて気分が良い物ではないな。
しかしただの傍観者の俺に何ができるというのだ。
何もできやしないさ。
できることと言えば葉山先輩早く来てと思うことくらいだ。
っふと葉山先輩の言葉を思い出す
『君ならどうする?』
どうする、か…傍観者の俺になにができる。
葉山先輩はいつ来るか分からない。
来るまでに俺にできることはなんだ。
周りはエンターテインメントとしてしか状況を見ていない。
そうなると俺が行動するしかない。
くそっ、時間が無い…俺ができる最善の策…
あーもう思いつかねぇ!!これしかねぇっ!!
意を決し席から立ち上がり、言葉を発した。
「おい、いい加減…」
「うるせぇ!」
俺の言葉は怒声にかき消され、緊迫感のみが教室を支配する。
「…スポルトップも飽きたしマッ缶に戻るか」
俺は何事もなかったかのように席に着席してラノベを開く。
おぉ…なんちゅう迫力だよ。
本当にお前年下なの?全然そう思えねぇよ。
彼は怒り任せでまくし立てるような事はせず、1度深く息を吐いて会話を再開させた。
さっきの怒声で彼の怒りは分散されただろう。
人は叫ぶことにより、過度なストレスから解放されるのだ。
狙ってやったわけではない。
偶然が生んだ産物だった。
「なに、一色の同中の奴らから聞いたけれどいつも男とっかえひっかえしてんじゃないの?」
「そんなわけ無いじゃないですか。私だって選ぶ権利はあります」
どうやら一色も立て直せているようだしどうにかなった感はある。
俺頑張った。
「てことは高校になって、あれと出会ったから変わった系か?」
そう言って先ほど怒鳴った相手に彼は視線を向ける。
「だから、せんぱいとは本当に何も無くて」
「知ってるぜ。入学当初から仲が良かったじゃん?駐輪場で待ち合わせしたりな」
まさかそこまで見られているとはなぁ。
人の目ってどこにあるか分かったもんじゃないな。
「それは、相談があったから」
「なんだよ相談って」
「それはこれから起こる事だ」
俺はその会話に無理矢理横やりを入れる。
どうやらこの茶番劇のお時間はようやく終わりを迎えるようだ。
彼は舌打ちをしながら俺に振り向くが、聞こえて来た声ですぐに教室の出入り口に振り向き直した。
「一色さんはいるかい?」
その声の持ち主こそ皆の葉山隼人だ。
よぉヒーロー、登場が遅ぇよ。
***
一色は喜々として葉山先輩の元に向かって行き、そのまま2人で廊下へと出て行ってしまった。
事態が収拾したと認知した周りはそれぞれの友人達と感想を述べなが教室を後にしていった。
残された俺もさっさと帰宅の準備を整えていた。
「知っていたのか?」
「そうだな。依頼は葉山先輩とのつながりを作る事。それで俺は使われていたってことだ」
「そうか…」
これで思い知っただろう。
自分が相手にしていたのは雲の上にも近い存在だ。
多分こいつ以外にも狙っていた奴らはいただろうが、あの葉山先輩が誘うのだ二の足踏むに違いない。
放心状態の彼を背に俺は教室を出る。
これで一色いろはの依頼は完了だ。
今日はご褒美に行きたかったラーメン屋にでも行ってみるのもありかもしれんな。
そうして俺は、ラーメンに思いを馳せ、足取り軽く下駄箱に向かうのだった。