やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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今回も小町回


#8

長らく続いた曇りの日々からようやく解放され、青々とした空が久し振りにその色彩を魅せる。

照りつける日光は若干肌寒さを残す。

さらに休日である事も合わさってか外に出たい気分に惑わされるだろう。

しかし、引き籠もる兄の紋章を持つこの俺はそんな雰囲気に騙されない。

 

「ほら、おにぃちゃん、行くよー」

 

しかし、出たがる妹の紋章を持つ小町には負けてしまう。

2つ合わさると真なる千葉兄妹の紋章になる。

効果は未来永劫とても仲良しだ。

 

ちなみに上位に始まる千葉兄妹の紋章がある。

効果は因果をねじ曲げて兄妹で結婚できる。

マジで始まってやがる。

 

先日、小町の気持ちを聞き、兄妹として仲を深めた。

久し振りに揃って外出をしようと小町から提案され、兄妹揃ってラーメンを食べに行こうという話になった。

 

「さて、小町。ラーメンは何系がいいかな?」

 

「うーん、どうせなら冒険系がいいかな?」

 

ほぅ、我が妹ながら攻めた事を言う。

いつもはなりたけに向かうのだが、今回のような趣旨も嫌いではない。

 

「なるほど、ならここだっ!って所に入ってみるか」

 

「うんっ!」

 

そして俺たちは千葉のラーメン激戦区と目される場所へと足を踏み入れ、ラーメン屋の選定を行っている最中だ。

 

ラーメン激戦区と目される場所は1本道であり、道の両脇に数々のラーメン店が独自の店構えをし、俺の興味をそそった。

昼前で人はまだ疎らだが、人気店は既に行列ができあがっていた。

 

「おにぃちゃん、あれなんてどう?」

 

小町が指を指す方に視線を向けると、焦がし醤油イカスミラーメン富山ブラックの文字が映った。

なんか全て黒なんだけれど。何この厨二病をそそる感じのラーメン。

 

「昔のおにぃちゃんなら喜びそうだね。あれ〜なんて言ってたっけ?名もなき神?」

 

ちょっと小町ちゃん?

トッピングにお兄ちゃんの黒い歴史まで掘り返さなくても良いんだよ?

 

「何のことだか忘れたわ」

 

「まぁ、小町は何の能力も無い今のおにぃちゃんのほうが好きだよ」

 

それは厨二病じゃない俺の方が大好きという事だよね?

 

「おい小町、それってお兄ちゃんは無能ですって遠回しに言ってる?」

 

「そんなこと無いよ〜、っで?どうするのおにぃちゃん?」

 

「食べる度にお兄ちゃんの黒い歴史が掘り返されそうだから別にしよう」

 

押し入れにしまっている政府報告書とか神界日記とか思い出すから無理。

 

「はーい」

 

そう言って小町と俺は別のラーメン店を探すことにする。

 

「あっ、ここなんてどう?」

 

小町が小綺麗なラーメン店を見つけ看板へと足を向ける。

俺も小町に引かれて看板前へと足を運んだ。

 

「ほぅ、鶏がら醤油ベースのラーメンか…良いんじゃないか?」

 

しかし、小町はちょっと悩んでいる感じだった。

口にしてみたは良いもののちょっと違った感じだったんかな?

 

「うーん…自分で見つけてあれだけれどちょっと冒険感が足りないな〜」

 

そもそも冒険系ラーメンって定義が分からんよな。

財宝を求めて大航海を始めちゃうの?つえぇ奴と戦っちゃうの?

あっ、それ少年系だわ。

 

結局チョイスが平凡すぎる事からこのラーメン店も見送ることにした。

 

「なかなか見つからないね〜」

 

「そだな」

 

そして再度、ラーメン店選びをしていると一際賑わいを見せている店があった。

店の前には行列ができており、店前に置かれている品書きが俺の興味がそそる。

 

「魚介豚骨つけ麺、天一並みのとろみスープが特徴か…」

 

ふむ、見るからにこってりだな。うーむ……しかしつけ麺か、まぁ嫌いでは無いが小町の反応を見て決めてみるか。

 

「お〜、これ結構冒険感ない?」

 

結構乗り気だったみたいだ。

まぁたまにはつけ麺も悪くないか。

 

「あぁ、面白いな。太麺の自家製麺か……けっこう興味出てきたぞ」

 

つけ麺と言う所を差し引いても興味が湧く品書きだ。

 

「それじゃここにしよっか!」

 

「そだな」

 

小町と共に行列に並ぶことした。

そういえば店の名前見てなかったなと思い、店前に堂々と掲げられている看板を見上げる。

 

「っげ…」

 

毛筆書体で『麺処一六八』と力強く堂々と書かれた看板をみて、すぐに思い浮かべるのがあの打算的な女の顔だ。

今は小町との兄妹水入らずの時間なのだから思い出させないで欲しかった。

 

「おや、君は…」

 

並んでいる俺たちの前にいる女性の人が振り向きざまにそう言った。

美人でスタイルも良くカッコイイ人だなと俺に印象づけた。

もしかして俺達の後ろに知り合いが並んでいたのだろうか。

 

「確か…比企谷、だったな」

 

どうやら俺達に聞いている様だ。

 

小町の知り合いかと小町の顔を伺うが誰この人?みたいな表情を作っていた。

 

「すいません、どちら様ですか?」

 

とりあえず、こちらからも返答をと思い聞いてみる。

 

「あぁ、突然すまない。私は平塚静、総武高校の生活指導をしている」

 

げっ、まさか同じ高校の教師と鉢合わせるとはついてねぇ。

 

「そうですか」

 

「そして君は、比企谷八幡だろ?君は教師の間では珍しいのでな。勝手に顔と名前を覚えさせてもらっていたんだ」

 

「どうせ進学校のダブった生徒として珍獣扱いって事なんですよね」

 

担任は俺を腫れ物のように扱うし、その他の先生も大体そんな感じだ。

事なかれ主義な教師が多いから俺に下手に関わってこようとしないから楽だったのだが。

 

「そうネガティブに捉えるな。小さな命を救ったその行動力は流石だと思うぞ」

 

この教師はどうやら他の先生とは違うようだ。

堂々と腫れ物に触ってくる。

面倒くせぇな。

 

「そんな大層な事なんざやってないませんよ」

 

「ただ、自身の犠牲を顧みないというのはいささか考え物だぞ」

 

「休みの日に偶然遭遇した生徒にも指導とは仕事が捗りますね」

 

「おにぃちゃん、捻くれない」

 

なに小町、いきなり会話に入ってくんなし。

 

そんな俺の思いをよそに小町は目の前に居る教師と話し始めた。

 

「平塚先生でしたっけ?兄がお世話になっています。比企谷小町と言います。比企谷八幡の妹です」

 

小町の声色が変わる。

多分よそ様向け用小町に切り替わったんだろう。

我が妹ながらその切り替わりの早さ、風の如し。

 

「ほぅ、礼儀正しい妹さんだな。最初は比企谷の彼女かと思ったが」

 

「そんなわけ無いじゃないですか〜」

 

やべぇ俺これ結構気に入ってるかもしれない。

 

「……キモい」

 

ちょっと、小町ちゃん?

どういう意味でそのキモいの発言が出たのかな?

お兄ちゃんの発言かな? それともお兄ちゃんの彼女と思われたこと自体かな?

どっちにしてもこうかばつぐんに心を抉ってるからね。

 

「そ、そうか。では兄妹で仲がよいのだな。私は一人っ子なのでわからないのだが、兄妹はそんなものなのか?二人で腕を組んでいるのは……」

 

兄妹じゃ普通のことじゃないのか?小町はそう言ってたぞ。

 

「普通ですよ。多分」

 

そ、そうかと平塚先生は軽く咳をする。

 

「そういえば、先生もラーメンお好きなんですか?」

 

「あぁ、そうだな。今日は久し振りに晴れたから行きつけに来たんだ」

 

「おっ?行きつけと言うことは味は保証付きみたいな感じですかね」

 

我が妹ながら流石だ、会話を盛り立ててくれる。

俺だけだったらここで会話終了して気まずい沈黙が流れていたに違いない。

 

「はっはっは、こってりが好きだったらこの店はオススメするよ」

 

ラーメンの話だったら少しは話に入れそうだ。

……というかこの話題は興味がある。

ちょっとだけ会話に混ぜてもらうか。

 

「つけ麺って所がちょっとあれっすけどね」

 

「なんだ、つけ麺は嫌いなのか?」

 

「嫌いというわけではないですが、段々と汁が冷えていくのがちょっと……それを避けて熱盛りにすると今度は麺のひっつき具合が気になるんですよね。時間経つと麺が干からびてしまうのもあって早く食べないとって焦りも出てくるので味わえないと言うか」

 

「あぁ、そういうことか。この店はな、鉄をあぶっていてな。汁が冷たくなったらその鉄を入れて熱々に戻す事が出来るんだ。なかなか面白い試みだろ」

 

なるほど、そういったいかに冷やさないかという仕組みを考える店は確かに好感度が高い。

是非その仕組みを使ってみたいものだ。

 

「ほぅ、それは面白い」

 

俺と平塚先生のラーメン談義が始まり、行列の待ち時間が本当に一瞬の様に過ぎ去っていった。この人相当なラーメン好きだろ。

 

どうやら席が空いたらしく、店員が俺たち3人に向けて案内の言葉をかける。

 

「お客様3名ですかー!」

 

「いや、2名で…」

 

俺がそう言おうとしたら小町がそれを遮った。

 

「3名で〜す」

 

「3名様ご案内!いらっしゃいませ〜!」

 

そう店員が元気よく案内を言い終えたあとに

その他店員全員が『いらっしゃいませ!』と元気よく口を揃えた。

 

何この店。滅茶苦茶元気いっぱいなんだけれど。

圧倒されるわ。

 

3名と言う事で奥のテーブル席に案内され

平塚先生が対面に俺たち兄妹が横並びで座る。

 

「おにぃちゃん」

 

先ほど迄の元気で高い声と違い、呆れた声が俺の耳に届く。

 

「なんだ小町、トイレか?」

 

視線を向けると小町は眉をひそめ、俺を見つめていた。

ちょっと小町、そんなに見つめられると恥ずかしい……んだよ?

 

「ちがくて、あれだけ熱心にラーメン談義してたくせになんで2名って言っちゃうかな?」

 

「小町ラーメン談義ついてこれないだろ」

 

ぼっちだから分かるんだが、2人だけが分かる話題を話している際、その話題に入っていけない1人って居づらいし気まずいよね。

 

何かを理由に離れたくなる。

その気持ちすごいわかるから気を利かせたんだが……

 

「えっ!もしかして小町が1人だったの!?」

 

「会話に入れないでただそこに居る辛さって俺、自分事のようにわかるからな。だから一人でゆっくり食べさせてあげようと配慮したんだが…」

 

「ちょっとごみぃちゃん、変な気遣い起こして可愛い妹を1人でラーメン食べさせるなんてどうかと思うよっ!小町的にポイント低い!」

 

「はっはっは、君たち兄妹は面白いな」

 

「面白くしているつもりはないんですがね」

 

「兄妹仲睦まじい事は良いことだ。仲が良すぎるのもあれだがな」

 

「ははっ、流石に兄妹で恋人とか結婚とかは創作の話ですよ」

 

「えっ?おにぃちゃん小町と結婚しないの?」

 

…おや?真なる千葉兄妹の紋章のようすが…

やっべぇ、キャンセルボタンどこだよ!

 

「ちょっ小町、人前でそういう冗談言わない」

 

「さっきのお返しだよ」

 

くっそ、内心ちょっと嬉しかった俺がいる。

 

「け、結婚か…」

 

「平塚先生もお相手いらっしゃるんじゃないですか?かなり綺麗ですし」

 

「…ぐっ」

 

小町、ちょっと待て。

平塚先生の様子がおかしい。

 

「きっと結婚も秒読みとかっ!あっ、式には呼んで下さいね!」

 

「うぐぅ…」

 

この反応…ことから察するにお相手がいないのだろう。

それも長い間。

 

「小町、やめて差し上げろ」

 

「えっ、やっぱり?」

 

えっ、知っててやってたのお前?

鬼畜の所業じゃねぇか…

 

「いいもん、いいもん…」

 

ほらぁー……周りからのプレッシャー思い出して幼児退行しちゃったじゃねぇか。

非常に可哀想だ……誰かもらってあげてっ

 

 

***

 

 

「お待たせ致しました!特製つけ麺2つとトマト味玉つけ麺です」

 

「おぉ〜…」

 

どろっとしたつけ汁を見た瞬間に分かる。

これは麺にかなり絡みつくだろう。

 

そして太めの自家製麺、店内の照明が冷水で締めた麺に反射し輝いて見える。

食べ応えがありそうだ。

 

無意識にゴクリと喉がなってしまう。

 

器に手を添えると縁まで温かい。

直前まで器を温めていたに違いない。

 

「君たちはこの店は初めてだったか?」

 

そう平塚先生はそう俺たちに問いかけてきた…ということは何か食べ方があるのか?

 

「何か通な食べ方があるんですか?」

 

「察しが良いな、そうだ」

 

「是非ご教授頂ければ」

 

「あぁ、では手始めに…」

 

こうして、俺たち比企谷兄妹は平塚先生の課外授業を受け、つけ麺をすするのであった。

 

 

***

 

 

食事を終え、店から出る。

店前に並んでいる行列は俺たちが並んでいた時より長くなっていて早くこの店と出会えて良かったと心から思った。

 

「ふぅー美味しかった〜お腹いっぱいだよ〜」

 

お腹をさすりながら小町は満足げにそう口にした。

確かに、濃厚なつけ汁と太麺は来て良かったと本当に満足できるボリュームでありクオリティーだった。

店名は個人的に気に食わんがまた来よう。

 

「あ、あと、ありがとうございます、奢ってもらって」

 

この人いつの間にか会計を終わらせていたのだ。

食券タイプの先会計だとそういうのはすぐ分かるんだけれど、後会計だと直前まで分からないんだよなー。

 

「あぁ、気にすることはない。良い食事ができた礼だ」

 

やだぁ、ちょっとときめくじゃねぇか。

なにこの人、マジモンのイケメンじゃねぇか。

もしかして少女漫画によくいる花しょってる系イケメン?

 

「では、私はそろそろ行くとするよ。2人ともこれからの休日を楽しんでくれ」

 

「はい、そのつもりです〜」

 

小町が元気よく答えると平塚先生はあぁと微笑を小町に見せ答えた。

そして平塚先生は俺に視線を向ける。

 

「比企谷、何か相談があるなら私を頼れ」

 

「いきなりなんですかね。まぁ…考えておきます」

 

「教師らしいことをするのも1つだと思ってな。それでは行くとしよう」

 

そう言って平塚先生は俺に背中を見せ去って行った。

彼女の背中を見送った後、また小町が腕を組んできた。

 

「さて、おにぃちゃん。どこ行こっか?」

 

どうやら今日1日、小町に付き合わされるみたいだ。

とりあえずゲーセンとか行ってみるか。

 

「ゲーセンでも行くか」

 

「あーいいねぇ〜、メダル落とす奴やりたいねぇ」

 

「んじゃ行くか」

 

「うんっ」

 

昼下がり、青々とした空の下、兄妹は休日の談笑を楽しみながら歩みを進めた。

 




ようやく平塚先生出せた〜。

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