とうとうこの日がやってきた。
黄金の5連休だ。
休日は人を活発にさせる。
それは今俺がいる日本最大級のショッピングモールにいるとよく分かる。
皆活気に溢れており、何の目的もなく来た俺と違い彼らは友人と映画を見たり、恋人とウィンドウショッピングをしたり、家族とゲームセンターで遊んだりと様々な目的を持っているだろう。
一番近場のショッピングモールに行くことも考えたが、田舎のヤンキー事件でまだ勇気出せなくて近づけなかったのは内緒の話。
ってか今日はためて平積みしていた『読むけれどやる気が出たらな』本を片っ端から処理していこうと考えていたのに……家でぬくぬくと読書にふけようと思っていた矢先、小町が『ちょうど連休なんだから家全体掃除したい』と言いだして、家を追い出されるってどうよ……。
小町ちゃん? お兄ちゃんと一緒にやるという選択肢は無かったのかな?
前に一緒にお風呂掃除やったでしょ? お兄ちゃん手伝うよ? 邪魔? さいですか……
まぁ考えても仕方が無い。
そういえば最近、あまりやれていなかった新作のラノベのチェックをする事にしようと考えを切り替える事にして書店へと足を運んだ。
天井に吊されたライトノベルコーナーと書かれた案内板を見つけその棚へと足を進める。
ライトノベルコーナーが見えてきた所で、なにやら見覚えのある人影がみえ、迷いなく進めていた足の歩幅を狭めた。
少しずつ近づくにつれて亜麻色の髪とくりっとした大きな瞳が見えてきた事で憶測は確信へと変わる。
その人物は今期アニメ化ライトノベルコーナーという特集棚と向き合っていた。
一色じゃねぇか。
あいつ何やってんの? ラノベなんて読んでたのかあいつ。
もしかして隠れなのか?
っふと声をかけそうになった自分の衝動を理性が止めた。
いやいや、ステイステイ。
クールになれ、クールになるんだ比企谷八幡。
ここでわざわざ声をかけたら『あれぇ〜? せんぱ〜い。可愛い私に声かけてナンパですか〜?』とか言われかねん。
その後に俺の奢りで、お高いカフェとか連行されるところまで読めた。
よし、声をかけるのはやめておこう。
そう決断を下し、早速俺はライトノベルコーナーに進めていた足の方向を180度回転させ書店から出て行く行動体制をとった。
しかし俺の作戦行動が失敗に終わる声が背中から聞こえてきた。
「あれぇ? もしかしてせんぱい?」
こんな時に限って勘の良い奴め。
「ん? あれ、一色じゃねぇか」
仕方が無い。
今気付いたわーって感じでとぼけてやり過ごすか。
「もしかして今、見て見ぬ振りしようとしてませんでした?」
何こいつエスパーなの?
最近同様なψ難が後を絶たないな。
「そんな事は無いぞ?」
「それよりもせんぱいがGWに外出するなんて珍しいですね。会えないものだと思ってましたよっ!」
俺の元に駆け寄り、いきなり俺のGWの予定は引き籠もっていると断言してきたあたり、一色は八幡検定三級あたり合格できそうな位に俺の事を分かってきたらしい。
あと若干、テンション高いのはなぜだ?
声少しだけ大きくて恥ずかしいのだが……
「俺だって出たくなかったわ、妹に追い出されたんだよ」
「へえ〜そうなんですね〜」
俺はこの後、一色が小さくガッツポーズしているのを見逃さなかった。
一色ちゃん?
家追い出されたって言われた人に向かってガッツポーズは無いんじゃないかな?かな?
「それはいいとして、一色どうした? 頭でも打ったか?」
「せんぱいは私をなんだと思っているんですか? 私も読書くらいはしますよ」
「それは百歩譲ってあり得るとするとして、ラノベとか毛嫌いしそうだと思ってな」
俺は一色が先ほどまでじっくりと見ていたラノベコーナーを視線に入れる。
一色は淡く頬を染めながら小さく『やっぱり見てたんじゃないですか……』と唇を尖らせて小さく呟いた。
あっやべっ、やっちまった。
「部活の備品買うついでに、せんぱいがよく読んでいるライトノベルってなんだろうって気になって見てたんですよ」
そういえば聞いてきたことがあったな。
その時の第一声が『せんぱい、本読みながらなにニヤニヤしているんですか?』は俺の心に大ダメージを与えたからしっかりと覚えてるからな。
「なんだ一色、ラノベ興味あるのか?」
「まぁ……絵柄はあれですけれど食わず嫌いはちょっと自分的に許せないな〜なんて思ったんですよね〜」
「なるほどな」
淡い興味で読んでみたらハマるとかあるしな、その心意気嫌いじゃ無いぜ。
「そういう訳なのでせんぱい、ちょっと付き合ってもらっても良いですか?」
興味を持ってしまったのは仕方が無いよな。
先輩として指南したい気持ちもなきにしもあらずだ。
決して一色がラノベに興味を持ったことが嬉しいとかそんなんじゃ無いからな。
「まぁ、すこしな」
そう答えると一色はありがとうございますと笑みをこぼす。
俺はその光景を見て視線をそらした。
気恥ずかしすぎて直視できん……
***
「んじゃどういう系が良いんだ?」
一色がどのようなジャンルを好みにしているのかを先に聞いてそこから
絞り込む手法をとることにした。
正直な話、女子高生なんだから大体ジャンルは決まってるようなものだけれどな。
「うーん、やっぱり恋愛青春系ですかね?」
一色は頬に手を当てながら考えた言葉を口にする。
うん、だと思ったわ。
「やっぱりそこら辺か」
「む〜、女の子なんだから当然ですよ!」
「俺は恋愛青春系はちょっと疎いんだが、まぁ似たような奴は1つだけあてはあるが」
「どんな話ですか?」
「入れ替わってる」
「もう見ました」
うん、知ってたわ。
有名だしな。むしろ映像の方が凄いわ。
「やっぱりか……」
「もう〜分かりました。ジャンルは問いません、ただ先輩オススメのものが読みたいです」
「あー、となると巻数があるから俺の奴貸すわ」
「えっ?」
一色が目をパチクリさせながら俺を見る。
あれ?俺なんかやったか?
「ん?買うってんなら良いが、結構出費デカいぞ?」
「いえ、そういうことじゃなくてせんぱいが人に物を貸すなんて行動が予想外過ぎて思考が追いついてなかっただけです」
確かに俺、人に物を貸すなんて初めてだな。
ただ一色ちゃん?真顔でそれ言われるとちょっと傷つくんだけど。
「しかし学校に持ってくるとあれだな、その状況をまた盗撮されかねんな」
あれの解決は連休明けだからな……。
解決後に渡すという手もあるがいつ解決できるだろうか。
「なら今からいきましょう。せんぱいの家」
「はっ?」
ちょっと思考が追いつかない。
なぜその思考に行き着いたのか説明を求めたいんだが……。
「学校じゃ渡すことできないじゃないですか、ならもうこれはせんぱいの家に行くしかないってことですよね」
「まじかよ……ってか一色、お前部活はどうすんだよ?」
一瞬の間のあと、首をかしげて俺を見て、何かに納得したかのように口を開く。
「あっ、ちょっとせんぱい勘違いしていますよ。今日の部活は早めに終わったんですよ。明日の練習試合に向けての温存兼ねてるみたいです。今はオフで買いものついでに部活の備品とか、興味あるものを見ながらウィンドウショッピングを楽しんでいたわけです」
「そうなのか」
「そうですよ〜、真面目に部活していて見直しました?」
「まぁな」
「おぉ〜、せんぱいにしては素直ですね」
「なんだよ。良いことじゃないか。俺も依頼をこなした甲斐があるってもんだ」
よしよし、俺の家に行く話から話題を遠ざけていけている。
話題を曖昧にすることならお手のもんだ。
「そんな事はどうでも良いんで、ほら先輩行きますよー」
どうやら俺の作戦は最初から見抜かれていたようだ。
話を戻されてしまった……
「ちょっ、マジで行くのか」
「マジです〜、私もお家教えたんですからね?」
「そりゃお前が……」
「はいはい。それじゃ行きますよ〜」
彼女の中で既に俺んちに行く事は確定事項らしい。
既に書店から出て行こうと前を歩いている彼女を止める術が思いつかなかった。
俺は、はぁ……っと深いため息を吐きながら彼女のあとを追うのであった。
***
日は既に頂点を過ぎて下降の一途をたどろうとする時間帯。
いつもの帰宅路なのだが、今日はどうも違うように感じる。
女の子と一緒に歩いているとかそういったことではないのだ。
それよりも何も、何故か横並びで歩くことを強要され、そのことに俺は違和感を覚えるのだ。
小町以外の女の子と横並びで歩くなんてした事ないからちょっと手汗がヒドイ。
バレないように両手をポケットにつっこんで誤魔化すことにした。
「へぇ〜せんぱいの家って結構歩くんですね〜」
そんな俺の心境をよそに横ではしゃいでいる亜麻色の髪の彼女を横目でみる。
小柄な彼女との身長差があり、俺が見下ろす形になっている。
「なぁ」
「何ですか、せんぱい」
「足ツラくないか?結構歩くから足疲れるだろ」
「っえ?」
っえ?って俺が言いたいのだけれど。
ってかそこで黙るの止めてもらって良いですかね?地雷踏んだか心配になっちゃうでしょ。
「……いえただ、そんな気遣いせんぱいができるんだなって」
手を胸の前でいじりながら彼女はそう言う。
流石の俺もそこまで気がきかない男じゃない。
なんせ小町に鍛えられているからな。
「たまたまだ」
「でも、嬉しいですよ。お気遣いありがとうございます」
「……そうか、まぁ歩くの疲れたら近場に公園あるからそこで一旦休憩するのもありだぞ」
「大丈夫ですよ。そのまま向かいましょう」
へへっと最後に漏らし彼女はまた前を向く。
その後たわいもない会話をしつつ、俺んちに向けて足を進めた。
***
うちの前までたどり着くと一色がちょっとほぉぉっと小さく唸っていた。
なんだこいつ? 一色ちゃん、ちょっと今日はテンションおかしくないかな?
「せんぱいの家って結構大きいですね」
「まぁ、一般的な家だろよ」
そんなやりとりをしていると、玄関から鍵が解錠される音がした。
扉がゆっくりと開いて、恐る恐る俺たちを覗く小町の姿半分が見えた。
「小町、何してんだ?」
「なにって、変な会話が外から聞こえてきて、いざ見てみると、おにぃちゃんが女の子と一緒にいるのが見えて本当におにぃちゃんか確かめているだけだよ。ほらいるじゃんドッペルゲンガーとか」
「えっ? 俺、女子と一緒にいたらそこまで疑われるレベル?」
そんな小町との会話をしている最中、一色が俺の顔と小町の顔を忙しなく交互に見る。
「もしかしてせんぱいの妹さん?」
「そうだ」
「なんですかね、今まで疑ってました。すみませんでした」
「っえ? なに俺の口で言っていた妹が想像上の人物かなんかだと思ってたの?」
俺の言葉が耳に入っているだろう、しかし一色はそれを無視して小町へと目を向けていた。
「はじめまして。お兄さんの同級生の一色いろはです。小町ちゃんっていうんですよね。よろしくで〜す」
一色が軽い挨拶をすると、小町も玄関から姿を出して一礼し、自己紹介を始めた。
「比企谷小町です。宜しくお願いしますね。一色さん」
自己紹介ができるなんて素晴らしすぎるだろ。
できた妹だろう。
「できた妹ちゃんじゃないですか。せんぱいとは大違いです」
「あったりめぇだろ、俺と比較すんなし」
「うわぁ……シスコンキモいです」
「そんじゃ、貸す本持ってくっから少しそこで待ってくれ」
「おにぃちゃん? 何言ってんの、一色さんごめんなさいごみぃちゃんが変なこと言って。どうぞ上がって下さい」
「っは?」
いやいやいや、小町ちゃん何言ってるの?
一色も言ってやれ、流石に葉山先輩ならともかくそれ以外の男の家に上がるなんてお前でも気が引けるだろ。
「えぇ〜!いぃんですかぁ〜。それじゃお言葉に甘えてお邪魔しちゃいますね〜」
すっげぇわざとらしく返事をした後、なんの戸惑いなく俺んちにあがっていった。
こいつほんと遠慮って奴を知らねぇのか?
「ほぇー、せんぱいの家ほんとに大きいですね。リビングとかうちの倍ありそうですよ」
小町にリビングに案内された一色がソファーに腰掛けてあたりをキョロキョロとしていた。
「一色さん、どうぞお茶です」
「ありがとう。小町ちゃんだっけ。私の事はいろはって呼んで良いんだよ?」
小町は何故か感極まった様な表情になっている。
「いろはおねぇちゃんっ!」
「やだっ、おねぇちゃんなんて……」
……こいつら何してんの?
「一色、ほれ」
俺は自室から持ってきた八幡ベストセレクションの数々が入った紙袋を一色に渡す。
「せんぱい、ありがとうございます」
「よし、俺んちでの用は終わったぞ。さっさと出るぞ」
「え〜、せんぱい、私ちょっと疲れたんで少し休憩してからにしましょうよ〜」
ソファーに座りながら足を伸ばしバタバタさせる様はどこぞの妹様と似たような仕草でデジャビュにかられる。
「おまえこれを狙って途中で休憩挟まなかったな?」
「何のことでしょうね〜?」
舌を出しながらニコッと笑顔を浮かべる様子が視界に入り、俺の憶測が真に近い事だと伺えた。
「おにぃちゃん〜、小町もう少しだけいろはおねぇちゃんとお話ししたいな〜」
小町は上目遣いで瞳を潤しながらおねだりしてきた。
くっそ、この短時間でなに教えやがってるんだ。
「はぁ……、分かった。あんま長居すっと日が暮れちまうぞ」
「分かってますよ〜」
そうして小町と一色が喋っている合間、俺は未読本の読書にふけるのであった。
それから2時間以上は経過しただろうか。
女三人寄れば姦しいというが、2人でも十分姦しい。
と言うのも、全然彼女らの会話が途絶えることがないからだ。
こいつらどんだけおしゃべり大好きなんだよ。
ようやく会話が一段落したのか、一色が俺を見る。
「そろそろ帰るか?」
「そうですね、長居しちゃいましたし」
そう言って立ち上がり、一色は帰り支度を始めた。
***
小町から少し遅いから駅まで送ってあげなよと言われ、しぶしぶ俺も一色を送るため、外に出ることになった。
道中、一色はご満悦な表情で俺に話しかけてくる。
「小町ちゃん可愛いかったー。せんぱいの妹とは思えないですよ」
「だろ。知ってる」
うわぁ……と若干引き気味の表情を浮かべる一色。
おい、お前が話題振ってきたのにその対応はあるまじき行為じゃないか?
「それよりもせんぱい」
「ん?なんだ?」
「ずっと聞きたかったんですけれど、なんでせんぱいは留年しちゃったんですか?」
「なんでって」
「だって、お金の問題かなとか思ったらあんな立派なお家あるのにそういうわけじゃなさそうですし。元が不良とかだったら分かるんですけれど、今日の小町ちゃんと話しているとどうもそう言うわけでもなさそうなので気になりました」
あぁ、やっぱ気になるよな。
「あ〜、なんつったら良いんだろうな……ちょっと今はまだ言いづらいな」
俺だけの話ならいくらでも言えるが、由比ヶ浜が絡んでいるとなるとあいつの学校内での評判を落としかねない。
「まぁ、せんぱいが言いたくないのであれば仕方ないです。無理に聞く必要はないと思っている内容なので」
「すまんな」
「いえいえ、言えるときが来たら教えて下さい」
「……あぁ」
それから特に会話もなく足を進め、駅までたどり着く。
雑踏とする、駅の改札前で改札に向かう手前で一色が立ち止まる。
「今日は、突然お邪魔しちゃいましたね。ありがとうございます、あとこれもっ!」
彼女は紙袋を俺に見せながらニッコリと微笑んだ。
「ほんとな。突然のお宅訪問とかまじ難易度たけぇよ…」
「小町ちゃん可愛かったですし、また来ますね〜」
「やめてくれ……」
「せんぱいに会いに来るんじゃなくて小町ちゃんに会いに来るんですからね。勘違いしちゃダメですよ?」
「メールかチャットで済ませろよ。それか外で会えよ」
「そこにせんぱいがいるからこそおもしろいんじゃないですか」
「どういうこと?」
一色ちゃん?俺のプライベート、ねぇから!とか遠回しに言ってる?
「それじゃ、今日はありがとうございました」
俺の話は無視されるんですか、まぁいいや。
「きぃつけてな」
『はい』といいながら一色は改札へと向かっていった。
その後ろ姿が視界から見えなくなるまで確認し、俺はそのまま家へと戻る。
家に戻ると玄関で小町が仁王立ちで待ち構えており、一色についての話を根掘り葉掘り聞かれる羽目になったのは言うまでもない。