がやがやといつもの事ながら騒がしい店内に入ってボックス席に案内される。
せんぱいが逃げないように学校から常にせんぱいの制服の裾をきっちり掴んで連れてきました。
「せーんぱーい、ほら。今日は私が奢りますから好きなの頼んで下さい。あっ私は駄目ですよ? 売り物じゃ無いんで」
「お前わかってて言ってるだろ……俺既にクッキーで腹一杯なんだが……」
「そりゃ知ってますよ。知らなかったら奢りなんて言わないですからね〜」
「嫌がらせかよ……俺基本人から施し受けないんだけど」
そんなのは知っていますよ。
「今回はせんぱいの事聞きたかったので……そのお代って事でいいですか?」
こう言うことを上目遣い意識して伝えたらせんぱいもそれなりに反応を示してくれるでしょ。
「そういうことならまぁ……いんじゃね」
何か観念したかのようにせんぱいは席にもたれかかった。
適当に注文をしてさっさと本題に入る。
「せんぱいなんで奉仕部はいったんですか? せんぱいの困り事は解決しましたしもう用な……特に入部する意味がわからないんですけど」
「そりゃ俺もわからねぇよ。ただ雪ノ下先輩が忙しそうだったし、部外者じゃ手伝えないから一時入部して手伝おうと思ったら顧問にそのまま引きずり込まれた」
「なんですかそれ……お人好しすぎません?」
「まっ、それでもタダで紅茶が出てくるし、そこまで会話する必要ねぇし別に良いだろ。勉強する場所とか探す手間が省ける」
この人本当にそういう所が私の心をざわつかせるのわかっているのでしょうか。
だって雪ノ下先輩と二人きりとか……まぁせんぱいですから間違いは起きないとは思いますが、それでも同じ空間にいるということは多少なりの会話が発生するわけで、そこから次第に話す回数も増えていって、いつの間にか休日に二人で遊びに行ったりして……知らぬ間に俺たち付き合いましたみたいな報告貰って覚悟する前に私が絶望に打ちひしがれる結末なんてごめんです。
そんな事したら私せんぱいの目の前でギャン泣きします。
「それより一色、サイゼのグランドメニュー変わってねぇか?」
なぜかそんなどうでもいいことにウキウキしているせんぱい。一体なんなんでしょうね。
「クッキーでお腹一杯じゃ無かったんでしたっけ?」
「俺の胃液が今すぐ消化すると叫んでる」
「胃液と会話……つまりはイマジナリーフレンドですか?」
「ネタを真面目に返すのやめろ、俺はまだ健全だ」
「そうですか、それで? 何が目新しいんですか?」
「季節限定メニューが変わってるな、デザートに西瓜のパンナコッタがあるぞ」
「パンナコッタってなんでしたっけ?」
「しらん、写真を見てくれ」
そんな事をいいながらせんぱいはメニュー表を渡してくる。
知らないのに言葉に出したんですか。ちょっと無責任すぎませんかねせんぱい。
「へぇ〜、なんかヨーグルトみたいですね」
「そうなんじゃね?」
やけに素っ気ないですね……いやちょっと待って下さい。何気に首から下がそわそわしていませんこの人。もしかして注文したいけれどお腹いっぱいだから全部は食えない。奢りとは言えお残しは俺のプライドが許さないとかそんな事考えて渡したんじゃ無いでしょうね?
……ふふん、いいでしょう。受けて立ちましょう。
「せんぱい、追加注文でこれ頼みましょ。ちょっと食べてみたいかも」
「まじか。なら最初の一口くれ」
「……せんぱいもしかして口説いてます? 間接キス狙ってるの分かりやすすぎてちょっとってよりもすっごいキモいですよ。もう少し言い回しを考えて発言して貰っていいですかごめんなさい」
「別々のスプーンを使えば良いだろうが」
「まぁそうですね。ただ従業員さんの手間を増やすことに心を痛めないのであれば是非どうぞ」
「向こうは金払って働いてんだろうが、スプーン1つくらいどうってことないだろ」
「あーでたでた、お金払えばお客様は神様だとか言う人。せんぱい失望しましたよ」
「スプーン1つで俺どんだけ信用失うよ」
「えっ、せんぱい私の信用ってせんぱいにとってすごい大きかったんですね。なんか色々と言ってしまってすいません。ちゃんと面を向かって話せる相手が私だけだったんですね」
「いや普通に小町とも喋るし。他にも雪ノ下先輩と由比ヶ浜とも喋れるし、あと戸塚先輩」
「そこは私だけって言うところですよ。だからモテないんですよ」
「べつにモテようとも思ってねぇっての」
せんぱいならそう言いますよね。
むしろせんぱいがモテたいと言いだしたら天変地異が起こるレベルです。
「まぁそんな事はいいです。とりあえず頼んじゃいましょうか」
呼び出しスイッチを押した矢先にすぐに従業員が注文を受け付けてくれた。
「ところで、奉仕部の忙しい時期は無くなったんですよね?」
「もう今となっちゃ暇だな。適当に本読んで過ごす事が多いぞ」
「それならもう退部してもいいんじゃ無いですか……?」
私との時間が無くなってしまいますよ?
1年とはいえ貴重な学生生活の時間をそんな暇な時間に充てていいんですか?
私とカラオケ行きましょうよ。
「それがな〜、平塚先生がそうさせてくんねーのよ。お前は矯正対象だとか言われてな」
「なんですかそれ……横暴じゃないですか」
ポジティブに考えるとせんぱいがあの部屋に常にいるって考えたら探す手間が無くて楽なんですけどね〜……ただリスクの方がはるかに高いんですよね。
「それでもあそこの待遇はいいからなー、紅茶出てくるし静かだし。」
「……」
なに餌付けされてんですか。
「どした? リスの真似か? そんなジュース含んでその真似はやめといた方がいいぞ、無性に笑わせたくなるから」
いやそんな子供みたいな事しませんよ。どうしてかって知りたいですか? 2人きりと言うのが気にくわないんですよ。
「なんでもないですよーだ」
ふいっとそっぽ向けたふりをして少し気を引いてみる。
「いきなりどした一色? ツンデレの練習?」
やっぱり効き目が薄い。こういうの効かないから面倒なんですよね。いや効いてはいるんでしょうが効果が薄いんですよね~。
「むぅ~! 少しは気にかけて下さい〜!」
「気にかける程繊細な奴じゃないだろうがお前……まぁたまに来るくらいは良いぞ。 正直雪ノ下先輩と2人は結構息が詰まるからな……」
……おっ?
いまなんて言いましたこの人? たまに来ていいって言いました?
なんですかこのツン&デレは。ツンデレの練習してるのはそちらじゃないでしょうか?
というかやっぱり息が詰まるんですね。
ご愁傷様です。
「まぁ……せんぱいがそう言うのであればたまには会いに行ってあげてもいいですよ」
「なんで上から目線よ」
「先輩からお願いしたんじゃないですか」
「いや別に来なくてもいいんだ……」
「絶対にいきますからね? ズル休みしたら許しませんよせんぱい?」
「今日お前グイグイくるな……」
「へ?」
「いや、さっきからやけに俺が奉仕部にいると不機嫌になったり、暇なら来いと言ったらあざとくなるし忙しいなと思ってな」
えっ? えっ?? そんなに私がっついてました?
そうだったこの人鈍感でも難聴でも無かったんだぁ〜!
「どうした一色いきなり顔隠すなよ。得意の嘘泣きは俺には通じねぇぞ」
顔真っ赤で見せられないからですよ……
「えーっと……なんつーか……俺地雷踏んだか? 耳……赤いぞ?」
「言わないでよばかぁ!」
敬語すら意識する余裕ないのに追撃してくるとかホント馬鹿なんですから。
「うぉ……すまん。ってか声……でけぇ」
「せんぱいのせいですからね。責任取って下さい」
もぅ。なんでそんな言わなくていい事言っちゃいますかね。
「責任取るも何もお前が変に声上げたおかげで絶賛周りから痴話喧嘩しているカップルだと思われているだろうが、その責任をお前が取れ、俺は悪くない」
「なんですかせんぱい口説いてるんですか? 甘噛み痴話喧嘩できるカップルを周りにアピールするのはまだ先というかなんですか責任はお前が取れって! せんぱいのあほ! ぼけなす! 八幡!」
「男とっかえひっかえしている点でお前も十分クズだと思うぞ俺は。ってか最後の不名誉な呼称に俺の名前入ってんだけど……」
「同類じゃないですか、良かったですねせんぱい」
「なんもよくねぇよ……」
そうこうしているうちに注文していたパンナコッタが届く。グラスに盛られたパンナコッタに西瓜ソースの淡い赤が乗っていてとてもシンプルなのに映える出来映えだ。
「うわー、美味しそう〜」
「んじゃ最初の一口俺な」
そう言ってせんぱいがすかさずスプーンを取ろうとした手を軽くはたく
「だめです」
まだ写真撮ってないですからね。
だめです。
「んだよ、食い物の写真なにに使うんだよ」
「記念ですよ」
そんな事言いつつパンナコッタの横に映るせんぱいにフォーカスを向ける。右端に大きく写るパンナコッタがぼけていいアングルのせんぱいが撮れた。
「さて、どうぞどうぞ」
「そりゃどうも。……んっ、うまいなこれ」
「へぇ~そうなんですか」
「ん? おまえ食わないの?」
「せんぱいは私に手で食べろと遠まわしに言ってます? 外道ですね」
「は?」
「早くその手に持ってるスプーン返してください。プリーズプリーズ」
「はっ? いやちょっとまて」
「それ専用スプーンなんで替えがないんですー」
大きくため息をついたせんぱいは適当に紙ナプキンを手にとりましてスプーンを拭いて渡してくれた。
「せんぱいはこういうのは気にする方なんですか?」
「気にはしないがおまえが余りにもそれを狙って来るから恥ずかしいんだよ……」
「狙ってるわけないですよ気持ち悪い、自意識過剰ですか」
「そりゃな自意識過剰過ぎてそれが無いと生きるのが辛いすらある」
「なんですかそれ」
「いやなに……なんでもねぇよ」
「そうですか」
そう言ってようやくパンナコッタにありつく。スプーンですくうとプルップルに震えたそれを静かに口へと運ぶ。
下に冷たい柔らかな感触と確かにさっぱりと甘いソースとまろやかな舌触りがマッチしていて暑い日が続くこんな時に丁度いい感じ。
「せんぱい……そんなじっと見つめられると恥ずかしいんですが」
「いやうまそうだなって」
「新しく頼めばいいじゃないですか」
「そう言う意味じゃねぇよ、お前がうまそうな顔して食うなって思っただけだ」
そう言って視線をそらしてしまった。
ちょっとちょっとちょっと!
あなたそれどこで覚えたんですか。どこぞの魔性ですか? なかなか良いジャブ持ってるじゃないですか。
「そ、そうですか? まぁ実際に美味しいですしねこれ」
「まぁ、いいんじゃね。それなら」
「せんぱい、せんぱい」
「どうした?」
「私のクッキーは美味しかったですか?」
さすがに自分で聞くのは少し恥ずかしかったりする。
でもちょっとやっぱり聞いてみたい事ではあるのでというか今後の参考というかそんな事を考えてしまいます。
「まぁな、悪くなかった。ってかお前特技あったのな」
「まぁそりゃ、手作りで作ってきました〜って胃袋掴む為に決まってるじゃないですか」
元々は荷物持ち達の好感度維持のために作り始めたんですが、せんぱいが満足してくれたのでしたら覚えた甲斐がありますね。
「まじで抜かりないのね。すげぇなお前」
「そうほめないで下さいよ」
「葉山先輩マジで落ちるかもな」
あー……そうでしたね。そう言えばそうでしたね。
今この時完全に忘れていましたよ。
上げて落とすを無意識にしないでもらいたいものですね。
「えぇ……まぁ、そうですね」
自分の勘違いの恥隠しに残りのパンナコッタをガツガツと一気に食べ終える。
「ふぃー美味しかった〜」
「さてと、そろそろ食ったしでるか」
「もう少し腹休みさせて下さいよーせんぱいドリンクバー頼んだのに1杯しか飲んでないじゃないですか」
せっかくお金出したのにもったいないですよー。少しは元を取って下さい。
「おー、確かにな。もう少し元は取っとくか」
わかってくれたのかせんぱいは空になったコップを持って立ち上がる。
「そうですよー、私の奢りなんですし」
「いちいち奢りを強調すんなよ」
「人の奢りで飲むドリンクバーは美味しいですか? 年下に奢ってもらって今どんな気持ちですか?」
「一色、お前俺がどれだけ人前で小町に財布を出してもらっているかわかって聞いてんのか? 慣れすぎてそんな気持ち一切湧いてこねぇわ」
「うわぁ……最低ですねあなた」
***
ありがとうございましたーと出た店から声が聞こえ扉が閉まる。
既に大人の人たちの帰宅時間を過ぎており、人通りがやけに騒々しく感じた。
それにしても会計の時のお兄さんがえっお前が払わないの? って感じで一瞬せんぱいをチラ見してそれに気づいた先輩は頭を掻きながら外に出ていったのはちょっと面白かった。
「もうこんな時間かさっさと帰らねぇと小町が寂しがるな」
「小町ちゃんもう帰ってるんですか?」
そういえば小町ちゃんは中学3年ですし、そういえば私も去年の今頃はまっすぐ帰って勉強していたような気がします。
「そうだぞ。献身的に俺の飯を作ってくれる為にまっすぐ家に帰ってくる小町、いいだろ?」
受験生にご飯作らせてるんですか、せんぱい? 本当にクズですね……
「すごくいい妹という所は同意ですが、せんぱいのその言い回しがシスコン過ぎて気持ち悪いです」
「お前飯作ってくれる奴リスペクトしなくてどうするよ。今日のご飯抜きとかいわれんだぞ」
まぁ流石にお母さんには感謝しますが……せんぱい小町ちゃんにそんな事言われてるんですか? なにをしたらあんな従順な妹がそんな事言うのだろう。
「すでに小町ちゃんに胃袋掴まれてることに気づいて下さいね、せんぱい? なんならうちでご飯一緒します?」
「嫌にきまってんだろ。だれが好き好んで家族団らんに単身で乗り込むかよ。しかも年頃の娘が男連れてきたとなったら俺の隣は確実に右はお前で左父親だろうが。俺の精神が死ぬ」
「せんぱいはやっぱりチキンですね。ケンタのフライドチキンにでもなってしまえばいいのに」
「ひでぇ言われ様だな。ケンタに失礼だろが、もっと良い若鶏使ってやれよ」
「うわぁ……せんぱいのその自虐もなかなかですよ」
「それよりさっさと帰るぞ。一色は駅そっちだろ、じゃあな」
「せんぱいも気をつけて」
そう言って先輩と別れ私は蘭々の気分で駅へと向かうのだった。
いかがでしたでしょうか。
ちょっと年末辺りに投稿できればと思っていたものですが体調不良のせいで投稿できずでした。
たまにはこう言った目的の無い回もありかなと思って書いてみました。
やっぱりいろはすかわいい。
後書き等は活動報告にございますのでこちらをご確認下さい。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=230853&uid=258772