やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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時系列的に言うと#12-2の由比ヶ浜が八幡にクッキーを渡した後のお話し。


#12-Ex2 だから比企谷小町は比企谷八幡にねだる。

 ぐつぐつと煮立ちを見せる鍋を見ながら味見しつつ砂糖と醤油を少しだけ付け足す。

 ちょうど良い味になったところで落とし蓋をして様子を見る。

 

 その間にお米をとぎながらついつい口ずさんでしまう。

 

「にっにっにっくじゃっがじゃっがじゃっがじゃっがる〜」

 

 作詞作曲は全て小町だけど、なかなか良い出来ではないだろうかCDデビュー待ったなし。夢の印税生活が待ってる〜!

 

 ってそんな夢物語を妄想しつつ炊飯器のスイッチを押す。

 1時間後ぐらいには炊けるかな。まぁ肉じゃがの煮込み時間と粗熱取る時間と合わせたらちょうど良い時間に出来るかな〜。

 

 そんなことを考えていると玄関の施錠が外れる音がした。

 おにぃちゃんが帰ってきたか。

 

「ただいまー」

 

 いつもと同じように気だるい様子でリビングに姿を現したお兄ちゃん、ただいつもと違うのはなにやら紙袋まで持ってる事くらい。朝そんなの持ってなかったのにどうしたんだろう?

 

「おかえりーおにぃちゃん。最近やけに帰りが遅いね、いろはおねぇちゃんとまた逢い引きしてきたの?」

 

「ちげぇっての。……そうだったな小町、言い忘れてたんだが俺部活やることにしたからこれから少し帰り遅くなるわ」

 

「へっ……」

 

 いやおにぃちゃんが帰り遅くなるのが寂しいとかそんな事よりも先に、あの面倒くさがりで退院した後なんて屁理屈ばっかり言ってアルバイトすらやらなかったあのおにぃちゃんが、なんで部活なんてまた学生らしい事を始めたのかすごく気になる。

 

 もしかしていろはおねぇちゃんがまた無理矢理部活にでも入れてみたのかな?

 

「え? 何部?」

 

「奉仕部って奴なんだが」

 

「なにそれぇ……おにぃちゃんいやらしい」

 

 おにぃちゃんムッツリなところあるからなぁ。学校非公認の怪しい部活に入ったな? エッチなのはいけないと思うんだ。

 

「ちげぇよ。まぁあれだ。超簡潔に言うとだ、依頼を受けてその依頼を解決する部活だ」

 

「へぇ〜、なんかまた漫画みたいな部活だね」

 

「まぁな」

 

「でもなんでまた部活なんて。おにぃちゃんそんな一銭にもならん奴絶対やらないとかいってた癖に」

 

「俺も本格的にやるつもりは無かったんだがな。半強制的に入部が決まった」

 

「それでもおにぃちゃん普通にサボるでしょ。だってやりたくないことは意地でも避けるヘタレなんだから」

 

「小町ちゃん? お兄ちゃんに向けてその言葉遣いは止めてね? 八幡的ポイント低いから」

 

「それで? サボれない理由でもあるの?」

 

「顧問が授業終わりと同時に送迎してくれる待遇付きでな……知ってるだろあの平塚先生だ」

 

「そりゃまた深く気に入られたねぇ〜、今日は何を解決してきたのかな?」

 

「まぁ色々だよ。ほれ、小町これ」

 

 そう言っておにぃちゃんから小町に差し出してきたのさっき持っていた紙袋。中にはまた可愛らしい包装に包まれた何かだ。

 正直小町の為に小町を思って買ってきてくれたのだったらそれはもう小町的にポイントうなぎ登りなんだけれど、誕生日でも記念日も何でもない日に男が何か贈り物を贈ってきたときは気をつけろってお母さんが言ってたからここで素直に受け取るほど小町は真っ直ぐではない。

 

「何考えてるのおにぃちゃん。またお小遣い足りなくなったの? おにぃちゃんが小町にそういうことするって事は絶対何か裏があるって知ってるんだよ?」

 

「いつもならそれをねだるが。今回は俺の贈り物ではない」

 

 ねだるんだ。やっぱりごみぃちゃんだね。

 

「じゃあ誰から? いろはおねぇちゃん?」

 

 それなら納得だ。でもなんで急にっておもっちゃう。

 

「由比ヶ浜だ」

 

 すこしの間思考停止ししてしまった。

 なんでまた予想外の所からやってきた贈り物にすこし戸惑う。

 由比ヶ浜さんが小町に贈り物ってどういうこと?

 

「なんで? 由比ヶ浜さんから贈り物をもらう筋合いなんて無いでしょ」

 

 あー、なんでだろ。意識していないのに口調がきつめになっちゃうね。

 

「言っただろ? 俺の部活は依頼を解決する部活だ。つまり今回の依頼者が由比ヶ浜だ。あいつからお前との関わりを仲介されたって訳」

 

「別に……そんな事しなくてもいい、小町は望んでない」

 

「まぁ、俺の依頼はお前にこれを届けることだからな、お前の気持ちなんて知ったことか」

 

「……小町おにぃちゃんのこと大っ嫌いになるけどそれでも良いの?」

 

「なんでだよ。おにぃちゃんは小町のことは大切に思ってるぞ?」

 

「大切に思ってるならなんで放っておいてくれないの?」

 

「まぁそうだな……関係をこじらせたまま……見て見ぬ振りをして逃げ続けるっていうのもそれも良いと思うぞ。ただな小町、行き着く先はお兄ちゃんだからな。小町ならまだ戻れんじゃねぇかってお兄ちゃんは思うぞ」

 

「ははっ……それはそれでありだね。兄妹で捻くれようよ」

 

「俺は小町には俺とは違う素直な小町でいて欲しいがな」

 

「おにぃちゃん、それ……ずるい」

 

「そりゃ俺は小町のお兄ちゃんだからな。まぁ中に手紙が入ってるから、読むだけ読んでやってくれ。由比ヶ浜曰くクッキーも入ってるけど食べるかどうかの判断は任せるわ」

 

 そう言っておにぃちゃんは自分の部屋へと行ってしまった。

 

 

 ***

 

 

 夕食を終え、勉強机の上に置きっぱなしにしている紙袋を見る。

 少しだけ深呼吸をしてその紙袋から包装されている物を取り出す。

 

 ゆっくりとその包装を解いていくと、けっこう焦げ付いた形がヘンテコなクッキーとハリネズミのキャラクターで彩られた便せんが入っていた。

 

 その便せんを手に取り、また深呼吸をする。

 そして意を決し便せんを開く。

 

 -----

 小町ちゃん。

 

 こういった手紙で書くことが初めてでどうやって書いたらいいんだろうって結構迷ったんですが、まずは小町ちゃんとお兄さんにはすごく辛い思いをさせてしまった事、本当にごめんなさい。

 

 お兄さんは優しい人で、私が謝りに行くとすぐに許してくれて正直驚きました。

 だけど私は小町ちゃんにも謝りたい。

 だって、小町ちゃんの幸せな日常を奪ったのは私で、それを償える何かがあるのだったら言って欲しい。もちろん関わらないでと言うのであればその通りにします。

 でも、こんな事言うのはすごく迷惑かも知れないけれど1度だけお返事がもらいたいです。

 今までご連絡できないで本当にごめんなさい。

 不細工なクッキーですが、これは気持ちです。

 もし良ければ食べて下さい。

 

 それではお返事お待ちしています。

 

 由比ヶ浜 結衣

 

 ------

 

 ちいさな便せんに何度も書いては消したのでしょう。

 色んな所に消した後が見られて、由比ヶ浜さんが一生懸命この手紙を書いたと言う事が伺えた。

 

 小町は何をしているんだろう。

 原因を歪曲して由比ヶ浜さんだけを恨んだ。

 恨む相手がいる方が楽だから。

 前におにぃちゃんが言ったとおり元々は飛び出したおにぃちゃんも

 その原因を作ってしまった由比ヶ浜さんも悪い。

 どちらも悪いのに由比ヶ浜さんの事だけを一方的に恨んで今まで過ごしていた。

 

 そして今日この時も由比ヶ浜さんは罪悪感を胸に過ごしている、それを見ない気づかない振り、相手が悪いんだからとそんな自分勝手な解釈で過ごしてきた。

 

 こんなわがままが押し通っていいわけが無い。

 気づいてた。気づいてたけれどなんの行動も起こさなかった。そうした方が楽だから。

 

 本当に最低な人間ですね。小町は。

 

 ……だから、そんな小町から卒業だ。

 ここまでしてくれた由比ヶ浜さんにちゃんと言葉をとどけなきゃ。

 

 そう思い包装されたクッキーを口にした。

 

 

 ***

 

 翌朝、ちょうど朝食の準備をしている最中におにぃちゃんがのっそのっそとリビングにやってきた。

 

「あっ、おにぃちゃん。おはよー」

 

「うーい……」

 

 気だるそうにしているおにぃちゃんだがさっきからチラチラと小町を見ている。

 多分昨日の件でどうだったか知りたいのだろうね。

 全然隠せて無くてこれはこれで可愛い。

 

 朝ご飯をリビングのテーブルに並べる。

 

「ほら、ごはんできたよ」

 

「おぅ……いただきます」

 

 しばらく食事の咀嚼音とスプーンが食器に当たる音のみが室内に響く。

 おにぃちゃんどしたの? なんか気まずいんだけど?

 

「小町、あのな……」

 

 さっきから気まずそうにおにぃちゃんが口を開く。

 なに? 昨日自分が言ったことを今更ひっくり返そうとしてるのかな?

 おにぃちゃんならやりそうだ。

 

「ねぇおにぃちゃん」

 

 小町が口を開くとおにぃちゃんがなにか覚悟を決めたかのような表情をしている。

 一体なんの覚悟を決めたのだろう? 正直よくわからない。

 

「今度の休み、可愛い便せん買いに行こうね」

 

 そう言うとおにぃちゃんは大きくため息をつき身を乗り出して小町の頭を撫でてきた。

 

「そうだな。ちょうど俺も欲しい本があったのを思い出した」

 

「それは偶然だ〜、じゃあおにぃちゃん予定空けといてね」

 

「予定なんぞいつでも空いてるぞ」

 

 そんなこと百も承知だよ。

 

「やったねっ! 流石ボッチだね。驚きの白さだよ」

 

「小町ちゃん? 洗剤CM見たいに俺の予定を表現するの止めてね? 悲しくなるから」

 

「そんな事よりもおにぃちゃん。ちょっと由比ヶ浜さんに言っておいてね。クッキー作る時はレシピ通り作ってねって」

 

 頑張ったのは認めたいですが焦げ目が多かったから全部は食べられませんでした。

 

「……お、おぅ。わかったそれは厳重注意しておく。そんな事より小町……そのなんだ……もう、いいのか?」

 

「んー……わかんない。でも由比ヶ浜さんの誠意は伝わったから返事は書こうと思う」

 

「そうか。俺みたいにならずに済んだな」

 

「そうだよ。こんな厄介者が2人もいたらお父さんお母さんが悲しむよ」

 

「えっ? なに? 俺の存在自体家族のお荷物って遠回しに言ってるの?」

 

「遠回しには言ってないよ?」

 

「……」

 

「でも小町はおにぃちゃんのおかげで変われたよ。ありがとねおにぃちゃん」

 

「……はぁ。そりゃそうだ俺は小町のお兄ちゃんなんだからな」

 

「もぉ〜。それ聞き飽きた。別の言葉考えてきてよ」

 

「なら小町にはお兄ちゃんしかいないからなっでどうだ?」

 

「小町にはおにぃちゃん以外にもお父さんもお母さんもいるし学校の友達もいるよ? おにぃちゃんと違って」

 

「最後の一言いる? 明らかに最後俺攻撃してるよね?」

 

 半目で睨むおにぃちゃんを見ていたら少し楽しい気分になってきた。

 

「でもおにぃちゃんには小町しかいないから! おにぃちゃん、便せんくらい奢ってね?」

 

「まぁそれくらいなら奢ってやらんこともない」

 

「やったー! ……あっ! おにぃちゃんそろそろ出ないと遅れるよ」

 

 時計を見るとそろそろ出ないと遅れる時間だ。

 

「あー、そうだな。朝から話しすぎたか」

 

「そうだね。ほら今日も後ろ乗せて行ってね! おにぃちゃん」

 

「へいへい」

 

 そう言って、少し騒がしい朝の食卓は過ぎていった。

 




小町と由比ヶ浜の関係に関するお話しでした。

現状小町と由比ヶ浜がどのような関係になっているかと言う部分を出してみましたがいかがでしたでしょうか。
ちょっとだけ距離が近づけている感じではあります。

後書きなどはこちらにもう少し詳しく書いていますので興味がありましたらどうぞ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=231184&uid=258772

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