やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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材木座編はじまりまじまり。


#13-1

 それはいつもの日課を行っていたある日のことだ。

 

 時間帯として、小さな子供は親とともに帰宅していい時間帯だ。

 夕焼けの橙色が公園一帯を染め上げ、遊具の影は濃く長く地面にその存在を主張し、ふと幼児時代を思い出させた。

 

 昔は遊ぶ友達も沢山いたなとか、そんな哀愁じみた感情に浸りつつも最終奥義の練習をしていた所、少女が話しかけてきた。

 

「なにしてんのぉ?」

 

 っふ、可愛げのある幼女ではないか。我に興味を示すか。なるほど貴様なかなか魔眼を持っておるな。そういうことなら我は光源氏になる事もやぶさかではないぞ。

 

「おおおおぬしぃ、わわ我はだだだ大事な修行の最中なのだ。どどどどいておけ……けっ……けけ怪我をするぞぞぞぞぞぉぉぉぉぉいぃぃ」

 

 おや? いささか、口にした言葉が想像していたのと違うがまぁ許容の範囲内だろう。それにしてもこの時間にこのような少女がひとり公園とはどういうことだろうか? 親の教育がなっとらんのではないか?

 

「なにーキュアキュアごっこ? けーちゃんもやるー!」

 

 ユニークな発想だがそうじゃないのだ。ここは年齢差もあるだろう、やはりここは我が大人な対応をするべきであるな。

 

「そそうかぁけーちゃん殿、わ我はキュアごっこたるものがどういうものなのか知らないのだ。教えてもらえないだろうか?」

 

 キュアッキュアな奴は初代から現在まですべて視聴し、考察までしてブログで公開までしているが、ここは小さい子供に合わせてやるのが大人の余裕というものよ。

 

 さぁ、かかってくるがよい! けーちゃん殿。

 

「けーちゃんまほーつかえるんだよー」

 

 ほう、魔法とはまたなかなか可愛らしいことよ

 

「なるほろ。ではけーちゃん殿の魔法とやらを我に見せて貰ってもよいか?」

 

「うん、いいよー」

 

 そうしてガサゴソとポケットの中をまさぐっている。

 きっと変身グッズとかそんな奴を探しているのだろう。可愛らしいことだ。

 

「かくごはいいー?」

 

 アニメの台詞だろうか?

 

「ククク、この剣豪将軍はいかような魔法とも我には通じぬぞ!! 放ってみよけーちゃん殿!!」

 

「いっくよー!」

 

 そうして取り出し小さい背で片方の腕を高々と掲げているブツを見て我は戦慄する。

 それは親が小さい子供に安全のために授ける召喚魔法の触媒。

 

「あっ〜!!? ちょっ……!!!??? まってそれ……」

 

 けーちゃん殿は躊躇する事無く掲げたそれの封印を解く。

 我の言葉が届く前にその究極召喚魔法は高々とあたりに鳴り響いた。

 

 

 ***

 

 

 あれから偶然通りがかった青い制服に身を包んだお兄さん達とともに、近くにある少し大きめの交番に移動し事情聴取を行っていた。

 

 我の疑いが晴れるまでにどれくらいの時間を要しただろうか。

 

 鳴り響く音に驚き、けーちゃん殿は終始泣いており話にならず、かといって我の言葉を最初から疑ってかかる青い奴らも奴らだ。非常に遺憾である。

 

「京華!」

 

 交番に勢いよく入ってきた女性の姿が見えた。速攻で目を背け視界からけしたが、あの人がけーちゃん殿の家族だろうか。

 

「あっ、さーちゃん!」

 

 先ほどまでぐずっていたけーちゃん殿がようやく調子を取り戻したようだ。

 

 まったく、この様な小さい子から目を離すとは何事だ。一言文句をいってやらねば気が済まない。

 

 そう思い、そーっと視線をその家族へ向けた所、青みがかった黒髪ポニーテールの女子が我を睨んでいた。

 

「えっ?」

 

 なにもっと年上で落ち着いた女性を想像していたのだが、同い年くらいの女子だ。

 そして、ずかずかと俺の元へやってきて胸ぐらを掴まれる。

 

 ちょっ!? なにこの状況

 

「ねぇあんた……京華になにをしようとしたの?」

 

 ドスのきいた低い声が聞こえたが同時に若干いいにおいがする。

 これが女子のにおいていうものか。……ってそんな事いっている場合じゃない。

 誰か助けてくれよ。怖すぎて涙が出ちゃう。

 

 まぁまぁと警察がようやく間に入り、事情の説明が執り行われた。

 

 

 

「えっと……勘違いして……その……ごめん……」

 

 我に声をかけて頭を下げるのは、あのケーカ殿の姉。名前をなんといったか。

 たしか川崎沙希といった名前だ。我の中で川崎氏と呼ぼう。

 

 一旦、京華殿は婦警と別室で相手してもらい、我と川崎氏で話をすることになった。

 

「けぷこんけぷこん、ま、まぁいいことよ。わわわ我の疑いが無事晴れて我は身が軽くなった思いだ」

 

「それにしてもあんた、かなり特徴的なしゃべり方するよね」

 

「そそそそうか、これが我、剣豪将軍の威厳ある言い回しよ」

 

 なにぶん女子とこうまともに話をするなど、小学4年生の頃以来だ。

 緊張してろれつが回らない。

 

「はぁ……なんかちょっと前の大志みてるような感じだよ」

 

 大志とは誰だろうか? 同胞だろうか?

 

「それより、材木座っていったっけ?」

 

「ははいっ!」

 

 自分の名前を呼ばれ緊張感が最高潮に達し、ちょっと大きな声で返事してしまった。

 

「声大きいよ、ねぇ……もう少し普通に喋れない? あとなんで顔向けないの?」

 

 今の所顔を見て話を出来る相手は両親ぐらいだ。いきなり目の前の女子と話をするなど無理だ。

 

「うううぅむ、そうだな。ししししかし、我はあまり女子と話をしたことが無くてだな、そのぉ……」

 

 後半につれてろれつが回らくなりしどろもどろになっていても川崎氏は最後まで待ってくれる。

 

「大丈夫。ゆっくり喋っていいよ。待つから」

 

 顔は見えんが、その口調はとても優しく耳に入った。

 少し深呼吸をして、我は口を開く。

 

「我はあまり女子と話をしたことが無くてな、どう喋ったものかわからんのだ」

 

 川崎氏はそうっと一言呟いてこめかみに人差し指をトントンとしている。何か考えている様だ。考えている時の癖だろうか。ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「あんたがよければなんだけれど、これからご飯行かない?」

 

 めしどこかたのむ

 

 一時期話題になったネット掲示板のある投稿が頭をよぎった。

 

「う、うむ? 一体何の話をしているのだ?」

 

 これはあれか? 我が世の春が来たということか?

 いや待つのだ、これは罠だ。こんな事が現実に起こることなどあり得ない。

 

「京華も夕ご飯まだだしこれから帰って作ると遅い時間になりそうだからさ、外食で済まそうと思うんだけれど……一緒にどうって話」

 

 あぁ、京華殿の夕ご飯のついでですね。理解。

 

「ままぁ、行ってやらんこともない」

 

「なんでいきなり上から目線なのかわからないけど、よかった。それじゃ京華呼んでくる」

 

 そうして我らは外食をする流れとなり、合流した京華殿とともに交番をでるのであった。

 

 

 ***

 

 

「けーちゃんドリアすきー」

 

 メニューを指さしながら満面に笑みを浮かべる京華殿。何でも頼むがよい、ここはコスパ最強と呼ばれた学生のサンクチュアリ、サイゼだ。

 

 

「けーちゃん。お野菜もたべなきゃダメだよ」

 

「えー、けーちゃんおやさいきらいー」

 

「けーちゃん。ちゃんとお野菜食べないと大きくなれないよ」

 

「ざいもくざだっておにくばっかりだもん!」

 

「こら、お兄ちゃんを呼び捨てにしないの」

 

 はて、京華殿? 我はよーちゃんと呼ばれる事を期待したのだがどうもいいにくかったのだろうか呼び捨てだった。

 

「よいのだ川崎氏、よーちゃんは呼びにくいのだろうに」

 

 メガネをくいっと上げて大人の余裕を見せつけてみることにした。

 

「そう。ならついでに京華みてるから野菜も食べてもらっていい?」

 

「あ、はい」

 

 我はサイゼのサラダは基本サウザンソースがかかっているが、川崎家ではどうやらオリーブオイルに変更する

ようだ。

 サラダに乗っているクルミの食感としょっぱい感じのドレッシングは少し癖があるが食えなくはない。

 

「うむ、けーか殿、我も野菜を食べれるのだぞ」

 

「あーざいもくざー、たべれるならけーちゃんのもたべてー」

 

 おや? 満面の笑みでそんなサラダの取り皿よこされたら我も食べざる得ないのだが?

 将来男を手玉に取る小悪魔な気配がして心配になってきた。

 

「こーら、けーちゃん。自分で食べるの!」

 

 しかしそんな事はすでにお見通しなのか川崎氏は即座にそれに対応する。

 

「はーい……」

 

 京華殿はしょんぼりと返事をして、黙々と自分のサラダを食べ始める。

 

「材木座、今更なんだけれど、こんな所で本当によかったの?」

 

「サイゼは我のサンクチュアリだ。全然よい」

 

「まぁ……それならいいけど」

 

 我はサイゼが好きなのだ。チキンやドリアは懐に優しい。

 

「さっきから気になったんだけれど……そのグローブ?なんで外さないの?」

 

 川崎氏がいっているのが我の聖宝具、エレメンタルグローリーのことをいっているのだろう。

 

「これは我が聖宝具、いつやってくるか分からん組織の刺客に用心するべくこれを外すことは……」

 

「はいはい、そんなのいないから。行儀悪いよ。外して食べな?」

 

 ぬぅ。京華殿が真似をするなら我が同胞として歓迎なのだが、目の前の川崎氏にあとあとメメタァとされそうなのでここはおとなしく従おう。

 

「ほら、コートも脱いで」

 

「う、うむぅ」

 

 我の聖宝具八代のコートは我がコツコツとお小遣いを貯めて買った神聖なる武具。早々に脱ぐわけには行かぬ。

 

「ソースついたらあとで落とすの面倒なんだよ」

 

 あっ、我の一張羅が汚れるのはやだ。

 

「仕方が無い、脱ぐとしよう」

 

 そうしていそいそと脱ぐと川崎氏が我のコートを受け取り、綺麗にたたんで見せた。

 

「ほう、川崎氏は意外と家庭的なのだな」

 

「意外ってなに?」

 

 あっ、我、墓穴を掘ってしまったみたいだ。

 キッと川崎氏に睨まれてしまったがしかし、交番で見せたような明らかに敵対心を見せるような鋭い睨みではなかったことがわかる。

 

「うむ、いやなんというか第一印象ではそんな感じじゃなかったのでな」

 

「さーちゃんのりょうりすっごいおいしいんだよーお母さんよりもおいしかったりするんだー」

 

 えっへんと京華殿が自慢する。子供は正直だ。だからこそ川崎氏は料理がうまくさらに家庭的であるという事の信ぴょう性が増してくるというものだ。

 

「ちょ、ちょっとけーちゃん。そんな事いいから……」

 

 少し恥ずかしげにしている川崎氏の表情はぐっとくるものがある。

 けぷこんけぷこん。おっと、我は三次元には興味が無いということを忘れていた。

 

「それよりも、どう? 慣れてきた感じ?」

 

「ん? 何のことであるか?」

 

「あんた、女子と会話が苦手だって言ってたから。マシになってきてるじゃないって話」

 

「あ」

 

 そうか、川崎氏は我の苦手意識を克服しようとして食事にまで誘ってくれたのだ。

 

「ししししかし、そそそそそれを言われるとぎぎぎぎゃくに意識してしまうではないか!」

 

「あははははは〜ざいもくざしゃべりかたおもしろい〜」

 

 両手をパチパチしながら笑っている京華殿。

 

「あっ、ごめん。逆に意識させちゃったね」

 

 先ほどの川崎氏のアドバイスを元に再度深呼吸をしてゆっくり喋ることを意識する。

 

「か、川崎氏、そういえば聞きたい事があったのだ」

 

「ん? なんだ?」

 

 一呼吸置いて噛まないようゆっくり言葉を吐く。

 

「なぜ京華殿はあの時間に公園に? 小さい子供がいるにはいささか遅い時間ではないか?」

 

「公園の近くに行きつけのスーパーがあるんだけど……今日はちょっと買う物が多くてね。目を離したらいつの間にか居なくなってたんだ。ホントあの時は焦った……あんたが見つけてくれていて助かった。その……何というか……ありがと」

 

 素直に御礼をいわれるとこそばゆいものがある。

 まぁ我はただ我が最終奥義の練習をしていただけなのだが。

 

「なるほど。ここ最近は物騒になってきたものだから。目を離さぬようにな」

 

「そうだね。気をつける。……それにしても」

 

「それにしても?」

 

 我は続く言葉が気になり首をかしげる。

 

「あんたが同じ総武だって聞いたときはちょっと驚いた。しかも同じ学年だったなんてね」

 

 それは我も同じ意見だ。第一印象ではどこかの偏差値低そうなヤンキー高校の女番長はってそうな雰囲気出している。

 

「確かにそれは我も驚いた。世の中は意外と狭いものだな」

 

「そうだね。あんたの苗字珍しいのに、今までまったく聞かなかったよ」

 

 それはそうだろう。同じクラスの者からも『ざいもくざ? だれ? いもの品種?』といわれるくらいだからな我。あれ? なんか自然に涙がこぼれてきそうになった。ぐすん……

 

「そうか、それは我が組織の刺客から身を守るために隠密を常に意識しているからだろう知らなくて当然だ」

 

「はいはい。刺客から隠れるためね」

 

 どうやらこの川崎氏に我は軽くあしらわれている気がする。先ほど口にした大志とやらがやられたのももしやこれが原因なのだろうか?

 

「それより、まだ顔をこっちに向けて話するのはダメみたいだね」

 

 それはそうだ。男だったらまぁなんとか出来るが女子とは……それも美人な部類に入る女子とは目を合わせた時点で我は溶ける!!

 

「まぁ、仕方が無い。女子との絡みがなかったものでな」

 

「まぁ、おいおいそれは直していけばいいか」

 

 ん? おいおい?

 

「ねぇ、ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 

「っぬ? なんぞや?」

 

「京華もあんたを気に入ってるし遊び相手になってやってくれない? その代わりあたしはあんたの苦手意識克服を手伝うっていう交換条件付きで」

 

 むっ、これはどこかで見たラノベ的展開。

 やはり我にもこの世の春が来たの? ねぇこれ勘違いしちゃっていいんだよね?

 

「そそそそうだな。そこまでいうならその交換条件とやらに乗るのもやぶさかではないぞ?」

 

「ついでにあんたのそのしゃべり方も矯正しようか。ちょっとはまともに見えると思うから」

 

「えっ」

 

 我は戦慄した。

 

 微笑交じりになんてことを言い放つんだこの女子は!?

 

 もしや彼女は我ら闇の住人を駆逐するために地獄の底からやってきた正義の使者であるか!?

 えっ鬼の手使っちゃうの? 手袋してないのは現代仕様?

 我はハニートラップに引っかかったのかも知れぬとうな垂れるのであった。


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