「……というわけで我は貴様の事などとうにお見通しなのだっ比企谷八幡!!」
やけに大きな声が室内に鳴り響く。
その大きな声の発生源となる目の前の中二病をまだ完治できていない大柄な野郎が、ようやく経緯を言い終えた。
さすがに長過ぎだろ、三行にまとめろや。
「は、はぁ……壮大な自己紹介どうもっす」
入ってくるなり、いきなりスライディング土下座かましてきて意味が分からんから経緯を話せと言った数十分前の自分が悔やまれる。
そしてこの人絶対ボッチだろうなと俺のボッチアンテナが反応している。決してどこぞの幽霊族最後の末裔みたいに髪の毛が立ったりはしないがな。
まぁ一応話を聞いた限りだと、俺の目覚める直前に居合わせたということだろう。
しかし、もっといいシチュエーションで目覚めるとかあっただろ俺……
なんで野郎の意味の分からん演技に相まって起きちゃうの?
ファーストキッスはレモン味くらい夢を壊された気分だ。
ちなみに俺のファーストキスはキャットフードと動物臭がした。
その後壮絶に引っ掻かれた覚えがある。
……そして後から気づいたんだよ。あいつオスなんだよ。おいおいネコとBLとかちょっとマジ勘弁。
忘却曲線の彼方に消し去りてぇ……
「材木座、あんたうるさい」
「は、はいぃぃ」
その大柄なボッチと、なぜ一緒に居るのか不思議に思えてしまう位の美人さんがそいつの勢いだけの口調を止める。
何こいつ、ラノベ主人公補正でも持ってんの? マジ羨ましい。
「そんなことより由比ヶ浜」
「へ? わ、わたし?」
突然のご指名に驚きの表情を隠せないご様子。
「まえに、1年生が盗撮されて困っているとか騒いでたよね」
えっ由比ヶ浜もしかして2年生全体にそれ言っちゃったわけ?
まじでじま? ちょっと困るんですよねー事務所通さずにそんな事されると。
「うんまぁ。もう最近はおとなしくなってくれたし大丈夫なんだけれどね」
「実はその犯人、こいつ」
「っは?」
俺は頭の中が真っ白になって何を話せばいいかわからずにいた。
視線をいつもの2人に向けてみると、由比ヶ浜も空いてる口が塞がらない様子。雪ノ下先輩に置いては呆れかえってため息をついていた。
材木座って言ったっけか? あの美人さんと同じ学年そうだし想像するに2年生だろう。
俺からしたら会うのも初めてだし、何か恨みを買った様な記憶も無いのだが。
「とりあえず、経緯を説明してもらえるかしら? 今ただ単に彼が犯人ですと言われても納得するには材料が足りないわ」
「そうだね……ほら材木座」
「う、うぬ。承知つかまつった」
話を要約するとこうだ。
材木座先輩は自分で小説を書いているらしい。
何かネタ集めにとあの一色と行ったショッピングモールへと行っていたみたいだ。
そこで一方的にたまたま俺の顔を知っていた材木座先輩は一色と一緒に歩いている俺を見つけてしまう。
リア充を思うだけで呪い殺せたらという物騒な考えの元その光景を撮影し、持ってるSNSの裏アカウントに投稿したらしい。
するとどうだろうか、一気にバズってしまった。そしてこのネタはかなりいいと調子にのってしまったらしい。
それから俺が誰か女の子と居るところを見ると影から撮影してSNSにアップしていたみたいだ。
「さいってー」
「あなた、自分のした事の大きさが分かっているのかしら? 被害者は比企谷君だけでは無いのよ?」
「うぐっ!?」
由比ヶ浜と雪ノ下先輩が憤りをあらわにする。
いや、何ダメージ受けたような挙動してんの? あれですか漫画に良くある吹き出しが身体を貫通した様な表現すかね? それをすぐにイメージ出来る俺もどことなくキモい。……とうとう自分も自分の事気持ち悪いと思っている自分が悲しくなった。俺が俺の事を好きでなくてどうするよ。
おっ自分が3つ揃ったぞ。俺も3つだ。スーアンコー単騎! 役満! 八幡! 大喝采!
役など知らんが語呂はいい。
さすがに悪い事をしたという自覚があるのか材木座先輩は結構大柄なのだが、肩身の狭い思いなのか少し縮こまって見える。
「まぁ、もちろんその反動はあってね。最近になって逆に炎上し始めた」
美人さんがダメージを受けて片膝ついて居る材木座先輩に代わり会話を続ける。なかなかのコンビネーションに八幡驚いちゃう。
「あぁ、俺たちが意図的にそういう流れにしたからな、正体分からねぇし」
「なにぃ!? あの策略、貴様らの仕業なのか!! ひ、卑怯だぞ!」
どうやら傷が癒えたのかまた材木座先輩が話しに割り込んでくる。
「ちょっ!? なに私たちが悪い事をしたようにいってるしっ!」
「一方的に言の葉の暴力が続く無限地獄を喰らわせてよくヌケヌケと」
そう言って何故か材木座先輩は俺を指さし答えた。
なぜ由比ヶ浜が言った言葉を俺に向けて返す? いきなり言葉のキャッチボール大暴投してね?
「因果応報ね」
「自業自得だね」
あっ、さすがにあの美人さんもそこまでフォローはしてあげないのね。
「まぁご覧の通り。炎上に耐えきれなくなってあたしにどうすればいいって相談持ちかけてくるから。素直に謝りに行けって言ったら1人じゃ怖いとか言い出すから仕方なくあたしも一緒に行くことになった訳」
「うわぁ……」
由比ヶ浜がこれ程に無いまでにひいている。ゴミを見るかのような目をはじめて見ちゃった。
「たしか、川崎沙希さんだったわね。今まで話して貰った材料で判断すると、材木座くんは見た目も中身も醜い人間ということで極刑を申し渡すことが出来るのだけれど」
さすがユキペディアぱいせん。総武高校生徒の名前は誰でも知ってる便利!
材木座先輩は半泣き状態だ。
「たしかにこいつはそういう醜い部分もあるけど、擁護はさせてほしい。根はいい奴なんだ。現にあたしはこいつに何度も助けられているからね。今回は暴走してしまったけれど常日頃から悪い事をしでかすようなやつじゃないから……」
「何を助けられたのかしら?」
「いろいろ。もしそれがなかったらあたしは大学の進学……諦めてたからね」
そう言って材木座先輩にむけて微笑む彼女の姿に少しだけうらやましさを感じた。
「なるほど。それじゃ比企谷くん、あなたはここまでの材料を元にどう判断するのかしら?」
あっ雪ノ下先輩ここで俺に振るんですね。
まぁ、正直すでに俺の中では解決した感があり正直どうでもいいっちゃどうでもいい。
しかしだ、一色や由比ヶ浜、戸塚先輩にも被害が及んだ。
これは俺が1人でよし気にしてないからもういいよとか言ってよいものでもない。
「とりあえず、該当アカウントの削除と被害者全員に謝罪して回るがすべき事だろ」
「そうね、今ここに居ない一色さんや戸塚くんも被害者なのだから」
「というわけで材木座先輩。俺はとりあえず許しますけど、他はどうかは知らないです。でもちゃんと謝って回ってください」
すると咳き込みをして川崎先輩が口を開いた。
「比企谷……だっけ? 許すだけで罰を与えないっていうのやめてもらえる?またこいつがいつ調子に乗るかわからないじゃん」
あー、なるほど。この人完全に材木座先輩を理解して居ますね。
罰を与えないと覚えないタイプか……となると。
「わかりました川崎先輩。では先輩呼び撤廃ため口OKでいいですかね?」
「ぐぬぅ! 貴様比企谷八幡、我を敬う気持ちなど無いと申すか!」
「えっ? そうだけど」
ぐぬぬと何か言いたいけれど何もいうことが思いつかない様子の材木座先輩。
「まぁ、それでいいならいいよ、で? 由比ヶ浜、雪ノ下はどうする?」
「そうね。今1番効果が大きいのをいうと材木座くん? 私の目を見て話をして貰えるかしら?」
「なななななんでしゅと!?」
さすが雪ノ下先輩だ。多分さっきの挙動で女子と話し慣れていない事が分かったんだろうな。察しよすぎだろこの人。
「ゆきのん私もそれ思ったー!」
由比ヶ浜はあまり分かってない様子だ。
「なら、あんたらと話する時はちゃんと目を見て話すが罰でいいか?」
「それでいいわ。それほど話をする機会はないと思うのだけれど」
「ゆきのん、それは隠しておこうよ……」
容赦ねぇなこの人は。
「とりあえず一旦ここらのメンツはそれでいいって事でいいよね」
「えぇ、問題ないわ」
「あんたもちゃんと反省しなよ」
そう言って材木座の頭にポンッと手を置く川崎先輩。マジ男前。
「そうだな……うむ、これは我の心の弱さが招いた結末。皆のもの誠に申し訳ないことをした。……申し訳ない。」
そう言って深々と頭を下げるその様は先ほどまでのふざけたものとは違いしっかりとした物だ。
川崎先輩の言っていた根はいい奴というのも噓では無いということか。
「あぁ、そんだけ出来れば問題ねぇよ、次からは気をつけろよ。材木座」
「そうだな。相棒」
ん? なんでいきなり相棒なの? 今日初対面なんだけれど?
「何すっとんきょうな声を上げている。貴様は我の反魂の術で蘇った八幡大菩薩の生まれ変わりだろうに」
こいつ何言ってんだ? ただ名前が八幡なだけだ。いきなり大菩薩とか言われる筋合いは無いわ!
「中二病乙」
「ぬぅ〜、はちえもんちゃんと乗っかってきてよ〜」
「誰がはちえもんだよ、さきえもんに頼れよ」
すごい視線を感じそっとその視線の方を向くと川崎パイセンのガツンと根性入った睨みが俺に向かっている。あっ、これ俺墓穴掘ったパティーン。
「ヒッキーそういうところー」
由比ヶ浜がそれに気づきそっと空気を和らいでくれた。さすが空気の流れを読める女。エアーダストの使い手だな。キーボードの隙間掃除するときに便利そうだな。
ふんっと、鼻であしらわれた後、川崎先輩は材木座に向けて口を開いた
「ほら、帰るよ」
「むむぅ、そうだ。今日は京華殿を迎えに行かなくては!?」
そう言ってばっと立ち上がった材木座。
え? まだ知り合いの女の子いるの? こいつ何? マジでラノベ主人公なの?
「っそ、また寄り道して帰ってこないでよ」
「わかっておる」
そんな話をしながら2人は部屋を出て行った。
呆気にとられた俺たちを残して……
「信じられない会話が聞こえてこなかったかしら。私、幻聴が聞こえたような気がしたのだけれど」
「うん、私も聞こえた」
「そうだな。俺、思いで人を呪い殺せたらと初めて思った」
「ヒッキーそれはキモいよ、すごくキモい」
えっ!? そこ乗っかってきてくれる流れじゃないの?
「比企谷くん、あなたの性格の醜さが余すこと無くでたあなたらしい発言だと思うわ」
「あっ、さいですか……」
これは俺がディスられる雰囲気、どうにかしてこの窮地から脱さなければと考えていたら天からの恵みか、ノックの音が聞こえてきた
「……どうぞ」
バツ悪そうにそれに答える雪ノ下先輩。
「せんぱーい!」
何のかけ声だ。失礼しますが先だろ。
「んだよ、一色か。部活はどうした?」
「さっき終わりましたよー。というわけで帰りましょう!」
「なんでお前と一緒に……いやまて、一色お前うまいケーキ屋とか知ってるか?」
シンッと一瞬室内が無言になった。
おや? 俺おかしいこと言ったかと思い一色に視線を向けてみる。
なんか呆けている。
「どうした?」
「なななんあなんですか!! いきなりっ!! 私とケーキ食べに行きたいんですかそうですかせんぱいがどうしてもというのでしたら仕方がないですねいきましょういますぐにいきましょう」
そう言って一色は俺の制服をぐいぐいと引っ張る。やめて伸びちゃうだろ。
「んなわけねぇだろ。たまには小町にお土産買って上げたくなっただけだ」
「あ〜……そうなんですね。あいかわらずのシスコンぷりですね。まぁでも教える代わりに私にも何か奢ってくださいよ」
「紹介料とるのかよ」
「そうです。しっかりとリードしてくださいね」
少しため息をつきながらその条件をのむことにした。小町の笑顔はプライスレスだ。
「すまんが俺さきに帰りますわ」
「そうね。妹さんによろしくお伝えして」
「ヒッキー小町ちゃんに宜しくね!」
多分この2人は材木座の話を聞いて俺が何をしたいのか理解しているのだろう。引き留めはしなかった。
「んじゃ行くか、一色」
「んふふ〜。何がいいかなー」
すげぇ食い意地だな。太る呪いでもかけてやろうか。
そうして部室からでた後に雪ノ下先輩が「他の人があなたに対して思っている言葉だと思うわ」とふと後ろから聞こえてきたが何を言っているかは分からなかった。
一旦材木座編はここまで。
原作で材木座が裏アカ規制アカ持ってるのを展開させたお話でした。
実は材木座が裏でこんな事やっていたって事を本編につなげたかったのです。
幾つか未回収のものがあるけれどそれは後々回収予定。
次回はいろはす回