やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#14-1

 本日の奉仕部はとくに何事も無く終わる。

 夕日の差し込む校舎入り口で俺は上履きと靴を履き替え外にでる。

 ちょうど夕日の光が目に差し込み顔の向きを変えることで日差しを遮り、視野を確保できた。

 

 変えた顔向きの先で運動部の生徒だろうか、完全下校時間が迫っている時間帯だろうからいそいそと片付けを行っている風景が見られた。

 

 まだやってるんだな運動部って小学生並みの感想しか出てこないが、まぁ思うだけならいいだろ。

 

 そんな運動部を視界から消し、俺は駐輪場へと足を進めた。

 

 自転車を走らせていると先ほど追い抜いた車がちょっと先で停止する。

 2回ハザードランプが点滅するが何の意味かは知らん。

 するとその車から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「比企谷。今帰りか」

 

 運転手側の窓から見覚えのある顔が姿を現す。

 自転車を止めてその車の隣に並ぶ。

 

「そうですね。ってか平塚先生も早くないですかね? 教員ってこんな時間で終わっていいんですか?」

 

「今日は半休を取っていてな、時間が空いているわけだ。どうだ、これでも?」

 

 そう言って平塚先生は人差し指と中指で箸を連想させるかのような行動をとる。

 っとなるとこの人との共通点はラーメンしか無い。

 

「それもありっちゃありですけれど、いいんですか? 先生と生徒で飯なんて行っちゃって……見られたらまずくないですかね?」

 

「いざとなったら生徒指導の一環とでも答えるさ。面倒事を若手だからと言っていつも押しつけられているのだ。これ位の役得はあってもいいだろ?」

 

やけに若手って部分を強調したな。いや若いけれども。ここの会話のパスはスルーすることにしよう。

 

「うーん迷う……さすがにこの時間は小町が心配しますからね……」

 

 それに今から自転車置いてきてってなると結構時間かかるんじゃね?

 

「むっそうか。今日は煮干し系を攻める相棒が欲しかったんだがな残念だな」

 

 煮干しか、うーむそそられる。梅干しを思い浮かべると唾液があふれ出るように、煮干し濃厚のスープを思い浮かべるだけですでに舌に味覚が存在してしまう。

 あれ? これって食べる必要なくね? いや、食べると幸せになれる。それがラーメン。成分にセロトニンでも入ってるかは知らん。

 

 くっそー迷う。あー、行きてー。

 

「あっ、せんぱいだー!」

 

 比企谷八幡人生の最大の選択肢を目の前に熟考している最中、軽く聞き覚えのある声が耳に入る。

 

「買い食いとは感心しないな、一色」

 

 一色の方に視線を向けると、すぐそこのコンビニから出てきたのかコンビニスイーツらしきものを手に持っていた。

 あっ、そのカラメルが別包装でついてるプリン、メチャクチャうまいよね。俺も好き。

 

「あれ? 平塚先生じゃないですか〜。せんぱいと何やってるんですか?」

 

「あぁ、ラーメンを一緒にどうだって話をしていてな」

 

「えー、なんですかそれ! 羨ましい!平塚先生私も私も!!」

 

「なんだ一色。お前もラーメンに興味があるのか?なら比企谷を説得してくれ。しがない一般教員の私ではどうやら口説き落とせそうに無いからな」

 

 そんな一般教員がやけに高そうな車乗っていますね。とかつっこみそうになったが車好きは車のことを話すると、やけに長い横文字とやけに長い話をグダグダと語ると噂されているからそこはあえて流そう。

 

「せんぱいっ行ってみませんか! きっと平塚先生ならその場のノリでゴチしてくれるかもですよっ!」

 

 一色、どんだけ平塚先生に奢らせたいんだよ。

 タダより怖いものはないって教わらなかったのかよ。

 

「一色、みっともねぇからそういうのやめろ。品性損ねっから。俺そういうの好きじゃねぇんだ」

 

「……はーぃ。ごめんなさい」

 

 シュンと反省の色を見せる一色。

 冗談とかで誤魔化す事をせず真摯に受け止めているあたり素直な奴ではある。

 

 んだよ。

 こういう時そんじょそこら系女子なら『キモいしゃべりかけんなキモい』で反撃されて終了なんだがな。

 

「んなことよりもなんでお前ここにいんだよ。俺が帰る最中まだサッカー部片付けしてたぞ?」

 

「それは部員の人たちが俺がやるから先に帰ってていいよっていうからそうしただけですよ〜」

 

 一色は上目遣いで舌をペロッと出していたずらに笑う。切り替えの早い奴だ。

 でっ、でっ、でた〜。もうすでにサッカー部の皆様は葉山先輩以外一色マジックの虜にかかっちゃってるのね。

 

「マジかよ……ってか帰らないと小町が心配するだろうが」

 

「あいかわらずのシスコンぷりですね。そういうと思って今さっき私から小町ちゃんに連絡済みです」

 

 マジかよいつやったんだよ。えっ? 時間ぶっ飛ばされた? こいつスタンド使いか!?

 

 俺の携帯が振動する。着信を見ると小町からのメールだった。

 

 --おにぃちゃん。行ってらっしゃーい。 S.P.お土産はプリンで。ぷっちんじゃないよ? わかるよね。よろしく〜! --

 

 小町ちゃん? 本文よりS.P.という謎の後書きのほうが長いんですが。なんて読むんですかね? スープパスタ? うまそうだな。

 

「っというわけで、さぁ行きましょう!」

 

 まぁ、これで心置きなく煮干しラーメンを食える口実が出来たのだ。

 それにのらない手は無いな。

 

「一色も来る事になると私の車は運転手合わせて2人しか乗れないのだが……仕方が無い。今回は近場の行きつけにするとしようか。比企谷、すまないが一色を乗せて行くが駅まで来れるか?」

 

 えっ? 煮干しラーメン食えないの? それならちょっと話が変わるんだが……小町に会いたくなってきた。

 

「俺の口はすでに煮干しなんですが……」

 

「安心しろ比企谷。そこも煮干しだ」

 

 どうやら配慮はされていたらしい。

 

「りょうかいっす。なら自転車で駅まで向かいます」

 

「せーんぱい。どっちが先につくか競争ですね!」

 

 そう言いながら平塚先生の車に乗り込む一色。

 

「おまえ、どうやってチャリが車に勝てんだよ」

 

 それに見たところそれスポーツカーだろ? 俺の人間としての限界を超えても無理だわ。

 

「おぉっふ、なんですかこのソファーみたなシート。快適快適〜」

 

「そうだろそうだろ? 自慢の一品だ。これをするには結構苦労したんだ。じつはな……」

 

 一色、アウトー。車の中で一方的に車の話を延々と聞かされる刑。

 

「それじゃおれ先行きますねー」

 

 火の粉がふりかかる前に俺は即座にその場を脱したのだった。

 

 

 ***

 

 

「せ、せんぱい〜」

 

 予想通り俺の方が遅く到着し、駐輪場から出たあたりで、ふらふらな一色とご満悦な平塚先生の姿が見えた。

 あー、ご愁傷様。

 

「さて、行くとしようか」

 

 そうして、ついて行った先にあったラーメン屋は俺も数回行ったことのある濃厚煮干スープで有名な所だった。

 なかなかうまかったと記憶にはある。

 

 食券を買おうと財布をポケットから出した

 

「今日は私が誘ったんだ、これくらいはどうということない」

 

「いや、俺人から施しは受けない主義なんで」

 

 専業主夫で養われたいがな。

 

「まぁそういうな。大人に花を持たせるのも処世術のひとつだぞ?」

 

「あー……そうですね。先生がブーケを持つのはいつごっ……っ!?」

 

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 おれは平塚先生の姿を見て喋っていたと思ったら目の前には拳があったんだ。

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……気づけばそこに拳があった。

 何か恐ろしいものの片鱗を見たぜ。

 

 視野いっぱいに広がる拳の片隅にそれと不釣り合いな笑顔を浮かべる平塚先生。あっ若干額に青筋が浮かんでる。

 

「ひぃ〜きぃ〜がぁ〜やぁ〜、その拡大解釈はお前の首をしめることになるぞぉ〜?」

 

「いや〜、さすが平塚先生。今日はごちそうになります!」

 

 この状況で断れるわけねぇじゃん。墓穴掘った10秒前の俺が怨めしい。

 

 その言葉でようやく拳を収めてくれた平塚先生は一息はぁっと軽いため息をつく。

 

「ただ、お前が何か理由がない限り施しは受けないと言うのも一理ある。あしたの職員会議で使う資料があるのだが、なにぶん量があってな。運搬の手伝いを一色と一緒にしてくれ」

 

「わ、わかりました……」

 

「えー!? せんぱい、わたし巻き添えなんですけれど!?」

 

 むむ〜っと一色は頬を膨らませながら俺を睨む。

 

「すまん……アイスで勘弁してくれ」

 

「ハーゲンなチョコチップですよ」

 

「スーパーなカップにまけてくれ……」

 

 スーパーなカップってなんかやらしい響きだな。

 ちょっとやらしい雰囲気になっちゃいますよ!

 ……一色はそんな雰囲気みじんと感じていませんがねっ!

 

 そして煮干しラーメンはうまかった。

 麺の後のスープにご飯を投入し、さらに退避させておいたチャーシューをほぐし投入。

 最後に七味を入れ完成した八幡風ラーメンライスまで完食したパーフェクトゲームだ。

 やけに横文字が多くてろくろ回してコネコネしたい気分になる。

 

 平塚先生は笑っていたが、一色はドン引きしてた。

 いやうめぇから。

 

 

 

 すでにあたりは薄暗くなっていた。

 

 エンジンのかかった車に乗ってる2人を俺が見下ろす形となっている。

 

「それでは私は一色を送って帰るから気をつけて帰るんだぞ」

 

「うーっす」

 

「せんぱーい、スーパーなカップありがとうございましたっ!」

 

「食い過ぎて太んじゃねーぞ」

 

「それは明日のお手伝いで消化予定です!」

 

「では行くとしよう。一色、ナビを頼んだ」

 

「はーい」

 

 エンジンの重厚な低音が一瞬あたりに響く。

 その後すぐ平塚先生の車が軽快に動き出した。

 そうして俺は彼女らが乗った車を見送る。

 姿が消えたあたりで俺も駐輪場へと足を進めた。

 

 なにか忘れている気がするが忘れているのだからきっとどうでも良いことだろう。

 

 その後、俺は家に帰ったにもかかわらず玄関の番人への貢ぎ物を忘れてしまいコンビニに買いに走ったのは言うまでもない。

 

 

 ***

 

 

 そして次の日、放課後。

 奉仕部の面々には遅くなると伝え、俺と一色は職員室で平塚先生からの依頼内容を確認している。

 

「ではここにある資料と実物投影機がたしか準備室にあるからそれを会議室に運んできてくれ」

 

 ここにある資料とは折りたたみ式の長机いっぱいに敷き詰められた書類の山だ。

 えっこんなにいっぱいの資料なにに使うの?

 

「なんすかこの量……滅茶苦茶でしょ。資源を大切にって教わらなかったんですか」

 

「大丈夫だ、これらはリサイクルコピーペーパーを使用している。分別すれば再利用できるぞ」

 

「俺にも優しくして欲しいです、昔膝に矢を受けてですね。」

 

「比企谷、ネットスラングを持ち出してまで面倒事を回避しようと考えるな」

 

 元ネタ知ってんのかよ。

 

「分かってますよ。ちゃんと食った分は働きますんで」

 

「分かれば宜しい、私はこれから生活指導が入っててな、席を離れなくてはいけない。すまないが後は頼んだ」

 

「うす」

 

「はーい、りょーかいです!」

 

 そう言って平塚先生は職員室から出て行った。

 俺たちは長机いっぱいに広がる書類の山を見てため息をつく。

 

「うへー、これは結構しんどいですよ〜」

 

「そうだな。まぁ黙々とこなしたらいつか終わるだろ」

 

 そうして俺たちは黙々と書類を運ぶ作業に勤しんだ。

 労働の楽しさが芽生える……事は無かった。

 

 途中から台車を使用するという案を思いつき、近場に居た先生に台車の所在を確認。

 確保することが出来た。

 

 そこからはヌルゲーだった。

 

 書類は会議室へ滞りなく運搬することが出来た。

 

「あとは、実物投影機か」

 

「なんですかそれ」

 

「知らないか? プリントとかスクリーンに写す機械って見たことねぇか?」

 

「あー、あれのことですか」

 

 多分見たことはあると思う。ただ結構デカいのだ。台車が無ければ結構苦労しただろう。

 

「結構デカいから俺が一旦台車乗せるからそっからの移動よろしく」

 

「りょうかいで〜す」

 

 そして俺たちは準備室へと足を向けた。

 

 準備室はカーテンでしきられ薄暗い空間となっていた。

 カーテンから漏れた光に漂う埃が少しだけ幻想的な雰囲気をかもしだして少しだけウキウキさせられる。

 長く使ってなかったのか蛍光灯が切れておりカーテンの隙間から漏れていた光を頼りに実物投影機を探す事となった。

 

「うっわ……ほこり臭いですねここ」

 

 一色ちゃん? 折角雰囲気だそうと頑張ったんだからそれを一気に壊すのやめてね?

 

 そして実物投影機を見つけたはずなのだが

 

「誰だよ……棚の一番上に置いたバカは……」

 

「2度と使う事は無いとか思ってたんじゃないですかね……これ……」

 

 実物投影機と書かれているダンボールが棚の一番上にあることが確認できた。

 それ以外にもいくつか積み重なっており、不安定であることこの上なかった。

 

「とりあえず、余計なものどかしてから取り出すか……」

 

「そうですね、落ちてきたら危ないですし」

 

 ひとしきり実物投影機の周りにある余計な道具をどかし、安全性を確保する。

 そして、メインディッシュの投影機を持ち上げるのだがこれがまた重いのなんの。

 こんなもん1人で持ち上げることできるわけねーじゃんよ。無理無理諦めよう。

 

「あっ、せんぱい、せんぱい」

 

 一色が俺を呼ぶ。

 

「あぁ? どうした?」

 

「いやあれ……」

 

 俺は一色が指を指した先を見ると一気に脱力した。

 そこにはこう書かれたダンボールがあった。

 

『実物投影機-最新版-』

 

 最新版はやけにコンパクトで一色でも持ち上げられるタイプだろう。

 となると俺が運ぼうとしていたのは昔使ってた奴なのだろう。

 時代の進化を感じるぜ。そして危うく二度手間になるところだったわ……。

 

「ナイスだ一色」

 

「はぇ、ちっちょっ!!? せせせせんぱい!?!?」

 

 どうやら最近、俺は一色を小町と同等に扱うようになってるのだろうか。

 無意識に一色の頭を撫でていた。

 

「ん? ……あっ、すまん」

 

「……べ、別に他に人に見られてないので……全然別にいいですけれど」

 

 一色は俯きながら両手で指をいじっている様子だ。

 もしかしてどの手で殴ろうか考えている? そりゃ怖ぇ。

 

「おっ、そうか」

 

 そんな言葉を言いつつ俺は実物投影機のダンボールを持つ。

 

「あのっ、せんぱい?」

 

 一色に目を向ける。薄暗くてよく分からないがいつもの上目づかいと少し違う様な気がする。目が潤んでるからか?

 

「んぁ?」

 

「今日、この依頼が終わったらですね……わ、私とデートしませんか?」

 

 危うく大事な学校の備品を落としそうになった。

 


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