やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#14-4 こうして一色いろはは居場所を探す事となる。

「せんぱいは帰るんですか?」

 

 そうであれば一緒に帰ろうと提案することができる。

 淡い期待を頼りに口にしてみるがその期待はどうやら外れてしまう運命でした。

 

「いや、ちと部室に顔出す予定」

 

 私はせんぱいの居場所が気になる。

 

 せんぱいは奉仕部というよくわからない部活を始めた。

 まだそれだけなら、まぁこの人のことだからまた変なこと始めたなってなるだけなんですが……

 その奉仕部の部員が学校一の美少女と言われる雪ノ下先輩と人気が高い結衣先輩の2人がその部活に所属しているのです。

 

 今までは私がたまに部活の息抜きに適当な理由で誘えばせんぱいはなんだかんだ言ってついてきてくれた。

 まぁ葉山先輩という建前を付け足しての事だけども。

 しかし最近、部活があると言って断られることが多くなった。

 

 ただこの状況に思い当たる節はあります。

 私がとりあえず手を出した男子の事が好きだった女子と同じ立場に今の私はなっているのでしょう。

 

 私は容姿が整っている分よく選ばれる。もちろん相応の努力だってしてる。

 他の子が好きな男子が私に気があるなんて良くあることで、それを嫉まれても選ばれる努力をしなかった自分を恨めとすら考えた事だってある。

 

 ただ今回、上が存在しただけ。

 努力も才能も容姿も桁違いな雪ノ下先輩を相手にどうすればいいか途方に暮れる。

 結衣先輩だって私には無い天然産の愛嬌や優しさは作り物で表現している私には追いつけない領域だ。

 

 そしてなんだかんだ文句を言いつつも奉仕部という場所はせんぱいの居場所になりつつあるように見えてしまい、でもその居場所に私が存在しない。

 それがすごく悔しいと感じてしまう。

 先にせんぱいと出会ったのは私なのに後から来た人たちに次々と追い越されていく。

 そんな嫉妬に似たような……いや嫉妬なのでしょう。もやもやが全然はれません。

 というか、自分がここまで嫉妬深い人間とは知らなかった……

 

 クッキー作りの時だって運良く出くわせたものの、あの時葉山先輩を呼びに行かなければ、雪ノ下先輩と結衣先輩の手作りクッキーだけをせんぱいは食していたのだと思うとちょっとだけ……いやけっこうむっとしてしまった。まぁ結衣先輩のクッキーは逆効果になるかもですが……

 

 だからこそたびたび偶然を装ってせんぱいの前に現れて私の存在をアピールしているわけですが……

 

「うーん……一度さよならしたのにまた会いに行くとかおかしいかな……?」

 

 そんな些細な事を考えてかれこれ10分程経っていた。

 

 うん、ちょっと行ってみよう。

 

 完全下校時間ももう少しだしちょっと待ってみましたーみたいな軽いノリで行けばごり押しできるのではないだろうかという考えに至り、私は奉仕部へ足を進める事にした。

 

 奉仕部の部室の扉の前でも聞こえてくる楽しげに話すせんぱいや結衣先輩、雪ノ下先輩の声が胸に刺さる。

 私もその中に入りたいなと羨ましい感情に駆られる。

 

 一呼吸置いて、その扉をノックする。

 すると雪ノ下先輩から『どうぞ』という声が聞こえたので引き戸を開いた。 

 

「おぉ、一色か。帰ったんじゃなかったのか?」

 

 私の姿を確認できたのか、すかさずせんぱいが声をかけてくる。

 こんな些細な事で私の心は安らぎを覚えてしまっている。

 

「帰ろうとしたんですけれど、せんぱいもそろそろ帰るならアッシっ……一緒に帰るのもありかなと思いまして」

 

 でもそんな事を素直にいえる程、真っ正直に私は生きていません。

 

「それなら葉山先輩にでも頼めばいいだろうに。サッカー部練習終わったんなら絶好のチャンスじゃねぇか」

 

 それですよねー。でもせんぱい知ってますか? 葉山先輩は本当に何か必要に駆られない限り一緒に帰ってくれないんですよ?

 試した私が言うんです間違いありません。

 

「せんぱい、実はそうともいえませんよ? 葉山先輩と一緒に帰っていることが部活内にでもばれてみてください。他のマネの子達がストライキ起こして私の仕事が倍増しちゃうじゃないですか!」

 

「一色さん、考え方があのヒキガエ……比企谷君に似てきている自覚はあるかしら?」

 

 何だろう、ちょっとだけ嬉しいと思ったのはきっと皆さんと会話出来ているからだと考える事にしましょう。

 

「とにかくですね、せんぱいいつ帰るんですかと聞きに来たんです」

 

「普通に部活が終わるまでだが?」

 

 ですよねー。でも完全下校時間がそろそろです。

 

「なら私も待ちます-」

 

「なんでそうなんだよ。先帰れよ」

 

 ここで帰ったら何しに来たかわからなくなるじゃないですか。

 

「ねぇーいろはちゃん?」

 

 そんな事を考えていると結衣先輩から声がかかる。

 

「はいはい〜、結衣先輩なんですかー?」

 

 どうせなら結衣先輩と話をしながら時間を潰して、帰るときにせんぱいを捕まえる作戦に出てみよう。

 

「ずっと思ってたんだけど、いろはちゃんってヒッキーのこと……好きなの?」

 

 

 

 ド直球だ。

 

 

 

 あ〜っ、だめっ。いつもならすぐに切り替えられるのですが、今日のこのセンチメンタル入った今の私の状況で頭が切り替えられない。

 やばい、これ隠せない。これは完全に表情に出てる。顔が熱い。

 必死に顔を隠してみたが耳まで熱い。

 

「ゆゆゆゆいせんぱい〜ななな何言っているんですか〜?? そんなわけないじゃないでふか」

 

 どうにかこうにか何かいいわけを考えるが、かみっかみで言い訳にすらなっていなかった。

 

「お〜? その反応もしかして図星〜? 最近何かと理由付けてヒッキーつれて行っちゃうから気にはなっていたんだ〜」

 

 最近躍起になって強引に誘いすぎたのが怪しまれたのか……ちょっとやり過ぎちゃいましたね。

 

 せんぱいが神妙な面持ちで私を見ている。ヤバい、これは明らかにバレる。

 どうにかしてこの話題から遠ざけなければ……っ!

 

 そうして、私はチラッと雪ノ下先輩を見て助けを請う。

 雪ノ下先輩ははぁっと息を吐いて言葉を発してくれた。

 

「由比ヶ浜さん、一色さんが困ってるから、そこまでよ」

 

 どうやら私のSOSが届いたようだ。

 ありがとう雪ノ下先輩。

 

「うーん。ゆきのんがそう言うならわかった〜。もうちょっと根掘り葉掘り聞きたかったけど……」

 

 流石、結衣先輩。THE女子高生ってだけはありますね。恋愛という部分に対してのアンテナがすごいです。

 

「そうだぞ由比ヶ浜。俺すでに興味無いって言われてるしな」

 

 せんぱい? なにか勘違いしていませんか? 私がせんぱいに興味が無いじゃなくてせんぱいが私に興味をもってくれないんですが……

 

「あっ、そうなんだ……」

 

 結衣先輩はこいつ何言ってんだ? みたいな表情でせんぱいをみる。

 あっ、明らかに何か勘づかれている感じがする……

 

「そうですよー。まぁせんぱいにその気があるのでしたら考えてあげなくもないですけれどね」

 

 しかしここで、あえて自ら話題につっこんでいったらどうだろう。

 なんかあれもしかしてさっきまでの冗談なの? って思ってくれると思いませんか?

 

 せんぱいから返ってきたのは言葉では無く表情だった。ちょっとせんぱい? いきなりどうしてそんなキモいニヤつきを私に向けるんですかね? もしかして……またこの人変なこと考えてますね。どうせしょーもないギャグとかなんでしょうけれど。

 

「せんぱい……突然ニヤつかれるのはさすがに引きました」

 

「想像している自分と現実の差異が激しすぎて絶望するわ」

 

「現実を知ることは良い事よ」

 

「現実は苦いんで甘やかしてくれると嬉しいです」

 

「あなた自分から苦しいことに首を突っ込んでくるんじゃない比企谷くん」

 

「それはあれです、大事になってからいきなり丸投げされるより今対処した方が楽だろうと言う観点からでして、いつか自分に振ってくると言う当事者意識を持つことが大切であってですね……」

 

「はいはい。難しい言葉ばかり使って照れ隠ししないでねヒッキー」

 

「うぐぅ……」

 

 ほら、やってきた。

 なんだろう、この置いてけぼりになったかのような感覚。

 そして3人でひとつみたいな雰囲気。

 皆楽しんでるのに。私だけもやもやする。状況を楽しめていない。

 

「みなさん仲がいいですね」

 

 見たままの言葉をただ口だけで放ってみるが、余計胸が締め付けられる。

 

「そう見える〜? いろはちゃん〜」

 

 満足げにせんぱいと雪ノ下先輩の雑談を聞いている結衣先輩。多分この人は1番この空間が好きなんだろう。

 

「一色さん、何か勘違いしていると思うけれどどこをどうみて仲がいいと思ったのか具体的に説明して貰えるかしら?」

 

 いつもなら静かに読書をしているであろう雪ノ下先輩はせんぱいや結衣先輩が来るとその文庫本を閉じ。紅茶を用意する。それはせんぱいと一緒に奉仕部を訪れた時に知ったことだ。

 きっとそれが彼女のささやかな楽しみでもあるのだ。

 

「そうだぞ一色、ただ俺が罵倒され続けているこの現状を見てどこが仲がいいと判断できんだよ」

 

 せんぱいはその罵倒でさえ、2人から発せられたものであればきっと何かうまいことを考えて切り返すでしょう。

 そしてたった1ヶ月弱で作られたコミュニティでこの3人の関係性をみて仲が良いと言わずなんと答えればいいんだろう。

 

 故にここに私の場所が存在しなかった。3人で完成した場所。私はそう実感した。

 自覚した瞬間少しうるっときた……ちょっとだけ口角を上げて誤魔化す。

 

「どうした一色。いつものあざとさが抜けてね?」

 

 

 あっ。

 

 

 まさかせんぱいに気づかれるとは。

 ただ一瞬気が緩んだ。それだけなの。それだけなのに。

 

 涙が頬を伝った。

 

 いちど出た涙は止まらない。

 必死で隠す。

 これではせんぱいの言葉で泣いているように見られてしまう。

 これはただ単純に居場所がなくて入れて入れてと駄々こねているだけの幼稚な涙。

 

 そうではないと説きたいが、嗚咽で喉がつっかえてるのとただせんぱいに相手にされず、寂しくて泣いてしまったというもう完全にあれな理由を喋るにはいささか恥ずかしすぎる感情がそれを拒む。

 そしてそんな素直になれない自分自身が嫌になる。

 

 どうも涙はしばらくおさまりそうにない。

 

「ばかっ……」

 

 言葉を自分自身に言い聞かせ、一旦奉仕部から去ることにした。

 

 

 ***

 

 

 どうにか泣き止むことに成功した私は帰り道、今後の事について考える。

 

 これは、非常にまずい。盛大にやらかしてしまいました。

 

 いや、まぁ確かに最近もやもやってするところもありましたが泣くって何ですか……最初からクライマックスじゃないですか。どんだけセンチメンタル入ってたんですか。悲劇のヒロイン気取りですか。あーもうっ! いろいろと酷すぎる……。

 何やってんだろ私……お家帰ったらベッドに顔埋めて足バタバタさせたいくらいの恥ずかしさ。

 これどうやって収拾つけよう……来週からせんぱいにどう顔合わせよう。

 

 そんな事を悶々と考えていたらせんぱいからメールが来た。

 案の定私が泣いたのは先輩の発言が原因という風に捉えられてしまったようです。

 その文はどこぞの記者会見で政治家が言うような謝罪文がつらつらと並べられていて引用元が逆に気になってしまった。

 しかしどう返したものかと返信文を考えようと一旦携帯をしまう。

 

 しまった直後にまた着信が。

 今度はどうやら葉山先輩のようだ。どうやら明日の練習試合の件での確認だった。

 そういえば明日練習試合だったっけ。

 今日のあのことが頭を占めていて完全に抜けていた。

 ただ準備はしっかりしたし問題は無い。

 そのことを葉山先輩に返信し、私は自宅へと足を進めた。

 

 そして、週明け。

 練習試合は散々だった。マネージャーである私がちゃんと動けてないのとか、凡ミスが多すぎるポンコツ具合。

 戸部先輩から『いろはすまじ今日どうしたん〜?』と心配される程でした。

 部活にも影響させ皆に心配されるのはちょっと無しですね。

 今日から部活休止期間、期間中にちゃんとしっかりと反省しなきゃ。

 

 そんな憂鬱な月曜日、まさかのせんぱいとばったり下駄箱で合う。

 

 

 あー、だめっ。恥ずかしい。

 

 

 フラッシュバックするあの光景が私の羞恥心をかき立てすぐに目をそらしてしまった。

 その気まずさから上履きに履き替える余裕などなく、手に持ったまんま教室へとダッシュしてしまった。

 

 これ絶対避けられてるって思われてる。

 

 幸い教室ではせんぱいは話しかけてこない。なぜなら私とせんぱいは教室ではあまり喋ろうとしないのだ。一度それが疑問でせんぱいに聞いたことがある。すると、『俺が話しかけたらまた変な奴らに絡まれるだろ』と言っていましたが真実はどうでしょうね。まぁ秘密の関係って事でちょっと楽しい感じではありますけれども。

 

 話しかけてこないことをいいことに休み時間はトイレに隠れつつ1日を終える。そのままダッシュで帰ろうかと考えていた矢先、メールが入る。

 

『いろは、今日ちょっといいか?』

 

 そのメールの主は意外も意外、葉山先輩だった。

 

 

 ***

 

 

 放課後の待ち合わせ場所はマリンピアのカフェだ。

 ちょうど2名席に座っている葉山先輩の姿を見つけ声をかけた。

 

「葉山せんぱーいお待たせしました」

 

「いろはすまんな、いきなり呼び出して」

 

「いえ、どうしたんですか?」

 

 そう言いながら私は葉山先輩の正面の席に腰掛ける。

 

「それなんだがな、先週の練習試合の時なにか思い詰めていた様子だったじゃないか。……何かあったか?」

 

 やっぱり葉山先輩にも気づかれていましたか。

 

「そうですね。ごめんなさい。部活にまで影響を与えちゃって」

 

「……もしかしてなんだが、比企谷が絡んでるか?」

 

 おっふ。なんですか葉山先輩。私の心読めるんですか? 葉山先輩ならできそうですね。

 

「まぁ、あのー。……はぃ」

 

「そうか……」

 

 多分二分ぐらいだと思う。無言の時間が流れた。

 その時間が1時間くらいに感じたくらい結構気まずかった。

 あれ? 皆がうらやむ葉山先輩と2人きりでカフェデートという状況なのに何という事でしょう。

 

「俺がどうこう言えることでも無いが、いろはが気を落とす必要は無いさ。気持ちの整理をしっかりとな」

 

 そうですね。やってしまった事実は変わらないし、それを引きずっても仕方ないですね。

 

「そうですね……ただせんぱいはまったく悪くなくて今回は私がちょっと誤解を招いちゃったんで……」

 

「そうだな。今回の件でだいぶ勉強になっただろ」

 

「はい。ちょっと自覚しちゃいました、だいぶ私は嫉妬深い人間のようです」

 

「……ん?」

 

 ぽかんと呆けた表情を見せた葉山先輩が視界に映る。

 珍しいレアな光景だ。

 

「すまん、ちょっとだけ話を整理させてくれ」

 

「へ?」

 

「いろは、比企谷に告白されたんじゃないのか? 正直付き合うと思っていたがまさか断るとはって思ってたんだが……」

 

「……っは?」

 

 いや、葉山先輩に対してそんな言葉を向けるのは失礼だと思ったのですが、思考が追いつかずついついでてしまう。

 

「ななな何言ってるんですか葉山先輩! そんなわけ無いじゃないですか。全然違います!」

 

 なんか会話に違和感があるな〜って思っていたら葉山先輩何という勘違いしていらっしゃるのでしょう。

 

「完全に俺の勘違いだったな。すまん」

 

 いやーその爽やかな笑みで謝られると私も許す以外の選択肢がなくなってしまうじゃないですか。

 

「それじゃどうしたんだ、それ以外に比企谷関連でなにかあったのか?」

 

「えーっと実はですねぇ……」

 

 そうして私は現在の状況を葉山先輩に伝えた。

 

「……なるほどな。とりあえず把握した」

 

「まぁそういうわけでして……」

 

「なんだろうな。初めていろはの人間を見れた気がしたよ」

 

 えっ? 急に何言ってるんですか葉山先輩?

 

「サッカー部でも誰に対しても自分を見せようとしなかったのにな。比企谷が関わってくると素が出てくるんだな」

 

「そ、そうなんですかね?」

 

 確かにせんぱいといると大体何も言わずとも理解してくれるので楽ではあるし。

 変に猫被らないですみますしね。

 

「完全に俺の推測だがいろはは比企谷と一緒に居られる居場所がほしかったんじゃないのか」

 

「っえ?」

 

 居場所……そうだ。私はただせんぱいと私が一緒に居られる場所が欲しい。

 

「いま比企谷がいる奉仕部って場所に自分が入り込める余地が無かったから悔しかったんだと思うが、俺はそこに人間味あるなって思った」

 

「改めて言葉で伝えられるとすごく恥ずかしいですね」

 

「いろは、もうなにかしら答えは出てるんだろ?」

 

「……」

 

 なんだかんだ言って結局の所、答えが出ているのは確かなんです。

 ただ、伝えるのはもうちょっとだけ時間が欲しいかとおもいます。

 

「まぁ、少し気持ちを整理してからでも遅くはないからな」

 

 こうして憧れの葉山先輩とのカフェデートは何故かせんぱいと私の話のみで終わってしまった。

 

 

 ***

 

 

 葉山先輩とカフェに行った時から1週間と少しが経った。

 

「いろはちゃーん」

 

 校門をでたあたりで結衣先輩から声をかけられた。

 

「あれ? 結衣先輩じゃないですか〜」

 

 結衣先輩ともあの日以来だ。

 

「ちょっとだけいい?」

 

 そういって来ると言うことは、多分あの件だろう。

 ただ私もだいぶ整理がついてきたのでちょうどいいと感じました。

 

「はい。大丈夫ですよ」

 

 そして訪れる駅前のサイゼ。

 久し振りにサイゼに来た感じがして懐かしい。

 ちょうどボックス席に案内され、そこで互いが対面になるように腰掛けた。

 

「あの。ごめんなさい。いきなり泣き出しちゃって」

 

 まず先に先日の事を謝っておこう。

 

「いや〜、いいよいいよ。あれヒッキーが悪いんだし〜」

 

 多分結衣先輩はせんぱいが言ったあざといって言葉で私を泣かしたと思い込んでいるのでしょう。

 

「あの、多分結衣先輩は誤解していて……」

 

 そう言って誤解を解こうとした矢先、私の言葉に覆い被さるように結衣先輩は言葉を発した

 

「いろはちゃんが思ってることに気づいてあげられないヒッキーが悪いのっ。あっでも、いつまでも隼人君を使ってヒッキー誘ってるいろはちゃんもいろはちゃんだよっ。反省してねっ!」

 

 っえ? 今なんて言いましたか?

 

「いや、結衣先輩? なにをおっしゃってるんですか?」

 

「もう見たらわかるよ〜。いろはちゃんヒッキーのこと好きでしょ」

 

「で、ですからー、そうじゃないです」

 

「そう?私はヒッキーのこと……好きだよ?」

 

「っぇ……」

 

 そんなっ……結衣先輩相手って私完全に勝ち目無いじゃないですか。なんでそんな事言うんですか……

 

「ほら、そんな顔するのは恋する乙女の特権じゃん〜」

 

「っえ!?」

 

 あっ〜!!

 結衣先輩にはめられたっ!? なに策士ですか晴明ですか!? あっ違う孔明ですか!?

 ぐぬぬっっと結衣先輩を睨む。

 

「あはは〜、ごめんごめん。ヒッキーからなんか来たりした?」

 

「どこかの政府のお偉いさんが書いたかのような謝罪文でしたらメールで届きましたよ」

 

 そう言って携帯に写るそれを結衣先輩に見せる。

 

「何書いてるかわかんないや……」

 

「まぁ誠意は伝わってきますよ」

 

「ヒッキーから直接は何も無いって感じなの?」

 

「まぁそうですね。私が避けているからと言うのもあるのですが……」

 

 む〜ヒッキーあれだけちゃんと謝ってねって言ったのに……と結衣先輩がぷんすかと怒っていた。何この人可愛い

 

「たださすがに長引かせるのもあれなので私からもせんぱいにちゃんと話をしようと思っています」

 

「そうだね。そろそろ、仲直りしなきゃだね。」

 

「そうなんですが、ちょっとまだちょっと怖くて……」

 

これを言ったらせんぱいはどういう反応を示してくるのだろう。

冗談で返してくれるのか。それとも拒絶されるのか。

答えを相手が持っていること、自分が導き出した答えと同じなのかの不安がよぎる。

 

「大丈夫、ヒッキーは受け止めてくれるよ。私の時だってそうだったから」

 

 そう言って微笑む結衣先輩。

 

「そうだった?」

 

「うん。私さ、ヒッキーに取り返しのつかないとってもとっても酷いことをやっちゃったんだ。だからこそちゃんと謝りたかったし許されるとか思ってなかったよ。でもヒッキーはさ、許すって言ってくれた。だからこそ今この関係があるんだと思ってるんだ。いろはちゃん、怖がらずにちゃんと伝えてあげて」

 

 そっか、結衣先輩は私を勇気づけてくれている。

 多分ここで私が何もしなければ、せんぱいは私から遠のいていく。

 だからこそ私はつなぎ止めるため行動しなくてはいけない。これからの関係のために。

 

「ほらいうじゃん。早起きは三文の徳って」

 

 ん? 何言ってるのかよくわかりません。雰囲気ぶち壊していくスタンスですか?

 

「結衣先輩、だいぶそれ違いますよ……」

 

 多分、聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥と言いたいのでしょうけれどそれも意味が違いますからね……

 今の私に合うのはたしか恥を言わねば理がきこえぬって奴ですね。ちょうど実力テストで出題してました。

 

「えへへ……まぁいいや。とにかく仲直りしてさ、また部室に遊びに来てよ。私以外あまり喋ろうとしないからいろはちゃんいるだけでだいぶ変わるんだよー?」

 

「そうなんですか? ま、まぁ考えておきます」

 

 言質取りましたからね? 多分週4位でお邪魔すると思います。

 

「それじゃー話もすんだし。サイゼってたしかイチゴキャンペーンやってるじゃん、それ食べよー」

 

「いいですね。頼みましょ頼みましょ」

 

 そして話をひと段落させた私と結衣先輩はサイゼのデザートに手を付けるのだった。

 

 

 ***

 

 

 それから数日間しっかりと自分の考えをまとめ、素直に話そうと決意した

 もはやこれはある意味……私からの告白である。

 

 5月もあと数日で終わりを迎え、6月梅雨の面影が姿を現し始めた。

 ニュースも梅雨の天気予報が表示され、若干湿気った生暖かい空気が私の髪をはねさせる。

 

 そして今日が中間試験最終日。全科目が終わりようやくひと段落と考えていたところ、久し振りにせんぱいからメールが届いていた。

 その内容は私との関係の抹消が書いてあった。すぐさませんぱいの席を確認したがせんぱいはすでに席を立っていた。

 私はすぐさま駐輪場へと走る。

 

 駐輪場にはせんぱいの自転車がまだある。つまりはまだ校舎にいるという事だ。

 ここで待っていればきっとせんぱいは来る。

 そう考え、私は駐輪場で待つことにした。

 

 その間じっと待っていられるわけもなく、私は同じ道を行ったり来たりと若干怪しい。

 そういえば、2ヶ月前も私は駐輪場でせんぱいを待ってたなって懐かしい思いでに駆られた。

 たった2ヶ月しかまだ経ってないのにいろんな事があったなとしみじみ思う。

 私はこの関係を消したくない。だからこそちゃんと伝えないと。

 

 そんな事を考えていると見知った姿が目にとまる。

 せんぱいだ。

 

 せんぱいも私を見つけたのだろう。なんでそんな苦しそうな顔しているんですか。

 ……わかってます。私のせいですよね。せんぱいにとってはただのじゃれあいな会話だったのにそれをこんな展開に変えちゃったのは私のせいです。

 ごめんなさい。

 

 せんぱいは私に目を合わせようとせずそのまま通り過ぎようとしている。あの時と同じです。

 ……でも多分このまま行かせてしまえば私たちの関係は終わってしまう。だからこそ私はあなたに何か言わないといけないんですが……

 

 なんですが……私もあなたを目にしたときから何を喋っていいかわからなくなってるんです。

 頭真っ白で……なんか色々とバクバクなんですよ。

 どうすればいい。どうすれば……

 

 そして先輩と私がすれ違う。

 すれ違いざまに見せたせんぱいの泣きそうな表情を見た。

 とっさに手が動いた。

 

 裾を掴んだ手に気づいたのかせんぱいが振り返り私を見る。

 久し振りでちょっと嬉しい。

 

「せんぱい。なんで無視するんですか?」

 

 とっさに出た言葉はいつも通りの私の言葉だった。

 

「いままで無視されていたのは俺なんだがな」

 

 久し振りに聞く先輩の声。なんかうれしさがこみ上げてきますね。

 

「そんな事より、なんですかこのメールの内容! 泣かせてごめんとかもう関わらないとか重すぎて引きましたよ」

 

 ショックでしたよ。それでまた泣きそうになったんですからね。

 

「いや、普通に謝ってるだけだろうが」

 

 普通に謝ってないですよこれ……せんぱいの普通の振り幅だいぶ大きいですよ。

 

「そもそも、あの状況の言葉で私が泣くわけないじゃないですか〜」

 

 うんちゃんと言えた。あんな言葉で私が泣くわけないのです。

 むしろよく言われていますし。慣れています!

 

「じゃあなんでだよ、俺被害被ってんだけど?」

 

「えーっと……あれー……えっと……アレの日が……急に来ちゃって……」

 

 あーっ! ここ重要なところっ! なんで日和っちゃうかな……そしてなんで別の恥晒しちゃってるの私……

 ちゃんと言わないと。あーっもぅ!

 

「そ、そうか。なら由比ヶ浜と雪ノ下先輩にちゃんと理由説明してもらっていいか? 俺今絶賛悪者扱いされてんだ」

 

「それよりせんぱい私お腹空きました、サイゼ行きましょ」

 

 そうだ、こんな場所だから落ち着かないのだ。

 サイゼに行ってゆっくり話をして、ちゃんと伝えるべき事を伝えるんだ。

 どうせすぐに断るとか言ってくるのでしょうが、今日は絶対に付き合って貰いますからね。

 

「マジかよ。面倒くせぇ……」

 

 ……おや? せんぱいがやけに素直だ。もう2,3回くらい断るっていうと思ったのですが。

 

「おやおや? せんぱい? いつもなら速攻で断るっていう癖に今日はやけに乗り気ですね? そんなに2週間も私と喋れなかったのが堪えたんですか??」

 

「変なこと言ってっと行かんぞ」

 

 なんだろう。これがツンデレって奴なんですかね? ちょっと違う様な気がしますが。

 

「否定しないところがあざといというか何というか……人のこといえないじゃないですか。ずるいですよそういうの!」

 

「なんで俺怒られてんの?」

 

「も〜いいです〜。はいはい〜それじゃ行きましょ」

 

 そう言ってついてきてくれるせんぱいをみて気持ちが少し晴れた。やっぱりこの人は優しい。

 そしてサイゼに向かう足取りが軽やかになったのは私だけが知る秘密の話だ。

 

 

 ***

 

 

「せんぱい。今日のドリアやけに焦げ目多くないですか?」

 

「新人にでも作らせたんじゃねぇの? 由比ヶ浜のよりかは少なめだし大丈夫だろ」

 

 そんな事をいいながら互いに同じ料理を注文して同じ物を食べていることになぜか喜びを感じてしまう私がいる訳で。

 色々とまずい気がしてきました。これ彼のすることをなんでも許しちゃう女になっちゃいませんかね私。

 ただ、さっきから心臓バックバクでドリアの味も感じてないのですよ。

 

「それより一色、あいつらに俺の誤解ちゃんとあいつらに伝えておけよ?」

 

「実はもうすでに伝えてありますよ」

 

 結衣先輩に経緯を伝えているのでそのまま雪ノ下先輩にも話が行くと思います。

 

「仕事はえぇな」

 

「……ねぇ、せんぱい」

 

「んぁ?」

 

「私がなんで泣いたかって知りたいですか?」

 

「あぁそうだな。そもそも俺の言葉じゃなかったらなんで泣いたんだよ?」

 

 とうとうこれを言うときが来てしまった。

 うん、もう覚悟を決めよう。

 場所がサイゼとか雰囲気もへったくれも全く無いのは全てあとでやり直せばきっと大丈夫。

 

「私、せんぱいと学校生活をおくれるのって結構気に入っていたりするんですよね。ただ、最近結衣先輩や雪ノ下先輩と奉仕部でよく喋るようになったじゃないですか、なんかそこで私だけのけ者にされているような感じがしてですね……」

 

 もはやこれは『せんぱいがほかの女に目がいって私が嫉妬しています』って言っているようなものなのですが……

 正直これ話さないと収拾がつかないので恥を忍んで喋ります。

 

「それで私ウルッときちゃいましてですね。まずそれが泣いてしまった原因です……で、これからなんですが……できれば私もせんぱいとの居場所が欲しい……です」

 

 言い切った! 頑張ったいろは! すごいぞいろは。

 

「あー、なるほどな。完全に理解したわ」

 

 えっ!? こういう時のせんぱいは挙動不審になるって相場きまってるじゃないですか。なんでそんな堂々としてるんですか。ちょっとキュンってしちゃったじゃないですか。

 

「その気持ちわかるわー。俺の友達の友達の話だがキックベースのメンバーが足りないから一時的にメンツとして加えられただけなのにそれに気づかず次の日も意気揚々とキックベースに参加しようとすると『おぃ、誰だよあいつ連れてきた奴』とか言われて仲間はずれにされたんだ。確かにウルッとするよな」

 

 ……っは? なに言ってんのこの人? バカなんじゃないですか? それせんぱいの実話ですよね?

 

「いや、そうではなくて私が欲しいのはせんぱいと私の居場所なんですが……」

 

「何言ってんだ、奉仕部くればいいだろうが」

 

「ちょっ……そういうことじゃなくて! ちゃんと真面目に聞いて下さいー!」

 

「お前うっせぇ。店内迷惑だろうが……」

 

「む〜!」

 

「わーた、わーたから。……なら言い出しっぺのお前が見つけてこいよ」

 

「え? どういう意味ですか?」

 

「言葉通りだ。一色、お前が居たいと思う居場所をまず見つけてこい。そこを見つけて来たら俺も入ってやっから」

 

「せんぱい……いいましたね? 言質取りましたからね?」

 

「お、おぅ。ちゃんと見つけてこれたらな」

 

「わかりました。見つけて来ます。期待しておいて下さい」

 

「おぅ、期待せずに待っとくわ」

 

 こうして私は居場所を探す事になりました。




いつも読んで頂きありがとうございます。

なんだかんだ書いていると1万文字超えちゃいましたねw
自分としてはいろはすにきっかけを与えたかったので今回この様な感じになりました。

これからいろはすがどんな居場所を探すのか楽しみですね!(わざとらしい)
まぁその過程が大事なんでちょっともろもろ練っていこうと思います。

今回はちょっとオリジナル色強めに出てしまったんで原作よりで書いていけたらと思います。
ではまた次回!

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