やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#15-1

「ねぇ、比企谷君。今度あっちいってみよっ」

 

 そう言って俺に行動を促せるこの天使は戸塚彩加。

 ひとつ上の先輩なのだが、実質は同い年。

 ツイッター風に言うと可憐で可憐で可憐で俺の灰色の脳細胞で導き出した語彙でもそれ以外出てこない程、尊い。

 守りたいその笑顔。

 だが男だ。いや語弊があった、天使だ。

 

 尊い先輩なのだが、正直絡みという絡みは1、2回程度しかない。

 なのに何故俺は戸塚先輩とともにムー大陸ことムー大に来ている。

 

 ん? ……よくよく考えると陸だけ無くす意味がわからん。

 陸がボッチで泣いてるから探してあげてって俺の心が叫びたがっている。

 

 おっと考えがそれてしまった。

 帰りに一緒になったと言うのがひとつだ。

 あと、微笑み混じりに『比企谷君。せっかく一緒になったんだし……今日どこか遊びにいかない?』っと大胆告白された。

 

 そんな事言われてみろ、俺でなくても次の返事は『よし、一緒に幸せになろう』になるだろ? いや、ならなきゃおかしい。

 しかし率先して行ってみたい場所というのがゲーセンというなんとも俺の行動範囲の狭さが伺えるがカラオケもあるし、結構便利なんだぜ。

 輩がたまにいるから一色は連れてきたことはない。

 

 意外にも戸塚先輩は結構乗り気だった。

 クレーンゲームをしたりクイズゲームをしたりエアーホッケーやったりマリカー対戦したり。

 ……あれ? これデートじゃね?

 

 俺デートしてるすげぇ! やればできんじゃん俺!

 

 だが天使だ。

 

 ……おや? 天使なら別にもう、ゴールして……いいよね?

 お願いtake me to hevenしちゃってもいいよねっ!

 

 はっ……!?

 

 っと……っぶねー、危うく一生分の幸せを掴んで即死亡するところだったぜ。

 

「ねぇ比企谷君?」

 

「ん? なんですか戸塚先輩」

 

「実は僕、由比ヶ浜さんに聞いちゃったんだ。比企谷君が留年しているってこと」

 

 あいつ最近口が軽いな。俺もお前のこと喋っていいのか? いいんだな喋るぞ?

 

「あっ、一応さ……由比ヶ浜さんを責めないでね。僕が興味本位で深掘りしちゃったんだ」

 

 由比ヶ浜よ……一体どういう話の導入をしたんだ? まぁいいか。

 

「……まぁ、そういうことっすよ。なんて言うか色々あったんで」

 

「でも、比企谷君が学校に来てくれて嬉しいよ」

 

「えっ?」

 

「だって……こうして僕たち出会えたから……なんて言うか恥ずかしいけど……嬉しいなっ!」

 

「戸塚先輩……一生俺の味噌汁を作ってくれ」

 

「へ?」

 

 おっと、ついついプロポーズしてしまったぜ。

 

「いやぁ、なんでもないです」

 

「変なこと言う比企谷君だね」

 

 いやいやこの会話、恋人同士みたいで胸がキュンキュンしちゃいますね。

 

 そうして俺たちはメダルゲームを目指して向かっていたのだが、その通り道に今流行のプリっとクライアントを別人に変身させる写真機、つまりはプリントシールコーナーに通りがかった。

 

「へぇ〜、こんなにプリってこんなに機械あるんだね」

 

「俺たちには何が違うのかわからんが、機種によって背が伸びたり、細くなったり、目が漫画みたいにデカくなったり白くなったり出来るらしいぜ」

 

 一色がなんかそんなことを言ってた気がするからその受け売りで言った。

 

「そうなんだ〜」

 

 なんかまじまじ〜っと筐体から目を離そうとしない戸塚先輩。

 

「ねぇ比企谷君。ちょっとやってみない?」

 

「えっ?」

 

 なにその魅力的な提案

 

「別にいいっすけれど、これって確か女子・カップル専用じゃないですかね?」

 

「あー、うんそうだね。ちょっと残念……でもこっそりできない?」

 

「別にいいっすけれど……」

 

 戸塚先輩、そんな事を言われるとちょっと俺もあれ何ですか……

 もう彼氏面していいですか?

 

 そう言って去ろうとした時にムー大の店員が寄ってきた。

 あー、ちょっと居座り過ぎてこれ注意される感じかとさっさとその場を去ろうとしたらその店員に声をかけられる。

 

「もしかしてカップルさん? 大丈夫大丈夫彼氏さん連れて入っていいっすよー」

 

 やけにチャラい店員だなおい。まぁ戸塚先輩の外面見たらそりゃアレだよな……いや制服で判別しろや。

 いやまて? 最近の学校は男女区別しない制服が取り入れられていると聞く。もしやそれを懸念して……

 ねーな。

 

「やった。比企谷君。でもなんでだろうね?」

 

「まぁ変に勘ぐるよりもバレる前にさっさと中入りません?」

 

「そうだね。いこっ」

 

 そうして入ったこの場所というのはすこし異質で……何というかあれだ。美とか可愛いとか潤いとか純とか、そんな漢字をとりあえず入れとけばOKっしょ感が否めない名前のプリ筐体が沢山あった。

 俺たちはその中で適当な奴に入る、戸塚先輩が説明書を読みながら操作していく。

 

「うんっ、これで大丈夫だとおもうよ」

 

「おっ、そうっすか」

 

 なんの前触れもなしにいきなりフラッシュが焚かれる

 目がぁ……目がぁー!!?

 

「破壊の呪文でも唱えさせたいのかこいつは」

 

「ちょっとびっくりしたね、でも撮り直しも出来るみたいだよ」

 

『もういっかい、いくよ』

 

 イケメンを連想させるかのような声が筐体内に響く。

 野郎にはただただ鳥肌が全身を走るぞこれ。

 

 それから何度となくフラッシュが焚かれ撮影が続いた。

 

『いい写真が仕上がったよ。外でデコレーションしてね。それじゃ、またね』

 

 多分二度と来ることは無いだろうと思い、俺はこのプリ筐体にグッドバイと心で永遠のさよならをかわした。

 

 写真を見てみたが、何だろう本当にカップルのようだ。家宝にしよう。

 ただ、俺が俺じゃない。なんだこれ……濁った目は補正させる訳でなくただデカくなってんじゃねぇよ。

 肌が白く写ってる分すげぇ目が強調されて違和感がハンパねぇ。

 

 戸塚先輩にいたってはもうあれだ。美少女っぷりがやばい。

 うまい具合に下半身が隠れており、ぱっとみ女子と撮ったのでは無いかと錯覚する程だ。

 

「はいこれ、比企谷君の分」

 

 戸塚先輩が手際よく2人分に切り分けてくれた。

 

「あざす」

 

「なんかこういうのもいいよね〜」

 

 そう言いながらはちまんと さいかと書かれたプリを見つめる。

 もう俺は一生分の幸せをつかみ取ってしまったのだろうか。

 ニヤけが止まらない。

 

「ねぇ、比企谷君」

 

「な、なんですかね戸塚先輩」

 

 やべっ、気持ち悪いと思われたか?

 

「僕のこと、彩加って読んでいいんだよ? どうせ同い年なんだから」

 

「え」

 

 なになにえっ、マジで? 幸せモード激アツ連発なんですけれど。

 

「さ、彩加」

 

「うん、八幡」

 

「一緒に幸せになろっ」

 

「八幡の言っている事がよくわからないや」

 

 やべぇ、雰囲気が甘いぞ。すげぇ甘い。本物のカップルのようだ。

 

「あっ、そろそろ時間だ。」

 

 えっなにその絶望の言葉。ちょっとあれここから誰か出てきて『ざんねーん、罰ゲームでしたーきゃははだっさー』とか言われるの? 今それ言われたら俺は阿修羅をも凌駕する存在に進化する自信あるぞ。

 

「実は僕さ、テニス部のほかにスクールにも通ってるんだ」

 

 あぁーなるほど。理解した。良かった俺は人間でいられる。

 

「それじゃ、一旦出るか」

 

「そうだね、八幡ありがとね。楽しかった」

 

「そうだな……彩加」

 

 こうして俺と彩加はムー大を後にした。

 とりあえずプリは大事に制服のポケットにしまった。額縁買ってこなきゃ。

 

 

 ***

 

 

 だだっ広くそして雑踏に揉まれ人酔いする。

 普段ならこんな場所一秒足らずとも居たくないと思うだろう。

 そしてさっさと帰るだろう。

 

「や〜ん可愛い〜」

 

「動物は癒やしですねー」

 

 しかしだ、イベントがイベントなのだ。

 わんにゃんショーというネーミングがくっそダサイイベントなのだが

 このイベントにいつも俺たち兄妹は参加している。

 そして何故か一色がいる。

 

 何故かわからないが会場についたときに”たっまたま”遭遇してしまったのだ。

 はたして本当にこれは偶然なのだろうか? 何町ちゃんの陰謀でないかと八幡は八幡はそこはかとなく陰謀論を疑ってみるのです。

 

 二人は目の前にいる白いラビットに夢中だ。

 

『ねーねー柴犬居るよーめっちゃ可愛い〜』

『俺柴犬よりシュバ剣欲しい』

『えっ……まだシュバ剣揃えてんの? ダッサ、昭和じゃん。なんか一気に冷めた。じゃあね。二度と連絡してこないで』

『えっ?』

 

 そんな会話が後ろで聞こえてきた。何かひとつの恋が終わった予感がしたが俺は何も聞いていないことにした。

 

「こんな癒やしのイベントがあるならもっと早くに知りたかったですねー」

 

「いろはおねぇちゃん、次から毎年一緒に行きましょうね」

 

「うんっ! 小町ちゃん」

 

 えっ、兄妹水入らずのイベントに部外者つっこむの? ちょっと小町ちゃん? お兄ちゃんそんなの許しませんよ。

 

「ちょっ、小町来年から俺はどうすればいいんだよ」

 

「何っておにぃちゃんも一緒に行くに決まってるでしょ。いろはおねぇちゃんと一緒に仲良くね」

 

「俺は小町だけで十分なんだが……」

 

「む〜っ! せんぱい、こんな可愛い後輩が一緒じゃ不服って事ですか!」

 

「ああ。小町と二人きりがいい」

 

「とんでもないシスコンですね。このままだと兄妹の一線越えちゃいますよ?」

 

「もしかしたらもう超えてるかもですよ?」

 

「えっ……」

 

 ちょちょちょ、小町ちゃん、何言っちゃってくれてんの? 始まる千葉兄妹の紋章への進化は止めたよね?

 

「おい、小町。変なこと言って俺を陥れようとするな。俺が社会的に死ぬだろうが」

 

「ねぇおにぃちゃん? いろはおねぇちゃんとちょっとなんかあったでしょ?」

 

 小町が俺に耳打ちする。

 いきなりなに言ってんだ? なんかあった……がなんでそんなことに気づいちゃうの?

 もしかして超能力者?

 

「ん、まぁいろいろとな」

 

「だよねー。じゃないとあんなこの世の終わりみたいな顔しないしねー」

 

 っは?

 

 一色に視線を向けると冗談抜きで悲壮に満ちた表情をしていた。

 こいつどんだけ可哀想な人を見る目で見てんだよ。俺が泣くぞ。

 

「まてまてまて、一色。小町の冗談でそんなに引くことねぇだろうが」

 

「じょう……だん??」

 

 しばらくすると一色の目に光が戻り……また消えた。

 

「小町チャン? 今からおねぇちゃんと一緒に会場回ろっか?」

 

 変に迫力のある低い声で我が妹を誘おうとする一色さんに俺は声をかけることが出来なかった。

 おっと迫力がありすぎて一色さんなんて言ってしまったぜ。

 

「ひっ……う、うーん小町おにぃちゃんと一緒に回りたいなぁ〜なんて……お、おにぃちゃん」

 

 そうして状況を察したか俺にSOSの視線を送る。

 

「無理。自分でまいた種だ。頑張れ」

 

「おにぃちゃんの裏切り者〜!」

 

 そう言って小町の答えを聞かず小町の腕をガッシリとつかんで会場とは別方向につれて行かれてしまった。

 小町よ、無力な兄を許してくれ。

 

 こうして俺はひとりになったことなのでしばらく会場を自由気ままに回る事となった。

 すると意外な人物に出会う。

 


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