やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#16-3

 一色が連れてきたのは昔ながらの純喫茶と言うのか。あれだ、テーブルがゲームとして遊べるやつが置いていたり、壁にはやけに昔ながらのレトロな感じなポスターやら有名企業のロゴが飾られていたりする喫茶店だ。

 店内のBGMでは昭和の歌謡曲が流れていて、この店だけやけに時の流れたが止まったかのような空間だ。

 今時こんな店が残っていたなとしみじみ思う。おじさん達とかに受けそうだ。

 

「ここのケーキって手作りで結構美味しいんですよね〜」

 

 そんなことを言いつつ一色はインベーダーゲームのある席へと腰掛ける。

 俺も一色の対面に座る。ちょうど座るときにコイン投入口が見え、そこにワンプレイ200円という表記をみて俺はぼったくりの店に来たのではないだろうかと疑心暗鬼に駆られた。

 

「そうなのか。そりゃ良かったな」

 

「ついでにここのコーヒーってせんぱいがよく飲んでるコーヒーも取り扱っていたりするんですよ?」

 

「おぉ!? マジか」

  

 メニュー表をよく見ると確かにドリンクの所に ジョージアマックスコーヒーと記載がある。

 正式名称で書かれているあたりマッ缶への愛を感じざる得ない。

 

 しかし、マックスコーヒーのケーキセットってなんだ? カロリーモンスター以外の何者でもないと思うんだが。

 

「私ベイクドチーズケーキ選ぶんで、先輩の好きなコーヒと他ケーキ選んでくださいね〜」

 

 一色ちゃん? 何気に俺の選択肢マッ缶×ケーキセット以外は道がないよ? って遠回しに言ってない?

 

「ならモンブランにするわ」

 

 マッ缶だけでも脳へのエネルギー補給は十分だっつーのにそれにプラスしてケーキとなると結構味覚的につらい。

 マッ缶の甘みを和らげるってなると少しでも甘さ控えめのケーキを選ぶ必要があるがしかし、俺のなかではこの横文字で並んでいるケーキのどれが甘さ控えめか分からんし、聞ける状況じゃねぇ……

 とりあえず名前からして大人びたモンブランは最適解なのではないだろうか? 食べたことねぇけど。

 ガトーショコラも考えた。しかし名前からしてすげぇ苦いかすげぇ甘いかの両極端な予感がした為、あえなく選考から外した次第だ。

 

「先輩にしては意外な選択ですね」

 

「んなもんテキトーだテキトー」

 

「へー」

 

 そう言って一色は店員に今の注文内容を伝える。

 店員が去ったあとにメニュー表を見ながら俺に視線を合わせメニュー表の右斜め下端を指をさした。

 

「てっきりレアチーズケーキとか頼むのかと思ってました」

 

「なん……だと……」

 

 まじかそんなんあったんか……くっそ、完全に見落としてた。そんなのメニュー右斜め端に小さく書いてんじゃねぇよ。

 分の悪い事は小さく書く契約書かよ。そのうち業務改善命令出されるぞ。

 

「まぁ……たまには別の物食いたくなるしな」

 

「そうですよねー、こう言う時にしか食べられないものを頼むのが普通ですよ〜」

 

 テーブルに肘をおいて俺の瞳をのぞき込むように一色が上目づかいで俺を見つめる。

 

「な、なんだよ」

 

「いえ〜、らしくないな〜って思っただけですよ」

 

 瞳を落とし呟くように一色が言葉を出す。

 

 なんだよらしくないって。俺は俺の最大限を出し切ってお前の対応をしている筈だが?

 

「そうか? まぁ見落としただけだしな。まぁ……たまにはこう言うのも悪くはない」

 

「ふふっ」

 

 なにか幸せそうに微笑んでいるがその理由が全く分からず正直不気味に感じる。

 

「それよりも、お前さ……葉山先輩とはどうなんだ?」

 

 俺にしては少し踏み込んだ質問をしたと思う。まぁ理由はある。

 最近よく一色と話をしているわけで、俺の中にある話題ストックがハイペースで消えていくのだ。俺はこいつみたいに友人関係が豊富な訳ではない。なので話す話題の生産が追いついておらず枯渇寸前、需要過多ってやつだ。まぁテキトーな事を話題にするのだったら沢山あるが、今の世の中は質も求められる。TPOにあった発言をしないと品位を損なうからな。

 まぁそれよりも最近こいつの口から葉山先輩の言葉をあまり聞かないから進捗が気になるって所もある。

 

 すると一色は俺からそんな言葉が出たのが珍しいのか、目を見開いた。

 

「……せんぱい?」

 

「んだよ?」

 

「もしかして……嫉妬してます?」

 

「んなわけねぇだろ。お前の交友関係聞いただけで俺がなんで嫉妬するんだよ」

 

「ですよね〜。ちょっと私の思い違いでした」

 

 一色はてへっと自分の手で頭をコツンと軽く当てて舌を出して反省を表した。

 あざとすぎて鼻で笑ってしまった。

 

「ちょっ、なんで鼻で笑ってるんですか!?」

 

「あざとすぎなんだよ。あまりにもテンプレ過ぎっから若干引いたわ」

 

「む〜、せんぱいこう言うの好きそうだからやったのに」

 

「いやまて、何を根拠にそれを言った?」

 

「えっ? せんぱいから借りたライトノベルですよ」

 

 自然とまた鼻で笑ってしまった。出所がラノベってやべぇわ。

 

「ちょっ、なんでまた鼻で笑うんですか!?」

 

「いや、なんでってラノベはラノベでやるから良いんだよ。それをリアルでやるのはあれだ、ほかが恥ずかしくなるから辞めといた方がいいぞ。先人からのアドバイスだ」

 

 政府報告書とか神界日記とかラノベに影響されてやっちまったのがフラッシュバックしてしまう。もう無くなった歴史だ。そのまま海馬の彼方に消えてしまえ。

 

「ほかの男の子には結構効いたんですけれどね〜」

 

 おい、男子諸君。可愛い女子が何やっても許してやれるその器の広さは認めてやるが、何もかも承認してやるとそれはオタサーの姫の取り巻きとやってること変わんねぇからな? 本人が調子づくだけだ。少しは指摘してやれよ。それで離れるようであればそいつはお前なんて見ていないから。そいつに時間を使う必要ないって分かっただけ良いだろ。

 

「そりゃお前へのご機嫌伺い含めてんだろ」

 

「まぁそうなんですけれどね」

 

 認めちゃったよ。ほかの男子諸君が可哀想で仕方が無い。

 

「でもせんぱいはそう言ったのちゃんと指摘してくれるから結構好きですよ」

 

「お前……男子高校生の女子に言われると絶対勘違いするランキングダントツ1位に輝く言葉不意に吐いてんじゃねぇよ。俺じゃなかったら完全に勘違いされたぞ」

 

「せんぱいだから言ってるんですがね」

 

 こいつは俺が勘違いしないことを前提として言っている訳か。なるほどな。

 

「話変わるんですけど、あのライトノベルですが全部読んだのでそろそろお返ししたいのですが」

 

 そういや前に続きが気になったラノベ買ってたな。

 

「そうだな。なんか続き気になった奴とかあったか? 前買った奴以外で」

 

「そうですね〜、いくつかあったのでせんぱいの家に行ったときにでもお話ししますよ」

 

「わかった」

 

 ……ん? 今の会話なんか違和感があるんだが?

 

「なにさも当たり前のように俺ん家に来ようとしてんの?」

 

「え? だって学校じゃ渡せないじゃないですか」

 

 確かに最近はやけに噂が広がってるからな。下手に絡むと周りに信憑性を与えかねん

 

「チャリのカゴにでも入れて置いても良いんだぞ?」

 

「え〜、それじゃ盗まれちゃうじゃ無いですか!? っというかもう小町ちゃんには連絡済みですから逃げないで下さいね」

 

 なんで小町俺にそのこと教えてくれねぇの? ねぇお前らの信頼関係ってどうなってんの?

 

「はぁ……」

 

「っで、葉山先輩の話でしたね」

 

 そうだ、元々その話をしようとしたが色々と話が脱線してしまってた事を思い出した。

 しかし狙ったかのようにその話を始めようとしたらちょうど店員がケーキセットを持ってきたのだった。

 一色はアイスのカフェラテとベイクドチーズケーキだ。流石に質素な感じではあるが皿にブルーベリーの濃い紫色の曲線が描かれておりシンプルに装飾されている。

 一色にしては珍しく質素な奴を選んだな。

 さてさて、俺が頼んだモンブランとやらはやけに細く茶色い奴がとぐろ巻いてんだけれど。……食欲失せる食レポするんじゃ無かった。

 とぐろのてっぺんに栗が乗り周りは生クリームとイチゴジャムとキラキラしてるよく分からん丸い奴でデコられていた。なんだろう、俺としてはベイクドチーズケーキみたいに質素な感じで良かったのだが。ってかこのキラキラしてんの食えるの??

 

「せんぱいのケーキかわいいですね」

 

「そうか? 交換するか?」

 

「それは駄目ですー。でもせっかくなんで一口貰って良いですか?」

 

「あぁいいぞ」

 

 そう言って俺は一色に皿を差し出す。

 

「何してるんですかせんぱい? こういう時はこうやって食べるってライトノベルに書いてましたよ」

 

 そう言って俺にベイクドチーズケーキをすくったスプーンを向ける。

 おい、やめろよ。さっきラノベの物事をリアルでやると黒歴史になるって話したばっかだろうが。

 

「いや俺先端恐怖症だからそういうの受け付けねぇのよ」

 

「スプーンの先端は丸いんで。噓つかないで下さーい。ほらあーん」

 

「ちょ……まて、一色。それやると周りからバカップルと思われるだろが」

 

「それなら目を閉じれば良いんじゃないですか? 周りが気にならなくなるともしかしたら億千の星が見えるかもですよ?」

 

「お前、こんなときにネタに走ってんじゃねーよ」

 

「すきあり!」

 

「むぐっ」

 

 そう言って一瞬の隙を突かれ口に放り込まれる。

 

 うむ、ベイクドチーズケーキの濃厚な甘みと少しレモンの酸味が合わさって確かにうまい。

 それに合わせてマッ缶を飲む……。うっわ甘さと甘さが喧嘩してる。

 

「おいしいですか?」

 

「ケーキ単品ならうまいがマッ缶と合わせると甘味の暴力が口の中で巻き起こる感じだ」

 

「流石にそうなりますよね〜」

 

 そんな事を言いながら一色がそわそわとしている

 

「さて、次は先輩の番ですよ?」

 

「えっ!? 俺もやんの?」

 

「えっ一口ずつ交換しましょって言ったじゃないですか」

 

「嫌に決まってんだろ。なんでやらなくちゃいけねぇんだよ。ほれ、皿を渡すから好きなだけすくえ」

 

「せんぱいはいけずですね〜」

 

 そう言って一色はそのまま俺のモンブランからー口分をすくい上げ自分の口へと運ぶ。

 

「んー! 美味しいですねっ!」

 

 うまそうに食うな。きっとうまいんだろうなと思いつつ俺もモンブランを一口食べてみる。

 うん、甘さ控えめなところが良い。

 

 マッ缶は食後に飲もう。

 

「そういえば、葉山先輩の話でしたね」

 

 自分のケーキを食べながら一色がそんな話をする。

 そういえばその話題をしようとしてケーキが来たんだっけか。

 もうどうでも良い感が出てきている。

 

「あぁ、そうだった。」

 

「葉山先輩とはなかなか良い関係を築けてると思いますよ先輩と後輩の関係で」

 

「なるほどな。まぁそうか。あとは時間の問題的な感じか?」

 

「いえ? 時間の問題とも違いますよ。もうこれでお終いです、これ以上関係が深くなることはないと思います」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「つまりは私、葉山先輩は諦めます」

 

「はぁ!?」

 

 あまりに唐突な告白にちょっと声量無視で驚いてしまった。

 

「ちょっ、せんぱい。ここ喫茶店なんで大声出すと迷惑ですよ」

 

 ぐっ……いつもお前に対してそれ思ってるんだがこの理不尽は何だ。

 

「ま、まぁそうなんだが、ちょっと待てよ。サッカー部はどうなるんだよ」

 

「えっ、まぁ楽しいですしまだ続けますけれど、どこかしらで見切りつけようかと思ってますよ」

 

 一色よ、俺がそれにどれだけ苦労したか分かってんのか?

 

「つーことは俺はもうお役御免って事か」

 

「せんぱい? 何言ってるんですか? 私の依頼は何だったか覚えてます? この質問2回目ですよ?」

 

「……気になる人がいるから手伝って。……って事はまさか……」

 

「別に気になる人が出来ちゃいましたっ」

 

 なにピースしちゃってんのこいつ。葉山先輩よりもイケメン見つけちゃったわけ?

 ってか今までの俺の苦労を返せ。

 

「まぁ、その為には色々と準備が必要になってくるわけで」

 

「もうそいつと一緒の部活入るとか言い出すなよ。絶対手伝わんからな」

 

「あっ、大丈夫です。入部する気ないんで」

 

 なんだ、やけにあっさりしてんな。

 まぁ一色のことだ。なんかそいつを落とす計算でもしてるんだろう。

 

「具体的にどうするつもりだ?」

 

「ん〜、そうですね。相手が用心深い人なので私から何度かデート誘ったりして信頼関係築いて行こうかなって考えてます。」

 

 ほー、一色そんな面倒くさそうな奴がタイプだったんだな。葉山先輩の時とは違って顔で選んだりしなかったのか。

 

「まぁ、そこら辺は応援してるわ」

 

 一色はふふっと軽く微笑を浮かべ『ありがとうございます』と小さく呟いた

 

 その後、俺たちはケーキを平らげて喫茶店をでた。

 

「あっ」

 

 そこでちょうど通りかかった同級生達とばったり鉢合せしてしまい、

 噂の信憑性を上げてしまうことになった。


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