やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#3

学校での初日全ての日程が終わり、帰宅するべく駐輪場へ向かう。

 

その道中の廊下の端に髪を染めて制服を着崩してミニスカでミニスカな派手めな今時女子高生がいる。携帯を片手に持っているが画面を覗いている訳ではなく歩行者をチラチラと確認している。

誰かを探しているのだろうか。

 

胸元のリボンから見るに2年生と判別できる。

その出で立ちは一色に負けずというかそれ以上に可愛らしい顔の作りと胸の圧倒的母性が存在を主張している。

 

なのでたとえ廊下の端にいても、その存在は他の人たちも認知され、注目を浴びてしまう。

というかこの学校に一色以上がいるのか頭を抱えてしまう。

 

どうなってんだこの学校は、裏でアイドルの育成でもやってんじゃないのか?

んじゃ俺もプロデュースしてくれよ、青春アミーゴ。そっちかー。

 

俺と一瞬目線があったら小走りでこちらへ向かってきた。

一瞬目が合っただけで感知されるとか何?

目と目が合った瞬間好きだと気づいちゃった??それあるっ!…ねーよ。

 

今日はやけに可愛い女子に話しかけられる日だな。まぁ嬉しっちゃ嬉しいけれど。

 

「あのっ、比企谷君ですか?」

 

「そう…ですけど、2年生が俺になんか用すか?」

 

「ちょっと来てもらっていいかな?ここじゃ少し喋りにくいし」

 

彼女が少し周りを見て困った様な表情をする。

俺も周りを見渡すと確かにさっきまで注目を集めていた可愛い女子がこんな冴えない野郎にしゃべりかけているのだ、そりゃ注目されてもおかしくはない。

 

「まぁ、いいっすけれど…」

 

「それじゃこっちこっち〜!」

 

連れてこられたのはどうやら購買近くの中庭だ。

下校時間なので中庭に生徒は疎らだった。

話すには丁度良い場所だと思う。

 

駆動音にしてはやけにでかい音を立てている故障一歩手前の自販機でスポルトップと男のカフェオレを購入し、近くの座れる段差に腰掛ける。

 

目の前の2年生女子もその隣に腰掛ける。

これでようやく話ができるステージが整ったと言うわけだ。

 

「すみません、先にお名前聞いて良いっすか?ちょっと初対面なんで」

 

「あぁーっ!ごめんねっ!そういえば名乗るの忘れてた〜、私、由比ヶ浜結衣です。

 2年生だよ」

 

「由比ヶ浜先輩っすね、俺比企谷八幡っす」

 

「うんっ、よろしくねっ!」

 

「とりあえず、これどぞ」

 

「あっ、ありがと〜」

 

俺が先ほどのカフェオレを手渡し、由比ヶ浜先輩がお金を払おうとしたが、俺はそれを制した。

 

「気にしないでいいっすよ。俺が勝手に買ってきたんで」

 

「そんな事は無いよー。ありがと」

 

そう言って彼女は俺の手に100円玉を置いた。

まぁ、特に遠慮する必要も無いしもらえる物はもらっておこう。

 

「早々でなんなんですけれど由比ヶ浜先輩の話ってなんですかね?俺、先輩と関わりがあった訳でもないんすけれど」

 

「えっとね…」

 

そう言って由比ヶ浜先輩は立ち上がり俺の前に立ち腰を深々折り、頭を下げた。

 

「あの時サブレ…私の飼い犬ね!救ってくれてありがとうっ!あと…」

 

由比ヶ浜先輩は続けて口を開く。

その声色は重く、低い声はとても悲しそうだった。

 

「あなたの大切な時間を止めちゃってごめんなさい…」

 

いきなりの謝罪だったが話の内容を察するに1年前のあの犬の飼い主が由比ヶ浜先輩だったという事だろう。

 

確かに俺は本来、由比ヶ浜先輩達と同じ学年になるはずだった。

しかし交通事故により1年というブランクができてしまった。

由比ヶ浜先輩のその事故のきっかけを作ったことに対する罪悪感は計り知れないだろう。

 

しかし当の本人の俺はと言うと、長い春休みからようやく抜けたと言う感じだ。

運良くクラスメイトと顔合わせをする前に事故っているので、2年生は俺の存在を知らないし、知り合いが居る訳でもない。

結論、学年が1つ違う以外何も気負いする必要が無いのだ。

 

「確かに事故は起きた、でももう過ぎたことっすよ。それに不幸中の幸いで、クラスメイトと顔合わせする前の事故だったんで、2年生に俺の顔知っている奴らいないと思うんすよね」

 

「そうだけどっ!」

 

「由比ヶ浜先輩は気負いしすぎっすよ。俺は怒ってすらいないです。…と言う事は由比ヶ浜先輩が気に病む必要がないと言うわけっす。これでこの話は終わるんですよ。ハッピーエンドっす」

 

さっきからやたらっすが多いな、なんでも語尾にっす付けたら後輩キャラなると思ったら大間違いだぞ!

 

「あははー…比企谷君は優しいね」

 

由比ヶ浜先輩は自責の念が緩くなったのか、淡く笑みを浮かべたその表情はとても魅力的で照れが生まれ言葉を詰まらせて目を背けてしまった。

 

「ならさ、私と友達にならない?」

 

「へ?」

 

唐突な提案に素っ頓狂な声を上げてしまった。恥ずかしい。

 

なんかこの展開…前にも同じ感じな奴無かった?

なに大胆な告白は女の子の特権ですとでも言うのか?

会話の脈略完全無視でいきなり友達要求とか『あなたとお友達になりたい』って

俺だけが見えない自己紹介ボード掲げてるの?

何それ怖い。

 

「いきなりっすね」

 

「まぁ、これもひとつの縁っていうかなんていうか。ヒッキー喋っててちょっと面白いかなって?」

 

 

そう言われると悪い気はしないが、関係の消費期限理論が頭をよぎる。しかし定期的に会わなければ問題は無い。その理由はもちろんある。

 

友達になったとして、結局は学年の壁に阻まれるわけだ、早々関わりがもてず最終的に友達から知り合いへ、そして伝説へ。あれ?概念になるのかな?僕と契約してお友達になってよ。

関わる度に魂が汚れていく友達とかどうなのよ?闇落ち必須ですね。

 

ってかヒッキーってなんやねん、引きこもりちゃうで。

やべぇ怒りで口調が関西弁になってしまった。関西弁警察に○されっぞ!?

 

「別に良いっすけれど」

 

まぁ1年と2年とじゃそこまで頻繁に関わる事は無いだろう。

とりあえず友達になっておきましたーと体よく言っておいて

時間が友達であった事すら忘れさせてくれる。

ソースは俺。忘れられた側だけどな。

 

「それじゃ私1年の教室に遊びに行くね」

 

由比ヶ浜先輩のその提案をのむことに迷った。

2年が1年の教室に良く来るのもその逆も正直教室全体を刺激し、注目を集めてしまう。

あまりやりたくはない。となると俺が出せる折衷案はこうだ。

 

「2年生が1年生の教室に行くのはちょっと注目集めちまうんで、たまに昼休み適当にご飯食べながら喋れば良いんじゃないすかね?携帯とかで連絡し合えば問題ないですし」

 

「それあり!ヒッキーって頭良いねっ!」

 

「ひ、ヒッキー…?」

 

「そう!比企谷君のあだ名っ!私も別に先輩呼びじゃないくても良いよ〜、タメ口で大丈夫!歳は同じだしねっ!」

 

ヒッキーって引きこもりみたいだろやめろよ。

確かに1年病院と家に引きこもっていたけれどそれでヒッキーとか…それあるっ!

 

「まぁ…分かりま…分かった。ゆ、由比ヶ浜」

 

「うん、宜しくねヒッキー!あっ、連絡先交換しよ」

 

終始、由比ヶ浜先輩のペースに乗せられた様な感じだったが、とりあえず、自責の念を取っ払えて良かった。ただなんか距離が近いなこの人、自分が可愛いって自覚あるのかな?

まぁ自然に接してくれる分やりやすいと言うか何というか。あまり頭を使わなくて良い。

…あっ、誰かさんへの皮肉とかじゃないよ?

 

「すいませ…すまん。俺、連絡先の登録のしかた疎くて」

 

だっていままでアドレス帳にのってるのって三件だけだしね。

そりゃ疎くて当たり前。赤外線のやり方も分からない。え?今時QRコード?

LINE?あれでしょ、相手のアカウント奪い合うゲーム。奪ったアカウントで電子マネー買ってもらえるんでしょ。

 

「そっか、私慣れてるからちょっと貸して〜っ」

 

おもむろに携帯を取り出し、由比ヶ浜に渡す。

由比ヶ浜は手慣れた操作で番号を登録してくれる。

 

「はい、ヒッキー」

 

登録し終えた携帯をまた俺に返される。

お父さん、お母さん、小町以外の女の子のアドレスが初めて携帯に入ったよ。

八幡頑張った。

 

「うす」

 

「今日は突然現れてごめんね。でもすぐにでも謝りたかったの…」

 

「…いや、気にしてくれてありがとう」

 

「それじゃ、そろそろ私行くねっ!今日はありがとう、ヒッキー!」

 

満面の笑みを浮かべ、由比ヶ浜は小走りに去って行った。

 

遠くなる由比ヶ浜の背中を見つめ中庭に残された俺は考える。

連絡先にのっている名前を確認する。

 

『由比ヶ浜結衣』きっと1年近く自分のした事に自責の念を抱えていた。

交通事故がもっと軽微なものだったら、もっと違う出会い方をしただろう。

だが今の彼女はそれから解き放たれた、これからきっと彼女はさらに魅力的になる。

 

彼女の人生の中で1度くらい登場人物として名前が出たのは悪い気はしない。

しかし今後は、モブとして名前のない一役者として見られる事だろう。

なぜなら俺は彼女の不安を解決してしまったのだから。

何かしらの興味が無いと人は他人を判別しない。

 

今まで、自分が交通事故を引き起こしてしまったという自負の念が存在し、俺への謝りたい、自分の劣勢である現状を変えたいという気持ちが強制的に俺に興味を持つよう働きかけ動いたのだろう。

それを解決してしまった今、その興味が消え失せたと言える。

 

彼女を支えるのは俺ではなく彼女と同じ魅力を持っている誰かだ。

期待は捨てた、俺は主人公では無いのだから。

 

ズズズ…とスポルトップが中身を失った音が聞こえる。

これ人がいる前で鳴ると若干恥ずかしかったりする。

でかく鳴るとどんだけ吸引力ツエーのよってなる。

吸引力のかわらないただ1つの八幡。

それ以上いたらドッペルゲンガーだからね?

 

立ち上がり、飲み終えたスポルトップをゴミ箱に捨て、俺も駐輪場へと歩き出すのだった。


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