傾いた日は橙色に辺りを染め、1日がグランドフィナーレに向けて進んでいいることに視覚を持って思い出させ哀愁という感情を呼び起こす。
しかしそんな哀愁の感情も夏の気温ですぐに引っ込んでしまう。
気を紛らわせようと適当にダウンロードしてあまりやってないソシャゲを起動させる。
こんなピコピコやってねぇで早くお家に帰ってクーラーに当たって小町とゲームしたい。
そんな事を考えながら校門で待つ。
「お待たせヒッキー」
小走りでやってきた由比ヶ浜の姿を目にしていじっていたソシャゲを閉じ由比ヶ浜へと視線を向ける。
「うっす、とりあえずどうすんだ?」
「とりあえず駅前のカフェに行かない?」
「おう」
そうやって俺たちは歩き出した所から別の方向から声をかけられる
「あれ? 先輩じゃないですか、今帰りですか?」
「おう、矢向じゃねぇか」
「あっゆーなちゃんだ〜、やっはろ〜」
えっ由比ヶ浜よ、それは万国共通の挨拶なの?
矢向もそれで返すのん??
「由比ヶ浜先輩、どうもです〜」
よかった、そうでもないようだ。
もし万国共通だとしたら俺は世界線移動を観測したことになるからな。
危うく歴史に名を刻むところだったな。エル・プサイ・コングルゥ
「由比ヶ浜先輩達はどちらに? っというかもう聞くまでもないですね〜。まさか由比ヶ浜先輩と逢い引きしてるなんて先輩もやりますね〜」
「ちょっ!? ゆーなちゃん。私たちそんな関係じゃないからね! 勘違いしないでね」
なんでそんなに必死に否定するの由比ヶ浜? そこまで否定されるとなんか悲しくなっちゃうだろ。
「本当に本当に私の命かかわってるからね?」
由比ヶ浜? それって一緒にいること自体が死ぬほど嫌って俺に間接的に伝えてる??
えっ今日なんで呼ばれたの? 罵倒されるため??
「わ、わかりました。わかりましたから。なんかごめんなさい……」
由比ヶ浜の必死の訴えに矢向がドン引きしている。
なんかその様子が新鮮だ。
「ちなみにホントにそう言った話じゃなくて真面目な話でさ……」
そうだったんだ。
いや、期末テスト全種目赤点確定だよ〜っていう愚痴を聞かされるかと思ったんだがそれは杞憂な心配だったようだ。
「そうだったんですか、すいませんそれじゃ邪魔しちゃいましたね」
「うぅん、こっちこそごめんね、ゆーなちゃん」
「いえいえ、それでは先輩、由比ヶ浜先輩、また明日」
そう言い残し矢向は俺たちの前で一礼し去って行った。
「真面目な話だったのか」
「うん、小町ちゃんのことで進展合ったから」
なるほど、小町関連か……
……えっ、俺小町から何も聞いてないんだけど、なに? 除け者? ってか文通の仲介を1往復しかやってないのにどうしたの?
慣れてるけど小町にそれをされるとお兄ちゃん耐えきれずむせび泣いちゃうよ?
そんな複雑な心境を抱えながら俺と由比ヶ浜は口数少なく目的地へ向かうのだった。
***
夕暮れ時の駅前というのはそこそこ騒がしい。
会社で何があったのかはわからないが放心状態でベンチに座るくたびれたサラリーマン。
駅前でカップ酒を開けているおじいちゃん。旦那の悪口に花を咲かせる主婦達。
手を繋ぎ口数少ないが雰囲気がくっそ甘ったるい初々しくカップル。
まぁなんだろ色んな人がいるなぁ……
「結構待つな」
「そうだねー、この時間だしね」
ちょうど夕暮れ時で、駅前は夕飯の準備をする主婦達や学校帰りに買い食い目的で寄った学生達がひしめいている訳で、つまりは行こうと思っていたカフェが満席で待っている訳だ。
まぁ俺の会話スキルは高い方でも無い。
相手が喋ったらそれに合わせて喋る程度だ。由比ヶ浜は携帯をいじって俺以外の誰かと会話をしている。ちょっと優先順位おかしいとかそんな事は考えてはならない。泣きたくなるから。
なので当然俺は周りの人間観察に精を入れるということだ。
すると3人くらいのうちの女子がクレープ片手に喋りながら駅へと向かっている様子が見て取れた。
ただ3人の会話がやけに大きく、会話の内容が不可抗力で聞こえてくるわけだ
「今日うちさー実はバイトだったんだよねー」
「えー、そうなの? それじゃこれから行く系?」
「ううん、めんどくさいから変わりの人にお願いしちゃったんだよね〜」
「まじで? その人めっちゃいい人じゃん」
「でしょー! まじでゆっこ達と遊べるのその人のおかげ! 超リスペクトじゃね」
「超リスペクトマジウケるー、絶対思ってないっしょ〜」
なんだこの偏差値の底辺を垣間見たかのような会話内容は……
そんな会話を繰り広げつつ彼女たちは駅へと向かっていき、会話も段々と聞こえなくなっていった。
「ヒッキー順番回ってきたよー」
そう言って由比ヶ浜は俺に手招きをする。
「おぅ、今行くわ」
店員について行き、店内に案内される。
丁度2名の席に案内され対面に座る。
「へへへ〜、なんかデートしてるみたいだね」
由比ヶ浜が少し照れながらそんな事を呟く。
さっき命かかっているとか言ってなかったか?
「んな訳ねぇだろ。ほれ、結局何の用だよ。小町と何があった? もったいぶりやがって」
俺の中では道中にある程度の内容の把握をしてこの場で解決案を出そうとしたのだが、由比ヶ浜がどうも口を開こうとしなかったのだ。
「うん、ヒッキーからもらった手紙の中に連絡先が入っててさそっちでやりとりしてたんだ」
「せっかくの文通は1往復で終了かよ」
「でも、きっかけは掴めたよ。ありがとうヒッキー」
そうお礼を言われるのは……悪くないな。うん。
「んで? どうなったんだそっから」
「何だろうね。ヒッキーのことばかりが話題になる」
小町ちゃん? ……君はどんだけお兄ちゃん大好きなんだろうね。俺も大好きだぞ。
「うわぁ……」
何かと由比ヶ浜をみると「なにこいつめちゃくちゃ気持ち悪い表情してて関わりたくないんですけど……」って表情をしていて無言の暴力を俺に突き立てる。最近そんな器用なこともできるようになったんだね。なにの下先輩からよけいなこと学ばなくていいからな??
咳払いをしていったん状況のリセットを図り、俺は今後どうしていく予定なのかと由比ヶ浜に話しかけると、不安で歯切れの悪いことばが耳に入る。
「今度……一度……会って話してみようかなってー……思ってー……ましてー」
由比ヶ浜のしゃべる声が徐々に小さくなっていく所をみると予定なのだなと確信させた。
「それは小町には言ってるのか?」
「それが……送信直前で躊躇しちゃって送れてないんだよね……それで返信こなくなるのが怖くて……」
あーわかるわかる。
俺の友達の友達の話だが、好きな子にどこか遊びに行かない? ってメールを三日三晩考えた内容で送ったら夏休み最終日の夜にごめん寝てたってメールが帰ってきた事あるから。
まじで、夏休み中ずっと寝てたのかよってツッコミ送って以来返信帰ってくることなかったけどな。
「だからさヒッキー、私小町ちゃんと会う口実を作りたいなぁーって……駄目……かな?」
口実っつったってどうすんだよそれ。
うーん……どうするか、今の時期何かしら口実として組み込めるイベントは……
そう思考を巡らせたら、案の定近い所に答えはあった。
「……夏祭りとか」
「あ〜!! それだ! それそれー! それだよヒッキー!」
なにがそれだよ。
あんな人混みの多いところに自分からすすんで行きたくねぇわ。
「俺めっちゃいきたくねぇんだけど……」
「なんで?」
「いや、人ごみとかめんどくせぇし」
「へぇー、小町ちゃんの浴衣姿と一緒にお祭りに行く思い出はそれに劣るの?」
なんだ由比ヶ浜
「なにがいいたい?」
「いやーなんだろうなー、あれだけ断る理由に小町ちゃん言ってるくせにぜんぜん小町ちゃんの事考えてないなーとか思ってないよ?」
ほぅ、挑戦的な態度をとるようになったな由比ヶ浜よ。この小町を愛し、小町に愛された(自称)男、比企谷八幡だぞ。やすい挑発に乗る訳ねぇだろ。なめるな。
「あ? なにいってんだよ、当然いくに決まってんだろ」
「ならきまり! そういう風に連絡しとくね! これなら送れそうだよ! ありがとねヒッキー」
ふっ、ふん、挑発に乗せられたわけではないんだからね。
「代わりにちょぅっとだけびっくりさせるからね」
「ほぅ、おもしれぇじゃねぇか。なにやんだ?」
「まあ、当日のお楽しみってことで」
そう言ってべっと舌をだし、いたずらに笑った。
その表情に俺は少し驚いた。
由比ヶ浜は今まで俺と会う時は一歩引いた感じで接していた訳で、どうやらようやく俺とこいつは対等になれるんだなと嬉しい気持ちになり、この3ヶ月はむだでなかったってことだと思いを湧かせた。
「さてとー、話も終わったことだし、何食べよっか?」
「テキトーでいいだろ。おっ、マッ缶あんじゃん」
そう言って俺たちはカフェで小一時間ほどの時間を過ごすことになった。