やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#19-3

 由比ヶ浜とは結局今回の期末試験の愚痴をメチャクチャ言われ続けまさかこんなに遅くなるとは思わなかった。女子ってこんなに長い時間喋ってるの? リア充って喋るネタそんなに豊富なの?

 

 日はすでに落ち、暗くなり、街灯が照らす道のりを歩き終えようやくサンクチュアリの我が家へ戻ってきた。

 

 すでにもう小町は帰ってきているみたいで外窓にかかるカーテンの隙間から漏れる光がそれを認識させた。

 

「ただいまー」

 

 玄関を開けるとなぜかカマクラが小町の靴の上で座っていた。なんだこいつ?

 今日は秀吉の気分なのか? 季節外れなんだがなぁ……冬にやれよ。

 

 この猫何してんだかとフッと鼻で笑ってしまう。

 しかしそんな一瞬の隙を突かれた。

 タッとスタートダッシュを切るかのように目に追えぬ素早い動きで俺を一直線で過ぎ去り空きっぱなしの玄関を抜けていった。

 

 おいおい雷の呼吸かよ? まじかよ……

 

「おかえりーおにぃちゃんー」

 

 リビングから聞こえてくる小町の声

 

「すまん小町、鬼ぃちゃん霹靂一閃くらったわ」

 

 今起きたことを興奮気味に小町に伝えてみる。

 

「ごめんおにぃちゃんー、何言ってるか全然わからない」

 

 小町に首ったけって事だ。言わせんな恥ずかしい。

 ……ごめん、俺も何言ってるかわかんねぇや。

 

「カマクラが脱走した」

 

「えー!! ちょっと捕まえてきてよー」

 

 ですよねー。

 

「おう、そうする」

 

「んー……ちょっと待って〜」

 

 そういって小町がこちらに向かってくる音が床をつたい聞こえてくる。

 

 姿を現した部屋着に着替えていた小町の手には猫まっしぐらのちゅ〜るが握られていた。

 

「カー君の大好物だからこれ振って呼んだら帰ってくるよ」

 

 これあれだよね、『カー君どこー、大好物のちゅ〜るあるよー』ってご近所様に聞こえるように叫びながら探せって言ってるよね。

 

「お、おぅ、分かった」

 

「それじゃあよろしく〜」

 

 そう言って小町はまたリビングにもどっていった。

 手伝ってくれてもよくね? まぁ逃がした俺が悪いんだが。

 

 それからどれだけ探しただろう。小一時間は探していたと思う。

 辺りも大分暗かったからさすがに見切りを付けて帰る事にした。

 

 隣の家のお兄さんから「大変だね。猫は見てないけれどこれ食べて頑張ってね」とプロテインバーを貰った。おれもまっしぐらだ

 

 結局カマクラは見つからず、小町になんと言い訳すればいいのだろうと思って家に帰ったらカマクラの野郎玄関の前で座ってやがった。

 

 無駄な労力を使わせやがってと嘆息をつき玄関を開けた。

『ご苦労』と言わんばかりにカマクラは開いた玄関へと入っていった。

 

 カマクラの足音を確認できたのか、玄関の音で認識したのかは知らないが、小町がまたリビングから声を上げる。

 

「あっおかえりーおにぃちゃん。カー君大丈夫だった?」

 

 おれも靴を脱ぎながらその問に答える。

 

「うぃ、ただいま。自分で帰ってきてやがったよ。無駄な労力使わせやがって」

 

「そんな事ないよ? 小町カー君が車に轢かれたら立ち直れる気がしないからね」

 

 それは小町に限らず俺もだわ。

 なんだかんだ言ってもう家族の一員だしな。

 カマクラが病気かかったときとか気が気じゃ無かったからな。

 あの時、学校サボって必死こいて動物病院探して電話してチャリで全力疾走したっけか。

 それくらいは必死にはなれる奴だ。

 

 そんな事を思い返しながら靴を脱いでリビングに向かうと小町がどうやら夕食の準備をしていた。カマクラは『餌はまだか』という表情で餌皿の前で待機していた。

 

 仕方ないからちゅ〜るを目の前で振るといつもは近寄らない癖してこういう時だけ可愛い声で『ニャ〜(ハート)』って鳴いてボディータッチが頻繁になる。

 お前オスだろが。なにオタサーの姫化してんだよ。

 

 ちゅ〜るを舐めさせながらかまくらを撫でる。久し振りに撫でたらふわっふわだなこいつ。

 

「脱走防止の柵でも買うか?」

 

「前に買ってみて軽々と飛び越えちゃって全然使えなかったの忘れた?」

 

「……そうだったな完全に忘れてたわ」

 

 そんな事を考えていると、カマクラはちゅ〜るに満足したのか俺から離れてまた餌場へと戻っていった。

 こいつどんだけ食うんだよ。

 

「ほらーカー君ご飯だよー」

 

 そう言って小町が猫まっしぐらの缶詰を開けて餌皿に乗せ、それをすぐさまガツガツとカマクラは食べている。

 小町はそんなカマクラをひとなでしてまた調理に戻る。

 そんな光景を見て人はこう思うだろう。

 

 猫触った手、洗った??

 

 ちなみにちゃんと洗ってた。

 さすが小町ちゃん! 略してさすこま、にこたまの親戚かな?

 

「おにぃちゃん、そろそろご飯できるから食器用意して〜」

 

 そう台所でフライパンを揺らしている小町がいう。

 

 俺が食器を出し終わったらすぐに小町が盛り付けを始めた。

 どうやらちょうど良いタイミングで食器を出し終わったようだ。

 

 互いに頂きますと言い。食事にありつく。

 まぁうまい。

 

「そういえばさ」

 

「あぁ、どうした?」

 

 期末どうだったとか聞かれるのか? 多分数学赤点だろって話になるんだけれど。

 

「由比ヶ浜さんから夏祭り行かないって誘われた、どうせならおにぃちゃんも一緒にどうかなって言われたんだけど」

 

 決めた後の行動力はえぇな由比ヶ浜。

 まぁ俺も俺の仕事をしますか。

 

「いいんじゃね。2人で気まずいなら付き合うぜ?」

 

「……うん、お願い」

 

「おぅ任せとけ。小町の浴衣、期待しとくわ」

 

「ちょっ……普段着で行くつもりだったのにハードルあげないで。着付け面倒くさいんだよ?」

 

「んだよ。駄目か?」

 

「もぅ……しょうがないなぁ……」

 

 小町の発言に昔はやった『しょうがないにゃぁ……』という文言を思い出し、天使のような寛容さに八幡的にポイントストップ高だ。

 

 それから微妙な空気になりつつも食事を終え俺は自室へと移動した。

 座り込むと無意識に嘆息を吐いている事に気がついた。

 その理由もなんとなくわかっている。

 

 ……誘いを断ることもできたはずだ。

 

 それを俺と一緒に行くって事で承諾するということは小町の心境も徐々に変わっていってるのだろう。

 

 これは由比ヶ浜が例え蔑まれようとも距離を置かれようともそれでも関わり続けた結果だ。

 俺を見つけ不器用ながらも謝罪し、小町にも謝ろうと奉仕部を頼り文通とお菓子を作り関わりを作りそして今に至る。

 

 以前俺は由比ヶ浜結衣とは形式上のみの友達になると評価した。

 しかしそれは俺も見当違いの上辺だけしか見てなかったクソ野郎であると猛省せざるえない。

 

 もし俺がそんな場面に直面したのであったら関わる事はせず、ずっと目をそらし続けていただろう。時間がいつか解決してくれるという便利な言葉を盾に、関わらない様に視界に入らないように隅に隠れてやり過ごすだろう。

 

 それなのに由比ヶ浜結衣はとうとうここまで来た。

 まだ結果は出ておらず、早とちりと言えば反論の余地も無い。しかし俺は由比ヶ浜結衣が俺たち兄妹との関係を修復したいという信念に偽りはなく、その思いは本物だ。

 

 その信念に、その思いに俺は……俺は彼女を尊敬した。

 

 

 ***

 

 

 奉仕部の部室で今日は特に依頼という依頼は来ず俺は適当な文庫本を読み、由比ヶ浜と雪ノ下先輩はなにやら雑誌を一緒に見てこれ良いね、あれ可愛いとか様々な話題を話ながら百合百合しい雰囲気を展開している。

 

 最近この2人の距離がやけに近いんですが、なんだろう本当にそうなのだろうかと疑心暗鬼になる。

 

 そんな今日もマッタリな雰囲気な奉仕部にノックの音が響く。

 その音と同時に由比ヶ浜は離れ自分の椅子に座る。

 雪ノ下先輩が一呼吸置いた後に「どうぞ」と引き戸に向け言葉を発す。

 

「どもです〜、結衣先輩、雪ノ下先輩」

 

 聞き覚えのある可愛げのある声が聞こえる、同時に姿を現したくりっとした目と亜麻色の髪が特徴的な小柄な女子が入ってきた。

 

「あら、一色さん」

 

「いろはちゃんだ〜、最近来なかったからどうしたのかと思ったよ〜」

 

「いえいえ、最近部活が大忙しで〜、夏の大会とかもあるし大変ですよ〜」

 

「おぅ」

 

「そうそう、せんぱい。これ返そうと思って〜」

 

 そう言って紙袋を俺の前に持ってきた。

 結構冊数があった筈なんだがな。

 

「まじか、普通に重かっただろ」

 

「そうですね〜。でもそろそろ返さないとと思って、ありがとうございました」

 

 そう言って一礼すると一色はそのまま入ってきた扉へと歩き出した。

 

「えっ、いろはちゃん。もう行っちゃうの?」

 

 由比ヶ浜がそんなことを言うと振り返り「えへへ〜、結衣先輩また今度!」と言ってそのまま部室から去って行った。

 

 一色いろはについては一度来たら3時間から部活終了まで居座る事がよくあったが、今回のこの瞬間的にそのまま帰るって事はやはり部活が忙しいのだろうか。

 あいつにとって今のサッカー部はそんなにやりがいを求めるところだったっか?

 いやあいつは葉山先輩に近づく名目でサッカー部に入ったはずなんだが……

 一体どうしたのだろうか。

 

 最近あまり喋ってねぇな、喋ったとしてもすぐに会話が終わり、どっかに行ってしまう。……なんだろうか、さびし……

 

 その瞬間、俺は自分が何を考えているのかと焦り理性を呼び起こした。

 

 

 

 

 ————ヤメロ

 

 

 

 

 その考えは危険だ比企谷八幡。

 一色には一色の予定という物がありそれを俺が拘束する事などまずあってはならない。

 その予定が本当だろうと噓であろうと俺との関わりを善とするか悪とするかの判断は相手が決める事だ。

 それは中学で幾度となく体験したはずだ。

 現実は残酷でいつも最悪の結果ばかりを俺に割り振ってくる。

 だからこそ現実は最悪を想定しろと学んだはずだ。

 

 しかし、一色いろはは俺によく話しかける女子であり、俺の人生の中で1番よく喋っている女子だ。何か理由があるのかも知れない。

 

 その理由を聞くのにまた途方も無い時間を使うのか? いい加減学習しろ。それを確認するのにお前は直接相手に伝えられる根性を持っている奴では無いだろ。

 過去に囚われるな。昔仲が良かったって結局は赤の他人だ。

 相手の感情は不確定で、いつ相手の都合で自分が切り捨てられるか分からない。

 だからこそ俺はボッチである事を望むのだ。アンコントロールを徹底的に排除しないと。また俺は……

 

「ヒッキー??」

 

 っふと由比ヶ浜の言葉が耳に入る。

 

「どうしたの?? 気分悪い??」

 

「あーいや。そうじゃなくてな、ちょっと考え事してただけだ」

 

「……そうなんだ」

 

 そう言い終えると由比ヶ浜は帰り支度を始めた。

 

「ごめんゆきのん、ヒッキー。今日ちょっと用事ができたから先に帰るね!」

 

 その言葉に俺も雪ノ下先輩も目を丸める。

 

「えっ、由比ヶ浜さん!?」

 

「ゆきのんごめん〜! 今度タピオカミルクティー行こうね! それじゃ!」

 

 まさに風の如し、唐突にサッといなくなった由比ヶ浜を俺と雪ノ下先輩はぽかんとした口を開きながら見送るのであった。

 

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