やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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今回で夏休み前の語りは全て終了させたかったので
分割はせずに一気に投下します。

ボリュームが多くりましたがお楽しみ頂けたら幸いです。


#20

 喧騒としている教室でのNowでHotな話題はまだまだ夏休みどこに行くの話題のようだ。

 この話題をかき集めて有料サイト作ると意外と売れるんじゃないかと思う。

 

 主にお猿さん達には絶大な支持が得られるだろう。

 まぁやらねぇけどな。

 

 無論俺はそんなNowでHotで夏を刺激する会話ができる相手がいない訳だ。

 そしてそんな話題すらも持ち合わせていときた。

 妖精さんか生足が魅惑のマーメイドさんが全部持って行ったんだとおもう。

 

 ……生足??

 

 俺は何を言っているんだろう。

 マーメイドに足ねぇだろ。

 

 尾ビレのことだよな? 刺身にしたら美味しいって事で魅惑って事か。

 なるほど、一気にカニバリズム感が出てきたな。

 この思考は危険だ、犯罪係数を上げてしまう。

 

 まぁそんなわけで、机に伏して様子を伺っている訳だ。

 決して狸寝入りではない。

 

「てかさー、ねぇ〜今日カラオケ行かない?」

 

 最近どうも俺の隣に陣を構えはじめた矢向グループがまた何かお喋りを始めた。

 

「ムー大だったらワンチャンある」

 

 またロックな所にワンチャン感じちゃったなぁ。

 

「ムー大?? まぁあっちもカラオケあるしね。プリ撮った後にカラオケならあり」

 

「カラオケは俺後で向かうわ。ダンレボしたいから」

 

「あんたそれ好きだよね。なにが面白いのかまったくわかんない」

 

「超極端にいえばダイエット」

 

「急激に興味が湧いた」

 

 そんな談笑が溢れ、さらに会話は流れていく。

 

「ってかさー、ゆーなも今日は家の手伝い休みだよね。いっしょにいこー?」

 

「うん、今日は休み。行く〜」

 

「俺もプリ参加したい」

 

「あんた、ダンレボはどこいったの?」

 

「ダンレボなんていつでもできんだよ、矢向さんとのツーショットプリとかプライスレスだろ普通」

 

「うわぁ……キモ」

 

「ツーショットは絶対無理だけど、皆でならありかなー」

 

「だよね〜、それじゃ学校終わったらムー大!」

 

 絶対ってつけられている辺りなかなか悲しいな。頑張れ取り巻き。

 

 

 ***

 

 

 今日はやけに読書が捗る。

 

 外からは風が室内に入り込み、留まった夏の暑い空気を外へと逃がし室温を下げてくれる。

 

 そして俺しかいない空間に風でレースカーテンの擦れる音、ページを捲る音、たびたび発せられる俺の独り言と笑い声。なんとも、慎みのある風情だ。

 

 今日は、珍しく俺が部室を開けて待っているという状況だ。

 

 しかしいっこうに来ない、いったいなにやっているのだろう。

 

 そんななか、ノックする音が響く。

 

 ここで依頼人がやってくるとはまたタイミングの良いことだ。

 せっかくだから渋く言ってるか。

 

「どうぞ」

 

 なかなか男気のある渋い声で自分でもほれぼれする。きっと体格の良いダンディな人と認識してくれたに違いない。

 

「えっ……さっきの声……なに?」

 

「わっかんないけどすごいきしょくなかった?」

 

「えー、なんかやだー。ねぇ~、やっぱやめよう?」

 

「ちょっと今日はハズレの日かもね、雪ノ下先輩あんな声絶対出さないもん。変な人いるってあとで平塚先生に伝えとこー?」

 

「うん、そうだね」

 

 それから会話が聞こえなくなったことを確認し、俺は泣いた。ただただ泣いた。男というものは外見で泣いたりはしないんだ。心でしんしんと泣くのだ。しかしなぜだろう……目尻に水たまりができたね。昔行ったあの場所を思い出したからかな? 近くにあるのは川じゃなくて海だけどね。

 

 どうやらこの空間の雰囲気にのめり込むあまり、自分の存在価値を忘れていたようだ。

 慎みのある空間には慎みのある存在感でそこにいよう。

 そしてきっと誰かが気づいてこう言ってくれるだろう。

 本当に八幡はいたんだよって。

 

「あの? 比企谷先輩? なにやってんすか?」

 

 その声に俯いた顔を上げると視界に相模の姿が映った。

 冷静を装いながら水たまりを親指で拭う。

 

「なんだよ相模。お前入るときノックしろよ」

 

「ノックしたんですが反応なかったんですよ!」

 

 なるほど、精神的苦痛を味わうことにより時間をぶっ飛ばす能力を手に入れたのか。すごいぞ八幡、PTSD待ったなしだ!

 

「んで……何の用だ?」

 

「そうそう、今日は比企谷先輩だけですか?」

 

「あぁ、そうだが」

 

「ならちょうど……いえ、依頼したいことがありまして男手が必要なんですよ」

 

 なんで今言い直したのかよく分からなかったが、

 男手が必要となるってことは力仕事系か……さっき精神的ダメージくらったし、体動かしてストレス解消も悪くはない。

 

「まぁ、ある程度なら手伝ってやらんこともない」

 

 以前こいつには結構働いてもらったしな。そう依頼を無下にしたくはない。

 

「比企谷先輩、ほんと助かります。それじゃ部室に移動しましょう」

 

「ん? お前って部活やってたのか?」

 

「そうですよ、遊戯部っていう部活なんですけれどね」

 

「聴き慣れない部活だな」

 

「そりゃそうですよ、部員も俺と秦野の2名ですし」

 

「秦野?」

 

「先輩……同じクラスっすよ……」

 

 

 ***

 

 

 そんなこんな相模と話しながら部室の前に立つ。

 

「それじゃ、比企谷先輩。お願いしますよ」

 

「なにをだよ」

 

「彼女の相手を……です!」

 

 そう言って部室の扉をスライドさせる。

 

「2号ちゃん、おっそ〜い。のりぴ〜おこおこのぷんぷん丸だぞ〜☆」

 

 早速俺はこの依頼を受けた事を後悔した。

 

 おっふ……まったキャラ濃いやつ出てきたな。

 こんなの材木座だけで十分なのに。

 

 入ってきた瞬間にのりぴ〜とかいう味噌ピーの親戚ではなさそうだが、腰まである長い髪とパッツンな前髪。そしてその存在感を圧倒的なものまでに押し上げている健康維持のために運動して30キロくらい痩せればたぶん可愛くなれるんじゃね? 系なふくよかな体格の女子がクッソ甘ったるい声で俺たちを出迎えた。

 

「なぁ相模。こいつが秦野か?」

 

「秦野は途中で飲み物買って来るって行ったっきり帰ってきません。ってか同じクラスです。」

 

「賢明な判断だな」

 

「そのおかげで比企谷先輩が召還されたんですがね」

 

 なる程、秦野って奴はなかなかできる奴だな。俺の絶対許さないリストのゴールドメンバーズに名を残しておこう。もちろん躊躇なく俺を連れてきた相模お前もだ。

 

「へぇ〜、2号ちゃんにしてはぁ〜70点クラスの男子を連れて来るなんてちょ〜いがぁ〜い。ちょ〜っとぉ〜目がキモいのは置いとくとしてぇ〜」

 

 饅頭のような顔の頬に指をあてながらその熱い眼差しで俺の全身を舐め回すかのようにみられるのは結構キツい。

 

 視線の先が俺じゃなくて雪ノ下先輩なら一刀両断しているところだ。

 貴方のそのいやらしい視線でいつ私の貞操が脅かされるか不安で仕方ないわとか言ってきそう。

 

 ってか俺をじろじろと見て値踏みしてんじゃねぇよ。

 点数つけられる側の気持ち考えたことあんのか?

 

 ……案外たけぇじゃねぇか。悪くはない。

 

「2号ちゃんってなんだ? お前クローンなの?」

 

「……姉貴がいるんですよ」

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情で姉相模を言葉にすることからあまり仲はよろしくないご様子で。小町と俺の仲を見習わせてやりたい。

 

 あーなるほど、だから2号ちゃんね。

 その事を知ってるってことは、のりぴ〜はもしかして……

 

「のりぴ〜先輩。とりあえずこれでこのマスの条件はクリアですよね」

 

「うんうん、よくできましたにゃ〜☆ご褒美になでなでしてあげるにゃ(ハート)」

 

「あ、結構です。割とまじで」

 

「んもぅ〜、2号ちゃんはシャイなんだから〜」

 

「え、えぇ。すみません。なんか」

 

 どうやらのりぴ〜先輩は姉相模と同級生っぽそうだ。

 こんなキャラ濃い奴と友達なんて姉相模もなかなか懐が深い奴なのか。

 っていうかはやく依頼終わらせてこの空間から逃げ出したい。

 

「比企谷先輩なにしてんすか、はやくこっち座ってください」

 

 そう言って相模はのりぴ〜先輩との間に椅子を設置しやがった。

 相模? もしかして依頼内容はのりぴ〜先輩とのパーティション役って事かな?

 

「比企谷くんって言うんだ〜へぇ〜」

 

 のりぴ〜先輩の熱の籠もった視線はもう見ないことにして、とりあえずこの2人の前に机4つをつかって目一杯広げられた画用紙、さらにそこに描かれているのは連続した四角形で描かれた道、そしてサイコロそこから導き出される答えはもうわかりきっている

 

「っていうかさなんで双六してんの?」

 

「さっきうちの姉貴が来て用事あるからってのりぴ〜先輩を置いて行ったんですよ」

 

「そうそう〜、みなぴっぴちょっとだけ用事があるから〜って言ったっきり全然帰ってこなくてさ〜」

 

 それどう考えても秦野と同じ考えで切り捨てたんだと思うよ? お気の毒様。

 それにしても全然懐が深い奴ではなかったな姉相模。

 

「待ってる間暇ですし、のりぴ〜先輩トランプとかあまりと得意そうじゃなそうだったのでなんかないか部室を探ってみたら双六を見つけまして」

 

「スゴロクさぁ〜ちょー面白いんだよ〜☆」

 

 相模、お前ほんといい奴だな。俺だろうとのりぴ〜だろうとちゃんと最後まで面倒みてくれるなんてまじでいい奴だな。絶対許せないリストからは外さないが感心したわ。

 

 そんな感動をしながら盤面を覗いてみるとどうも正規品とは思えない品質だ。

 

「これって自作か?」

 

「そうなんですよ。前にいた遊戯部の先輩方々が制作し、置いて行ったものみたいです」

 

 えっ? 遊戯部ってそんな歴史ある部活だったの?

 

「ただ、内容がカオスっていますけれどね」

 

「ふーん」

 

 マス目の内容を確認する。

『アニメキャラのセリフを熱演する(衣装付き)』

『好きな人の物真似をする』

『独身の女教師に結婚はまだですかと尋ねる』

 

 なんだろうあきらかに一つ特定の誰かを狙ってのマスがあるんだが。

 これだけの情報で個人を特定できるなんて世の中って狭いのね。

 

 っていうかそれ尋ねたと同時に◯されるのが目に見えてわかるんだが。

 こいつぁーデンジャラスだぜ。

 

「ふーん」

 

「ふーんじゃなくて、先輩もやるんですよ」

 

 は? こいつ今なんて言った。俺パーティション役じゃなかったのかよ。

 学芸会で数々の木の役を演じて来た俺の助演が光をみると思っていたのに。

 完全に人ごとだと思っていたよ。

 

「言ったじゃないですか、男手が欲しいって」

 

 そう言って相模がさしたマスを見る。

 

『仲間を呼びこのドン引きデンジャラスすごろくに参加させる』

 

 ドン引きとはよく言ったもんだ。既にメンツでドン引きだわ。いやまじでいやだ。

 

「不参加表明したいのだが受付どこよ?」

 

「あれー? 比企谷先輩。僕色々と先輩がアレの時サポートしましたよね? その恩をそろそろ返してもらっても良いですか??」

 

「それは別の機会でもいいだろが、こんな遊びで恩返しする必要はないだろが」

 

「先輩知ってますか? 借りたものには利子が付くんですよ?」

 

 クイッとメガネをあげるその姿はどこぞの闇金の幹部っぽい雰囲気が漂っていた。

 

 こいつ……マジでいい性格してやがる。

 

「あー……もう、はいはい。ただ、真面目に無理なマスはパスな」

 

「そこはみんなで協議の元、折衷案を出すというのがルールみたいですよ」

 

「最初からできないこと前提かよ」

 

「じゃなきゃ俺もやらないですからね」

 

 そりゃそうだな。

 

「それじゃ、比企谷先輩は秦野の奴引き継ぎでさいころ振っちゃってください」

 

 秦野のマスは……一番ビリじゃねぇか。

 ここは6を出したい所。

 

 そう思い俺は6マス目の内容をみる。

 

『前の参加者にデコピンをする』

 

 いいじゃねぇか。中学の頃に桃鉄で鍛え上げたこのさいころの腕をみせるときがきたようだな。

 高速で数字を数えながら目的の目の数字を口にすると同時にボタンを押すと高確率でそれになる。そーら123456

 

 そうして考えながら振ったサイコロは本当に6がでた。

 

 正直でるとは思わなくておれもびっくりだ。

 

「相模お仕置きのお時間だ」

 

 ピピー

 

 耳にささるホイッスルの音が室内に響く。

 

「暴力はダメですぅ~」

 

 どうやらホイッスルを鳴らしたのがのりぴ~先輩のようだ。

 俺は恨めしそうに彼女をみるが、なにを勘違いしたのかウィンクが返ってきた。

 

 ってか、外まで響くから。

 何で持ち歩いてるの?

 

「先輩、早速洗礼を受けましたね」

 

 んだよ、洗礼って

 

「だいたいこういった自作スゴロクによくあるシッペとかデコピンとかタイキックとかって、基本イジメの温床になる可能性があるじゃないですか。なので先代たちはそういったマスには代替え案をこのカードの中から選ぶようにってルールブックを確認すると書いてるんですよ」

 

 そう言って離れた机に百人一首のように並べられたカードを指差して相模は言う。

 

 なんでそういったところだけやけにコンプラ意識したような配慮してんのよ。

 簡単なマスに見せかけたトラップじゃねぇか。

 

 俺は恐る恐る裏返されたカードの一枚をめくる。

 

『名前呼び』

 

「今回は軽傷ですね八幡先輩」

 

「へぇ~へぇ~、八幡ってぇけっこぅー渋い名前してるんだねぇ~☆」

 

 ヤバい……このクレイジーモンスターに本名を知られてしまった。

 俺は今後無事に学校に通えるかしら。

 

「それじゃぁ〜、八幡が終わったからぁ〜次はのりぴ〜の番だぉ」

 

 そう言ってエイッとサイコロを振る、出目は3。

 マスはエアギター演奏だ。

 まぁ、普通だな。

 

「うぇ〜ん、八幡ん〜変なの引いちゃった〜」

 

「かきぴ〜先輩。物は試しなので一度やってみてください」

 

「のりぴ〜は食べ物じゃないよぉ〜? でもぉ~……八幡が食べたいっていうならぁ~……んふ☆」

 

 まずい。一気に緊張感が全身を走る。

 俺は今、人生の分かれ道に来ているようだ、慎重に選択肢を選ばないと詰む。

 

「超絶怒濤のエアギター楽しみにしてます」

 

「八幡がそう言うならちょっと……やってみようかな?」

 

 そう言ってのりぴ〜は立ち上がり少し開けた場所へと移動し……

 

 その体躯を激しく揺らす。しかしそれだけのパフォーマンスだけでなく素早く精密に動く右手の動きと左手のピックをかき鳴らす動きは本当に演奏しているように見えた。

 そしてピックでかき鳴らしたかと思えば途中指引きで弦を叩く様はまじもんのギタリストだった。のりぴ〜先輩の前には確かにギターが存在した。もう音すら聞こえて来るレベルだ。

 その演技風景は先ほど迄のどこかに媚びた表情では無く、演奏を楽しんでいる様にも見えた。

 

 俺たちはとんでもなく衝撃を受けた。

 

「の、のりぴ〜先輩すげぇ」

 

 流石の相模もこれには驚きを隠せない様子。無論俺もそうだ。

 

 演奏が終わった後、残心。

 ふと素に戻ったのりぴ〜先輩に拍手を送る

 すると先程までののりぴ〜先輩のテンションが戻ってきた。

 

「の、のりぴ〜恥ずかしぃ〜」

 

 そう言ってはずかしがり自分の席に戻るのりぴ〜が可愛く思えた。

 

 ……あれ? これってオタサーの姫と同じような現象起きてね?

 危ねぇ危ねぇ。

 

 

「それじゃ次は俺っすね〜」

 

 そう言って相模がサイコロを振る。

 すると出目が4。マスは

 

『魔法少女ももいろあげはのコスプレをする』

 

 ももいろあげはとはあれだ女児向けアニメと思いきや3話あたりからやけに内容がエグくなって来たアニメだが、主人公のあげはの格好はフリッフリのプリティ仕様だ。

 

「協議を申告します」

 

「きゃっか〜」「却下」

 

「ひどっ! なんすか先輩まで!」

 

「いやっ……似合うと思うぞ……」

 

 中性的な顔立ちしてるしな相模。似合うその言葉に嘘はない。

 男の娘には最適だろう。まぁ、戸塚先輩には負けるけどね。

 

 駄目だ駄目だ比企谷八幡、今は妄想力を排除するのだ。

 笑っちゃ駄目だ笑っちゃ駄目だ。

 表情筋の力を抜き、雪ノ下先輩の罵倒の数々を思い出すのだ。

 

 しかしその隙間を狙ってフラッシュバックするフリッフリの衣装を纏った相模の妄想に

 一瞬にして笑いがこみ上げてくる。

 

「大丈夫だよぉ〜、写真も動画も撮らないからっ……ね?」

 

「うぅ〜……わ、わかりました」

 

 流石に先輩の言葉を信用せざる得ないのか相模は渋々とそれを承諾した。

 

 そして着替え、姿を現した相模に速攻で俺は吹き出して、相模の反感を買った。

 のりぴ〜がやっぱりみなぴっぴとそっくりだねぇ〜と親戚のおばさん見たいな事を言った。

 

「2号ちゃんすっごいかぁ〜わぁ〜い〜い〜」

 

 そう言ってのりぴ〜先輩が手鏡を渡す。

 

「これが……俺?」

 

 おい、それフラグだぞ。

 

 どうやらここに新たな魔法少女が誕生した。

 魔法少女さがみん! クラスのみんなには……内緒だよ!

 

 

 

 

 それからどれだけ時間が流れただろう。

 

 

 

 

 相模の女装が切っ掛けになったんだろう。

 それを超えるくらい濃いイベントマスはいくつも存在し、それらを何も恥ずかしがることなく忠実に実行していった。きっと俺達はハイになっていたのだろう。

 

 そして……

 

「ゴール!!」

 

 相模が1位でゴールし、俺がビリとなってこの双六は幕を閉じた。そら最初からビリなんだから奇跡が起こらない限り逆転は無理だろ……

 

「よ、ようやく終わったな……」

 

 思い返すだけで過去の自分を絞め殺したくなるぐらい恥ずかしい。

 何故俺たちはあんな恥ずかし事を躊躇なく実行していたのだろう。

 カラオケで最初の一曲歌ったらあとは恥ずかしくなくなる見たいなそんな感じでハイになっていったのだろう。黒歴史爆誕じゃねぇか。

 しかしそれはここにいる奴ら皆がそれで、俺だけじゃない。

 

 最初はすぐにこいつから遠ざかりたいとすら思ったのりぴ〜にも親近感が芽生え、さがみんと3人、この事は絶対に墓まで持って行くという固い絆が仕上がった。俺たちに幸あれ。

 

 そしてのりぴ〜は力無く席から立ち上がりこう言った。

 

「のりぴ〜さぁ〜? ……今日の事はひとまず忘れようと思うの〜」

 

「同感です……」

 

「俺もそう思う……」

 

 後悔の念に押し潰されそうになる。

 

「でも、これだけは決めよ??」

 

「何をですか?」

 

「これこれ〜」

 

 そういってのりぴ〜先輩が見せたのはルールブックだ。

 そして指を指していた記述はこう記されていた。

 

『1位の人間はビリに対して1つだけ何でも命令ができる』

 

「まじかよ……」

 

「2号ちゃん、ほら八幡に命令しちゃってぇ〜」

 

 おいおい、ここで俺なら未来永劫命令できるように命令するとか言っちゃうぞ。

 

「流石に命令の回数を増やすとか野暮なことは言いませんよ。もう疲れましたし……」

 

 どうやらそこは避けてくれるみたいだ。となると? なんだ?

 

「え〜っと……そのぉ〜、八幡先輩。ちょっと耳を拝借」

 

 もう双六は終わったから八幡呼ばなくていいんだよ? さがみん。

 

『……矢向さんと話すきっかけ作って下さい。』

 

 ……早々に諦めた方がいいぞメガネと口に出そうになったが、まぁ知らない方が良いこともある。

 

 女装したときに爆笑させてもらったし、とりあえず話を通すこと位はやぶさかではない。

 

『あまり、期待すんなよ……』

 

『さすが八幡先輩! 頼りになる!』

 

 いやだから、もう直して良いのよさがみん。

 

「よぉ〜し! 皆もう帰ろぉ〜!」

 

 のりぴ〜先輩の号令と共に俺たちは遊戯部の部室を後にするのだった。

 

 相模が密かにももいろあげはの衣装を鞄の中に詰め込んでいたのを俺は見逃しはしなかった。

 

 クラスのみんなには……内緒だよ!

 大事なことだから心の中で唱えた。

 

 ***

 

 さがみん達と別れた俺は自分の荷物を取りに部室に戻ってきた。

 すると由比ヶ浜と雪ノ下先輩がどうやら部室にいることを紅茶の香りが教えてくれた。

 

「うっす」

 

「あら、比企谷君。遅かったのね」

 

「ヒッキー遅いよーもう部活終わっちゃうよー?」

 

「すまんちょっと変な依頼に捕まってな……」

 

 あれ?

 

 すごい違和感を覚える。なんで2人して俺に視線を合わせようとしないんすかね?

 

 なになに? 比企谷と目線を合わせたら比企谷菌に視線感染するとか言われた?

 登戸の野郎絶対許さんからな。

 

「どしたんすか? 俺なんかしました?」

 

「いえ、そういうことでは無いの。今あなたの顔を見る事がどうしてもできないの」

 

「そうそう……今は無理」

 

 俺の全身から冷や汗が吹き出した。

 ちょっと待って? なんか様子がおかしいぞ?

 もしや? これちょっとまさか!!!??

 

「……どこから聞いてた」

 

「先に言っておくわ。不可抗力よ。部室の外からかなりの音量で丸聞こえだったのよ」

 

 嘘、まじかよ。

 たしかにホイッスルとか奇声とかあげてた記憶が……うっ頭が!!?

 

「しばらく学校休むわ」

 

「待って待って……フー……もう少しで夏休みだし……フーッ、人の噂も四十九日って言うじゃブッ……。皆も休みの間に忘れてくれるよ……フー」

 

 吹き出さないように呼吸法で笑いを外に逃がしながら喋っている由比ヶ浜さん、それもう笑っているからね?

 

「フォローありがとよ由比ヶ浜、一つも心に響かなかったぜ。ちなみに人の噂は

 75日だかんな? 夏休みの倍あるからな」

 

 もしかして由比ヶ浜さん? 夏休み後に教室に行くと噂が学校中に広まっていて、夏休みが終わったら貴様の四十九日だ! 命日は今日! って遠回しに言ってる? 趣味悪すぎるだろ。

 

 それからしばらくして、ようやく俺の顔に慣れたのか雪ノ下先輩が振り返り俺を見ると眉を少し動かした。

 

「こほん。さて、比企谷君も戻ってきたことだし帰りましょうか。由比ヶ浜さん、比企谷君」

 

「うん!」

 

 なんか『行きましょうか助さん格さん』みたいな感じで雪ノ下先輩がそんなことを言うのが少し面白かったが表に出さず、その言葉で俺たちは荷物を持ち部室から出た。

 

 特別棟は傾いた日がおりだす橙色と濃い影の黒二色に染まったコントラストで染まり、今日も1日生きていけたと実感させられる。今日に関しては特にそう思う。

 

 最後に出てきた雪ノ下先輩が部室の鍵を閉める。

 

「由比ヶ浜さん、大変申し訳ないのだけれど、鍵を職員室に返してもらって来ていいかしら? 私は教室に忘れ物があるからそれを取って下校するわ」

 

「うん、いいよー! それじゃーヒッキー、ゆきのんまた明日〜!」

 

 そう言って由比ヶ浜は鍵を受け取りさっそうと去って行った。

 

「んじゃ俺も。また明日」

 

 そう言って校門へ向かおうと踵を返した時

 

「待ちなさい」

 

 雪ノ下先輩に呼び止められた。

 

「……どうしたんですか? 雪ノ下先輩? 他に用事でもありましたっけ?」

 

「あなた最近……らしくないわね」

 

 俺を見透かしたかのような言葉に鼓動が跳ねる。

 振り返り雪ノ下先輩を見る。

 

 先ほどの一切視線を合わせなかった彼女とは違い、真剣に自分の言葉を俺に伝えようとしている事がわかる。

 

「そうですかね? いつもこんな感じなんで」

 

「っそ? マトリョーシカみたいに何重に覆い隠して誤魔化しても本心は満たされないわよ」

 

「……なんでそんなことを言うんですか?」

 

「気づいてないの?」

 

「気づくもなにも何もないですよ」

 

「わかった。なら今はなにも言わない。ただ……あなたのやってる代償行動の代償価は本元に対してほど遠いものよ」

 

 そう言い残し、雪ノ下先輩は染まる廊下に消えていった。

 

 代償行動、確か行動学か心理学かの用語だったよな。

 入院している時にそんな本を読んだことがあったな。

 

 本来の目的を得られない時、その代替に別の行動を取って欲求を叶えるとかそういう話だったよな。

 

 俺が代償行動をしている? どういうことだ。

 俺は俺のしたいように過ごしているだけだ。

 代償の本元がそもそも分からんのに代償行動とはこれはいかに。

 

 そう悶々と考えながら俺は校舎を出る。

 サッカー部はまだ練習して居るようだ。

 確か夏の大会が近いのだったな。練習に精がでる訳だ。

 

 サッカー部の様子を軽く覗き、しばらくして駐輪場へ向かい自転車で帰路につく。

 その道中、矢向さん家のコンビニをみつけそこで自転車を止める。

 

 店内に入り、目的の物を見つける。とりあえず小町の分も買っておくかと考えその商品を2つほど購入するべくレジに向かう。

 

「先輩、どうしたんですか? 心ここにあらず状態ですけど」

 

 レジに立っている矢向に言われハッと我に返った。

 

「あぁ、ちょっとぼーっとしてたな。……ん? ってか矢向、お前今日遊びに行くんじゃなかったのか?」

 

「先輩……やっぱり狸寝入りだったんですねあれ。盗み聞きはよくないですよ」

 

 あっ……、やっちまった。

 今日ダメダメだな俺。

 

「今日、急にバイトが風邪みたいらしくお休みされたのでその補填ですよ」

 

「そうか、オーナーの娘も大変だな」

 

 そんな会話をしながらも商品を袋詰めして俺の前に差し出した。

 

「先輩もお手伝いしてくれるんですか?」

 

「そんな事は一切言ってない。俺はバックレの天才だからな」

 

「うわー。最低だよこの人」

 

 そんな話をしながら矢向が両手をグーで両手を突き出した。

 

「先輩、500円以上買ったのでくじ引きです。知り合い特典で特別に2分の1バージョンで」

 

 何それ本部に怒られない?

 

「そんじゃ……こっち?」

 

 俺は恐る恐る矢向の左手を指定した。

 

 すると矢向の手には手書きで当たりと書かれた紙切れが入っていた。

 

「ぱんぱっかぱーん、大当たりですよ先輩」

 

「何が大当たりなのかわかんねぇがそれ手書きだよね?」

 

「なんと景品は〜……! ゆーなちゃんと夏祭りでーす!」

 

 ……っは?

 

「いやいやいや、何言ってんのお前?」

 

「ちなみに拒否権はありません。返却も受付けません」

 

 何その悪徳商法。せめてクーリングオフくらいは受付けようよ。

 消費者庁コラボさせっぞ。

 

「どうせ先輩暇じゃないですか夏休み」

 

「暇と決めつけるな。俺は色々と忙しいんだ」

 

「私だって夏休み、ずっと遊んで過ごしたかったですけど8月ずっと手伝いなんですからね。せめて7月中には夏祭りくらい行きたいんですよ」

 

 そうか、こいつ家の手伝いでほとんど遊べねぇんだな。

 

「そうか、ならいつものメンツ呼べば良くね」

 

 って同情煽って言質取ろうとしてもそうはいかないぞ。

 

「残念ながら皆お金持ちな様子でハワイやらヨーロッパとか行くみたいですよ……」

 

 ……それ悲しくなるな。

 なるほどな、だからせめて暇を見つけて誰かと夏祭りに行きたい気持ちは分かる。

 ただなぁ……

 

「いや、お前俺といても面白くないぞ? 会話続かんし」

 

「なんだ、そんなことですか」

 

 キョトンとした様子で矢向が言う

 

「そんな事なのか?」

 

「別に会話なんて続かなくて良いんですよ。一緒に楽しい空間にいて、ご飯食べて花火見て思いついたらテキトーに喋って歩いてまた見て回って見て楽しんでできればそれでいいんですよ」

 

「マジか……」

 

「マジです」

 

 困った……断る理由が無くなってしまった。

 

「そういうことなら……わかった」

 

「んふふ〜。ではお代を頂戴しましょうか〜!」

 

「何でだよ」

 

「女の子にここまで語らせておいてタダとは行きませんよ? ちょっとだけ勇気だしたんですからね?」

 

「でたよ守銭奴……ほれ、これでも食って頑張れ」

 

 俺は先ほど購入して袋詰めされた()()()()()()()()()()()()をとりだし矢向に渡す。

 

「んへへ〜、ありがとうございます。これ大好きなんですよね」

 

「わかる、うまいよな」

 

「それじゃこれは、休憩中に頂くことにします。ちょっと冷蔵庫に入れてきますね」

 

 そう言って矢向は一度バックルームに入って戻ってきた時にはなにやら三角錐のポップみたいなのを手にしていた。

 

「そうそう。先輩。このQRコード読み込んでみて下さい」

 

「んあ? どうやって読みこむの?」

 

「読み取りアプリがあれば読みこめますよ。アプリダウンロードして下さいな」

 

 矢向に言われるがまま俺はアプリをダウンロードしてそのQRコードを読み取る。

 

「読み取って出てきた番号とアドレス、私のなんで登録しておいて下さいね」

 

「連絡先の渡し方斬新すぎだろ」

 

 

 ***

 

 

 

 明日からとうとう夏休みが始まる。

 この日に限って俺は遠足を楽しみに待つ子供のように夜楽しみで眠れず寝坊をし、終業式の途中やってきた次第だ。

 

 終業式後、奉仕部の部室に入ると既に雪ノ下先輩と平塚先生がいて、紅茶を啜っていた。

 

「比企谷か、少し邪魔をするぞ。お前らに伝えたい事があったからな」

 

「ふーん、なんですかね?」

 

「話は由比ヶ浜が来てから語ることにしよう。今は雪ノ下が入れた紅茶でも楽しめ」

 

 そう言って平塚先生は俺に紙コップをよこした。

「比企谷君、あなた確か猫舌だったわね。ちょうど温くなってる頃だから多分大丈夫だと思うわ」

 

 前の事なんて無かったかのように雪ノ下先輩は振る舞う。

 

「あざす」

 

 そして紙コップに口をつける。適度に温くなった紅茶を口に含むと

 しっとりとした甘い香りが口の中で広がり鼻孔を抜ける。

 

「また腕を上げたな、雪ノ下」

 

「ありがとうございます」

 

 いつもはマッ缶とかのコーヒー派なのだが、こういう香りをたまに楽しむと言うのも悪くは無い。

 

 そんな事を考えていたらガラッと引き戸を開く音と同時に「やっはろー」とハツラツの声を上げて由比ヶ浜がやってきた。

 

「由比ヶ浜さん、待っていたわ。どうやら顧問の平塚先生よりお話しがあるそうよ」

 

「ふぇ? なんですか?」

 

「まぁ立っているのもなんだろう、適当に座って聞いてくれ」

 

 そう言って、由比ヶ浜も適当な椅子へと腰掛ける。

 

「さて、明日から夏休みだ。そこで私は考えた。奉仕部の夏休みを! 強化合宿をしたいと考えている。っというかもうこれは決定事項だ。異論は認めん」

 

 まーたなんの部活漫画に染化されたのか。

 強化合宿って何を強化するんだよ? 雪ノ下先輩の辛辣な言葉はこれ以上強化する必要無いと思うんだが??

 

「素朴な疑問なのですが、何を強化するというんですか?」

 

「お前達には集団行動に対する強化をはかって貰う」

 

「集団行動って……3名しかいないのに?」

 

「それは問題ない。有志を集めている」

 

「俺当日風邪引く予定なんで休んでいいですか?」

 

「いいわけないだろ。いいな、ちゃんと来いよ? 着拒しても家電に電話するぞ、君の妹すら使ってでもお前の外堀から来るようにしむけるからな」

 

 ちょ、怖い怖い怖い。

 この人が結婚できない理由の片鱗を見たわ。

 

「あのぉ〜……場所って」

 

 恐る恐る由比ヶ浜が手を上げて発言する。

 

「あぁ、そうだったな場所はここだ」

 

 そう言って平塚先生は後ろパンツのポケットに持っていたパンフを広げた

 

「千葉村だ」

 

「まーた遠いところっすね」

 

「せっかく学校の金が使えるのだ。少しは都会を離れ森林浴もありだろ」

 

 そうだな千葉は都会だからな。仕方が無い。千葉は都会、モノレールあるしな。

 

「詳しい日程は追って連絡する。ということで以上だ」

 

 どうやら高校最初の夏休みは面倒ごとが重なるみたいだと

 俺は嘆息をつき、それを受け入れることにした。

 

 

 ***

 

 

 平塚先生の話の後、部活は解散となり、俺は駐輪場に向かう。

 そこで見かけたのはここ最近見ることの無かった亜麻色髪の女子だ。

 ついでに対面しているのは男子……つまり告白場面のそれだ。

 

 ちょっとマジでこんな所で?

 場所考えようぜ……結構観客いんじゃん。

 そう思い俺は気づかれないように物陰に隠れることにした。

 

「あっ、先輩」

 

「よぉ矢向、観戦か?」

 

「違いますよ、私の自転車奥の方なんで通れないんですよ」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「どうします? ポップコーンでも買ってきますか?」

 

「俺チュロス派だわ」

 

「え〜、美味しいのに」

 

 もはや俺たちは映画感覚だ。

 

「い、一色さん。僕とお付き合いして下さい!!」

 

 その言葉と共に観客からはおぉ! と慎ましいながらの歓声が上がる。

 しかし間髪入れず一色の答えはこうだった。

 

「ごめんなさい、他に好きな人がいます」

 

 あぁ〜とどこかの番組の合成音みたいな声が流れると。

 一色は俺たちが見ている観客側に振り返り、気にしない様子でその場を後にした。

 その刹那、俺と目が合った気がした。多分気のせいだろう。

 

 隣を見るとん〜っと背伸びをしている矢向。

 お前結構あるな。どことは言わんけどさ。

 

「さて帰りますか」

 

「そだな」

 

「先輩、帰りうち寄って下さいよ。新作チキン入るんですよ」

 

「お前遠回しに俺をチキンって言ってんの?」

 

「被害妄想が激しいですね。まぁ当たってますけれど」

 

「あたってんのかよ」

 

 そんな雑談をかわしながら矢向を置いて家路へと駆ける。

 

 

 ——————思い返す。

 

 青は夏の色だ。

 しかし俺たちの夏休みはどうやら少し捻くれているようで、

 それは快晴のような爽快な紺碧色でもなく、

 深き想いを貫くような濃藍色でもなく、

 思いがぶつかり合って青だけでなくなってしまった色。

 深藍色の夏休みが始まった。




結構なボリュームあったのですが読んで頂き誠にありがとうございました。

次回より夏休み編突入です。

矢向との夏祭りと千葉村とまた夏祭りと
ん?これリア充の夏休みなんじゃ無いか?
ボッチはどこに消えていったんだろうと考えてしまったのは内緒の話。

夏休み編は2つの視点からお送りできればと思います。
まーた文章量が多くなりますね。
頑張って書いて行こうと思います。

ではまた。
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