やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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いろはす視点


#21-2 こうして彼女達は邂逅する。

 ベッドの上で寝そべって、たまにゴロゴロと転がる。

 

 なんだろう、この夏休みをどう過ごせば良いか分からなくなっている自分がいる。

 予定が無いわけではない。それこそサッカー部の大会のことや、適当に誘えばいつでもやってくるような男子はいくらでも居てすぐに1ヶ月満席御礼の予定を組むことができる。

 私から適当に人を誘えば楽しい夏休みを満喫することができるのだ。

 

 しかしそこまで労力を持ってして心から楽しめるかは多分期待値以下で、その結末を知っているからこそ私の行動しようという意欲を鈍らせる。

 

 そうだ、せんぱいを誘えばと思い携帯を手に取るがそれまでだ。

 私は私と約束したのだ。「私からは連絡はしない」と。

 自ら線引きをしてせんぱいとの距離を自然と開けていく。脱重い女大作戦。

 

 ただ私から何も行動しなくなるとあの人ほんとに何もして来なくなり、

 今までの私の行動はなんだったのだろうと悲しくなってくる。

 流石にムカついたので借りてた本を一式目の前に置いて出て行ってやりました。

 それでせんぱいとの接点がさらに無くなり、自分で自分の首を絞めちゃったんですがね。

 

 最初は今すぐにでもこのルールを終わりにしてせんぱいをおちょくりに行きたかったけれどその先にあるのはただのなれ合いで……進展が見込めなさそうでそれならと我慢できた。

 最近は慣れてきたのかそこまで苦しく感じることは無くなった。

 もしかしたら私はせんぱいに依存していたのかもしれない。

 依存症って怖いなぁ……やばいろは。

 

 あー折角の夏休みが色あせていく。

 せめて夏休み前に予定の10や20をせんぱいと約束するべきだった。

 あの人暇でしょ、クーラー効いた部屋でラノベ読んでるくらいの想像はつく。

 

 夏休み中に絶対家から出ないレアキャラと化した先輩と外で会うのはかなりの低確率だ。

 これは夏休み中は諦めた方がいいかな?

 

 そう思っていた矢先、持っていた携帯が鳴る。

 夏休み前はひっきりなしになっていた携帯だが学校に行かないとそうそうになる事は無くなっていたけど誰かと画面をのぞき込む。

 

「ん??」

 

 せんぱいの妹☆小町ちゃんと表示された着信に私は即座に受電のボタンをスライドさせる。

 

『もしもし?』

 

『あーいろはおねぇちゃん。お久し振りですー小町です』

 

『小町ちゃん、おひさ〜どうかした?』

 

『今日ってこれから時間空いていたりします?』

 

『うん、空いてるよ〜』

 

『実はですね〜、小町が今日急用で外に出なくてはいけなくて〜』

 

『あーそうなんだ。忙しいようだね受験生』

 

『うん、うん、そこでほんとごめんなさい、兄の面倒見てもらいたくて……』

 

 なんと言うことだろう、願ったり叶ったりの申し出では無いか。

 やはり小町ちゃんは兄と違ってできる妹だ。

 

『えっ〜ほんと? わかった〜30分で支度する〜』

 

『えっ、40秒で支度する? いえいえいえ、そんな急がなくても大丈夫ですよ。全然1時間あとで。』

 

 ちょっ、小町ちゃん、聞き間違え?

 そんな事いってまさか近くにせんぱい居ないよね? それじゃ私がすごい会えるの楽しみにしているみたいじゃない。

 

『わかったー近くについたらまた連絡するね』

 

『うん、うん。ではすいませんがお願いします。ありがとうございますー!』

 

 そう言って電話を切る。

 

 私のやる気は先ほどとは比べ物にならないくらい満ちあふれていた。

 

 

 ***

 

 

「ひさしぶりだなぁ〜」

 

 そう言って私が立つのはせんぱい家の前。

 恐る恐るインターホンを鳴らす。

 

 ピンポーン音と共に施錠が外れる音が扉から聞こえた。

 

 扉が勝手に開くと久し振りな小町ちゃんの顔が出てきた。

 

「あ〜、いろはおねぇちゃん。お久し振りですー!」

 

「小町ちゃんおひさ〜元気ー?」

 

「大きな怠け者がいますからね! 元気じゃ無いとやってられませんよ」

 

 そんな雑談を交えながら私はリビングに案内される。

 

 視界にはハーフパンツとTシャツでレースゲームをやっているせんぱいが網膜に映る。

 久し振り過ぎて何を話して良いかわからない。

 

 昔行きつけでよく通っていた店なのにひょんな事からいかなくなり店長とかと遭遇しても何を話して良いかわからずよそよそしくなってしまう。

 今の私はちょうどそんな現象を体現していると思う。

 

「ごめんなさいね。何も出せなくて」

 

「いいよ〜、そんなに気を使わないで」

 

「それじゃ、おにぃちゃん。小町ちょっと出てくるから〜ちゃんとお留守番してるんだよ〜!」

 

「へいへい〜」

 

「いろはおねぇちゃん放置しないように!」

 

「へいへい〜」

 

 この2人を見ていると飽きないなぁ。

 どっちが年上なのやらとほっこりとする。

 

「いろはおねぇちゃん。今日は両親いないんでっ! ねっ! ガッと、バッと、既成事実つくっちゃって大丈夫ですからねっ!」

 

 キャピッ☆とウィンクしながら可愛らしくいってもその言葉の印象は変わらないからね?

 小町ちゃん? あなた本当に中学生ですか? どこでそんな言葉覚えたのやら。

 

「おぃ、小町。さっさと行けよ」

 

「はいはいーいってきまーす」

 

 そう言って小町ちゃんが玄関から出る音が聞こえた。

 急用ってなんだろう。

 

 そして、誰も会話の中心人物がいなくなり、せんぱいがやっているゲームの音のみがリビングに流れる。

 

「……」

 

 だいぶ気まずい。どうしよう? 何から話せば良いかな? 元気とか? それお父さんがよく言う「学校は……どうだ?」と同じで多分3秒くらいで会話が終わる奴。

 

「なぁ、一色……」

 

「は、はいっ!」

 

 

 気まずそうにせんぱいが私に声をかける。

 ちょっと声かけられただけでも何故か嬉しい感情が芽生える。

 

「ゲーム、するか?」

 

 そう言って私にゲームのコントローラーを差し出してきた。

 

「えっと……はい……」

 

 私も差し出されたコントローラーを手に取る。

 その時に少しだけ先輩の指が触れた。

 ただそれだけなのに、鼓動が跳ねる。

 そして後追いで嬉しい感情がやってくる。

 一瞬だけ感じたほんのりと温かな体温。

 

「んじゃ、マリカーやるぞ」

 

 そう言ってせんぱいは頭をわしゃわしゃとかき乱しながらそっぽを向く。

 

 ……もしかして? 照れてます?

 んふふぅ〜? 照れてるんだ? 照れてるんだぁ〜?

 私の悪戯心に火がつく。この状況を楽しまずにはいられない。

 

 私は4名掛けソファーの先輩の隣人1人を開けた距離に腰掛ける。

 

「せんぱい私、これでも昔マリカーはよくやっていたんですよ? 負けませんからね?」

 

「ほー、俺も小町に鍛えられた腕を見せるときが来たようだ」

 

「へぇ~勝率はどうですか?」

 

「135戦全敗」

 

 想像以上にやり込んでますね。しかも全敗って……

 兄妹でどんだけマリカー好きなんですか。

 

「ダメダメじゃ無いですか」

 

「プレイヤースキル以外の所で俺の負けが確定すんだよ」

 

「なんですかそれ?」

 

「大好きなお兄ちゃんは小町を悲しませることはしないよねとか言ってきたりスキンシップが多いんだよ」

 

「完全に接待プレイですよね。それ」

 

「そうなんだよなー」

 

 まぁ小町ちゃん相手ならそうだよね〜せんぱい絶対勝てないし。

 

「それで……私なら勝てると? 良い度胸じゃないですか。受けて立ちますよ!」

 

「望むところだ」

 

 そう嬉しそうに微笑む姿がすごい好きですよ。

 

 そしてゲームが開始した。

 ゲームの仕様が分からないのにいきなりスタートダッシュを切った先輩は本当に大人げないと思います。

 

「う〜っとぉ」

 

 しかしながらちょっとした発見もあった。

 せんぱいってゲームをするときは身体も動く人なんですね〜。

 なるほどなるほどぉ〜。

 

 私はせんぱいと同じように身体を動かしている振りをしながら徐々にせんぱいとの距離を詰める。

 

 そしてせんぱいが身体を動かし、私の肩に当たる。

 

「うぉっ!? 、一色おまっ!?」

 

 予想通り驚いてくれた様子。

 言葉まで詰まらせてとても可愛らしい光景。

 

「おっと〜」

 

 そう言って私もまた、身体を動かし、せんぱいの腕に肩をくっつける。

 

 せんぱいのキャラが蛇行運転を始めている。動揺している証だ。

 

 それにしてもせんぱいちょっと汗くさい?

 ちゃんとお風呂入りました?

 

「あれれぇ〜? せんぱ〜い、どうしたんですかぁ〜?」

 

 せんぱいの顔を見ながらいたずらに笑ってみる。

 

「うっせ、お前も小町と同類だ!」

 

 少し赤めた表情の彼を見るのはやっぱり楽しい。

 

 そう言いながらせんぱいがコースアウトしている隙を突き

 そのままゴール。完全勝利いろはちゃんですっ!

 

 せんぱいは「あ”ぁ〜」と悔しそうに言い、ソファーに力なくもたれかかった。

 

「ふふん〜せんぱいもまだまだですねっ!」

 

「お前ほんとあれマジでずるいぞ?」

 

 どきどきしました? どきどきしましたか??

 私はしましたよ。フルスロットルでした。

 

 というか久しぶりすぎて歯止めが効かないんですよ。

 

「あの程度で心を揺らがせるせんぱいが悪いんですよ〜だ」

 

「あれをあの程度って言ったら他の奴ら一体どんだけ精神力鍛えられてんの? 俺以外みんな人生何週目なんだよ」

 

 それ、他の男子に同じ事言われてるって自覚ありますか??

 

「そんな事よりせんぱい。ちょっと汗臭かったですよ? お風呂入りました??」

 

「あー、そういえばさっき小町と外出てたからな。すまん」

 

「お風呂入ってきたらどうです? その間私何か買ってきますから。何か欲しいものあります?」

 

 ついでに夕ご飯の材料買ってきますからね。

 流石にもう学校ではできそうにないですが……家でなら良いですよね。

 

「おぉ、まじか。んじゃすまんなそうさせてくれ。とりあえずマッ缶買っておいて貰って良いか、お代後で渡すわ」

 

 まさか家でも飲むんですね。将来糖尿なりますよ?

 

 そう言ってせんぱいは立ち上がり、テーブルに置いていた家の鍵を私に渡した。

 

 ……!?!?

 

「えっえっ!? せんぱい口説いてるんですか?? 実家の鍵渡すってことはつまりはあれですよねあれそうあれっ! 信用してくれているって事ですよね!!!? 通い妻いろはちゃんにクラスアップですか? でもそれはちょっと……まだもうあと3年は待って欲しいですごめんなさいっ!!」

 

 そう言って深々と頭を下げる。

 いろいろとテンパって思ってること全部口出しちゃった……

 

「いやちげーから、俺風呂入ってるのにお前外出るって誰が戸締まりするんだよって話だろうが、ってか後で返せよ?」

 

 まぁわかっていた話なんですけれどねー。ちょっと言わずにはいられなかった感じ何ですよね〜。

 

「せんぱいが閉めればいいじゃ無いですか」

 

「誰が開けるんだよ?」

 

「せんぱいが……っ!?」

 

 ちょっとだけ想像力が豊かな私はこの先の展開を瞬間的に想像できてしまった。

 

 指を鳴らす幻聴が聞こえる。

 

 ……話をしましょう。

 もし私が、せんぱいよりはやく帰ってきた場合、お出迎えするのはお風呂の途中で急いで上がってきた半裸の水にしたたるいいせんぱい……

 あっうん。そんな装備で大丈夫かっていうかちょっと刺激強すぎて耐えられる気がしない。

 全然大丈夫だ問題ないとか言えない。致命的な問題が発生しています。

 

 何をしてるんでしょう私は前に教えてもらったゲームの台詞があまりにも印象的でしたんでついつい出てきました。

 

「そうですね、ここは一旦鍵をお借りします」

 

「んじゃ、すまんがよろしく」

 

 そう言って階段を登っていった。

 せんぱいの部屋が多分2階にあるのだろう。

 

 さて、私も買いものをすませてきますか。

 

 そう思い立ち立ち上がりまた玄関をくぐるのだった。

 

 

 ***

 

 

 マップアプリで見つけたスーパーで適当に買い物を済ませる。ちょっとだけ距離があり少し疲れた。せんぱいから近くのスーパーを聞いておくべきだったと後悔した。

 

 とりあえず簡単にできる麻婆豆腐の素と挽き肉、長ネギを購入する。玉ねぎはせんぱいの家にあったのを確認済みだったので特に必要はないかな。

 あとはご飯があればお腹は膨れるはず。

 

 必要最低限のものを買ってスーパーから出て、やってきた道を引き返す。

 

 ふふー、実はもっと凝ったやつ作りたいんですけれどねー。

 でもでも家にきていきなり台所占拠するとか~ちょっと図々しいっていうか重いとか思われちゃいますからね?

 

 ……あっ!

 

 絹ごし豆腐買うの忘れてた……

 これではただの麻婆挽き肉になってしまう。

 ……それだけでも美味しそう?

 

 まぁでも、やっぱり麻婆豆腐のメインは外せない。買いに戻ろう。

 

 そうしてまたスーパーへ戻る途中に声をかけられる。

 

「あれ? 一色さん?」

 

「あっ、矢向さん」

 

 


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