お楽しみ頂けると幸いです。
転がる、転がる、転がる。
ぬいぐるみを抱きしめたまま右へ2回転、左へ2回転、ベッドの上で転がり続け、気づけば時計の4の数字に短針が指し掛かっていた。前に時計を見たときの短針は9時を指していたはずなのですがまぁいいか。
ただ転がっている訳ではない。
この内に秘めた有り余る感情と妄想を発散させるために転がってるのです。
たまに満足げに『むふふぅ〜』と気色悪くほくそ笑むのも内に秘めようとしても収まらず、ぐつぐつと煮えたぎるように沸き出すゴーイングマイ上へな感情と妄想を発散させるために発しています。
決して奇行では無くこれは目的のある行動であると他の人に見られたときの言い訳に使おうと心の中で決め、私は転がる。ゴロゴロゴロ……
もうねっ! もうねっ! 完全に意識していますよねせんぱい。付き合うまでの秒読み開始みたいな感じじゃないですか。完全勝利いろはちゃんじゃないですか。まぁ……言うの私なのが癪なんですがね。そこは仕方が無い、先に話を振ったのが私なのだから責任を取りましょう。終わりよければすべてよし、結果が付き合うに収束するのでしたら問題なしですよっ!
すごいカレンダーで幾重にハートで囲った8月8日が待ち遠しい。ずっとこの事考えてゴロゴロしてられる。
夏休みせんぱいとどこ行こう? もう付き合うならいっぱいいっぱい予定入れられますよね。
せんぱい人混み嫌いそうだからディスティニーランドとかは除外されると思うなぁ〜。楽しいのに……
ならどこか公園を散歩とか。海浜公園とか良さそう。あーひなたぼっこしながら読書してそうせんぱい。あーでも太陽がまぶしい溶けるとか言ってきそう。面倒くさいなぁ……。でもあそこ長居すると潮風でベッタベタになるからずっと居るには適さないですね。
ならなら水族館とかは空調も効いてるしせんぱいも楽しめると思うんだ。他にもゲームするならVRの施設も最近できたって聞くし! せんぱい意外と映画好きそうだし行く場所ならいくらでもある! せんぱいとならどこ行っても楽しい!
どうせなら……と、泊まりでどこか……行っちゃいます? ……キャ〜っ!!
妄想が捗り何往復か転がった後にふっと冷静になった。
……うん。小町ちゃんが許してくれなさそうな気がしますね。欲張りは控えよう。
それなら……
そうだ! 今日はせんぱい確かお祭りに行くとかいっていたなぁ。
偶然を装って会いに行けるかな? ちょっと重いかな? なんで居るのとか言われないかな?? まぁ適当に言い訳を考えておけば問題ないですか。
そう思い立ったが吉日私はずっと抱きついていたぺんちゃんを手放し身支度に勤しんだ。
***
祭り囃子が祭り会場内に響き、耳に入るとお祭りに来たんだなという気持ちになるから不思議なもので。
日は既に沈み、祭りの本番である花火大会があと少しで始まるとのアナウンスが流れていた。
せんぱいのことだから暑い昼とかは避けて日が落ちることを狙って行きそうだから私もそれに合わせて来てみた。
ぶっちゃけ会わなかったらそのままお祭りと花火を楽しめばいいのでどっちでも楽しめる。策士いろはちゃん!
それにしても……小規模っていってたけど結構人がいるなぁ。
出店が道の脇に連なり焼きそばやらお好み焼きやらベビーカステラの良い香りが空腹を誘う。
軽くつまめるベビーカステラを買ってお祭りを散策することにした。
お祭りって言ったらこれでしょ。ガッツリ行きたいときはたこ焼きって決まってるの。
屋台を散策していたら懐かしいものをやっている屋台が見つかった。
「へぇ〜、型抜き屋だ。懐かし〜」
そう思い私はその屋台に近づく。
屋台に設置されて居るテーブルで数人の子供達がいそいそと針で型の溝を削っていた。
これねー、いくら時間をかけようとも屋台のおじさんがルールブレイカーだから絶対に100点にはならないんだよねー。闇だよ闇。でも長く楽しめるものではあるよね。
そんな必死に型を削っている子供達を見ていると私もやりたくなるのがまたお祭りの定め、1回300円とちょっと割高ですが、まぁ1回やってみることにします。
そう言って屋台のおじさんに話しかけたら、どうやら可愛いからと言って半分は切ってくれた。こう言うことは日常茶飯事の事なのでとりあえず愛嬌を最前面に出してお礼を言えば良い。ふっ、これが可愛い女子高生の役得って奴よ。
子供達がずるいーとか言っているのは聞かないことにした。
久し振りにやるが、やはり一筋縄ではいかない。というか板が絶妙に硬い。
これギリギリまで硬度あげすぎでは無いだろうか。刺せないってどういうことですかね? 削って行くしかない。
ここで私の戦いが始まり、なんとか型を削りきる頃には既に1時間が経過していた。
熱中しすぎた。
とりあえず削りきったブツをおじさんに渡すとまたサービスだと言って、+100円の利益がでた。時給100円とかほんとやってられない。
そんな型抜き屋を後にして、適当にぶらぶらと屋台を見て回る。やはりそうそうせんぱいには遭遇するはずも無く、時間はあっという間に過ぎて行った。
しばらくし、林檎あめを買っていた最中に、花火大会開始間際のアナウンスが辺りに響く。
ちょうど良い頃合いになったのだろう。そのアナウンスに従い人々は移動を始める。
今日はひとり身で来ており別にメインの会場に行かずとも見れればそれで良いという考えに至った。メイン会場は人でいっぱいになるし、帰りのことを考慮して、ちょっとお祭りから離れて駅近の良い感じの所があればそこで花火を見るのも悪くないでしょうし。それにせんぱいにあえなかったのに一人でメインステージ行くとか苦行以外の何物でも無いしね。
そう考えを締め、たこ焼きと林檎アメを持って祭り会場を後にした。
***
帰る途中、ふと先日矢向さんと話したときに聞いた駅近場の高台の公園へと赴いた。
家族連れがちらほらと居るのでもしかしたらここは穴場なのかなと思ったり。
折角だしベンチにでも座ってたこ焼き食べながら花火眺めますかと思い視線をベンチに向けてみたがどうやら逢い引きしているカップルがいる。
まったく人目もはばからずイチャイチャして……どれ、今後の参考に。
そのカップルに目を凝らしてみると見覚えのある髪型と特徴的な目つき。女の方はやけに小柄な人だ。
その2人が誰かを認識した瞬間、すぐさま街灯の照らさない暗闇に姿を隠す。
あれはせんぱいっ……と矢向さん?
信じられない光景に息をのんだ。
先日彼女が言っていた言葉を思い出す。
つまりはそういうことなのだろう。
まさかここでその話をもう少し詳しく聞くべきだったと後悔することになるとは思わなかった。
先ほどまで昂揚して高まった感情は静かになり、好奇心が私の胸に絡み離してくれない。
だって私とせんぱいってもうあれです。両想いなのになにこれ……。
せんぱいは小町ちゃんのお土産を買いに祭りに行くとそう同意をしていたはず。
と言う事は偶然会ったのかな?
いや、それだったら矢向さんは花火大会メインイベントまでいるはずだ。つまりは前々から約束していたという結論になるわけで。
と言うことは……
私、せんぱいに噓つかれてた?
様々な憶測とざわつく感情が駆け巡るがこれは私の感情であって目の前の2人がそういった関係である事実では無い。
故に私は近くにある遊具に隠れ、2人の成り行きをながめる事にした。
***
隠れた遊具は結構先輩達から近いのか結構よく聞こえた。
ってか完全にこれ盗み聞きなんだけれど良いのかしら?
まぁ、2人も私の告白現場見てたんだからイーブンだとは思う。
相手が変なところで告白してきたせいだけどね。
「ねぇ、先輩」
「なんだ?」
「今日は楽しかったですね」
「まだメインディッシュ残ってんだけどな」
「確かに」とはにかむ彼女の横顔……ほらせんぱいが挙動不審になってるじゃないですか。
「久し振りにお祭りにいけて楽しかったんですよ? いつもは手伝いでお祭りなんてここ数年行ったことなかったんです」
「そりゃ良かったな。たまの息抜きで来たんだったら良いんじゃねぇか」
そう言えば彼女のお家って確かコンビニ経営でしたっけ? ならしばらくお祭りなんて家の手伝いで行けてなかったからという口実で誘ったんですね。ふむふむ、そんな口実あるんならあのお人好しはごり押せば釣れますね。今度そう言う方向で誘ってみますか。
「そうですね~」
そう言って無言になる二人。私は買っておいた林檎アメをかじる。うん、おいしい。
ドンッという音とともにいろんな色の花火が空に姿を表た。あー光ってる—。その程度の感想しか出てこなかった。そんな事よりも二人の様子が気になってしょうがない。
「先輩は家族以外の誰かと花火をみるって初めてですか?」
「そうだな。小町以外と見るのは初めてなんじゃねぇの?」
えっ、そうなんですか。なら私もそのせんぱいの初めての仲間ですね! 一緒にみれて光栄です。
「そう、ですか。」
そういって、彼女が先輩の手を握る。
……えっ。私まだ手握ったこと無いんですけど。ナンデそんな自然に握れるの?
もしかするとこの2人、私が思っている以上に進んでたりするの?
「先輩」
そう言ってせんぱいへと身を乗り出す矢向さん。
あっちょっと離れなさい。その凶器がせんぱいにあたりそうだからっ!
「なっ……なんだ……矢向」
先輩もこの独特な緊張感ある雰囲気を察したのか迫り来る凶器に戦慄したのか息をのんでいた。
「えっと、そのぉ……私と……お付き合いして貰えませんか?」
ドンっという花火の音がまたあたりに響き、そして二人の表情をその色で染める。
……ってか花火のタイミングまで合わせに来るとかウケんだけど。
「……なぁ、矢向」
「は、はい。」
「それな、ヒャクパーおまえの勘違いだから。」
はいはいー、読めてましたー。
そんなぽっと出の女にせんぱいがおいそれと付き合うとか、この半年せんぱいの観察を続けて来た私が言うんです。まずあり得ませんから。余裕こいてせんぱい観察バラエティみたいなノリで観察しないで普通に乗り込んでいくっつーの。
「ってかさ……矢向、なにが目的だ?」
「なにが目的って……えっと……?」
ホントですよせんぱい? わかるように説明してくれません??
「俺を使ってなにがしたかったんだ? 何か目的があって近づいたんだろ? でなきゃおかしいんだよ。この最近、クラスの連中使って俺と話させたりコンビニ寄ったときにはお前から夏祭りも誘ってきてあまつ告ってくるなんて都合の良いことがあるわけねぇよな普通。何か裏があると思うだろが」
つまりはせんぱいにとって都合の良い様に矢向さんは接していると言う事ですかね。
「そうですか? 事実は小説より奇なりって言いますよね。つまりは先輩の魅力に気づいたって事ですよ」
「絶対ありえねぇ」
「……断言しますね」
「狙いすぎてキャラいくつも作りすぎなんだよ。俺が知ってるだけでも3つはあるぞ」
「そんなキャラだなんて作ってないですよ」
「お前教室と俺と二人の時、全然キャラ違うよな、教室の……あいつらと居るときは常におとなしいだろ」
「まぁそれは昔からですし……それって集団行動をするとなると誰だって持ち合わせますよね?」
「そうだな。誰だって相手にあわせて自分のキャラを使いわけるよな」
「ですよね。ならなんの問題もないはずでは?」
「矢向、それじゃなんで由比ヶ浜の時に最初のキャラで接していて小町の時にあたかも片思いしている後輩キャラで接したの? 嫉妬している振りをした? そんな素振り一切見せなかったくせに唐突にそれ見せるんだからそりゃなんかの目的の為に俺を利用しようとしているって勘ぐるわ」
まぁ人によってキャラを変えるって結構ありますしね。
ただ、相手を利用するためにキャラを作るって言うのはなかなか大変だったりします。
……まぁ矢向さんがそもそもそんな計画的な人だったらの話ですが。
せんぱいが矢向さんに発した後、しばらく沈黙の時が流れた。
「ふぅ〜……アハハ、やっぱり先輩は面倒くさい人ですね。いじわるです」
「あぁ、よく言われる」
「わかりました。ひとつ私の友達の話をしましょう」
「このタイミングでそれいうって事は十中八九自分の事いっちゃってるんだがなぁ……」
「自分語りが苦手なだけなんですよ。恥ずかしいのでいわせないでください」
「そうなのか……まぁ気持ちはわかる」
「では、まず中学2年の頃、気弱な女の子がとあるゲームに負けて罰ゲームを受けるとこになりました」
「中学の話かよ……」
「その罰ゲームはですね……気弱でおとなしい女の子と3年でやけにイタいと噂されている3年の先輩がデートをし、最後に気弱な女の子から偽装告白をしてみようというものでした。今考えるとこれ考えた人悪趣味ですよね」
「ん……」
せんぱいがなにやら思い出したかのように眉をひそめる。
「でも気弱な女の子が当日すごく難儀な心境で待ち合わせの場所に来ても誰も居ません。30分待っても来ません。2時間待って来ないのでこういった連絡なしで時間だけ使わせる悪戯に変わったのかなと思ってその日は帰りました」
「お……おぅ」
あー、これはもう確信犯ですね。
「ただ後日、クラスの人達は私のこととは別でイタい先輩男子をネタに盛り上がっていました。そうとう気合いの入った装いだったようですね。後日聞いたのですが、彼が来た場所は私が聞いた場所とは別の場所になっていました」
「……」
なにやら黒歴史を掘り起こされてせんぱいは顔を隠していた。
耳が赤いので丸わかりです。
「アハハ……。さて、そんな自分勝手なイタい先輩さんは誰のことでしょうね」
せんぱい、中学の頃そんな事やってたんですか。
やっぱり年下には甘いんですね。
……というかさ、さっきからこの子結構やせ我慢してない? 最初の笑い声がやけに独特なんですが。
「さぁな、そいつはその日に限って無性に幕張に行きたくなったんだろ。んでとりあえず連中には場所変更するって話したらお前に伝わって無かった。それだけの話だ」
「ただ……気弱な女の子はそんなイタい先輩を意識するようになり、目に留まるように可愛くなれる工夫もしましたし、同じ高校に通えるようにって頑張ってきました……」
「そりゃすげぇ。総武そこそこ上の偏差値だからそんじょそこらの努力じゃ入れなかっただろうに」
「……ねぇ、先輩? 私そんなに策士じゃないですよ。だって由比ヶ浜先輩と初めてお会いしたとき、関係値は見てわかりましたし、ああいった対応をするのも由比ヶ浜先輩と一緒にいるからするだけであって……いきなり見知らぬ女子と手を繋いで入店してきてイチャコラと楽しそうに話してるのを目の当たりにされたら……そりゃ思うところはありますよ……」
「ん……そうなのだとしたら俺が読み間違えていたんだろうな。すまん」
「先輩がなんで同級生って言う理由は別に聞かないですよ。妹さんが気にしてるようなので」
「そんな感じだ」
「先輩はもしかして……優しくされることに慣れていない人ですか?」
「……」
「アハハ……すいません……。もしかして踏み込んじゃいけないところでしたか? 一応接客業してるとそこそこわかったりするんですよこういうの」
「はぁ……いんや大丈夫だ。まぁ優しくする奴には裏があるくらいに警戒はするって所だ」
「そうなんですね。それじゃ……私の事も警戒してます?」
「ん……まぁさっきの話聞いた辺りから少しな」
「そうですか……なら……なら一色さんもですか?」
あれ? 私の話?
「それはまぁ〜……そうだろ……ってかなんで一色をいまだした」
「当たり前じゃないですか、付き合ってるんじゃないって噂されてて。先輩に聞くとそうじゃないって言ってるけど一色さんはどう考えてるのかはわかりませんですし……。もしそうじゃないとしても下手に接触すると一色さんいじわるして先輩を渡してくれなさそうなので……他の女子から聞く一色さんの噂ならじきに飽きられると思ってその時に近づこうと思ったんですが……」
事前に狙っているとか知っていたらこれは私のものだと最大級にアピールするのが世の中の女子高生ルールでしょ。それで諦めるとかその程度の話なだけであって。
あたしぃ〜、男よりもやっぱ友達優先だしぃ〜とか言って逃げてる女ほど男ができるとすぐに友達を捨てる。っていうか友達の彼氏奪うまである。中学の頃に3年の先輩の彼氏奪って両手両足担がれて先輩方に連れて行かれたあの人……今も元気かな?
まぁ、そんな話は置いといて先輩を飽きて捨てるとかそんなのないしね。その点矢向さんの立ち回りにはちょっと驚いた。少しは頭が回るみたいだ。
「えっ? お前俺の傷心つけ込もうとしてた訳?」
「えぇそうですよ? だってそっちの方が効果抜群じゃないですか。誰でも思いつきません? 普通。特に中間試験前の頃はなんかお互い避け合ってたんでちょうど声かけるチャンスかなと思ったんですが……」
あーあれね。正直思い出したくないくらい酷い話。
あのタイミング逃してたら矢向さん入ってきてたの? それだったら本当に修復不可になるところだった……危なかった。
「こえぇよ。お前ら女子はそんな事いつも考えてんのかよ」
「アハハ……流石にいつもそんなわけ無いですよ」
「だ、だよなぁ」
「……そんな事よりも、今の話を聞いてもだめですか? 結構ぶっちゃけましたけど」
「やめておけ」
「えっ……」
「矢向、本当にさっきの話で俺に気があるって言う話なら考え直した方がいい」
「どうしてですかっ!」
「俺はそこまでできた人間でも無いし。それこそさっきの話の場所が変わったことだって本当に偶然だ。お前の俺を思う気持ちがそこにあるのであればそんな気持ちは偽物だ。それを俺に向けるのはやめろ」
「そう……です……か」
「ただ……お前のその努力とかはすごいと思った。俺じゃなくてもっと別の奴にその熱意を向けてやればきっとうまくいく……と思う」
「ふぅ〜……わ、わかりました。なら諦めません」
「……は?」
「私の今までの気持ちが偽物であるのなら、これから私の意思でそれが本物である事を証明してみせます。今後この話を引き合いに出すことはないです」
「いや、そうじゃなくて他に俺よりいい奴が沢山いるだろ」
「私のそばに居るのが貴方じゃなかったら嫌なんです!」
「ちょっ……矢向? 声でかい」
「あっ……す、すいません……でも! ……でもっ!」
「はぁ……もういい……わかった。なんていうか、誠意は伝わった。そのなんだ? ……まぁ……頑張れ」
「ハハハ……やりました……」
「何がやりましただ。お前結構ごり押しだったからな?」
「ハハハ……私としては振られるにしても次があれば問題ないので。それに……ちゃんと相手に好意を意識させるって……これが一番手っ取り早いんですよ? もちろん……相手との距離感とか、好感度とかをしっかりと……見極めないと……気持ち悪がられます……けどね」
「お前実は百戦錬磨の魔性の女とかじゃないよな?」
「アハハ……コンビニには……色んなドラマがあるんですよ。その知識を……少し拝借しただけ……ですよぉ……っヒ…ッグ…」
「まじか、コンビニそんなのまでっ……!?」
流石に嗚咽がここまで聞こえてくると嫌でもわかる。
中学から恋をしたせんぱいへ2年越しで初めての告白だったのだろう。
それがこんなひねくれ者に即答で勘違いだの裏があるだの警戒しているだのやめておけだの言われてショックにならない訳が無いか。
最初はもうなんというか泥棒猫みたいに感じててごめんね。矢向さんもいっぱいいっぱいだったんだね。立場上近寄れないのがちょっとあれですが……
「……っびっぐ、結構……ぐっ……頑張ったんでしゅからね? 裏があるってや”めておげって……んっぐっ…いわ”れで……結構づらかっだんでずからね……」
「なんつーか……すまん」
「ぜんばい”の……せいでずがらね……」
鼻を啜る音がここまで聞こえてくる。
正直そんな嗚咽交じりに喋ってもなんも可愛くないからやめなさい!
って言いたいところだけれど。
まぁ、これは相手の気持ちを考えてやれないせんぱいが悪い。
「すまん」
よく今まで泣かずに関係を進展させて終わらせたと正直、感心している。
すごく頑張ったとほめてあげたい気持ちもあるけれど……
それと同時に私の中にまたあの感情がくすぶり始めた。
由比ヶ浜先輩や雪ノ下先輩では無い。格下だと思っていた同級生にだ。
あぁ、前にも味わった嫉妬の感情があふれ出しそうだ。
先輩達は私がせんぱいに気があることを知っているからこそ特に何もしてこない。しかしこの子はそんなことを知らない。しかし知ったとしてももう遅い。
好意があると伝えてしまったから。あそこまで食らいついたのだ、引くことはあり得ないでしょう。
今までは私しかせんぱいと話せる相手が同級生にいなかったからのうのうと余裕を見せながらせんぱいと絡んでた。
だけどこれからはそうは行かない。
しかも同じクラスなんだから。
・・・
・・
・
私は2人に気づかれないように公園を離れ、駅で電車を待ちながら私はぼーっとしていることに気付く。
ハッとして電光掲示板を再度確認する。電車が来るまであと5分くらいある事を確認しほっとする。
先ほどの2人の会話が頭から離れない。
正直な感想を言うとこれは非常にマズイ。
あの矢向さんは私みたいにあの手この手を使って好意を遠回しに伝えたりはしないからだ。
これからのあの子がせんぱいに対してする行動全てに貴方に好意がありますよと言うことを意識させてしまっているのが一番ヤバい。
というか関係値ちょっとおかしくないですかね?
私1度も手も握ったこと無いんですけどあの子普通に握ってたよね。えっ? そんな普段から握ってたの? ちょっとまってまって、おかしくない?
頭を巡らせその2人の関係が進展しそうな期間を探ると、直近でそんな所は1つしかなかった。
ちょっと距離置いた時か。あー……失敗だったな。あの時別に距離取らなくても良かったのに立場に甘えちゃったか。それでも距離の詰め方おかしいでしょ。
このまま放置していたら本当にせんぱいをかっさらわれる……っとなると、せんぱいと次会う日に決めておきたいな。
そんな感じで考えがまとまると同時に電車のアナウンスが流れた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
作者後書き等は活動報告にありますのでこちらでご確認下さいな。
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