やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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どうぞお楽しみください。


#24

 室内にけたたましく鳴り響く携帯のアラーム音。

 大音量で鳴る耳障りな音をサイドボタンで止める。

 

 眠気が芯までしっかりと浸かっていて心地よい身体を無理矢理起こした。

 

 今日は確か千葉村に行く日なのだ。

 昨日のうちに準備はできているし、あとは風呂に入って身支度を調えるだけだ。

 

「うっし、風呂……入るか」

 

 呟き俺は家の階段を降りる。

 

 するとリビングでせんべいをかじりながらテレビを見ていた小町と目が合う。

 

 小町ちゃん? あなた受験生なんだから勉強サボタージュしたらダメよ?

 

 そんな小町が目をまん丸くし驚いた表情だった。

 なに? 俺が存在していること自体に驚いているの? 存在しててごめんな。

 

「なんでいるの!?」

 

 そんな驚きに満ちた声がリビングに響く。

 

 えっ? 俺の存在を消そうとしてた存在Xって小町だったの?

 どうやら俺は無意識にその術中から逃れていたようだ。

 いやぁ~流石八幡、俺TUEEE~

 

 って妄想はこのくらいにしてマジでどうした?

 

「なんだよ? 俺が家にいるのがダメなのか?」

 

「そうだよ!」

 

 そんなの当たり前じゃんくらいに小町に即答されて俺は一方後ろにたじろいだ

 

 えっ!? なんでだよ! 小町お兄ちゃんと昨日まで楽しく桃鉄やってただろ。

 もしかして俺は別の世界線についてしまったのか!?

 ……んなわけねぇか、もすこし真面目に考えよう。

 

「だっていま8時だよ」

 

「あぁ、8時だな」

 

 8時がどうした? だからこうやって起きたんだろうが。

 

「おにぃちゃん? もしかして……寝ぼけてる?」

 

「まさか、ちゃんと時間通り起きてるだろ?」

 

 しっかりと時間通り……時間通り?

 

 リビングの柱に取り付けられている時計をバッと見上げる。

 

 時計の短針は確かに8の字を少し過ぎているところを指していた。

 

 うん、確かに俺は寝ぼけていたようだ。

 8時集合のはずが、なぜ8時におきてしまうの? バカなの? アホなの? 沖縄人なの? アイヤー。

 ……それは中国人だ。いやそんな事どうでもいい。

 

「うっそだろ……」

 

「一応言っとくけど、うちの時計ずれてないからね」

 

 蜘蛛の糸を連想させる細く弱々しい唯一の希望すら容赦なく妹に切られ、

 俺は恐る恐る携帯を取り出しサイドボタンを押してバックライトを点灯させる。

 

 着信アリ

 

 そこには今までの八幡史記録を大幅に更新した史上最多のメールと着信履歴が通知されていた。

 その件数を見た瞬間、身体に緊張が走る。脳内に響き渡る不気味な音

 

 これはマズイ

 

 即座に頭の中に用意していた言い訳が3案くらいよぎる。

 

 その中で有力なのは風邪の案。

 よしこれだ、俺の姿が見ないのだったら風邪を本当に引いているかどうかはメールでは分からないしな!

 風邪が辛すぎて連絡が遅れた、今日は行けそうにないから3人で行ってくれ。

 よし、これだ! 後から電話でもそれとなく演技すればやり過ごせるだろ! これならいける!

 

 そう思い平塚先生の最後の着信メールを開く

 

 

 From:平塚先生

 -----------

 ワタシシズカ

 

 イマアナタノイエムカッテルノ

 

 

 ----------

 

 背筋がゾッとした。

 俺の思考を先読みし既に向かってくる辺り下手な怪談よりかなり怖い。

 

 これが幻想より現実が怖いと言われる由縁かよ。

 いや、これを何のためらいも無く送ってくる辺りちょっとストーカー気質あるんじゃねぇかあの人。

 

 そんな事を考えていたら微かに家の外で何かが止まる音がした。

 俺のうちの前で止まる車は大体宅配業者のお兄さんだ。

 そうだ、そういや予約してたラノベの発売日だったんじゃ無いか?

 そうだきっと、平塚先生は俺の家になんて来ていない。

 まだ時間がかかるんだ。

 その内に新しい言い訳を考えれば……

 

 そんな自分に都合の良い思考を巡らせていたら携帯電話が震える。

 

 すかさず通知欄に目をやると『新規メール1件』と表記されている。

 

 恐る恐るその通知に指を当てる。

 同時に呼び鈴が鳴る。

 すぐさま玄関に顔を向ける。

 

 目を凝らし家のカギが閉まっている事を確認する。

 これで家に入ってはこれないはずだ。

 そして俺は再度携帯に目を落とし絶句する。

 

 rom:平塚先生

 -----------

 ワタシシズカ

 

 イマアナタノウシロニイルノ

 

 

 

 なん……だとっ……!?

 

 背筋の寒気がピークに達した。

 ……まさか小町と結託して既に俺のうちに平塚先生は存在していた?

 そう考えると俺の後ろに人の存在感があるように思えてきた。

 

 恐る恐る後ろに振り返る。

 ……しかしそこには誰もいない。

 その瞬間一気に安堵が溢れる。

 当然っちゃ当然だ。幽霊じゃあるまいし。

 驚かせやがってあの先生。……ん?

 

 同時に先ほど来たメールにはかなりの改行が施されていた事に気づいた。

 

 なんだよ、冗談だとかそんな事書いてんじゃねぇだろうな。

 そんな事を思いスクロールしていく。

 

 ちょうど止まったメールの最下層にたどり着いたとき

 

 ガチャっと施錠を外す音が聞こえた。

 

「おにぃちゃん、お客さん来てるのに鍵くらいあけてよ~」

 

 その音を聞いた瞬間音速を超えたと自画自賛する速度で玄関に顔を戻す。

 すると小町が施錠していた鍵を外していた。

 メールに意識向けてたから小町が玄関に行く動作を見逃してた。

 くっそ、俺じゃ絶対にあけないから小町を使いやがったなあの先生! やられたっ!!!!

 

 

 そこで開かれた玄関から見知った顔が不気味に微笑みながら覗く。

 

 その顔から逃れるかのように俺は視線をスマホに向ける。

 しかし世は無常、視線の先に映る文字は俺にさらに恐怖を与えるに十分な4文字だった。

 

 

 ミ      ツ      ケ      タ

 -------------

 

 ***

 

 一騒動後、俺は平塚先生の車に乗り、高速へと入った。

 

「まったく、寝坊したのだったら寝坊したと正直に電話すれば良いのだ。言い訳なんて考える前に」

 

 助手席で平塚先生の説教は止まらず俺は頭を垂れハイ、ハイ、仰るとおりですと父親が電話中にしている仕草を真似する。こうやって一子相伝は紡がれて行くのだろうと俺は人類の紡いだ歴史をこの時体感した。

 

「平塚先生、クズ企谷君は普通の人とは違って正直よりも先に自分の保身を考える事を脳信号の最優先を占めているので言ったところで無駄です」

 

 ほー、それって俺、新生物なんじゃね? 究極生命体に進化できる可能性があるじゃねぇか。

 考える事やめるならお茶の子さいさいだぞ?

 

「っていうか、ヒッキーなんでアラーム集合時間に設定してたの?」

 

「それは寝る前から寝ぼけてたんだろうな」

 

「……は?」

 

 じっっと冷たい目線を送る雪ノ下先輩、俺の心が凍り付きそうなのでそろそろ止めてもらいたい。

 

「つまり比企谷君はこの日が楽しみ過ぎて寝る前から南国気分に脳内を切り替えたのかしら? 日頃の根暗具合とは裏腹に随分脳の中は快晴なのね、しってる? 脳天気って言葉」

 

 豆しばかな?

 

 ぐぬぬ……

 この一連のやりとりで出発が遅れた事から雪ノ下先輩のご機嫌が斜めだ。

 

 何か言い返したいが全ての元凶は俺であるため俺はその辛辣な言葉を呑み込むしかなかった。

 するとフォローするように由比ヶ浜が別の話題を振る。

 ガハマパイセンそういう所良いと思います!

 

「そ、そう言えば今年の修学旅行ってどこになるんだろうーね! あたし沖縄が良いなぁ~」

 

「修学旅行の場所はもう学校側で決めているぞ、今年は京都で確定しているはずだ」

 

 その件については少し内情を知っているみたいで運転している平塚先生が会話に加わる。

 

「えぇ~、少しは生徒の意見も取り入れて欲しいよ~」

 

 由比ヶ浜が残念そうな口調でうな垂れる。

 

「そうだな。まぁ生徒会が主体となって生徒からの希望署名を集めていたら変わっていたかも知れないが、今年は予算も決まっていているから変更は厳しいだろう」

 

「と言う事は来年度はヒッキーの頑張り次第では来年から別の所に……いいなぁ~」

 

 ん? ガハマパイセン何言ってるんですかね?

 高速の壁を眺めつつ焦点をぼかし現実逃避していたのにいきなり話を振られ若干困惑気味だ。

 

「なぜ俺の頑張り次第なんだよ。生徒会なんて面倒なものに入る気も無いしそもそも京都の何が悪いんだよ良いだろ日本古来の……」

 

 俺が熱く平安時代のあれこれを話そうとした所で雪ノ下先輩に「あなたのうんちくは木材君だったかしら? あの人がよく分からない話をしているときと酷似しているわ」

 

 それを聞いた瞬間俺は押し黙る。

 えっ? 俺そんな気持ち悪い表情で話してたのん? ちょっと帰ったら小町に聞いてみよ。

 あれだよ、鼻毛出てるよって言われてずっと気になる奴だよこれ?

 言われない方がマシマシチョモランマだよ?

 

 会話に一段落※ついてしばらくした所で平塚先生が「そろそろ高速を降りるぞ」と口を開く。

 

 そこでふと強化合宿って結局何するんだ? という初歩的な疑問が抜けていたことに気づく。

 どうやらまだ寝不足は抜けていなかったようだ。

 

「千葉村で強化合宿って結局何をするんすか? なんか有志集めるとか言ってましたけど」

 

「なんだ、まだメールを読んでいなかったのか?」

 

 えっそんな内容のメールなのん?

 あんなおびただしい数のメールからそれをさがしだして読むのは愛が重すぎる。しんどい。

 付き合ってしばらくしてすれ違いが起きて別れるカップルみたいだ。

 

「その様子では読んでないみたいだな。我々は千葉村にてボランティア活動をするべく向かっているのだ」

 

「なるほど、それでその活動内容は?」

 

「君たちにはサポートスタッフとして働いてもらう。千葉村職員や教師陣、林間学校で訪れている児童達のサポートなど……まぁ端的に言うのであれば雑用という事だな」

 

 まぁ雑用なら率先して1人でできる仕事を片っ端から探しつつ

 黙々やってますよ感出しておけばそれで片づくだろう。

 あとは後ろの2人に……ってあれ?

 

 俺は助手席側に首を向けると間髪入れず雪ノ下先輩が「その下卑た視線をこちらに向けないでもらえないかしら」みたいな鋭い視線を返す。

 

 いや別にあんた見たいわけじゃないんだが……

 

 中間の2人に遮られ見えづらいが最後部にも人がいるように思えた。

 

「あれ? もしかしてもう1人います?」

 

 そう言うと平塚先生はなにやら片手を顎に手を当て考える様子だった。

 マズイ、言葉が足りなかったか?

 

 少ししてすぐに回答は帰ってきた。

 

「あぁ、戸塚の事か」

 

 よかった俺が見ているのが幽霊じゃなくて。

 ん? ……戸塚先輩?

 

「えっ!? 戸塚先輩来てるんですか!?」

 

「あぁ、どうやら練習疲れがあるらしく、乗車からすぐさま眠ってしまったらしいがな」

 

 まじか俺一人かよって思っていたらとんだ大天使がすぐそばにいたんじゃねぇかよ。

 

「そっすか、それじゃ近くのサービスエリアで止まってください。俺後部座席で天使と一緒に寝ます」

 

「先ほど高速を降りると言っただろうが! それに君は最後まで私の隣だ」

 

 えっ……なんかカッコイイ台詞出てきたんですけど。

 いや別にときめいてなんて無いんだからね!

 

 噓、ちょっとときめいた。

 




平塚先生とのやり取りを考えるのは楽しかった。

ココスキな所があったら是非とも教えて頂けると泣いて喜びます!
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