やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#27-1

「おぉ……すげぇ」

 

 目の前で火柱が立った。

 林間学校の晩飯にカレーを作るらしく、先に火の付け方を平塚先生がレクチャーするって話だったのだが途中まではしっかりとしていたのにいきなりサラダ油を投入して現在の状態となったわけだ。その光景は非日常的で小学生達は大盛り上がり、キャッキャしてた。

 ただマジで危険だから真似しないでね。

 

 なんかどっかのロールプレイングゲームの技で火柱とかあったよね、覚える事の出来る職業がスーパースターだったかスーパーアイドルだったかどっちかだったはず。おっと……あまり深くは考えないようにしよう。

 

「平塚先生……」

 

 呆れたように嘆息をつく雪ノ下先輩。

 

「ざっとこんなもんだ。サラダ油は真似しなくていいからな。では班分けをする」

 

 そう言って平塚先生は男子はこの場で火起こし。女子は食材の運び出しで連れて行かれた。

 結構遠くに準備されているのか女子達の姿が野外調理場からいつの間にか消えていた。

 そんな遠くにおいてるの?何か裏があると勘ぐってしまう。

 とりあえずこの場に残された俺とキョロ充先輩と彩加と葉山先輩だ。

 

「俺たちも始めるか」

 

「そうだね」

 

 葉山先輩と彩加が互い頷き、支給された軍手をはめ、各自自分の作業を見つけては取り掛かっていく。

 その光景をぼーっと俺は眺めていて気づく。

 

 ……あっ、俺もやらなきゃ

 

 なんでリア充はこう流れるように行動できるの? それじゃー君はこれ、あなたはこれねっ、それじゃーみんなー! 作業開始! って掛け声がないと俺動けないぞ。

 やっベー、もし体育会系の先輩だったら『なんで先輩より先に行動できねぇんだよ』って後で怒られそうだ。そうなると俺は引きこもる自信がある。

 

 どうやら作業は早い者勝ちみたいな感じで先に手を出した奴がやる方式みたいで

 結局残ってたのは炭にうちわでパタパタと風を送り続ける単純作業のみだった……

 

 心を虚無にしてただパタパタと風を送るだけの簡単なお仕事。やっている最中にエクスプロージョンの詠唱を噛まずに言える練習すらできそうだ。エオルースーヌフィル……長すぎて忘れたわ。

 

 それにこの野外調理場と言うのか? 風で火が燃え移らないように防風設備が施されているのか風があまり吹いてこない。

 そして季節は夏、自然豊かな高原といえど風が吹いてないと体感的に暑いのだ、さらに炭の熱気が追い討ちのように俺の肌を焼く。遠赤外線で美味しくこんがり焼けそうだな。比企肉ってな。こわっ……一気に猟奇的になったな。

 

「それ、けっこう暑そうだね」

 

 彩加は俺に気をかけてくれたのだろうか、そっと声をかけてくれる健気な天使に癒やされる。

 

「まぁ、それなりに……」

 

「そっか、熱中症になったら怖いからみんなの分の飲み物とってくるね!」

 

 なんて献身的! 圧倒的彩加。トキメキすぎて不整脈になりそう。

 

「あざっす」

 

「おっ? それだったら俺も手伝うぜ」

 

 作業がひと段落して手持ち無沙汰になったのかキョロ充パイセンが手伝いの名乗りをあげる。

 キョロ充先輩優しい人なんだな。名前知らんから最低な呼び名だがな。

 

「うん、お願い」

 

 あっさりと彩加はそれを受け入れた

 くっそー天使と2人きりとか羨ましすぎる。でも俺は一度天使とデートしたから俺のほうが上!

 

 ……

 

 2人が飲み物を取りに行った後、残されたのは俺と葉山先輩だ。

 まぁなにも話す話題もないし住む世界も違うしなんかここに存在してすいませんくらいの申し訳なさは感じている。

 

 ……

 

 多分葉山先輩も手持ち無沙汰なんだろうな。すっごい見られてる。視線をビンビン感じる。

 俺じゃなくて炭を見て欲しい。アウトドアでイケてる系高校生みたいに見えるよきっと。

 休日にはミスターキャッシュレスになってるぞ。ネタがオヤジくせぇ。

 

「なぁ比企谷」

 

 そんな俺に哀れみを覚えたのか葉山先輩から話を振ってくる。やはり葉山先輩は優しい。

 

「なんですかね?」

 

「俺の勘違いならそれでいいんだが……聞いてもいいか?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

そう言われたらこう返さないといけない。

ただこの意味のなさない一手間に嫌な予感が走る。

 

 そんな神妙な面持ちで何を……葉山先輩、俺そんな趣味ないですから。

 

「いろはと何かあったか?」

 

 ……

 

 

 ……

 

 炭に送る風が少しだけ強さを増した。

 同時に煤が舞い上がる。

 

「昼飯の時なんだが雪ノ下さんがすごい早く梨を切ってきてその際に厳しい小言を言われてね。君といろはを一緒にしたのがマズかったのかなって」

 

 あー、なんかすいません……この問題がなければ最適配でした。

 

「いえ、前にちょっと考えのすれ違いがあって時間を空けたのですがもう大丈夫です。和解したんで。すいません葉山先輩と雪ノ下先輩まで巻き込んで」

 

「あ、あぁ。いや気にする必要はないよ。ちゃんと和解できてよかった。ほっとしたよ」

 

 まぁ、ありのままの真実を伝えているからなにもやましいことはないがこうなんというか……うひゃぁ

 

「ウヒャ!?」

 

 突然首筋に冷たい感触が走り裏返った声が辺りにこだまする。

 はっず……

 

「あっごめん八幡! 驚かせちゃった」

 

 振り返ると純粋無垢、健気で献身的な天使がいる。

 視聴率稼げそうなドラマのタイトルになりそうだな。俺絶対にリアタイで見る。

 驚愕が安堵に瞬間的に変換されるなんて初めての体験だ。

 もう能力者じゃん。

 

「いや、大丈夫。ありがと」

 

 彩加から麦茶を受け取り軽く啜る。冷たい。潤う。五臓六腑に染み渡る。

 ただ、火の近くだから染み渡ったら0.5秒くらいですぐ熱さがぶり返してくるわけだ。

 知ってるか? ランニングって途中で歩いてまた走った方が辛いんだぜ。

 それと同じで一度冷たいを知ってしまうと熱さ体感が倍増する訳で

 俺は今非常にここから離れたい。しかし彩加の手前そんなことが言えるはずもない。

 

 そんな事を悶々と考えているとと

 

「あぁ……比企谷、代わるよ」

 

 と爽やかに笑みを浮かべた葉山先輩が交代の申し入れをしてくれた。まじで助かった。

 

 うちわを葉山先輩に託し俺はベンチに腰掛けてもう一つある予備のうちわで今度は炭ではなく俺に風を仰いぐ。

 涼しい、まじ天国。

 

 先輩の背中を見ながら休憩ってなんか背徳感あるよなぁ。

 まぁ、俺は仕事やった感あるから達成感もあるんだがな。

 

 そんな時、どうやら野菜調達組の女子たちが帰ってきた。

 あれ平塚先生と一色の姿が見えん。

 別の作業でもしているのだろうか?

 

 同時に三浦先輩が吠える。

 

「隼人! めっちゃ似合ってる!」

 

「あー、ほんとすごい素敵だね。アウトドアで焚火眺めている系だよー」

 

 あら、俺と似たようなこと考えていらっしゃった方がいるみたいね。メガネ先輩、気が合いますね。

 

「俺はさっき交代したばっかだ。さっきまで比企谷がやってくれてたんだ」

 

 おぉ、葉山先輩すかさず俺がサボってないよってフォロー入れてくれるのまじで嬉しい。まじいい人。

 

「比企谷ぁ? ……誰?」

 

 そもそも認知すらされてなかったのは流石に効くわぁ……キョロ充先輩笑ってっし。

 

「そこで休憩している1年生だよ」

 

 葉山先輩がそう言うと三浦先輩と目が合う、目力強くね? 超怖いんですけど。

 えっなになんで俺睨みつけられてるの? なんか悪いことした?

 

「へぇー、先輩差し置いて休憩っていい度胸してるし」

 

 そう言ってずんずんと俺に近づいてくる。

 あー見た目通りガッツリ体育会系でした。こりゃ俺あとでシメられるわ。

 財布の中身いくらあったっけ? 札だけは靴下にでも隠しておくか。

 

 三浦先輩がふぅ~んっと値踏みするかのような視線が刺さる。

 やめて、女子にそんなに視線送られると意識しちまうが、あんたにそれやられると畏縮しかねぇ……

 

「ってかあんた超顔真っ黒、超ウケるんだけどー」

 

「はい?」

 

 超ダブル頂きました-! ラーメン屋かよ。

 

「ユイー、ウェットティッシュ的な奴持ってなかった? ちょーだい」

 

「うんーあるよー」

 

 そう言って三浦先輩は由比ヶ浜からウェットティッシュをもらうとそれを俺に差し出す。

 

「ほら、顔真っ黒。これ使って」

 

「は、はぁ。ありがとうございます」

 

 どうやらしばらく炭の近くにいたから煤が顔に貼り付いてしまったらしい。

 

 そう言って差し出されたウェットティッシュで顔をガシガシと拭く。

 吹いた後にスーッと清涼感がある。これ洗顔シートかな?

 

「ほらまだ付いてる、貸して」

 

「えっちょっ!?」

 

 半ば奪い取るかのように俺から洗顔シートを取り、もみあげの生え際部分や鼻筋と目の凹み部分を拭かれる。

 すごい恥ずかしいってのオカンかよ! ちょっとキツめな香水の香りと焦りと恥ずかしさで頭が混乱する。

 

「あと髪にもついてっから、それは自分でやりな。あーし手が黒くなる嫌」

 

 いえ、もう十分です。

 

「……あんた、比企谷?」

 

「えっ? えぇ……はい」

 

「なら今日からあんたヒキオよ」

 

 ……っは?

 

 会話のやり取りが聞こえていたのだろう、すぐ近くでメガネ先輩が吹き出した。俺も見ている側だったら吹き出していたと思う。

 比企谷八幡という珍しいくも贅沢な名前をもらってしまい申し訳ございません。

 

「海老名なに笑ってるし!」

 

 メガネ先輩の名前が判明。苗字だけだが大きなサービスエリアがありそうな名前だな。

 それ以外全く知らんけど。

 

 メガネ先輩……もとい海老名先輩は「いやぁーなんでもないよー」と笑いその笑いの原因を突き止めようと三浦先輩は海老名先輩の元に行ってしまった。

 これでひと安心だ。

 

「よかったねヒッキー。なんていうか……皆と仲よくやってるね……」

 

 いつの間にか後ろにいた由比ヶ浜が声をかけてくる。

 

 お、俺の後ろを……いつの間に取られていた……もしかして火影一族の炎術師か?

 

「そうか?」

 

 まぁ葉山先輩以外は実質初対面だからな。初回特典だろ。つぎ会うときには忘却曲線最底辺下のホライズンにいると思うぞ?

 

 由比ヶ浜が嬉しそうに笑みを零しているとその隣を陣取るように雪ノ下先輩がやってきた。

 

「あなた、何か理由をつけてサボると思ったのに……意外とそういう所は律儀ね」

 

「そう思うんでしたら、今後俺の認識を改めてくれてもいいんですよ?」

 

「嫌よ」

 

 ハッキリと、きっぱりと言われた。流石の俺も傷つくぞ……

 ちょっと反論はしたくなる。

 

「なんでですか、仕事はしっかりこなしているじゃないですか」

 

 返答が無い。そしてこの間……俺の知らぬ間に何か良からぬ事が起こったのか身構えた。

 

「まってください?俺なんかしました?」

 

「した」

 

 即答したのは由比ヶ浜。雪ノ下先輩と同じ口調。なにそれこわい……

 

 えっ? オレ何かやっちゃいました?

 




度々重い回が続きますが、つぎが最下層となります。

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