「女性陣は道の先にある野菜が積まれてる籠をここに持ってきて欲しい」
女性陣先輩方々がはーいと返事をして一斉に移動を開始する。
私もそれに漏れず移動する。
平塚先生は1人でずんずんと進んでいってしまった。
2年生の皆さんはどうやら既に既知の仲同士らしく皆互いにグループを作りわいわいと楽しそうに話しながら移動していた。
ただ私はそんな気分には一切なれずそのグループと少し距離を置きつつ彼女達の背中について行き、考えに耽る。
はぁ……なんでこんな所に居るのよ……
気分転換で千葉村に来たはずなのにトドメ刺されちゃった……
すっごい効いた……
せんぱいから言われた依頼破棄の申し出は想像していた以上に心を抉った。
だめ……今泣いたら駄目。もうちょっと後。堪えろ。
その依頼破棄は実質私と接点を無くすと同意義だからだ。
全てその依頼の派生で私とせんぱいの関係が保っていた。
もうやだ……。
それが無くなると言う事はつまりは今後私と関わりたくない事を意味している。
感情が混じる整理がつかない思考が頭の中を駆け巡る。
そこに度々せんぱいからいわれた言葉がよぎる
その言葉がよぎったときの心がすごく痛くなる。
それもそうだ。これは報いなんだから。
ただ、その痛みは想像以上に大きかった。浅い考えで行動したことをかなり後悔した。
でもあの時はそうするしかなかった。
あのまま進めていたらきっと断られていた。
そうなればせんぱいの隣にいるのは……
それは絶対嫌。
もっとうまいやり方なら後からいくらでも思いついた。
でもあの瞬間はあれが最善策だったのだから、いまさらこうすればよかったなんて過去の事を引きずるよりも前を向こう。
堕ちた信用をどうやって取り戻すか考えよう。
それなのに……
それなのに……
自分がしでかした事なのに自分が可哀想と思っているもう1人の自分がいて、そいつが『誰のせいでこうなったと思ってるんだ!私は悪くない、悪いのは全部あの子、あの子が余計なことしたからっ!』と正当化しよう悲劇のヒロインになろうという傲慢で下衆で甘え腐った事を言ってくる。
タチが悪いのはそれが今やけに耳心地が良い所だ。
いつもなら一蹴する考え方のはずなのに。
ハッと甘え腐った自分に浸食されそうになっている事に気づき考えを打ち切る。
と同時に周りの状況を確認した。
少し距離はあるが先に色が分かれているカゴが幾つか置かれている場所がある。
そこに行って持って戻れと言う事か、単純なことだ。
ネガティブに考えてはダメ。ポジティブに考えなきゃ……
ポジティブに……ポジティブに……ポジティブに……
もう振られたも同然だし、手当たり次第適当な男子見繕って適当に付き合って良いんじゃない?花の女子高生、悩んだ時間は戻ってこないんだよ?悩むよりも今を楽しまなきゃ!
まって?信用を失ってでもそれでも関係を続けるって言ったあの時の私の決意は何?依頼破棄を関係が終わりと受け取るのは違うでしょ?まだチャンスはある!負けるないろは!
誰がどう聞いても絶交でしょ絶交。そもそも信用がない人間と関わりたくないでしょ。これからどんどん疎遠になってくるよ。そうなる前に諦めて次の男でも見つけよ?
信用が底を尽きたっていうならそもそもこんな回りくどく言わないでしょうが!少なからずまだ信用は残ってる。せんぱいに挽回するチャンスはまだ残ってる!
ネガティブとポジティブが頭の中でケンカする。
あー、ほんとどうしてこんな事になったんだろう。
私が気まぐれで祭りになんて行かなければ良かったのかな?それともそもそもせんぱいを同級生としてみていた方が幸せだったのだろうか。……っていうか全部もう過ぎた事だし。
「…ろ…ゃん……」
あの時気持ち伝えておけば全て丸く収まったのでは?私とせんぱいは付き合えてハッピーエンド!以上みたいになるはずじゃなかったのかな?刹那的に感じた危機感で行動して状況を逆転させてしまった事が悪かったんじゃないの?
あっはっは……過去掘り起こして結局何になるの……結果は変えられないし、私の現状も変わらない。
私は一体この思考の答えをどこに持っていきたいの……
「いろはちゃん!」
ハッとまた現実に戻される。
「あっ、す、すいません。ちょっとぼーっとしてました何運ぶんでしたっけ?ちくわ?大根?しらたき?」
急に話しかけられた事により頭より口が先に動いた。
「いろはちゃん落ち着いて。メニューがおでんになっちゃってるよ!」
えっ、えっ、なっ何を……どう……するん……だっけ??
おでん?運ぶ?せんぱい?関係?信用?はっはっはっ……
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
わかんない
……
.
.
.
もうわっかんないよぉ……
息がしづらい、何度も鼻をすする。
目頭が熱く視界が度々ぼやけてさらに頬を伝う生暖かい液体の感触
ほんっと……さいあく……
腕や服に当たる水滴の感触それら全てが自分が泣き出したという状況を理解するのに十分な証拠。
とにかくこれ以上余計な痴態を晒さないで良いように顔を隠しその場でしゃがみ込んだ。
しかし指の隙間、手の甲から涙は逃げていき、無理に手で顔を隠したことにより嗚咽がよく通り、先輩達が次々に私が泣き出した事に気づきだした。
「えっ!?ちょっ、いろはちゃん!?」
傍から見れば唐突に先輩方の前で泣き出した1年生。
情けない、恥ずかしいがさらに追い打ちをかけて嗚咽と落涙の頻度が増える。
「へ!?……ど、どうしたの一色ちゃん!?」
気にかけ海老名先輩、嗚咽で意味不明な返答しかできない。
「はぁっ!?なんで?」
なんとしても迷惑かけまいと思っていた三浦先輩、本当に申し訳ない。
あとが怖い。
状況について行けないのだろうなぜ泣いているのか理解できず慌てる私の1番近くにいた結衣先輩。
「急に泣き出しちゃって……」
「そう言えば……先ほどからずっと心ここにあらずのような感じだったわね。たまに眉間にしわが寄っていたりと本調子では無さそうだったわ」
そう雪ノ下先輩が呟く。
そういう風に見えていたんだと自分のしょうもない姿を見られていたことに対する羞恥心が顔を出す
ただ結衣先輩がコソッと耳打ちする。
「……大丈夫だよいろはちゃん」
その優しい声がすっと耳の中に入ってきた。
何が大丈夫なのかは分からない……けどいつもの結衣先輩より大人っぽく感じ安心感を感じた。
結衣先輩は近くに居た優美子先輩に伝える。
「いろはちゃん……ちょっと辛い日みたい」
羞恥の極み。
明らかに狙ったかのような言葉選び。いや確かに辛いけれど……!
そしてその前の雪ノ下先輩の私の状況説明から皆たどり着く答えを誘導されていた。
全然大丈夫じゃない。しかも違うとも言えないこの状況。
「まったく……あんた、自分の薬もってる?どこ……」
嗚咽混じりの声は何を言っても濁音が混じり自分でも何を言っているのか分からない。
上手く話す事が出来ない羞恥心がさらにそれを加速させる。
あぁ、言葉すらまともに発することができない……もうどこまでものっかるしか無いのか……
「ちょっと宿舎まで距離あるわね……」
「私のだけどポーチに入れてるからそれ持ってくるよー!」
「海老名ー急ぎ、なるはやでおねがい」
もはや視界が涙でぼやけてどういう状況か分からない。
ざっざっと土を蹴る音が聞こえ、海老名先輩が薬を急いで取りに行っている事だけは分かった。
「いろはちゃん。そこ座ろ」
結衣先輩の言葉が共通認識とされたみたいだ。
優美子先輩は私の介抱で海老名先輩はその薬を取りに向かうって言うシナリオで決着がついた。
「1年生の女子1人で言いだしづらかったでしょ」
そう心配そうに言って慰め続ける優美子先輩。
多分自分が気づいてフォローできなかった事を悔いているのか……
そうとなると罪悪感が半端ない。
それからすぐに戻ってきた海老名先輩はそう言って薬を差し出す……
「一色ちゃん。はーい、薬。大丈夫?」
「あんた、これ飲んでおとなしくしておきな。」
渡された薬をしっかりと握りしめる。
本当に申し訳ありません。本当に申し訳ありません。本当に申し訳ありません。これもう本当に最低最悪の展開……ごめんなさい。申し訳御座いません。迷惑かけてごめんなさい……
申し訳ない、恥ずかしい、情けないそう言った感情が絡み合いさらに涙を増長させる。
「一色!大丈夫か!」
そう言って近づいてきたのはぼやけた視界だが平塚先生だと言うのが分かる。
ただヒックヒックと嗚咽が止まらず返答ができない。
これから色々と作業があっただろうに……こんな私に……
色んな人に………迷惑かけて……ほんと私……ださいなぁ……
「だ……だいぎょ……でず……」
無理矢理声を出してもこれはダメだ何言ってるか自分でもわからない。
首を縦に振る意外は何もできなかった。
「馬鹿者、大丈夫と言う奴は大抵大丈夫では無い」
ちゃんと言葉を汲み取り、優しく微笑み頭をポンポンと撫でられた。
なんだこれ……大人がいるというものはここまでも安心するものなのかと……
現れて……初めて安心する存在がここにいるのかと思った。
それを考えた途端、ピークを過ぎたと思った情動が高まり始め、
またポロポロと涙が流れ嗚咽がその頻度をあげる。
「安心しろ。私が来たんだ」
涙で落ちたメイクもあるだろう、汚いだろうし汚れてしまう。
そんなのは関係無しに平塚先生は私を抱きしめた。
最後の堤防は決壊し、私は人生で最醜最悪な号泣姿を先輩方面々に晒すこととなった。
***
平塚先生は私を連れ先輩達は自分の分まで籠を持って行ってしまい、私と平塚先生が
ちょうど籠があった場所のブルーシートで休んで戻ると言う事になった。
「どうだ、大分スッキリしただろ?」
私は体育座りで顔を足で隠す。
「人生で一番酷い醜態をさらしたので死にたいです」
あとメイクが酷いことになっていると思う。
「気にするな。人の噂も七十五日だぞ」
「それ……地味に長いじゃ無いですか」
「どうせ夏休みのど真ん中の出来事なんて誰も覚えてないさ」
「そう言うものなんですか?」
「そう言うもんだ」
……
会話が途切れサーッと吹く風が少し心地よく感じる。
さっきみたいなごちゃごちゃとした心境が軽くなった気がした。
「まぁ私は君があそこまで号泣するのに正直驚いたがな」
「遠慮するなって言ったのは誰ですか……」
正直思い返すとものすごく恥ずかしい……
「泣くというのは一種のストレス発散法だ。泣きたい時は恥ずかしがらず大いに泣け。大人になるとそれすらも難しくなってくるからな」
確かに泣いた事でさっきの淀んだ思考が一気に抜けていた。
「まぁ……確かに大分スッキリしましたけど」
「ふっ、正直でよろしい」
「もう思い出したくないので掘り返さないでください」
「わかったわかった」
ただ泣いてスッキリしたところで何か妙案が思いつくかと思いきや、結局何も思いつかない。
何も有効な策は無いし……この場合どうすれば?……っ!
私の視線は次第に平塚先生に向いた。
「ん?どうした一色」
「折角なのでもう少し雑談に付き合ってもらえますか」
「ふむ……サボりと思われない程度には良いだろう」
「では……私の友達の親友の話なのですが……」
「ん?君はあれか?恋人の趣味に染められるタイプなのか?」
「で、ですから友達の話です!」
意外と大きい声が出てしまってすぐさま自分で自分の口を塞ぐ。
「あぁ。続けたまえ……」
ニヤッとして平塚先生は聞き返した。
ほんのり顔が熱くなり、私は目をそらした。
ほんと悩みに悩みましたがこういった感じになりました。
自分のプロットとしては正しい流れです。