俺たちが作るカレーは3グループに分けられるみたいだ。
それで結局俺と雪ノ下先輩と由比ヶ浜の3人が班分けされ、彩加と三浦先輩と海老名先輩、で後は葉山先輩とキョロ充パイセン
そんな量作るのか。余ったのは先生達が美味しくいただきますってか。何それズルい。タッパー持ってこればよかった。
……あれ? 誰か足りなくねぇか? 一色は? あいつどこ行ったんだ? このままでは海老名先輩に葉山先輩とキョロ充パイセンの夢妄想が繰り広げられてしまう。
辺りを見回してみるがその姿はない。と言うか平塚先生もいねぇ……仕事手伝わされてんの?
すると、千葉村に来てよく目にする小学生達がなにやら喋っている。
「なぁしげちー、にんじんは持っていかなくて良いんじゃない?」
「ユースケ、好き嫌いは駄目だぞ。俺なんて生で食べるし」
「馬かよ……」
「細かく刻めばいいんじゃね?それならカレーの味に消えて無くなるっしょ」
「きばみー。天才かよ……」
そういや俺も小町が好き嫌いしたらとりあえずフードプロセッサーにツッコんで細かくして食わせてた気がする。
そうこう周りに目線を配りながら材料を一通り揃える。
「うし。こんなもんか」
俺の目の前には今日の晩飯であるカレーの材料の野菜と肉、あと市販のルー、そして米。うちのカレー風に作り出そうとした所で手を止める。まて?ルーの箱裏に書いてあるとおりに作った方がいいんじゃ無いか?
良く考えて見ろ。俺の家風とかいってドヤ顔で作ったカレーを食べた奴らが微妙な顔して食べるのなんて見てらんねぇ。マジで一生物のトラウマになりかねんぞ。
……しかし結局はカレーだ。おっと、『結局は』とは失礼だったな。失礼。全世界のカレー企業が科学と化学の叡知を駆使し、スパイスの配合に心血を注ぎ作りあげた誰でも美味しく満足できる味に仕上がるカレーだ。多分。結局の所誰が作ろうとカレーは同じ味がするカレーなのだ。
いやまて、どの業界にもイレギュラーは居るもんだ。ほら、居るだろ? 僕が1番ガンダムをうまく操れる奴とかデデデデデデンのBGMと共に現れるあのナイトメアとか。あれと同じだ。由比ヶ浜はイレギュラーだ。
……まてよ? 最近めざニューでみたがロボット工学とやらが話題にあげられているようだ。科学技術の進歩で調理工程を全て自動で行えるロボットが開発されたとでていた。
それなら由比ヶ浜でも大丈夫なのでは無いか? 材料を用意するだけだ。
……いやあいつ絶対桃缶入れるだろ……無理無理ロボット壊れる。現代人類の魔法である科学の叡知を上回る由比ヶ浜マジ主人公。
……ってかさっさと作るか。
俺は淡々と小町と築き上げた家事スキルを使い野菜を洗い、にんじんやジャガイモの皮を剥こうと作業に取りかかろうとした。
「何あなたひとりで勝手に物事をすすめてるの? ……そうだったわね。あなた協調性に欠けてるんだった」
今日1番のお前がそれを言うか大賞はこれで決まりだな。
「いや、所詮カレーですからね。良いじゃないですか。やりながら物考えしたい年頃なんですよ」
「あなたが物考えをしたいという理由はこの場では関係ないでしょ、公私混同しないでもらえないかしら」
「うぐっ……」
「それに……こんな簡単な事を由比ヶ浜さんに任せないで彼女に何をさせればいいのかしら?」
「……一理ありますね」
いやなんというか……ここまでそのとおりだ、ここまで反論の余地がなくストンと腑に落ちた論破は久し振りってくらい納得した。流石雪ノ下先輩だ。俺に分からない事をやってのける。そこに痺れる憧れ……はしないな。
確かにひとりで勝手にすすめてカレーを作るってのはあれだったな。だがしかし、ボッチにはどうやって複数人で物事を進めれば良いかわからねぇんだよ。
とりま俺ひとりでなんとかすりゃいいか……みたいな感じで終わるんだよ。
先に、簡単な作業を始めた俺が悪かった。由比ヶ浜、頑張れ。
「な、なんかすごい馬鹿にされている気がするんだけど……気のせいだよね?」
「あぁ安心しろ、ただ心配しているだけだ。ほれ」
そう、それは午後のおやつを食べた後にソファーに俺の隣で寝ている小町をみてほっこりするような優しい笑みを意識して俺はピーラーを差し出した。
「な、なに? ヒッキー? ちょっと笑い方……キモい……」
……由比ヶ浜? 何気ない一言が人を傷つけるんだぞ? 覚えとけ?
「ジャガイモの芽はちゃんと包丁の角使って取れよ? ピーラーでポテトチップスよろしくみたいに削るなよ?」
「角使って?? ……包丁に角って? 先っちょのこと? むずくない?」
あっ……皮むきすらダメかもしんねぇ……
「由比ヶ浜さんいい、芽の取り方は……」
そう言って雪ノ下先輩からジャガイモの芽の取り方講座が始まった。
それをふんふんとじっくりと観察する由比ヶ浜
微笑ましい光景だ。
眺めていると、ふと山本五十六の名言が頭をよぎる。『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』
続きはなんかあったと思うがその第一段階みたいな感じ。
そういや中学の頃にやたら著名人の名言を多用する奴がいたが、そういう奴に限って言葉知っている俺かっけぇってなっているだけで結局は言葉の意味も真意も理解できておらず、言葉だけに酔いしれた虎の威を借る狐野郎が居たな。
……無論俺なんだがな。「お前の言葉ってペラッペラな紙みたいだな!」って言われて教室中大爆笑。片隅でひっそりと泣いた覚えがある。
セツナドラマだろ?
「さっきから下卑た視線を感じると思ったら比企谷君? 何をサボってるの? 飯ごうの準備、お願い」
1番面倒くせぇ作業を押しつけられた……
普通のご飯なら米といで炊飯器でぴっぴこさだろう。
しかし今回は飯ごうで炊くのだ。勝手が違いすぎる。っというわけで俺もユキペディアのお世話になろう。
「飯ごうは流石に経験ないんでゆきペディア先輩教えてください」
「あなたが懐に隠し持っている情報端末はただの文鎮かしら? それで調べたら?」
扱いの格差が酷すぎません? ノブレスオブリージュどこに消えたよ。
聞き方が悪かったか? いやどこも悪いところなんて無い筈だぞ? ユキペと略すべきだったか?
こりゃ一色との壁役に使った事をまだ根に持ってるな。
まぁ、俺が悪いんだが……
「さっきはすいませんした。ちょっと一色と色々とあって」
「……」
えっ、そこ無視されると会話終わっちゃうんですが。
雪ノ下先輩は嘆息をついた後、ようやく呟いた。
「いいえ、大丈夫よ。表に態度が出てしまっていたわね」
なんか由比ヶ浜も気まずそうな雰囲気で黙々とピーラーでジャガイモ皮をむいていた。
雪ノ下先輩が期待した結果とは? ……あれか? 一色と梨切っていた時の事か、そりゃちゃんとうまく関係が切れるように動いたぞ。
違うのか? ……いいやうまくやれたはずだ。
「……比企谷君、とりあえず話は後にして先に調理だけ始めましょうか。皆もう煮込み始めてるから」
そう言われ辺りを見回すと確かに皆もう食材を鍋に入れ煮ている段階に入っていた。
俺たちは完全に出遅れていたのだ。
「え……えぇ……そうですね」
そう言って雪ノ下先輩はまた皮むきに戻った。
あっ、飯ごうはやっぱり自分で調べろって事なのね。
***
スイスイスイタタッタ、スラスラタッタッタっと指を滑らしたり叩いたりしてスマホから情報を引き出す。水場で米をとぎ何度か水を飯ごうから吐き出す。
外にいるときはこういう米とぎは面倒だ。もうサトウさんちのご飯でいいだろ。茹でるだけ! ……地味にあれ高ぇんだよな。
そうこうとどうでもいいことを考えつつも米とぎは終わり後は水を入れるだけだ。どうやら水を手首ほどの浸かるくらいに入れ火の元に置くらしい。
あとはタイマーで計れば大丈夫だろう。まぁずっと様子を見ずとも近くで見ておけば問題ないだろう。
その場にしゃがみ込み燃えている炭火をぼーっと眺める。
最近はスマホで読書しながら待つのだろうが残念ながら俺は紙派だ。
いつ消えるか分からん物に金を使うなぞ怖すぎてやってられるか。
ソシャゲなんてもってのほかだ。上には上が居るのだ。自分の生活費を賭してまで上に向かおうとする奴らに勝てるわけがない。
なら上に向かうだけ無駄だろ。無料配布の石だけでやり過ごすに越したことはないのだ。最近はよく分からん理由でばらまいている奴……あるだろ? オススメだぞ。
……
ただじっと飯ごうの様子を見ているがまぁ流石に置いたばかりだ、全然反応が見られない。
手持ち無沙汰となった事だし。
またここで雪ノ下先輩から『あら、ご飯を炊いただけで休憩なんて良いご身分ね』なんて言われかねん。
なので何か仕事を探しにっと……
適当に鍋を手に取り油をしき既にみじん切りにされたタマネギを炒める。
「気が利くわね。ここに切った野菜置いておくわ。頃合いをみて入れて。私と由比ヶ浜さんは洗い物と生ゴミの処理をしてくるから」
「うす」
どうやら俺の行動は正解だったようだ。
あっぶねぇあぶねぇ
「あっヒッキー。これも」
そう言って置かれた桃缶。……どこから出した??
「あぁ、入れるタイミングがあったらな。開けずにそこ置いといてくれ」
「はーい」
そう言って野菜の隣に桃缶を鎮座させておいた。
我ながら今回の由比ヶ浜襲来に対する華麗なハンドリングはファインプレイだと思う。
誰も傷つけず、誰も困らない。
幸せな世界の誕生だ。おめでとう。
それから作業は順調で、肉を投入し、焼き色がつく程度炒めたら雪ノ下先輩達が用意した野菜共を投入。
あとは水を浸るくらい入れて待つくらいだ。
灰汁くらいは取らないといけないので鍋の前から離れられない。飯ごうもまぁ見える位置にあるからここでしばしだらっと休憩タイムとしゃれこもうか。
しゃれこもうかって今日日聞かねぇな。
***
「作業は終わった?」
「うす」
どうやら洗い物や生ゴミの処理をしていた雪ノ下先輩と由比ヶ浜が戻ってきたようだ。
「お疲れさま。なら少し向こうで休んできたら?」
んん? 雪ノ下先輩が俺を労うなんて珍しい。今日は槍でもふるか?
と思った所、彼女との視線が合わない。彼女の目線の先を追うと遠くだが歩いてくる一色の姿があった。
多分俺と鉢合わせさせないようにという気遣いだろう。
正直にそれに従った方がいいと判断し俺は「うっす」と言い、足早にその場を去る。
・・・
どこか適当な場所がないか探していたところ声をかけられる。
「なぁなぁ~、ヒキタニ君だっぺ? ヒキタニ君ちのカレーにちくわって普通?」
えっ? 何その距離の詰め方、斬新過ぎて言葉につまる。
「ま、まぁカレーの具材って家庭によって違うじゃないっすか、ジャガイモ入れるところもあれば入れない所もあるし、タマネギの切り方もみじん切りからくし切りまで千差万別じゃないですかね?」
とりあえず模範回答を答えておこう。まじビビっし。
「あぁ~それねっ! 分かるわ~俺んち白滝とかピーマン入ってっし! っていうかヒキタニ君超良い言葉知ってんじゃん! センサー判別ってカッコ良くね?」
タマネギのみじん切りもくし切りも何のセンサーに判別させんだよ。
……って言うかキョロ充パイセンこれが初会話なんだが……いい加減名前知りたい。
タイミング逃して聞きづらいのだが?
「ピーマンはなんとなくわかるんすけれど。白滝? そんなん入れるんすか?」
「は? 入れない?」
「いやだっておでんじゃあるまいし」
「はぁ〜人生の8割損してっわ〜、ありえねー」
いや嘘だろ? 白滝入れるか? なに? カレーうどんの亜種?
最近の糖質ダイエットブームに乗っかって出てきたやがったのか?
いやいやいや……花のDKが糖質ダイエットするこたぁねえだろ。
もっとカロリーあるもん食えよ。焼肉とかラーメンとか寿司とかあるだろ。
「いや、かなり可能性を探ってみたんですが……ないっすね」
「まじ?」
ってかあんたそろそろ名前なに?
そんなこんな話に付き合っていると
すこし距離があるが一色含む女子達の声が耳に入ってきた。
「あー! 一色さんおかえりー大丈夫だった?」
「はい、ご迷惑をお掛けして申し訳ないです……」
「次からすぐに言うこと、わかった?」
「はい……三浦先輩にもご迷惑お掛けしました」
「いいんだよ皆ある事だから。ほら、今日は休んどいて」
「いえ、そういう訳には……」
「こう言う時は先輩に花持たせるんだよ」
「……はい、わかりました。すいません何から何まで」
「いーんだよ。ってか小学生の子達を見張っといてもらえる?あいつら目離すとすぐになんかしでかすからね」
「あっ、はい。わかりました」
一色? なんかあったのか……遠くだから状況がよく分からん。
「んぁ? 女子なんかあったべ?」
「どうなんすかね?」
「おっ? いろはす帰ってきてんじゃんおせぇって〜。もう全部おわっちまったぞー」
おいおいおい、せっかく離れたのに呼んでんじゃねぇよ。気まずいだろうが。
多分声が聞こえてなかったのだろう。由比ヶ浜と雪ノ下先輩とそのまま話ししている。
「ってかちくわってシーフードに入るんか?」
シカトされても気にしないその精神すごいっすね。これがキョロ充。SUGOKUTSUYOI
「……永遠のテーマっすね。なぜかエビやら貝が入ってたらシーフードって言われて魚肉ソーセージやらちくわ入ってたらただのカレーって言われる矛盾」
「だべ。意味わからんよな」
まぁ正直どうでもいいんだがな。
「そっそっそー、ってか俺カレーにデスソース入れて食ってみたんだけどさー」
えっ? まだ会話続くの? どんだけ引き出し持ってんだよ。ってかデスソースって……死ぬぞ?