やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#29-2 よって一色いろはは彼女に希望を与えることにした。

 野外調理場に戻ってきた途端に二年生の先輩方々に心配され、そう言えば先ほど思いっきり恥を晒したことを思いだし死にたくなった。

 一色いろは、恥の多い生涯を送っています。なんでしたっけこれ?? なんちゃら賢治だったっけ?? お笑い芸人みたい。

 

 それはそうと小学生も二年生の先輩達も既にカレー作りに取りかかっている。

 何もしていないのも悪いのですぐにでも調理過程に加勢したかったのだが……三浦先輩や海老名先輩から休んでいてと言われ調理場から追い出され、そして向かった結衣先輩や雪ノ下先輩の調理場でも……

 

「いいよ、いろはちゃん。今日は休んでて」

 

やはり心配して優しい言葉をかけてくれる。

 優しく迎え入れてきてくれた結衣先輩。

 

 先ほどの自身の愚行が尾を引いてその優しい対応がすごく心に刺さる。

 とにかくなんて返したら良いのか分からず笑ってごまかす。

 

「一色さん、調理は順調だからあなたはあちらで休んでて。ちなみに由比ヶ浜さんは鍋をみる係だから、安心して頂戴」

 

 なるほど、それは安心ですね。

 

 そう言って雪ノ下先輩が指した場所は調理場からはちょっとだけ離れた所にある芝生に幾つか椅子が置かれていた。

 野外調理場は大体立ち仕事だからあそこで座って休憩できると言うことだろう。

 

「いいんですか?」

 

「えぇ、だってあなたもそんな腫れた目……他に見せたくないでしょ。小学生って踏み込んできて欲しくないところに揚々と踏み込んでくるし……」

 

 あっ……。そうですね。目が腫れている理由なんて問われたら確かに困りますし、お言葉に甘えることにします。

 

「ではお言葉に甘えて……」

 

 すごく気使われてる……実はなんともなく健康そのものの身。しかしそんな事言い出せず下手に動こうならバレてしまう。

 一色いろはは皆さんがカレーを作るのをみて食べるのを待つだけの小学生以下ニートオブニートと成り下がってしまった。

 せめて私にできる事はあの隅っこで皆さんに気づかれないようにひっそりと待つことだけ。

 これがボッチと言う奴ですか。……いや正直なかなか悪くない。口では絶対言えませんが。

 

 そう思い椅子が置いてある場所に向かう。

 その途中でせんぱいと戸部先輩がカレーの具材について話をしているのが聞こえた。

 ぼっちぼっち言っているけれど先輩方々とちゃんと人間関係を築けていることに気づいて欲しいかな。

 

 そんなことを考えるとまた負の思考の連鎖が始まる。

 だから今は視野に入れることを避け、考えること自体を打ち切った。

 

 椅子に腰掛け、料理を作っている二年生の皆さんや小学生達を一望できた。

 なんか現場監督になったような気持ちだ。イメージだけでそう決めた。

 

 ちょうど手の届く所にウォータージャグが置いてあり、隣に重ねられていた紙コップを1つ手にして麦茶を入れる。

 程よく冷えた麦茶が染み渡る。

 

 ……

 

日陰でそこそこ涼しい風が吹いて暑さを感じることは無かった。

そこに蝉の鳴き声やウグイスの声がとめどなく聞こえ普段は聞き逃していた自然の環境音にしばらく身を委ねる。

 

……

 

「デュシ、デュシ」

 

……

 

なにやら自然界の環境音に似合わない効果音も混じってきた。

 

「ちょっ!? しげちーまってまだにんじんの皮むいてないから切るなって!」

 

「は? 皮普通に入れるんじゃないの?」

 

「入れるのはしげちーんちだけだって!」

 

「きばみーまじ!? 大丈夫! ジャガイモは皮むくから」

 

「いやにんじんの皮もむくだろ!!」

 

「男子うっさい!!」

 

「あーまたビー子でたー、別にいいだろー! 迷惑かけてねぇし!」

 

「かけるし! となりがうっさくてこっちの声聞こえないから!」

 

「しらねぇよ! お前らの声が小さいんだろ?」

 

「は? マジムカつくんだけど……」

 

「まーた始まった……」

 

 ……

 

 あー、なんか小学生達が色々ともめている声が聞こえる。

三浦先輩との約束を思い出し仲裁に入ろうとしたら

どうやら近くにいた二年生の先輩方が混ざって万事解決したらしい。

楽しそうにカレー作りに戻った。

 

折角の出番が無くなってしまった。

残念に思いながらまた自然の環境音に身を委ねる。

 

……

 

 

やばい、飽きた。既に蝉の鳴き声が煩わしく感じてしまう。

 

 

圧倒的暇。スマホいじりたい。だけどスマホ鞄の中だし……いじってる場面を先輩方にみられて堂々とサボってるアピールはしたくないし。

 

 折角空いた時間だし色々と考えたいことは考えたいが

多分今の心境のまま考えても良い考えは思いつかないと思う。

 

 頭を1度リフレッシュさせてから考える事にしよう。

 

 はっ!? そうだ! リフレッシュするには寝るのがいちばん! どうせ暇なのだ寝てしまおう。

 泣き疲れて眠ってしまったって理由があれば許してくれると思う! あとは誰かが起こしてくれることを願おう。

 そう考え瞳を閉じて背もたれに寄りかかった。

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……だめっ蝉とホトトギスがうるさすぎて眠れない。

 なんだここ。蝉とホトトギスがめっちゃ沢山いる。うるさ過ぎで眠れる気がしない。

 

「ホントばっかみたいね……」

 

 ミンミンと泣く蝉の数も馬鹿みたいに多いという意味で溢れた言葉に、続けてささやくような言葉が続く

 

「ホント馬鹿ばっか……」

 

 ……

 

 私は発言したのは蝉に対してなんですが、あなたは誰に対して?

 

 というか何この子? いつの間に居たの?

 

 目の前に居るのは小学生にしては垢抜けた外見ちょっと雪ノ下先輩に似ている感じの可愛らしい女の子が少し私と距離を取った位置に座っていた。

 って言うかあんたカレー作りは? 参加しなくて良いの?

 

「カレー作りしなくて良いの?」

 

折角の出番だ。少しは小学生の子達に大人に見られるように声をかけておこうかな。

 

「……」

 

 まさかの無反応。会話が終わったんだけど。

 

「……私にはさせてくれないから」

 

 そう言って指を指す。その先は小学生達がカレーを作っているが正直指している場所がどこなのか分からない。

 大体の所は人数は5人1班としてやっているがそのうち1つの班が4人でカレーを作っている。多分そこなんだろう。

 ただ誰ひとりとして彼女が抜けたことを心配している様子がない。……と言う事はつまりそう言うことだろう。

 

 はぁ……ひとりじゃ何も出来ない癖に群れてひとりを攻撃することで自分の優位性と権威を示す面倒くさい人たち。いまや小学生でもそんなのがいるなんて生きづらい世の中ね。

 

「大変ね」

 

「大したことない。名前……なに?」

 

 まさかのタメ口。こっちもこっちで性格が歪んできてるのね。

 

「一色いろはよ、次から名前聞く前に自分から名前言おうね、それが礼儀だから」

 

「鶴見留美。うん……」

 

 あら素直でよろしい。こう言うことがあってから性格がだんだんと歪んで来たのかなぁ。

 

「留美ちゃんだっけ? あんたなんかしたの?」

 

「うぅん、なにもやってない。たださ……なんか面白くないし……前までうまく立ち回ってたけれど、もう面倒くさいから……1人でいっかなって」

 

私の面倒くさいセンサーがビンビンに反応している。これ以上踏み込んだら多分後戻りできないし……とりあえず突き放そう。

 

「そ、ならいいんじゃない今が良ければ」

 

 抗う気がない子に何をいっても意味が無いしね。

 

どうやら突き放したら突き放したでちょっとは構って欲しかったらしく留美ちゃんは話を続ける。

 

「今が良いって言われたらそうじゃないけど……でも我慢できるし……中学に入れば余所から来た子と仲良くすればいいし」

 

 あら、いい感じにやさぐれてるわ。せんぱい思い出しちゃうじゃない。お礼に少しだけ世の中の厳しさを教えてあげるね。

 

「ふぅん……あのさ、そんな希望とか見いださない方がいいんじゃ無いかな?」

 

「……え」

 

「ああいう子達はいっくらでも増えるよ。人を見下して自分を大きく見せたい子達って多いから。だから中学できた余所の子もそれに染められて一緒にあんた攻撃する。私にはそんな未来が見えるけどね」

 

 第一印象って本当に大切。声がデカいとその第一印象を勝手に拡散されるわけ。あの子と余り関わらない方がいいよってね。

 そうやって唾つけた相手にあることないこと吹き込んで勝手に妄想して作りあげた理想の悪役像を相手に刷り込んで対象を孤立させる訳。

 そして悪役が仕上がったらあとは群れてこいつに何してもいいっていう前提の元、攻撃を始める。

 とくに最近はスマホでやり取りが見えづらくなったから余計気づきにくくなった。中学1年生入学当初から既に遅れているとか良くあること。

 

 ホント群がって人を囲っては自分に都合の良い言葉だけを並べては攻撃してくる。私が何をしたというのか何かとこじつけて文句をつけてくる。男子に少し荷物持ちをお願いしただけでそれだったからなぁ~。

 

「やっぱり……そうなんだ……」

 

 何かに堪えるように口元を固く閉じる。

 そして身体も少し震えているように見える。今はまだ耐えられているけれどさらに人が増えるってなるとそりゃ怖いか。

 

「まっ、私が知ってる限りじゃそうなるわね。で? 何されてんの?」

 

 しばらくの間があり、その固く閉じた口を緩め、留美ちゃんは呟いた

 

「クラスの皆にハブられてる……」

 

 なんとなく想像はしてたから驚きはしない。

 

「誰かがハブられる事っていうのは何回かあるんだ……そのうち終わるしマイブームみたいなものだったの。誰かが今度はあの子、今度あの子って言いだしてそんな感じでみんなそういう雰囲気になるの」

 

 軽い気持ちで聞いていた話の内容が随分エグかったけどね。

 まぁ先生に言えばこんなタチの悪い遊びは終わると思うけど?主犯は帰りの会とかでつるし上げられてごめんなさいして終わりみたいな。

 

「それで、結構仲いい子がハブにされて……私も距離置いたんだけどいつの間にか今度は私がそうなってた」

 

 なんかやってんじゃん。それだよそれ。だから言い出せない訳か。

 

そこからいくつか質問を重ね、なんとなくその……ハブりゲームの内容が分かった。

 皆がハブってる環境でも関係なく話しかけてくる奴は皆でハブる!

 そして一定期間経つと話しかけるようになる、その際に話しかけなかった裏切り者、私はお前を絶対に許さない今度はお前がハブられる番だ! ギルティ!

 どっちを選んでもハブられるし……地獄かよ。

 対象者に何らかの干渉をしようものなら今度の対象は自分だと雰囲気でにおわせ、ハブる対象が今まで信じていた友達を憎み、指名して同じ事を繰り返す。

 

 っていうか、それだけだと何が楽しいのかよく分からない感じだな~……もっと何か女どもが楽しめるなにか……

 

「私その子にいろんなこと喋っちゃったからさ」

 

 その話を聞いた時に私は自分事でも無い筈なのに怒りに似たなにか沸々とした感覚をおぼえた。

 

 ……なるほど理解した。ある程度経った後、恨み辛みを持った元ハブられ者に裏切った友達の秘密を暴露させて今度はそいつをハブってその裏で笑いものにするって言う遊びね。

 誰々が好きだとか、気持ち悪い趣味持ってるとか、家族関係がうまくいってないとか、片親だとか皆と違うを晒して笑い者にするタチの悪いやつ。

 よくこんなの思いついたわね。そいつ絶対性格悪いよ。

 

 たしか中学の頃それと似たような事があったかな。

 信用してた友人にだけ話をした好きな人が次の日にはクラス中に知れ渡っていて、あれだけ仲良く喋っていたのに気まずくなってその子とその後全然喋らなくなった男子がいた。

 そして人の人間関係破壊しておいて皆は悪気がなくなって時間が経ったらそんな事があったことすら忘れる。

 あの人達も時間をかけて関係を深めていけば付き合えたかも知れない……そんな可能性すら摘み取ったあの群衆の無責任さに吐き気すら覚えた。

 

 

「中学校でもさ……こういうふうになっちゃうのかなァ……」

 

 

 嗚咽混じりの震えた声音。

 これからも絶望が続くことに絶望したのか潤む目。

 正直今私もそんなに情緒安定してないからそんな声されるともらい泣きしそうなのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ……まさかこんなに早く請求がくるなんて……まったく……約束はしっかり守りますよ。平塚先生。

 

 

 

 

 

 

 

「そのままだったらそうなるよね」

 

「……」

 

「留美ちゃん、あなたはどうしたい? この状況は嫌よね」

 

「うん……嫌……だけど、もうどうにもできないし……友達、見捨てちゃったし、見捨てられたし、もう仲良くできないし……また友達つくってもまた同じ事いつされるか分からないし……それだったらもう……ひとりでいっかなって……」

 

 そっか……

 

「ひとりは慣れた?」

 

「慣れた……って言うか惨めっていうか、クラスで1番下なんだなって感じがして皆から見下されてる感じで……学校も楽しくないし、なにも面白くない」

 

「まっ、それも経験の1つじゃない。ハブられてる子の気持ちも知ることができたでしょ」

 

「えっ……うん……そうだね。こんな気持ちになってるなんてしらなかった……」

 

「じゃ、今度自分みたいな子を見つけたら、仲間に入れてあげる事。できる?」

 

「……どうだろう、仲間に入れてもどうせまたいつか私がシカトされるし……」

 

「あぁ、それ。大丈夫」

 

「……え」

 

 ちょうど考えたくないことを考えずに済むし私も暇を持て余していた所よ。

 いいよ、手伝ってあげる。

 

「大丈夫だよ留美ちゃん。あなたが次学校に登校するときその遊びは無くなってるから」

 

 ようやく彼女は私の方にゆっくり顔を向ける。

 キョトンと呆けた表情をしている様子だが、……あら、可愛い顔してるじゃない。

 

「あとはあんたのちょっとした勇気よ。どうなの?」

 

 私はこういうやつの終わらし方を知っている。

 

「できるの? ……ほんと?」

 

 中学校に入ったら全て救われるっていう淡い幻想にしがみつくぐらい疲弊して。

 現状絶望しかなく心を殺すことでそれに耐える事を余儀なくされたんでしょ。

 

「ほんと」

 

「ほんとに……ほんと?」

 

 次第に嗚咽が混じり声も震え……でもう一度聞いてくる。

 もう希望をみつけて手が届かなくて絶望するのは嫌なんでしょう。

 そのぎゅっと噛みしめる唇がそれを表してる。

 それじゃ、伸ばした手をちゃんと取ってあげよう。

 

「だから、ほんとってば。それに泣くのは後で」

 

「……う゛、うん。できる」

 

 今にも溢れそうな潤む目を必死に堪えそう答えた。

 

 数多くの嫌がらせや陰口をささやかれ。親しいと思った人にすら裏切られたこともあった。

 ただ私はそれらを退けてきた知恵と経験はここにある。そして意志も揃った。

 あとは考え組み立てるだけ。

 

「それじゃ、ちょっと特別授業しよっか」

 

私は初めて、他人の為にこれを使おうと思った。

 

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