やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#30-2 こうして、一色いろはは策を講じる

ふぅっと一息つき、林間学校のしおりを閉じ、背伸びをする。

 

 時間割を頭にたたき込んでいくつかの策を思いつきそれを組み立てた。

 

 あの遊びを無くすために必要な作戦はどうにかできた。あとはそれを実行するために必要な人員とそのタイミング。そして留美ちゃんのちょっとの勇気。

 とりあえず必要な事は今日できるだけ話を進めたいけど、これから後片付けもあるだろうし今は時間が足りないかも……となると夜に皆に作戦を伝えて明日の自由時間で動いてもらうしかない。

 

 ……それにしてもカレー美味しい。普通におかわりしちゃったし。全く働いて無かったんですが、ほら食べないと……ね。

 目の前の湯気がたったカレーにさじが動く。

 

 とりあえずひと段落ついたところで辺りを見回すと私の周りに先輩方がかたまって座っていて、気を使ってもらっていることがすぐに分かった。考える事に集中しすぎて完全に周りが見えてなかった。お礼の1つでも言っておかないと。

 

「三浦先輩、ありがとうございます。気を使ってもらって」

 

「あ? 言うの遅いっての。……まぁ少しは落ち着いたんならよかった」

 

「ありがとうございます」

 

「気にしないでよー、これも協力だよ~」

 

「そうそうーよかったよーいろはちゃーん」

 

 海老名先輩や結衣先輩もそう言って笑顔を返してくれた。ものすごく心が痛む。

 

「落ち着いたようね。……良かった」

 

「ほんとびっくりしたんだからね! 今度からちゃんと言ってね!」

 

 雪ノ下先輩、結衣先輩……まぁ、何というか機転を利かせてくれてあれやこれや言われる事が無くすんだので助かったのですが……この言い訳二回目なんでちょっとせんぱいにバレないか心配なんですよね。

 まぁ、それよりも……

 

 せんぱいの事はいったん後回し。最優先は留美ちゃんの事だ。切り替えよう一色いろは。

 とにかく先に終わらせないといけないものがあるから。まずはそれに集中しよう。

 

 そう思いまたスプーンでカレーをすくい口に含んだ。

 

 ***

 

 夜も深まり、夏ではあるけれど高原であるから肌寒さを覚え始めてきた。

 鈴虫がリンリンと鳴き始め今日も1日が終わるって事を告げようとしている。

 ちょうどトイレから戻る途中、窓越しに見た日の落ちた高原の景色は外灯が無かったら道すらも見えない。

 窓越しでも聞こえる姿の見えない木々が風に揺れ擦れる音や虫の音、野鳥の声に自然だなぁって感傷に浸る。

 この闇で色々と雑に交わっている音はまるで私の心境を表しているかのようだ……

 

 背筋から鳥肌がブワッと一気に広がった。

 何をポエミーになってるのだろうか……口に出さなかったから良かった。

 

 戻ってきた私が目の当たりにしたのは留美ちゃんをどうやったら救えるかみたいな事を先輩方々と平塚先生で話合いをしていた。

 私はいつこの事を切り出そうか考えていたけれどどうやら皆さん留美ちゃんのことを気にかけていたようだ。

 ただその雰囲気はやけに重く途中途中で沈黙する頻度が多くなっていた。

 

「どうかしました?」

 

「あぁ、一色か。君も話合いに参加してみるか」

 

 皆が座って話合いをしている中、平塚先生だけが席から外れ自分は外野であると主張するかのように静観していた。

 

「えぇ、もしかして……留美ちゃんの事ですか?」

 

「あぁ、どうやらそのようだな」

 

「先生は参加しないんですか?」

 

「言っただろ? 生徒達自ら考えさせるのも教師の仕事だ。だから私はこのまま寝るとしよう」

 

 そう言って平塚先生は寝室に向かってしまった。

 ……いやそれはただ眠いだけなのでは?

 

 平塚先生が去った後、観察しているに雪ノ下先輩と三浦先輩と葉山先輩の3人が話が雰囲気を悪くする要因でもあったようだ。昔なにかあったのかしら?

 まぁ詮索は色々と終わってからしたいものですがね。

 はぁ……先にこの重っ苦しい雰囲気を壊すところからか……

 

「一色さん、そういえばあなた……あの子と話をしてなかった?」

 

 どうやら雪ノ下先輩が私の存在に気づいた様だ。

 それに続けて話合いを続けていた先輩達がこちらへと顔を向ける。

 せんぱいもなんかチラッとだけこちらを見てた。

 

「いろは、そうなのか?」

 

「そうですね。私も先輩方にちょっとご相談をしようとしていた所です。ですのでちょっと痴話げんかはあとにしてもらっていいですか?」

 

「一色さん、誰と誰が痴話げんかですって?」

 

「わーお、そう捉えちゃうかー」

 

「おっ? はやとくーん。まじ?」

 

「はは、いろは、それは違うって」

 

 葉山先輩、目が笑ってませんよ。

 

 えっ! えっ!? って葉山先輩と雪ノ下先輩を交互に困惑の表情で見ている三浦先輩が可愛らしい。

 まぁこれで大分雰囲気は和らげることができましたね。

 では話をする事にしましょう。

 

「まずは、これは留美ちゃんからの依頼です。本人からの了解も取れています」

 

「なるほど……それでは私たちはあの子の悩みを解決すれば良いのね」

 

「ふーん、だったら普通に先生に言えば良いんじゃないの? 助けてって合図だしてんだし」

 

 三浦先輩の言うことは正論。教室という箱庭の絶対権力者は誰か、それは教師である。

 生徒が助けを求めているのだからそれを助けるというのは教師の仕事ではあります。

 でも……

 

「えぇ、ですがここで先生を挟んで仲裁したとしたら……別の問題が出てくるんですよ」

 

「別の問題?」

 

「たとえばですよ? 今後入ってくる新しいコミュニケーション手段って何だと思います?」

 

「うーん……スマホとか?」

 

「正解です。小学生で携帯を持つ子の割合って結構少ないんですよね。ただ……中学生になると入学祝いとかで買ってもらえる事が多いんですよね」

 

「最近って変な人も多いって聞くよね。その意味で携帯って防犯の意味も含んでいるんだと思うんだ。なぜか僕もその頃持たされたんだけどね」

 

 ほっぺをポリポリと掻きながら気まずそうに話す戸塚先輩をみて、携帯を渡す親の気持ちがなんとなく分かる気がします。

 

 女性陣は大体何か察してくれたようだ。戸塚先輩を除く男性陣はまだクエスチョンマークがついたままだった。

 

「つまり正攻法でやった後、表向きで解決していてもやった側には『あいつにチクられた』っていうやられた事が加害者側にわだかまりが残るわけですよ。よく聞きますよね、やった側は覚えて無くてもやられた側は覚えてるって。それにちょうどこの6年生でこの時期っていうのはまた絶妙で……つまり中学まで引きずるんですよ。そーしーてー……そんな記憶が新しい状態で携帯を買ってもらうと……まぁお察しの通り、皆さんもよく使ってますよね、メッセアプリ。特定のグループを組んでそこでまた中学で新しく会った人たちにある事ない事を吹き込んで群れを作って周りから孤立させて行くんですよ、だってバレないじゃないですか」

 

 わざわざ言葉にしなくても相手に伝える手法が手元で手軽に、相手に悟られずいつでもある事ない事を共有できる物が善し悪しも何も知らない好奇心の塊に渡るんです。

 何のルールもマナーもしらない。だからすぐ自分の都合が良いように使いたがる。その結果、メッセアプリでもすぐ既読返信しなきゃハブられることだって珍しくない。

 

「なんとなく……言いたい事はわかる」

 

 今の発言誰? 海老名先輩? うそ、いつも結構おちゃらけた感じなのになんかすごいキリってしている。やだギャップ。

 

「なので……あの子の今後を見据えて解決させないといけないです」

 

「なるほど……と言う事は皆が納得いく方法で解決しないといけないということか」

 

 皆が……納得か……葉山先輩の考え方はすごく優しい。すぐにそんな考えが出てくるんだから。

 ……だけどそれは全世界の人が仲良しになりましょうと言うくらい無理な事なんです。

 

「葉山先輩。それが理想ではありますけど、結局は理想です。納得いく方法を考えつく前に林間学校が終わっちゃいます」

 

「マッジ? チョーこわっ!」

 

 三浦先輩が怖がってるのは意外なんですが……

 

「う~ん……結構難題だね」

 

 こめかみを押しながら悩んでいる戸塚先輩はなんでこんなに可愛いんですかね。

 

 そんな中、せんぱいが手を挙げる。

 

「ちょっといいか」

 

「はい。なんでしょうか? せんぱい」

 

 極力せんぱいの顔を見ず感情を無にして答える。一部は私がせんぱいと呼んでいる事に少し首を傾げた。まぁ気にせずに続けましょう。

 

「この状況の根本はその遊びを通じて関係性を維持するために生け贄を捧げているって事だよな」

 

「そうですね。ついでに維持し続けている見返りとして生け贄の秘密事をばら撒かれるっていうのもおまけ付きです」

 

「お、おぅ……マジ? ゴリヤバくね?」

 

 誰でも秘密を暴露されるのはいやだろう。あのちゃらけた戸部先輩ですら流石に息をのんだみたいだ。

 

「そうか……それなら俺に考えがあるんだが」

 

 私は正直それを待っていました。

 

 私が考えているものは愚策でせんぱいが何か良い案を出してくれる。そんな事を期待していた。

 前に問題が起こっていることすら気づかなかった私より先に問題に気づいて、知らぬ間に根回しをして問題を解決させたせんぱいがきっと解決に導いてくれる。

 そんな押しつけがましい感情があったのは確かだ。

 

 しかし、話を聞く度にその期待が打ち砕かれていくのを感じる。

 勝手に期待しておいて勝手に失望するのは本当に自分勝手だと思うけれど、だけれど……この策はダメ。下策の下策。ふざけないで。

 なにより年齢は同じでも学年上後輩のせんぱいが葉山先輩達を悪役として利用するって先輩達からしたら面白くない。何こいつってなる。

 今までいい感じに築きあげた先輩達との関係を崩してしまう。

 虚無で接していた胸の内が燻り出す。だから私は少し勇気を出す。

 

「……もういいです。せんぱいはどんだけ性格悪いんですか? 馬鹿なんですか? 冗談は程々にして下さい」

 

「いや……そう言うわけでは無いんだが……」

 

「へぇ~、せんぱい。2年生を顎で使おうって言うんですか? 1年生の分際で自分は高見の見物なんて良いご身分ですね」

 

「ちょっおまっ! もう少し言い方考えろ」

 

「だって話を聞くとそのまんまじゃないですか!」

 

「俺が考える最善の案だ。間違っていようとも外れていようとも問題は解消されるだろ。そもそも皆関係性を維持したいからそういう遊びが横行したんだろうが。それなら皆がボッチになれば幸せじゃねぇか」

 

「ボッチになって幸せに感じるのはせんぱいだけですよ! そもそもせんぱいも小町ちゃんいなければ生きる意味すらみいだせないじゃないですか! 本当のボッチは一人っこなんですよ!」

 

「ぐっ……よくわかってるじゃねぇか……」

 

「なんでそこで認めちゃうんですかねぇ……」

 

「って言うかお前悪口の反応速度早すぎだろ……」

 

 なんですか人が折角フォローしているってのにその不名誉な称号は。

 

「あなたたち、痴話げんかなのかイチャついているのかは知らないけど……後でやってもらって良いかしら?」

 

「い、いえそんな! 痴話げんかじゃないです……よ?」

 

 次第に声が小さくなっていく。仕方ない、これは買って出た恥です。……これは買って出た恥です。

 

 異性と仲良く喋っているといきなりしゃしゃり出てきた人が『お前もしかしてこいつのこと好きなの~?』とか言ってくる奴に似ている。

 女子と話慣れている人は『んな訳あるか、ガハハ』って言うけれど女子と話慣れてない人ほどここでしどろもどろになるか、最悪テンパって言葉選ばず『そ、そんなんじゃねーし。誰がこんなの』って強がりを吐いたものの実はそこら辺少し期待していた節もあって、自分から折角徐々に距離を近づけた女子を傷つけてしまって気まずくなっていつも通り話せなくなって疎遠になるパターンのいずれかに分類される。そんなた……た……だめだ、思い出せない。何君は今は元気だろうか。全く興味は無かったので名前すら忘れてしまいました。

 

 せんぱいは、はにかむように黙ってしまった。まぁそうでしょうね。

 そして雪ノ下先輩はやりきったって顔をしていた。たぶん先ほどの事を根に持っていたに違いない。

 

「比企谷君の案は……意見の1つとして受け取っておきましょう。一色さん、あなたがその意見を否定すると言う事は何か別に案があると言う認識で良いかしら?」

 

「えぇ、そうです。ちょっと皆さんの協力も必要になってくると思ってます」

 

 そう難しい話ではないんです。

 

「まず、この遊び? みたいなのが横行しているのが留美ちゃんのクラスのみなんですよね。まぁ少しは他のクラスにも漏れているかも知れませんが、たいした問題ではないです。それではなぜここまでこの遊びが大きくなってしまったか、それはクラス全体がそれを容認してしまったからなんです。だから潰す為にはそれより多くの人がその遊びを否定する立場に回ればいい訳なので……つまり、学年全クラスを巻き込んでしまえば良いんです。どうやって巻き込むかというとそこは葉山先輩や三浦先輩みたいな小学生が憧れる高校生が噂を流せばそれに便乗すると思います。理由はオリエンテーリングのときもカレー作りの時も大人気だったじゃ無いですか。憧れの人がそう言ってるんですよ。従いますよ普通」

 

「火の無い所に煙は立たぬって事か……」

 

「それって、普通じゃないの?」

 

 不思議そうに結衣先輩が首を傾げる。

 それを見た私も葉山先輩も苦笑しか出てこなかった。

 

「えーっと……名前を出す必要は無いんですよ。ただ『どこかのクラスでこんな事してるって噂聞いたんだけどホント? ちょっとヤバくない?』って感じで話せば大丈夫です。ようは真実だろうが噓だろうがそういうことあるんだーって他クラスの子達の頭に入れておいて欲しいんですよね」

 

「各クラスの班に吹聴すれば良いって事?」

 

 雪ノ下先輩は理解が早くて助かります。

 

「そうです。できれば留美ちゃんクラス以外のクラスで。自分達にとって都合の悪い噂がジワリジワリと忍び寄る恐怖って下手な怪談より怖いですから」

 

「まじ? いろはすこっわ……」

 

 戸部先輩ほんと失礼ですね。私よりもこんな事考える小学生の方が怖いですよ。

 

「ただ、せんぱいと雪ノ下先輩は別でやる事がありましてー……。雪ノ下先輩は明日の夜にやる肝試しの構成を私と一緒に考えてもらいたいです。せんぱいは……ちょっと別で協力してもらいたいことがあります」

 

 いやまぁ……何というかせんぱいはともかく雪ノ下先輩までなんというか小学生の子達に避けられているんですよねぇ~。この案を行う場合、ある程度の信用があってから成り立つものなので別の所で役に立ってもらいたい所だったり……

 

「それは大丈夫だけれど」

 

「なんで俺もなんかやんだよ……」

 

 せんぱいは頬杖をつきながらため息を吐く。

 やりますよ? 何言ってんですか? あなたがサボるとかあり得ないです。

 

「せんぱいがベストマッチする適所があるのでお願いしますねー」

 

「……マジかよ……」

 

「まぁ安心して下さい、そんな大層な仕事じゃ無いですよ」

 

 せんぱいははぁ……とため息を吐く。

 

「わーたよ……協力すりゃいいんだな」

 

「よろしくお願いしますね。せんぱい」

 

「ここまで話が進んでてあれなんだけど、いろはちゃんの案にみんな賛成って事でいいんだよね?」

 

 なぁなぁで決まりそうな案を結衣先輩が確認のために採決を取ってくれた。すごく助かります。

 

「他の案がアレだし、それ以外に案はないからいいんじゃない?」

 

 そう言いながらジロっとせんぱいをみる三浦先輩。まぁ流石に悪役に抜擢されるとちょっとうーんってなっちゃいますよね……。

 せんぱいは恐縮している。言わなきゃ良かったのに……

 

「うぃー噂流しまくればいいっしょー? 余裕じゃん?」

 

「うん。なんかそれならできそうな気がする」

 

「私は皆がそれでいいならそれで良いと思うよー」

 

 よかった。どうやらこの案でいけそうだ。

 

「概ね賛成よ。ただ……いえ、一色さんこれは明日話しましょう」

 

 どうやら雪ノ下先輩は気づいてしまった様だ。

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