やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#31-1 何気に一色いろははいたずらを好む。

 鏡を見ながらブラシで髪をときながら、目元の腫れを確認する。昨日の腫れたブスはどうやらどこかに行ったようだ。

 身だしなみを整えて朝食を取りに食堂に向かう。

 食堂にはまだ人の気配は無く、閑散としていた。どうやら私が一番乗りのようだった。

 

 朝食は既に用意された容器をひとつひとつ取っていく形式で、適当な茶碗をさっさとプラスチックのトレイの上にのせ、適当な席に着く。

 ちょうど席に座った辺りで食堂の入り口から人影が現れた。

 

「ふぁ~……いろはちゃーんおはよ~」

 

 大きなあくびをしながら入って来たのは結衣先輩だった。

 

「あー、さっむ。今夏っしょ? なんでこんな寒いの……」

 

「高原だからねぇ~、朝は寒いんだよ~きっと」

 

「……」

 

 結衣先輩に続けてどしどしと先輩方が入ってきた。

 雪ノ下先輩は少し不機嫌気味だ。低血圧なのかな?

 

「いろはちゃん~今日はもう大丈夫?」

 

 結衣先輩が私の隣に座り、語りかけてくる。

 

「えぇ、大丈夫そうです」

 

「っそ、それなら良かったわ」

 

 そう言いながら雪ノ下先輩が結衣先輩の隣に座る。

 この二人ほんと仲良いですよね。

 

 向かいに三浦先輩や海老名先輩が座り、ちょうどその時に男子も食堂に入ってきた。

 

「僕たちだけで来て良かったのかな?」

 

「マジヒキタニ君全然おきねぇ~し、チョーウケんだけど。まぁ大丈夫っしょ」

 

「昨日は慣れない事ばかりだったから疲れているんだろうな」

 

 どうやらせんぱいはまだ夢の中である情報と共に男子3名が固まって席に座り朝食を取っていた。

 あのひと本当に大丈夫なんでしょうか? いざという時は雪ノ下先輩……いや、三浦先輩つかってたたき起こしてやりましょう。

 雪ノ下先輩からの罵倒は日常茶飯事なので馴れているはずなのでたぶんこれが効くはず。

 

「ねぇ、いろはちゃん。今日の事なんだけど」

 

「はい、せんぱいと雪ノ下先輩以外の皆さんには昨日お話しさせてもらった通り、自由時間の小学生に噂を流してもらえると嬉しいです」

 

「うん、わかった」

 

「お願いね、由比ヶ浜さん」

 

『まかせてよっ!』と自信満々に胸を叩いて咳き込んだ結衣先輩に『もう……』といいながら介抱する雪ノ下先輩。

 仲睦まじいなぁ~とその光景を眺めていたら後ろから声が聞こえた。

 

「おや、昨日の話合いの事か?」

 

 私の後ろの席に座っていた平塚先生が声をかけてきたのだ。いつの間にいたんだこの人?

 

「そうですね。その件で皆さんに今日協力してもらう予定です」

 

「なるほど、色々と考えたのだな。では私はその様子を観察させてもらう事にしようか」

 

「承知ですー」

 

「ただ、問題行動を起こしそうな場合はこちらも口を挟ませてもらうぞ。これでも引率なんでな」

 

「大丈夫ですよー、問題は問題と察知されなければ問題になりませんので……」

 

「君もまた同じ事を……、まぁいい。善処したまえ」

 

 それから雑談を交えつつ朝食の時間が過ぎて行った。

 せんぱいは全然起きてこなかったので誰かに起こしに行ってもらうような流れになった。男子諸君は全然起きなかったと言うので別の誰か……最初は結衣先輩か雪ノ下先輩にお願いしたいところだったが、雪ノ下先輩はコレから私と計画の話をしないといけないので離れられないし、結衣先輩では起きなさそうな予感がした。なので三浦先輩に無理を言って起こしに行ってもらった。

 ものすごく嫌な顔をしていたが、海老名先輩も一緒に行くという条件で嫌々ながら承ってもらった。海老名先輩は『隼人君か戸部君が添い寝したら嫌でも起きると思うよ? ぐふふ~♪』と言っていたが即座に三浦先輩がパシンと頭を叩き海老名先輩の暴走を止める。よし、これでかつてないお目覚めになると思います。

 

 そして各自自由行動と言う事で昨日話した計画を実行に移すべく各自散っていった。

 

 私は昨日皆と話合いをした場所で雪ノ下先輩と一緒にこれからの計画の詰めを行っていた。

 

「それで、今日の肝試しで皆集まっているなか、対象グループ出発後、後続グループの出発時刻を少し早めにして追いつく様にしておけば対象グループはそのときも留美ちゃんに何かしていると思われるので後続グループが察して噂の信憑性を上げていく形となります」

 

「えぇ、それでいいと思うわ。ただ一色さん、結局は可能性の話よ、話題にも上がらない可能性があるわ」

 

「うーん……確実に話すようにするって事だと私たちが直接こう言ってねって命令しなきゃできないですし。何でそれをするのって話しになると原因の話をその子達にしなきゃいけないですしちょうど良い塩梅ではないでしょうか?」

 

「ならせめてその可能性を限りなく高くする策は講じましょう。ほらここをみて」

 

 そう言って林間学校のしおりでちょうど肝試し前に数十分程度取られている箇所を指さしていた。

 

「確か平塚先生から演出で小学生達に怪談を聞かせる流れになっているわ。ここで今回の件をもじったかのような怪談を話せば記憶をぶり返させる事ができるんじゃないかしら?」

 

「なるほど、確かに」

 

 雪ノ下先輩よくそんなこと思いつきますよね。すご。

 

「でもそれを用意するって結構大変じゃ無いですか?」

 

「そう難しくもないわ。今回の件とよく似たことを昔の人は既にやってるものよ。村八分って知ってる?」

 

「はぁ……なんか村ぐるみで無視したりするアレですよね……ってあれ?」

 

 たしかに今回の件とそれなりに合致しますね。

 

「それを題材に挙げた怪談をネットで見つけて少しアレンジすれば良いだけよ」

 

「それくらいならすぐにできそうですね」

 

「えぇ、仮ではあるのだけれど書いてみたから後で確認してもらえる」

 

「えっ? 本当ですか。すごいですね」

 

「これ位当然よ」

 

 そう言ってふさぁっと髪をかき上げる。ほんと何事もそつなくこなせるなぁ~この人。

 

「一色さん。あなたにひとつ聞きたい事があるのだけれど」

 

 一呼吸おいたあと、雪ノ下先輩は私の目を見てこう言った。

 

「最終的にこれはやられる側が逆転するのではないかしら?」

 

 ……やはり気づいていた。

 

その通り、この計画は鶴見ちゃんを助ける事と遊びを無くす事を叶えるに特化した計画だ。

 

 林間学校後、犯人捜しが行われ、主犯が見つかり、最悪学年全体からイジメの対象になる可能性だってある。

 学年全体には悪いことした奴らを探し出して罰を与えるっていう大義名分があるのだからその可能性は無視できない。

 

「仰ってることは分かります。最悪はそうなると思います」

 

「主犯グループが今度が被害を被ることについては無視するつもり?」

 

「それについては先ほど話した通り、後続グループから噂が流れていることを聞き、そこで遊びを止めたらバレることは無くなります。これ以上やるとどうなるかの勧告はしたのにそれを無視した場合は……さすがに自業自得だと思いますよ」

 

「そう……」

 

「……もしかして雪ノ下先輩も葉山先輩と同じで皆納得できるようにって考えていたり……」

 

「そんなこと無いわ。絶対にありえない」

 

 その言葉を言い切る前に雪ノ下先輩は私を睨みハッキリと何かを拒絶するかのような口調でそう言った。

 あっっちゃ~……地雷踏んでしまった……

 

「と、とりあえず私の中ではこれでいいと思っています」

 

「そう……分かったわ。いったんこれで進めましょう」

 

 そう言って雪ノ下先輩は席を立ち、ヤカンをコンロにかける。そしてヤカンの近くに座ってしばらく無言の空間が続く。

 ちょっと拒絶されているのかと思ってしまい寂しい気持ちになったが、まぁ地雷踏み抜いて少しだけ話しにくい空気みたいなのが流れたからリセットしたいのだろうと考え直し、背伸びをしつつ辺りに何か無いかを見わたす。

 

 するとそこに既に疲れた様子で背中を丸め、ボサボサの髪を掻きながら食堂に入ってくるせんぱいの姿が映った。

 なにやらキョロキョロとあたりを見回している様子だ。

 多分朝食を食べに来たのだろうが、既に朝食時間は終わり、食器などは全て片付けられてしまった。

 

「もう朝食は終わったわよ」

 

 挙動不審に辺りをキョロキョロするせんぱいが目障りだったのか面倒くさそうに雪ノ下先輩がそう言う。

 

「……まじっすか」

 

 はぁ~と大きくため息をつき、食堂を後にしようとする。

 

「はぁ……紅茶くらいなら用意するけれど?」

 

「朝食が液体のみって斬新ですね」

 

「自業自得じゃない?」

 

「はい、仰るとおりです……」

 

「珍しいわね。あなたがただ素直にそれだけ言うなんて」

 

「いや、なんというか珍しい人たちに起こされて朝っぱらから気力を使い果たしたんですよ……」

 

 どうやら朝のドッキリが成功したようで。いやまぁここまで気力使い切るのは予想外でしたが。

 

「良かったわね。あなたの人生の中で女性に起こされる事なんて早々ない事よ。今日の事は生涯忘れずに噛みしめて生きていく事ね」

 

「いや、いつも妹に起こされてますし……ただアレは衝撃的でしたわ」

 

 一体どんな起こされ方をしたんだろうか。少し気になった。

 そう言えば朝ご飯ってもう片づけられるんですね……いつの間に。

 そういえば……確かバックにだいぶ前にサッカー部の……誰だっけ……とにかくもらったカロリーとズッ友的なお菓子が眠っていたような……。

 

 そう思い近くにあるバックを引き寄せ中を探るとあった。

 ゴールデンウィーク辺りにもらった物だけれど長期保存に向いているタイプだった。ラッキー。

 

「あのっ、せんぱいこれ」

 

 そう言ってそれをせんぱいに差し出した矢先に思い出した。

 なんだかんだ昨日は会話できていたが、私ってせんぱいから関わりを持たないように言われてた事を思い出し、内心非常に焦り始める。

 そう思うとこの差し出したコレ……。引っ込めたいなぁ……いらないとか言われたら流石に傷つくなぁ……

 

「おぉまじか……サンキュー」

 

 そう言って私の手からそれはせんぱいの手に移った。

 ただそれだけの事なんだけれど、なんか……なんか救われた気がした。

 

 そんな中、ヤカンの笛がけたたましい音で鳴き、その音で我に返った。

 そんな音にも動じず雪ノ下先輩はささっとコンロの火を止め、パックの紅茶が入った紙コップにお湯を注ぎ、そのうちの1つをせんぱいに渡した。

 そしてもうひとつの紙コップを私の前に置いて、隣に座る。せんぱいは少し離れた椅子に腰掛けた。

 

「そんで一色、今日は何すんだよ」

 

「えっ? あっ……」

 

「えっなに? もしかして昨日の話本気にしちゃったとか? マジウケる~とか思ってねぇよな? 俺今日1日部屋に籠もるまであるんだが?」

 

「いえ、そうではなくてです……ね……」

 

 ダメだ、なんかこう意識しちゃって全然話続かない。

 その空気を察したのかせんぱいも私から気まずそうに目をそらした。

 

「比企谷君、あなたが寝ている間に私と一色さんで計画の話は済んだわ。あとはあなたの仕事よ」

 

「あ~……これ食った後でもいいですか?」

 

「なんで私に答えるの? 一色さんに聞いてもらって良いかしら?」

 

 せんぱいはすこし動揺した後、流し目で私を見る。

 

「……なにすんだよ」

 

「まぁ……ちょっと……一緒に来て下さい……それ食べ終わった後で」

 

 

 

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