やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#31-2

「ねぇ、あんた。いつまで寝てるつもり、あ”ぁ? わざわざあーしらが起こし来たんだからとっとと起きろや? わかる?」

 

 俺はなぜか敷き布団の上で正座させられ目の前に立つ煉獄の女帝に延々と説教させられている。

 

「かなり熟睡していたんだね~比企谷君」

 

 そしてそれを三浦先輩の後ろで嬉しそうに覗いている海老名先輩

 

 っていうかなに? コレどんな状況?

 いきなり蹴飛ばされたと思ったら遭遇率が滅茶苦茶低い方々が直々に俺おこしに来てんだけど? なぜこうなった

 

 辺りを見回すと既に戸部先輩、葉山先輩の姿が無い。

 と言う事は彼ら以上に俺はぐっすりすやすやすやっすやしていたんだろうね。八幡よくねる子だから。

 

「ねぇ~海老名ぁ? なんであーしこんな事しないといけない訳よ」

 

「いいと思うよ~比企谷くんのすっごい面白い顔見れたし。でもでも~! 隼人くんかとべっち連れてきて寝起き前に添い寝してもらったらもっと良かったかなぁ~ぐふふっ!」

 

「ちょっ、海老名鼻血!? シーツついたら染みなるんだから! さっさと拭きなって」

 

「あ~優美子ごめんごめん~」

 

 目の前のコントを見ながら危うく俺は海老名先輩の妄想の餌食になるところだったのかと忍び寄る恐怖にキュッと締めた。どこをとは言わんけど。

 

「ってかあーしら、やる事あっから。さっさと起きろ」

 

「はい、すいません」

 

 そう言って三浦先輩は俺が正座している布団のシーツの端に手をかける。

 

「いつまで座ってんの? シーツ取れないんだけど?」

 

 そう言って俺を鋭い視線で睨む。

 

 えっ? 手伝ってくれんの? 口調と行動がまるで一致してねぇ。

 

「いやなんというか……手伝ってくれるとは思ってもなかったんで」

 

「あ”ぁ? んなの皆でさっさとやった方が早いだろが」

 

 ドスのきいた声でそれが当たり前だろという常識を押しつけてきた。これを家族でも無い奴に当たり前にできんだな……リア充まじすげぇ。

 

「あっ、はい」

 

「比企谷くーん優美子はね~、朝食そろそろ終わるから皆で早く終わらして間に合わせようってしてるんだよ~」

 

 えっ? なにその厳しさの中にある優しさ。

 今俺の中にいつもは感じない罵声を浴びた切なさと皆で協力する心強さが同居してんだけど。愛しさは感じねぇけどさ。あっ、小町なら別な。

 

「海老名、余計な事いわないで手動かす」

 

「はいは~い」

 

 そう言って海老名さんは布団をせっせと折りたたむ。それにつられ俺もさっさと敷き布団をたたみ押し入れに戻す。

 皆でやったお陰でささっと片付けが終わる。

 

「さっ、あーしらやる事あっから。ヒキオ、あんた食堂行ってみたら? 多分間に合うかもよ?」

 

「急げばワンチャンあるかもね~」

 

 そう言われ、食堂に出てみたは良いが、結局朝食にはありつけることは無かった。

 

 

 ***

 

 寄宿舎をでて広場の端を沿うように通る。なぜならば小学生皆々が葉山先輩や戸部先輩と仲良くドッジボールしたり、鬼ごっこしたりしてる仲睦まじい光景が見れたからだ。

 広場の端にある小屋がちょうど日陰になっており、そこにファミレスのボックス席みたいな大きなテーブルと椅子が設置されており、そこで何人かの女子がそのテーブルを囲い、キャッキャと笑い声を上げて雑談を楽しんでいた。

 

 まぁ女三人寄れば姦しいという言葉があるとおりに彼女達とはそれなりに距離があるはずなのに会話が聞こえてくるという。 マジでよくそんな声量で話せるなと感心したくらいだ。

 

 それから広場を抜け獣道へと入る。

 先ほど迄の喧騒は遠くなり、落ち葉を踏む音、サーッと揺れる枝の葉擦れ、時折鳴くウグイスが耳に入ってくるようになった。朝特有の冷たい風に吹かれ、砂利道を進む。時折木々の隙間から日が射し、俺の眼球にダイレクトアタックしてくる。陰キャにはこうかばつぐんだから手で遮る。

 と言うのも総合栄養食を食べつつ紅茶を啜っていたら一足先に一色は外に出て行ってしまった。

 先に指定の場所というのは聞いていたから問題はなかったが、その道のりというのは少し距離があり少しだけ面倒ではあった。

 

 

 

 

 それでもめげずに頑張って向かった俺を俺は褒めてやりたい。

 そして苦労してたどり着いた川辺にはすでに一色と……例のあの娘が一緒にいた。

 一色は朝の森の空気が新鮮なのか深呼吸した後、俺に気づいたのか視線を合わせた。

 

「せんぱい、無事これて何よりです」

 

 ……なんだろうな、こうも素直に労われるとなんか歯がゆい感じがするんだが。

 

 それにしても……傷つけた相手に協力を依頼するって結構ハードなことやってのけたな一色。

 流石に協力しないつって突き放すのも良心が痛む。……今更だがな。

 

「……誰?」

 

 そっと、一色の袖を掴む。あっちからすれば初対面だからな。うん。

お兄ちゃん怖くないよ?ホントだよ?

 

「留美ちゃん。この人が今回の協力者だよ」

 

 なんかすっげぇ嫌な予感しかしねぇんだが……

 

「なんか……嫌」

 

 おい。まだ一言もかわしてないうちに嫌われたぞ。初対面で嫌われるってなんだよ。鬼ぃちゃんは嫌われるってか? 術式展開すっぞこら。

 

「……私、鶴見留美」

 

一色の袖を掴みながらボソッと彼女は自分の名を名乗った。

 

「お、比企谷八幡だ。ちゃんと自分から名前言えるって偉い、偉い」

 

 そう言って頭を撫でようとしたら避けられ。怪訝な顔で見られる。なんでよ。

 

「……そういうところですよ。せんぱい」

 

 眉間にしわを寄せてじと目で一色は俺を見る。

 

 どういう所だってばよ。相手小学生だぞ。

 

「全然分かって無さそうなのですがそれは置いといて、留美ちゃん。演技は得意?」

 

「やった事ない……かな。ちょっと興味はあるけど」

 

「まぁ、別に何か演技するって訳でも無いけれど。一応こんな感じでやってみて」

 

 そう言って一色は俺を見てなにやら不敵に笑い、何度か咳き込む。

 その刹那、瞬き1つで目は潤み、頬は次第に淡い紅色に染まる。

 さらに俺のパーソナルスペースにスルリと入り込み、手の甲が一瞬だけ触れ、離れ、触れそうで触れない絶妙な位置に構えた。遅れてその運動エネルギーから発せられた緩やかな風は彼女の香りを鼻腔に届ける。

 

「ねぇ……せんぱぁい?」

 

 その艶のある唇から発せられたストロベリージャムのようなとろけた甘い声が鼓膜を揺らし、続く言葉を都合の良い妄想が勝手に綴る。

 そしてそんなねつ造された言葉に感情がこみ上げる。

 

「今、好きな人って……いますか?」

 

 所詮は妄想、理性で抑えこもうとした所に、続く言葉が耳に入る。その内容は自分に都合の良い妄想と近く説得力を増す。

 同時にいつもとはちょっと違う潤んだ瞳の上目遣いに目が離せなく、気恥ずかしさから思考がまとまらなくなる。

「ぐっ……い……いねぇ……が」

 

 よって、いかにも陰キャな返ししかできなかった。

 俺の言葉を聞いた瞬間にパッと俺のそばから離れ、ふふんと勝ち誇ったかのような表情をしていた。

 なにその純情な感情を空回すのはお手の物っていう表情。純情ボーイの2/3くらい闇落ちさせられるぞそれ。

 

「っと、こんなところ。ほらやってみて」

 

 と、先ほどの迫真の演技に首から提げていたカメラを両手に収めているルミルミがハッと我に返る。

 写真……撮ってないよな? なんか我忘れていたみたいだから大丈夫と思うけどさ……いやそうではなくて。

 

「いやまて。一色、お前小学生になに教え込もうとしてやがる」

 

「なにって……単純に愛されガールのなりかたですけど?」

 

 なんだよ愛されガールって。

 

「相手小学生だぞ。今からそんなの教える必要……」

 

 それを言い切る前に一色は反論する。

 

「今だからですよ。っていうかせんぱいの価値観がいつの話ですか。女子は結構そういう話するの早いんですよ? 6年生にもなれば普通ですよ」

 

「テレビとかで小学生同士で付き合ってますーとか温泉街に先生と来ましたーみたいなインタビュー聞いたことはあるが、少数派の話だと思ってたのに違うのか??」

 

「……付き合ってるとかそんな話はよく聞くけど……噓っぽい」

 

「まっ大体は漫画とかドラマとか煌びやかな恋愛に憧れている子が見栄で言った嘘っぱちですよ。あと彼氏が欲しいって夢見る女子界隈でマウント取れるとか含めて思っちゃっているのは小学生も中学生も変わりませんから」

 

 何その界隈。ブスな私でも彼氏ができたとかの宣伝で高額商材売り出せそうだな。

まさかのビジネスチャンスの発掘。

 

「結局は口先だけなので留美ちゃんが言っているとおり噓でしょって勘ぐられて終わるわけです。ただ……これに信憑性を持たせる方法があります。それが男子にチヤホヤされる愛されガールと言うわけです。まぁ外見が可愛くないと成り立たないんですが、留美ちゃんくらい可愛ければ大丈夫かなって思います」

 

「か……可愛いとか……そんなんじゃないし……」

 

 ほのかに顔を紅く染め、身を大きく左右に揺らしながら艶の入った長い髪を指でクルクルといじる。褒められ慣れていない証拠だ。……悪くない。

 

 

「それにこれは留美ちゃんの自分を守る武器になるんですから」

 

 自分を守る武器……言い得て妙だな。チヤホヤされると言う事は他よりも立ち位置が上である事が視覚でみて明確であり、外面はリア充に見える。明確な悪意か格上の陽キャじゃない限り『こいつは格下』だからと見られ、他者から舐められる事が極端に少なくなる。

 つまり関係の無い第三者が味方している状況で加害側は今後ルミルミが実害を被る事に手を出しにくくなる訳か。

 

「まぁ中1後半から中2辺りになり始めると女子受けかなり悪くなって囲いから崩しにかかってくるからそれまでに自分が強くなる必要があるけどね」

 

「え~……」

 

ルミルミがすごく嫌な顔をしている。

まぁ、確かに女子ウケは悪いよなぁ。

しかもこれ……完全に経験論だよな? かなり茨の道じゃねぇか。

 

「でも、自分に武器があるって自信はつくよね」

 

 ン………あぁなるほどな。

 

 一色はルミルミに自信を持って欲しいって思っている。現状ハブられているルミルミは自分を過小評価しているがお前がその気になればメドローアだって撃てる大魔導師なのだってな。

 しかし、自信を持てよと直接言ったところでそれが全て伝わる事は無い。他人は他人なのだ。

 だからこそ自信が持てるような施策を自身の経験から探しだし、それを武器と称して彼女へ教えようとしている訳か。

 

「っという訳で、今から留美ちゃんには囲いを作る術をおしえまーす♪」

 

 ……そうとなると話は変わってくる。

 

「……別に教える必要はねぇよ」

 

「せんぱいもしかして怖じ気づきました? ……せんぱいの人生経験上小学生とはいえ『好きな人いますか?』って言われる経験なんて早々得られる事は無いと思いますが……それで照れてしまっても想定内です。ロリコンとか思いませんし留美ちゃんなら仕方ないかなとは思います……が逃げるのだけは訓練になりませんしダメですごめんなさい」

 

 お前が俺をどう思っているのかよく分かった。覚えとけ。

 

「ちげぇよ。よく言うだろ。サンマの旬は秋ってな」

 

「……は? ちょっと何言ってるか分からないです」

 

「ねぇ……何言ってるのこの人?」

 

 マジその可哀想な人を見る視線止めてくんね? 俺泣いちゃうよ?

 

 

 ***

 

 

「いぇーい、段差ーみーっけ、しげちーこっからはいってこれないからな~」

 

「マジで? それ土からコンクリート入っただけだろー」

 

「それでも実際段差あんじゃん」

 

「んじゃ多数決な。きばみーちょっとこっちー」

 

「んーどうしたのしげちー」

 

「ゆーすけの奴がこれ段差って言うんだけど違うよなー」

 

「……無理あるだろ」

 

「いや、実際段差あるだろ?」

 

「これ段差じゃなくて堺目って言うだろ? こんなのまでカウントしたら高鬼成立しなくね?」

 

 ちょうど近くで高鬼で遊ぶ男子3名組をみつけた。って言うかこいつらよく見かけんな。

 早速実践といってみようか。

 

「えっと……なにするの?」

 

「そりゃここまで来たらあいつらと友達になるって事位しか思いつかないだろ」

 

「せんぱい? 自分が出来ない事を人に押しつけるのはどうかと思いますよ?」

 

 んなこと一億パーセントくらいは理解してんだよ。

 

「え~っと……その……ちょっと恥ずかしい」

 

 そう言って頬を紅く染めたルミルミが右に左に身体を振る。

 陽気に話しかけるってキャラなさそうだしな。そりゃそうなる……だがそれがいい。

 

「それだそれ。そもそも演技でごまかそうってのがおかしいんだよ、マジで恥ずかしがっている仕草は演技とくらべもんにならん位の衝撃はあるってもんだ」

 

男はな、恥ずかしがっている女の子を見るのが大好物なんだ。

 

「せんぱいもそうなんですか?」

 

「自慢じゃ無いが半泣きの女子に遊びに誘われたことならあるぞ」

 

「……そうですか。いえ、なんというか……ごめんなさい」

 

「おい、まだオチ言ってねぇだろ」

 

「だいたいせんぱい同じオチを出し過ぎなんですよ。一発屋の芸人ですか」

 

「おいやめろ。陰キャは一芸あればそれだけで生きていけると思ってるんだ。否定されると俺のアイデンティティーが無くなる」

 

「自虐がアイデンティティーになりますかね……」

 

「……深く掘り下げるな」

 

「はい」

 

 そんな俺と一色の話をぼーっと見ていたルミルミに気づき、咳をついていったん締める。

 

「そんじゃ……ほれ、行ってきな」

 

「う……うん……」

 

 そう言ってもまだ足取りが重い様子。

 そりゃいきなり何の練習なしにいきなり行ってこいって言われてもどうすれば良いか分からんよな。八幡動きます。

 

「まぁなんだ。そのあれだ。あいつらに同じ班の奴らにハブられたから仲間入れて欲しいってそんな調子で言ってみろ」

 

 まぁその態度とか見りゃ察してくれるだろうよ……多分。

 

「う、うん」

 

 そう言って足取り重く彼らの場所に向かうルミルミ

 それを俺たちは遠くの藪に隠れ見守っていた。

 

 

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