やはり俺の学校生活はおくれている。   作:y-chan

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#33 こうして彼女は歩き出した。

 日は隠れ、闇夜に吹く風に揺られた木々の擦れ音が聞こえ始めたと同時に鈴虫たちが互いの鳴き声を合わせ合唱を奏で、鳥の鳴き声でメロディラインを飾る。

 

 少し緊張気味な私に先輩たちの視線が集まる。手汗が止まらない。そんな頻繁に大勢の前に出たことはないができないことはない。

 

「皆さん、ご協力ありがとうございました。これで準備は整いました。あとは……」

 

 眉間にしわが寄ってしまうのがよく分かる。

 小学生のレクリエーションとして用意されているのが、教員のレクリエーションで使ったであろうなんちゃってコスプレ衣装ばかりだ。

 魔女っ子衣装に白い布一枚に、シミのついた包帯に……まぁ今の子はコレでは怖がらない。

 

「へー、結構露出度高いねぇ~これ」

 

 そう言って結衣先輩が手に取ったのは魔女っ子衣装だ。

 テッカテカなエナメル素材のワンピース衣装。無駄に胸元が透明素材で見えるようになっているし、明らかにスカート丈が短い。

 まぁ、浦安に居る女子高生のほうが短そうですが……

 

「結衣先輩?一応言っておきますね?却下です」

 

「え!?なんで!?まだ私何も言っていないよ!?」

 

 女子には絶望を、男子には異性の目覚めを……どちらも早すぎます。

 そんなの中学入ってからで良いじゃ無いですか。

 

「私そんな有害なの!?」

 

 はぁ……と雪ノ下先輩がため息を吐く。多分結衣先輩の行動に呆れてるのだろう。

 

「そうです!」

 

 皆が頷く。私の意見は間違っちゃいない。

 

「横暴だぁ~!」

 

 何だろう? そのあとに『ドッキリでしたー』的なネタばらしとかは一切無くそのまま場がシーンと静まり返ってしまった。

 なるほど、これが俗に言うスベったって奴ですね。先人から学ばせてもらいました。

 

 流石に気まずく沈黙している結衣先輩を放っておくのは忍びないのでここはフォローをしておくことにしよう。

 

「……と言うわけでこの衣装は……まぁ雪ノ下先輩が妥当でしょうか?」

 

 青少年の育成に問題が無いように~

 

「嫌よ。結構露出高いし、山だと虫に刺されるじゃない」

 

「そうだな。まぁ他にも候補はいるだろうしな」

 

 颯爽とフォローを入れる葉山先輩に違和感を覚えながらまぁいいかと結論づけた。

 

「そう言うことは葉山先輩が率先して着てくれるってことですか?」

 

 女子が着るという概念を覆してみよう。最近はジェンダーフリーがささやかれている世の中ですし。

 

「さ、流石に俺は着たくないかな……戸部最近刺激欲しいとか言ってなかったか?」

 

「らしいですよー戸部先輩、逃げ道を失いましたね」

 

「はあああぁぁぁぁ!? いろはすぅぅぅ~? なんでここで俺に振っちゃうわけぇぇぇ?」

 

 戸部先輩は葉山先輩と私に顔を交互させながら驚愕の声を上げる。

 

「いやまぁ……この流れなら戸部先輩かなぁーって。もしかして流れ打ち切っちゃうんですか?」

 

そんなまさか、ノリだけで生きてきたと言っても過言では無い戸部先輩がこんな事で腰を引いちゃうなんてそんな事あっていいはずが無い。

 

「まてまてまてまて! 打ち合わせも何もねぇよ! マジで!? 俺魔女っ子しょうちゃんになっちゃうの?」

 

 おっ、ノって来た。このまま魔女っ子しょうちゃんになって頂いて結構です。

 

「いや……まじきもちわりぃから。ひくわ」

 

「うーん……好みは個人の自由だよ? 戸部君なんか嫌々見たいな事言いながら実は楽しみにしてたり……妄想が捗るっ!?」

 

 三浦先輩の言葉で膝を地に着き、海老名先輩の言葉で『あぁ……死にてぇ……』と言葉に出した戸部先輩を眺め私は心底彼を同情した。

 

「いろはす……まじできちぃ……」

 

 自分を捨てた渾身のギャグが思ったよりウケがよろしくないのか泣きそうな声をあげて私を見る。

 正直これは面倒くさい流れになってきた。結局衣装は人数分ある。誰かがこれを着ないと……

 

「仕方ないですね、戸部先輩。コレは貸しですよ?」

 

「おう!」

 

 なんて良い先輩なんでしょう。普通なら年上である事を盾に無条件でそうしろと言うと思っていたのですが。

 

「なら魔女っ子衣装は私が着ますのであと適当な衣装を皆さんで着て下さい」

 

 そうして、おのおのが適当な衣装を取ったあとに魔女っ子衣装を試着。

 ……サイズはちょっと大きめだけど……まぁ動くには問題はない。

 でも……これ結衣先輩着られなかったんじゃない?

 

「よしっ! 準備は整った」

 

 自分に言い聞かせるようにそう呟く。

 

「いや、まだだぞ?」

 

「ひぁ!!?」

 

 突如後ろから聞こえた声に驚き素の声が出てしまった。

すぐさま後ろを振り向くとどうやらせんぱいがばつが悪そうにそこに立っていた。

いや、本当に気づかなかった。

 

「……すまん」

 

「いえ、別に……気にして……ないです……」

 

 なんでしょう……驚いた気まずさも相まってか……なんかやりづらい。いつもの言葉が全然出てこない。

 

「比企谷、何か他にあるのか?」

 

私の代わりに葉山先輩が質問を挙げた。非常に助かった。

 

「いえ、平塚先生が、肝試し前に怪談を聞かせるって事言ってたんで」

 

そういえば怪談の話は雪ノ下先輩が作ってくれた奴がありましたね。

でも……ちょっと他の人が用意した話も聞いてみたいかも。

 

「一応用意はしていますよ」

 

「そうか、ならいいわ」

 

「あっ、お蔵入りになった別で怖い話ありますけれどどうです?」

 

「まじか」

 

「興味……あるんですね?」

 

「とりあえず。まぁ内容による」

 

「わかりました。良いですか、私の友達の話なんですけれど離島から進学して、部屋を借りて進学してたみたいなんですよ」

 

「なんかオチが見えたわ。どうせ根拠無い理由で皿が勝手に動いてたとか地震が無いのに食器が割れてたとか……」

 

 

 

 

今時そんなポルターガイスト的なものを話したところですでに聞き飽きたというのは十分理解していますよ。

 

 

 

 

「いえ、借りていたアパートの管理人が勝手に部屋に侵入して洗面台にカメラ仕掛けられて盗撮されていた話をしようかと」

 

「まて、それを怪談とは言わん。本当に怖い話だ。ホンコワだ。小学生に現実を見せるのは早すぎる。近所のおじいさんすら疑いかねない事態になるぞ」

 

「あれ? いけなかったですか?」

 

「小学生の内に世の中の闇に触れさせるのはよろしくないだろうが。もっとマイルドにしろよ。俺みたいになるだろが」

 

 あっ……基準そこなんですね。

 

「マイルドってなんですか? じゃあ……小さい頃お使いの帰り家のインターホンを鳴らしたらお母さんがすごい勢いで私を家に引きずり入れた話はどうです?」

 

「なにそれ? 幽霊くっついてたの?」

 

「いえ、お母さん曰く、知らない人が私の後ろに居たらしいんですよ。本当に手が届くような距離にいたみたいでお母さんが急いで出てきたら脱兎の勢いで逃げていったらしいです」

 

 最初何が起こったのか知らなかったけれど、あとでお母さんから聞いたときは本当に震えが止まらなかった。

 

「えぇ~!!?いろはちゃん大丈夫だったの!」

 

私とせんぱいの話に聞き耳を立てていたであろう他のメンバーが話に入ってきた。

 

「由比ヶ浜さん、落ち着いて。大丈夫だったから今いるのよ」

 

「そうだけどさ~」

 

「でも、確かにそんな話聞いたら過去の話でも心配するよね」

 

あははと戸塚先輩がそう言って結衣先輩がウーっと唸っていた。

 

「ってか捕まったのそれ」

 

「いえー、一応警察に通報はしたみたいですが捕まったと言う話は聞いてないですね」

 

「っつーことは今もまだどこかでいろはす狙ってるって……」

 

戸部先輩?それ私が怖くなるので止めましょうね。

 

「むしろとべっちを狙ってたり……ぐふふ。夜道に気をつけなよ~?」

 

……なにやらちょっとおかしな事を考えていますね、海老名先輩。

すぐさま三浦先輩に頭をはたかれていた。

 

「間一髪すぎるだろ。……しかしな、それ怪談じゃなくて体験談だかんな」

 

「もー! 面倒くさいですねぇ! それならせんぱいはどうなんですか!」

 

「そうだな……例えば結婚できずにこの世を去った女の怨霊の話……」

 

 なーんか親近感を持つ怨霊が想像できるのですが気のせいでしょうか?

 

「まぁざっくりと考えたんだが……生前は変わり者過ぎて周りの男から見向きもされなくてそのストレスを煙草で解消するのが日常だったんだ。当の本人の結婚願望はものすごかった、死してその願望が怨霊となり新婚夫婦に祟りを与えるとか……」

 

 せんぱいの後ろになにやら……あーあ。わーったし、しーらないっ!

 

 みな何かを察し、せんぱいから距離を取った。せんぱいはそれに気づかずに淡々と喋っていた。

 

「ほぉ~、それは面白そうな話じゃ無いか。是非続きを聞かせてもらえるか?」

 

 豆腐が瞬間冷凍されたかのようにせんぱいは固まった。

 

「おや? 比企谷? ご自慢の怪談があるのだろ? ほら、聞かせてみろ?」

 

 そういいながら笑みを絶やさず私たちの会話に平塚先生が入ってきた。

 先輩が潤滑油が足りてない機械の様に首をそこに向ける。

 

「えーっと、なんて言うんですかね? その怨霊は実は良い奴で……」

 

「それでは怪談にならないでは無いか、ほらご自慢の国語力を活かしてみろ」

 

 相変わらず笑みの表情から変わらない平塚先生。

 せんぱいに対する圧が半端ない。

 

「……独身怨霊は実は良い奴で、取り憑いていた美男女夫婦が実は取り憑かれ体質で性根が腐った悪霊共から夫婦を守るためにバトルを繰り広げていくんですよ。ある程度進んだところで仲間妖怪を爆発させられて怒った怨霊はスーパーゴーストへと変貌を……」

 

「心踊る展開だが、怪談からバトルになっているな、丸々パクっているのが丸わかりだ、最近の読者はそういうのに敏感だからな、オリジナリティを大事にしろ。……ちなみにその怨霊というののモデルは誰だ?」

 

「あ~えーっと……いえモデルなんて居ませんよ? 独身の女性ってこの世にごまんといるじゃないですか?」

 

 目が右に左に泳ぎ、必死に言い訳を考えている様子がうかがえた。

 

「ほう? 煙草を吹かす独身女性というくくりで君の交友関係で検索をかけても引っかかる女性は限られると思うのだが?」

 

「なんというか……すいませんでした……」

 

 逃げ道が無いと確信したのかせんぱいはうな垂れてそう言った。

 

「なぜ謝る? ほらもっとちゃんとしっかりとした怪談を聞かせろ設定からストーリーまでしっかり聞いてやる。納得するまで逃がさんからな」

 

 せんぱいが平塚先生に激詰めされている光景を見ながらそういえば私もさっきまでせんぱいと普通に話せていたことに気づく。

 ただそれは私がせんぱいと話ができるのは留美ちゃんの件で協力を得られている暗黙の了解的なものがあるからこそ成り立っている。

 

 ……その件も今日でおしまいで、今後どうやってせんぱいと接すれば良いか考えなきゃいけない。

 それはこの件が終わったあとにゆっくり考えよう。

 夏休みもまだまだあるんだから。

 

 そんなこんな延々とこの2人で怨霊の話の駆け引きを長引かせた。

 そして雪ノ下先輩が作った怪談はやはり好評だった。

 

 ***

 

 小学生達が怪談で夢中になっている所、私たちは肝試しの準備を行っていた。

 

 せんぱいや雪ノ下先輩が主に指揮をしながら準備を進めて下さっている一方、葉山先輩と一緒に計画の最終的な詰めを話していた。

 

「いろは、順番はどうする?」

 

「そうですね、指名制にすれば結構こちらで順番とかタイミングとかの主導が握れるのでそういう風にしたいのですが」

 

「なるほど。わかっった。 いつ当てられるかっていうスリルも肝試しに持ち込めるって言い逃れができるはずだしそういう風にしよう」

 

 即座に提案して下さるのは非常に助かり、スムーズに進む。

 

「留美ちゃん達の班がでたあとに茂くんたちの班を行かせるようにして」

 

「なるほど、追いつきやすいように待機間隔を短くした方が良さそうだけど……女子と男子とでは結構歩幅も違うし……確か皆インカム持ってるよな。それで連絡を取り合って地点Aを通り過ぎたら後続を出発させる感じでどうだ?」

 

「そうですね。その後はランダムで大丈夫です。あっ、あと後続には噂は秘密だよって伝えてあげて下さい」

 

秘密の共有って相手から信頼されるんですよ。

昔ちょっと気になる相手とかにバレても良いような秘密作って話しすると食いつきが良かったりします。

 

つまりは、葉山先輩がそれをやる事で小学生達がその秘密に対しての内容を忘れにくくさせる効果があります。まぁ雀の涙程度ですけれど、可能性を少しでも上げておきたい事を考えるとやらない手ではない。

 

「分かった、俺たちは他にやる事はないか?」

 

「いえ、大丈夫です。あとは小学生達を思う存分驚かせてあげて下さい」

 

「はは……あの衣装ではちょっとそれも難しそうだよ」

 

「ですよねー」

 

「いろははどうする?」

 

「イレギュラーが起こらないように留美ちゃんグループを監視するって感じですかね」

 

「そうか、わかった。あと虫よけはしっかりな」

 

「そうですね、ありがとうございます。あと……私の計画にまでご協力してもらってほんとありがとうございます」

 

「後輩の頼み事だ。これ位は協力するさ」

 

 優しい口調でニコッと笑みで返す葉山先輩。

 多分私、せんぱいと出会ってなかったら本当にこの人のことを狙っていたかも知れません。

 

 

 

 

 

 

 葉山先輩と私は別れ個々の持ち場へと向かう。

 

 自分の持ち場には既に結衣先輩が到着していて私に気づいた結衣先輩は「準備万全だよ」と親指をぐっとだして準備万全を知らせてくれた。

 

 これから小学生達の肝試しと私の作戦が始まる訳で……直前になってから緊張がピークに達してそこから下がらない。

 心臓バックバクだし、手汗も酷い。

 さっきまで聞こえていた夜の鈴虫がリンリンと鳴く声や木々の葉擦れの音も聞いている余裕が無いのか何も聞こえない。

 

 しかし……それらをかき消すかのような雑踏だけが耳に届く。

 そこで頭が真っ白になった。

 

 

 そんな私の様子が分かったのか手汗びっしょりの手を結衣先輩は強めに握った。

 

 

 

「いろはちゃん、大丈夫だよ。きっと上手くいくから」

 

 そういって結衣先輩が私の頭を撫でる、結衣先輩はニーッと笑みを浮かべた。

 その暖かな笑みを見て自身の緊張が取れた気がした。

 

「はい。頑張ってみます!」

 

「そっ! その意気だよ。頑張って!」

 

 そう言って結衣先輩はそのまま自分の持ち場へと行ってしまった。

 あれ?結衣先輩の持ち場はここを通らないはずだけれど……まっいっか。

 

 結衣先輩の応援に緊張も和らぎ自分のやるべき事をしっかりと頭にたたき込む。

 

「はい、それじゃあやりましょうか」

 

 こうして私のはじめての作戦が静かに幕を開けた。

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