本日は、原作『BanG Dream!』にて『しるし』を投稿している、グリッチさんの企画小説です!(※pixivにて投稿)
わたくしには、幼馴染がいる。
初めての出逢いは、保育園。教室の片隅で、塗り絵がうまくできなくて泣いている子──それが、彼だった。わたくしにも、泣き虫の妹が当時はいたから、いつものように慰めようとしたら手をはねられた上に暴言まで吐かれたのを今でも覚えています。わたくしもそれで怒ってしまって、喧嘩になって先生に叱られたわね。後にも、そして多分先にも、黒澤ダイヤと言い合いの喧嘩をしたのは彼だけ。本当、昔から生意気な子だったわ。
それからというもの、昨日の敵は今日の友──は、ちょっとニュアンスが違うかもしれないけれど、子どものコミュニケーション能力って凄い。あっという間に仲良くなっていった。
小学校に入ってからは、わたくしが習い事に通い始めたから一緒に過ごす時間こそ減ったけれど、一緒に帰れる日を見つけてくれたり積極的に遊びに誘ってくれたりというのもあって、関係は途絶えることなく続いた。そのころから、果南や千歌ちゃんたちも交えて関わるようになっていった気がする。彼はやんちゃだし、わたくしよりも果南たちのほうがソリが合うのではないかという心配も、彼のおかげで杞憂で済んでいた。それは、ずっと変わらない。「ダイヤといるのが一番気が楽」──彼の決まり文句。美しい景色は幾度見ても、美しい。それと一緒ね。たとえ聞き慣れた言葉でも、嬉しいものは嬉しい。
そして、Aqoursという、わたくしに変化をもたらした存在。自分の意思で始めたわけではないが、一度決めたことは絶対にやり遂げる──それが、わたくしなりのポリシーだ。
全力で向き合っていたら、歌う自分や、内浦という町、周囲の人々のことが好きだと気付けた。わたくしにも、そういう気持ちがあったんだと、気付けた。
でも、中には認めたくないものもあって。なんでって──恥ずかしいからよ。目を逸らしたいのほうが、正しいかしら。しかし、一度意識してしまったことは、否が応でも思考に介入してくるから、厄介だ。しかも、事が事だから、あまりにも頻繁にわたくしを邪魔をしてくる。本当、いつまでも生意気──なんてのは、ただの責任転嫁ね。だって、これはわたくしが悪いもの。
そんな紆余曲折があって、いっそ受け入れたほうが楽になれるのかもしれないわねと諦めたわけです。
わたくしは、彼に惹かれているんだ──って。
*
「12月かぁ、はやいなぁ」
吐く息は白く、吸う息はカラッとしている、そんな季節になった。冬の空気は澄んでいるとよく言うけれど、肌にベタつく湿気がないのが、そう感じさせる要因なのかも──とか、なんとなく思考を巡らせたりする。
「オジサンみたいなこと言うのね」
「18歳のオジサンにとって、寒さは天敵ですよ」
「それならわたくしも、もうすぐオバサンになってしまうのかしら」
「まだまだ18歳でしょ?これからだって」
「矛盾してるわよ」
細くした視線は、「コトバの綾だよ」という軽口で躱された。海風が、髪をなびかせ、呆れ混じりのため息を流していった。彼の舌は今日も好調らしい。いつも通りでなによりねという皮肉を、今度は吐き出すことなく飲み込んで、通学路に歩みを進める。
「でも、ダイヤも来月は18歳なんだよね。実感湧かないや」
「ずっと一緒だと、そんなものじゃない?」
「そうなのかな?果南とかは成長したなーってなるけど」
果南が成長しているけど、わたくしが芳しくないこと?何かしらと即興で思い当たることを探してみるが……
「……あなたは、どこを見てそう言ってるのでしょうね?」
「いやいやいや、身体のことじゃあないよ。ましてや、胸部のことなんて」
「わたくしはスタイル悪くないのだけど?男はすぐそうやって大きい方に行くのね、そういうところが嫌いだわ」
「大丈夫、俺はダイヤのほうが好きだよ」
「……厳密には?」
「ダイヤのスタイルのほうが好きだよ」
「最低。あっち行ってちょうだい」
我ながら、今までで一、二を争う低い声が出た。大人げないことをしたと反省はするけど、これはほとんど彼が悪いから仕方ない。無知は罪。わたくしの恋愛感情を知らないからと言って、「好き」というフレーズを軽々しく使われたら、弄ばれている気分にもなるわよ。正直なところ、拗ねてる。
とはいえ。やり過ぎたと感じたのか、彼も本気で謝ってきたので、許してあげることにした。わたくしも、「嫌い」とか「最低」は言い過ぎた気もするし。……こうやって簡単に事を済ませてしまうのも、好きになった弱みというやつなのかな。
しばし、さざなみと
「日が沈むのも早くなったねぇ」
静かな世界で、先に口を開いたのは彼だった。
確かに、帰宅時に月が綺麗に見えるなんてことも多い。生徒会とAqoursの練習を掛け持ちしていると、どうしても遅くなりがちなのだ。
「そうね。いつも、帰ろうとしたら真っ暗」
「つい最近まで、夕焼けに照らされる海がいいなーとか思ってた気がする」
「思うというか、ずっとそう言ってたもの。飽きないの?」
「好きな本は何度でも読み返しちゃうじゃん?そういうこと」
「春まで『月に照らされた海がいい』って言い続けてそうね」
「あー、図星になりそう。ちょうど考えてた」
伊達に人生の半分以上を共にしていない。彼は、海が好きだ。ことある事に海を見つめては、ポツリポツリと感想を落としている。わたくしが言ったのも、彼が去年言っていたことをそのまま引用した物。彼は本当に、変わらない。
視線には、長浜のバス停が入る。つまり、もうわたくしの家がすぐ近くだということ。にもかかわらず、彼はこんな提案をしてきた。
「ねえ、ちょっと浜に出ようよ。久々に砂の上歩きたい」
三津の浜のことだろう。バスなら一駅だけど、歩けばまあまあ長いという微妙な場所にあるから、少し悩んだけれど、まあいいかとすぐに妥協してしまった。
「いいけど、遅くなりすぎない程度にね」
わたくしの返事を聞いて、露骨に嬉しそうにする彼の姿は、子どものときと同じ。性格が幼い彼だけど、学校の成績はかなりの高水準で、負けることもしばしば。その度に、性格のせいか他の人の数倍は悔しさが滲むので、タチが悪い。
よほどな時間帯まで外にいたら話は別だけど、少しは長く居ても問題ないはず。何か言われても、適当な言い訳をつければいいか──なんて、すぐに帰るのが前提じゃないあたり、黒澤ダイヤという人間は、わたくしが思っている以上に単純なのかもしれない。
*
彼に振り回されて海にやって来ることも、年を追う毎に減っていた。家業に介入することが増えれば、プライベートの時間も削られるから仕方がない。黒澤家の長女として、やらなければならないことだから。それに、わたくしの意思で始めたことではなくても、やり通すことで見えてくるものもあるから、それほど悲観的ではない。
しかし、彼への恋が自明になったときから、一抹の寂しさというものが自分の中にあるのを感じていた。一人はむしろ好きな方なのに。割り切っていても、欲は出てきてしまう。以前の自分からは想像もできないけど、ルビィの行動力や、彼の自由奔放な様に感化されたのだ。
だから、今こうして砂浜で隣合って散歩していることが、結構幸せ。彼には絶対に言わないけど。
「海風が気持ちいいねぇ。今更だけど、靴の中汚れちゃうかも」
「多少なら平気よ」
「そっか。……脚、寒そう。タイツ貸そうか?」
なんで男子からタイツを借りないといけないのよ……本気で言ってるのか、それとも笑いを取りに行ってるのか、絶妙な線を攻めてくるのはやめて欲しい。おそらく後者なのだろうけど、彼なりに心配もしているのは伝わってくるから、それなりに丁寧に返す。
「お気遣いはありがたいけど……そもそも、持ってないでしょう?」
「あるよ」
「案件によっては通報します」
「早まらないで、俺は変態じゃない。ほら、文化祭のときに使った、あの青いタイツ」
「それは全身用よね?絶対に着ない」
「似合いそうだけどなぁ……ブフッ」
「似合うという言葉がこれほど不快だったことはないわ」
判断を間違えたらしい。軽くあしらっておけばよかった。彼の言ってるタイツは、わたくしが文化祭のときに許可を出すか否かで悩んだ代物だった。Aqoursの衣装は素材が良いからなんでも似合う自覚はあるけれど、アイドルが真っ青な全身タイツを身に纏うとか、ただの罰でしかないでしょう。わたくしが何の罪を犯したというのだろう。真面目に応対したのが馬鹿らしいわよ、本当に──とか内心悪態をついてみるけれど、表情筋は緩んでいるから、わたくしもこのやり取りを楽しんでいるのだろう。
「いやぁ、面白いなぁ。でも、本当に寒かったら言ってね。タイツじゃなくてコート貸すから」
「大丈夫よ。わたくしは冬生まれですもの、寒さには強いわ」
後ろは本当。夏も嫌いではないけど、日差しと暑さが苦手だ。ただ、彼は夏生まれだけどわたくしと性分が一緒だから、実際のところ生まれた季節は関係ないので、前は嘘。取り留めのない虚言なので、彼も指摘することなく、お互いの意識は景観の方へ。
三津海水浴場として賑わいを見せている夏とはまるで正反対に、灯りも少なく、静寂という言葉がよく当てはまる空間になっていた。まだ星を多く窺えるほどの闇ではないけれど、月明かりは徐々に眩しさを増し、深藍の海は、月の真下だけ白く輝いている。
「座る?」
「もう散歩はいいの?」
「疲れちゃった」
「なら、そうするわ」
砂の上の腰を下ろすと、冷たさが冬服を通してもよく伝わってくる。氷のように凛とした冷たさではなく、じんわりと染み入るようなものだから、じきに慣れるだろう。わたくしは体育座り、彼は胡座をかいていた。
「二人きりなのも、あんまりなかったよね」
彼が呟く。
「確かに、Aqoursの誰かしらがいることが多いかも」
「うんうん、今年知り合った人だと小原さんとかね」
「結構話してるわよね」
「なんかね、気に入られてるっぽい。仲がいいに越したことはないし、ありがたいね」
感謝の意を示している割には、随分と浮かない表情をしている彼。彼は裏表がないから、表情から意思を汲み取るのはさほど苦労しないし、冗談は言うけれど嘘はつかない人だ。だから、今の彼が何を考えているのか、さっぱりわからない。
そこまで考えたところで、「でも」という逆接が、わたくしを切った。
「ダイヤとだけの時間が減ったのは、寂しいなぁ」
──彼の声は、今までの何倍も大きく、何度も反響して聴こえた。周りの静寂によるものなのか、受け取った人間に原因があるのか、またはいずれもか──わからないまま、今はただ、彼の言葉を反芻する。
そうか、わたくしだけじゃなかったのか。彼も、こういう時間を求めていたんだ。
少しの沈黙の後、彼は続ける。
「仕方ないんだけどさ。ずっと一緒に居たからなのかな。どうしても、独占欲っていうか…………ごめん、生意気なこと言って」
「そんな、謝らなくても」
「だって、こんなこと言ったってダイヤを困らせるだけじゃん。ダイヤみたいに大人になれてないんだなって、いつも思う」
……わたくしが、大人?まったくもって、そんなわけがない。
むしろ、今のわたくしは、幼くなったと言える。以前までやけに達観的だったのは、諦めていたからだ。でも、秘められていた『好き』を知ってから、傍から見ればさほど変化がないかもしれないけれど、黒澤ダイヤは真に自分の意思を持つようになった。それは、彼のおかげでもある。彼の『子どもっぽさ』に影響を受けたのは、紛れもない事実だ。
「わたくしも、あなたみたいに思うことがあるわ」
「……え?」
「Aqoursに入って、自分の中の『好き』に気づけて、そこから色んな感情がどんどん派生していって……黒澤ダイヤは決して大人じゃないし、あなたと同じれっきとした『子ども』よ。だから、気にすることはありません」
「そっか……ダイヤも、俺と一緒」
表情が窺えないくらいには辺りが暗くなっていて、顔色はわからなかったけど、彼の声色はいつも通りに近づいた気がする。
──暗闇という、雰囲気ある情緒に呑まれていたのだろう。後から思い返せば、自分でも呆れてしまうけれど、彼にこんな発言をしたのだ。
「わたくしも寂しかったのよ。……あなたといる時間は、誰よりも特別だから」
我ながらとんでもないことを言っていることに気づいた頃には、時すでに遅し。こんなもの、告白も同然じゃない。あまりの恥ずかしさに、顔に熱が帯びていく。表情があまり見えないのが、せめてもの救いだった……のだが。
「俺もそう思ってるよ、ダイヤは大切な幼馴染」
……わたくしの幼馴染は、あまりにも察しが悪かった。いや、助かったには助かったのだが、こっちが身構えてる中で的違いな返事をされたら、腹が立ってしまうのは仕方がないだろう。
なにが「俺もそう思ってるよ」ですか。本当に生意気。さっきのこと、ちっとも反省してないじゃない。女心を理解しなさいよ、空っぽ頭。
このとき、わたくしは顔ではなく頭に血が上ってしまっていて、絶対に意識させてやろうと意気込んでいた。我ながら、らしくない。おそらく、いつも振り回されている仕返しをしたいという気持ちも混じっていたから、余計に──という部分もあった。
「はあ………………いい?今からわたくしが言うことを、しっかりと受けとめなさい。意味もちゃんと考えて。三度目はないから」
鈍感な彼にも伝わるように。でも、直接的な言葉は大胆すぎて、下品だ。だから、典型的だけれど趣のある台詞を抜き出した。最近は、夏目漱石が言ったというのは後付ではないかという意見もあるらしいけれど、わたくしはこの日本人らしい婉曲的な表現が、結構好き。
「ねえ」
隣に居る彼に向けて、告げたのは──
「──月が綺麗ね」
「え──ちょ、ちょっと待って。月が綺麗って……そういう意味?」
「言ったでしょう、三度目はないって」
《グリッチさんより》
お久しぶりという方はこんにちは。グリッチです。
初めましての方は初めまして。ちかだいといいます。
昔はハーメルンでラブライブ小説を書いていたのですが、今では主にpixivでバンドリSSを嗜んでおります。Twitterで今回の小説企画の募集要項を見つけて、参加させていただきました。
今回のコンセプトは、「スキマ時間で読める小説」です。文量も6000文字弱、おそらく今回の合同最少クラスだと思います。G's版の黒澤ダイヤちゃんを書かせていただいたのですが、アニメ版との違いや魅力が伝われば幸いです。
長くなりましたが、主催の薮椿さん、及びTwitter等でお世話になった界隈の方々への感謝の言葉で締めさせて頂きます。本当に、ありがとうございました。