本日は、原作『ラブライブ!』にて『ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~』を投稿している、そらなりさんの企画小説です!
小鳥のさえずりと暖かな太陽の光で一人の少女が目を覚ました。この小泉家にとって一人の少女が目を覚ますこと自体別段珍しいというわけではない。それも生活リズムが正しい小泉花陽にとっては当たり前のことだった。目を覚ました花陽は窓の外を一度だけ見てからベッドから降りる。一度大きく伸びをした後、その少女は口を開いた。
「……珍しいな。今日はボクなんだ」
普段の花陽とは違う少し低音気味の声が花陽の口から聞こえてくる。普段、花陽の一人称は私か自分の名前。ボクという一人称を使うことはない。
「一体何があったのかな? 最近ボクが出てくるようなことはなかったはずなのに」
明らかにいつもの小泉花陽という人物ではない。それもそのはず。今表に出ているのは小泉花陽の中にいたもう一つの人格。つまりは、小泉花陽という人物は多重人格者であった。そして花陽の心が弱った時にだけ表に出てくる花陽を支える存在。最近は花陽自身が傷ついて引き籠るような状況がなかったため出てくることはなかったが昔から花陽と一緒にいた姉弟のような関係だった。
姉弟。そう。このもう一つの人格は花陽の弟のような存在。名前を
花陽と陽。同じ体を共有している2つの人格はそれぞれの記憶の共有ができる。そのため陽はなぜ自分が出てきたのかを花陽の記憶から呼び起こそうとした。
「って……。アハハハハハ!!! なんだよ、花陽と凛ちゃんはそんなことでケンカしたの?」
(だって、凛ちゃんが好きなのはわかってるけど、それを自分も好きになれるわけじゃないし……)
「まぁ、ケンカする理由も分かるけどさ、流石に意地になりすぎだって」
陽は花陽の記憶から何があったのか理解した。ケンカの原因は本当に単純でしょうもない事。それでもケンカしたときの2人は真剣そのものだった。だからこそ鬼気迫る言葉の掛け合いで仲直りしたいとは思っていてもなかなか声を掛けずらい状況に陥ってしまったのだろう。おそらく幼馴染でずっと一緒にいた2人のことだ。何もしなくても仲直りすることは出来るのかもしれない。それでも、2人にとってとても久しぶりの大きなケンカ。派手に言い合ってしまった分仲直りには時間がかかってしまうだろう。現に今、陽が表に出てきているというのが仲直りに踏み込めない花陽がいるからなのだ。だから陽がやることは凛と花陽が安心して仲直りできる状況を作ることだけ。
「幸いにもボクと花陽の記憶は共有できるし、後押しくらいは問題なく出来そうだ」
陽ができることは実のところあまり多いわけではない。出来て凛を説得したりくらいだ。それでもできる範囲で何とかやろうと決めている陽にはこの程度の問題解決は別段難しいことではなかった。それに、久しぶりに表に出られたのだ。楽しまなければ損であろう。
「じゃあ、さっそく動いていきますか!! 久しぶりの外、楽しませてもらうよ。花陽」
(うん。……楽しんできてね。ちょっと花陽は凛ちゃんと顔合わせるのが気まずいから寝てるね)
陽は大きく頷いた後、身支度を始める。いくら人格が変わっていたとしても陽の恰好は花陽のまま。この格好のまま凛と接触するわけにはいかない。気まずく思っているのは凛だって同じだ。それに、陽は花陽ではない。陽というしっかりと存在する1人の男の子なのだ。だからいくら花陽の体だったとしても陽には陽の姿というものがあった。久しぶりだから時間はかかるけど、それでも陽は着々と準備を進めていく。
花陽の女の子らしく成長していた胸をさらしで押さえつけて平らにして、白いTシャツを着て黒いジャケットを羽織る。ズボンはジーパンとあまり肌を露出させないようにして体格が女の子であることを隠していく。その後に黒髪のウィッグを付けて帽子をかぶる。これで洋服の準備は終わった。そして最後にカラーコンタクトを少し明るめの花陽の瞳を隠すように黒色を選ぶ。
結果としてこの場にいるのは小泉花陽ではなく小泉陽という一人の存在に見た目と人格2つの意味でなったといえる。
着替え終わった後、陽はそのまま家を出た。
「確か凛ちゃんはこういう時あそこにいたよね」
最近はなかったとはいえ、ちょくちょくケンカをしていた凛と花陽。その度に凛と陽が話し合っていた場所がある。初めて陽と凛が出会った場所。陽は記憶に残っている場所に足を向けた。
陽が初めて生まれた時、凛と花陽はすでに大ゲンカをしていた。あの時は花陽を虐めていた同級生を懲らしめようとした凛とそれを止めようとした花陽がそのまま凛と言い合いになってケンカに発展してしまったらしい。お互いがお互いのことを想って、交わることのないような平行線。凛と花陽の人生初めての大ゲンカ。花陽も当然凛を傷つけようとしたわけではなく、ただただ凛のことを大切に想っていただけ。そしてそれは凛も同じ。だからこそケンカになってしまったときの気まずさが出てくる。
お互いがどういう気持ちで自分にそう言ってきたのかが理解できてしまっているからだ。でも、気まずいと思っていたとしても仲直りしたいという気持ちは2人の中に確かに存在している。あとは2人が素直になれば問題は解決1歩手前までたどり着ける。
今回だってほとんど同じようなものだ。だから陽はその時と同じように行動する。
陽が向かったのは大きな木がある公園。ここが初めて凛と陽が出会った場所。細かく言うのならこの公園のドーム状の遊具の中で凛と陽は出会ったのだ。
あの時の2人は小学生だったが今は高校生。ドームの穴から凛の姿が少しだけ見える。凛のことを見つけた陽は近くに開いている穴に顔を入れて凛に話しかける。
「やぁ!! 久しぶり! 元気にしてた?」
突然顔を出した陽に驚きをあらわにする凛。それでも陽の顔を見た瞬間懐かしそうに笑顔を浮かべた。
「あ、陽君……。うん。元気にはしてた、かな?」
力なく笑う凛。懐かしいとは思っているのだろうがそれを喜ぶ余裕がないのが見て取れる。それを見て陽は凛の隣に並んで座った。
「それにしては元気そうに見えないんだけど、何かあったの? 良かったらボクが話を聞くよ?」
「あはは……。陽君はすごいな。凛が悩んでる時にいつも来てくれる」
弱い微笑。その表情は絵に描いたように悩んでいることを物語っていた。
陽自身、凛と花陽に何があったのかは知っている。だけど、凛があの時どう思っていたのかはわからない。凛があの時どう思っていたのかを知るためにも話を聞くことが重要だった。
「実は、かよちんとケンカしちゃったんだ……」
「へぇー、またケンカしたの。全く……で、原因は何?」
「昨日の話なんだけど……」
そうして凛からケンカの原因を聞いた。
簡単に話をまとめるとケンカの原因はラーメンを食べてるときのご飯の食べ方らしい。凛にとってラーメンのご飯は付け合わせのような存在で、ご飯を食べるときもラーメンのスープに浸して食べるようにしている。しかし花陽はどっちもメインのようなものでラーメンとご飯はそれぞれで食べたいらしい。傍から見ればどうでもいいような言い合い。それでも好きなものを譲れないのは人間誰しもある感情だ。もちろん2人はお互いの考えを潰そうなんて言うわけではなく、自分の好みを理解してほしいと思っているから今のケンカに繋がっている。
この話を聞いて、陽は一つ大きく息を吐きだした。
「君たちは本当に仲がいいんだね」
「ケンカしたのに?」
陽の呟きに凛はそう反応する。ケンカしているのに仲がいいと言った陽に疑問を覚えたようだ。
「そうだよ。よく言うでしょ? ケンカするほど仲がいいって。ケンカできるのも仲良くないとできないんだよ。だから凛ちゃんと花陽は仲良し」
もちろんこれが全てという訳ではない。けど、ケンカして相手のことを考えて悩むのならそれは仲が良くないとできないこと。凛は気がついていないようだけど、2人の仲の良さは傍から見てれば嫌というほどわかる。
「けど、凛の好きなものがかよちんにわかってもらえないのは辛いよ……。いつも一緒だと思ってたのに……」
「じゃあ、このまま花陽とはギスギスしたままでずっと過ごすの? 知ってもらえないことに納得できないんだよね?」
今回、初めてお互いの好きなことでケンカになったからなのか、自分自身の好きをわかってもらえないことに悩んでいる凛。そんな凛にある意味、酷なことを陽は告げた。
このままでいいのか。もちろん凛がそう思っていないことはわかっている。だからこうして悩んでいるのだから。しかし、理解してもらえないことに納得がいっていないのなら関係はこのままになることだって十分に考えられる。
「それは嫌だ!! 凛はかよちんと仲直りしたい!! ずっとこのままなんて……」
心からの拒絶。けど、陽にとっては待っていた一言。凛の気持ちが知れたことでニヤリと陽の口角が上がる。
「なんだ。ちゃんと言葉にできるじゃん。だったらあと少しだ」
凛は自分の気持ちを言葉にすることができた。であれば、あと一歩でこの問題は解決できる。
「あと少し……?」
陽の言葉に首をかしげる凛。ポカンとしながら陽を見つめる様子を見ていると陽の言葉を理解できていないのが分かる。
「そう。凛ちゃんは仲直りがしたいって言葉にできたんだから、あとは花陽の気持ちを考えてあげればいい」
「かよちんの気持ち……」
「さっき凛ちゃんは自分の好きなものが理解してもらえないのが辛いって言ってたよね?」
陽はあと少しに凛を届けるために言葉を紡いでいく。点と点を線でつなぐようにそこを凛がしっかりと歩いていけるように。
「うん……。だって好きなものは好きでいてもらいたいと思うでしょ?」
「確かに好みが一緒なのもいいかもしれないね。けど、お互いに噛み合わない好みだってあるんだよ。それがどんなに仲のいい2人でも、ね?」
いくら仲がいいとはいえ、自分と相手は他人同士。親友だからとか幼馴染だからとかは関係ない。一人の別の人間なのだから好みが違うのも当然の事。凛はそれをあまり理解できていないのだ。これは、わかっていてもやってしまうミスがあるのと同じ。
「……でも、わかってもらえないのは……」
自分と他人の好みが違うことをわかってほしいのに、いまだに凛はしょぼくれた様子で呟く。そんな様子を見てしまったからだろう。陽は呆れたように一つ大きなため息を吐いた。
「……あのね。花陽は凛ちゃんじゃないんだよ?」
「そんなの、わかってるよ」
陽の言葉にすぐに反応する凛。けど、その答えが本当の意味で正しいのかと言えば正しくはなかった。わかっているのなら先ほどのような言葉は絶対に出ないからだ。
「ううん、分かってない。じゃあなんでそんな言葉が出てくるの?」
「え……?」
陽が指摘すると凛は気の抜けた返事をする。凛自身わかっているつもりでいるため陽がなぜそんなことを言うのかよく分かっていなかった。
「凛ちゃんは花陽に自分の好きなことをわかってほしいんだよね? じゃあ、なんで凛ちゃんは花陽の好きなことを理解してあげようとしないの?」
「あ……」
陽の言葉を聞いてようやくわかったらしい。自分が好きなことをわかってもらえないことが辛いように、花陽だってそう思っている。少し考えれば分かることだけど、ケンカ中の凛にはできない考えだった。
「もうわかったね? 凛ちゃんがそう思っているように花陽もそう思ってるんじゃない? 何も好きなことが共有できるから友達になってるわけじゃないでしょ? 好きなことが合わないときだって当然ある。ボクもそういう時は結構ぶつかったりしたんだ」
「好きなことが合わない……」
今まではお互いがお互いの好きなところに干渉することはなかった凛と花陽。今まではうまい具合にお互いの好きなことに干渉することはなかったようだけど、今回のケンカでお互いの好きなことが違うことを知った。そしてそんなときの解決方法なんて一つしかない。
「そう。それにそういう時は無理矢理好きになることもない。多分そっちの方が花陽に失礼だと思うし」
花陽が熱心になっていることを気まぐれに軽い気持ちで我慢して好きになるのは花陽にとって最大の侮辱になる。無理矢理自分を変えれば楽なのかもしれないけど、それでは相手を傷つける可能性だってあるから好ましい選択ではない。
「じゃあどうすればいいの?」
「それは凛ちゃんが決めなきゃいけない。相手の好きなものを好きになることは出来ない。じゃあどうするか」
ここからは凛自身が決めなければいけない。今後のためにも凛自身のためにも。
「かよちんの好きを好きになれない……。……わからない。わからないよ……」
体育座りをしていた凛が自分の足を強く抱きしめ顔をうずめる。
「そっか。じゃあヒントをあげる。人の好きが好きになれなくても理解してあげることは出来るんだよ。それが好きなんだってね」
相手の好みを好きになれないのは当たり前。好みには自分に合うもの合わないものがある。それでも相手が好きなものを理解……わかってあげることはそう難しいことではない。
「好きが好きになれなくても理解してあげられる……。あ、そっか!! かよちんの好きが好きになれなくても好きだってわかってればいいんだ!!」
ほとんど陽が言った内容と変わらないが、それでも自分の答えに辿り着いたようだ。自分に合わないことは好きになることは出来ない。それでも相手が好きなものを理解してあげることはそう難しいことではない。あとはお互いにその領域に不干渉でいればいいだけ。今回のケンカの原因はそれだけで解消される。
「うん。そういうこと。それにね、こういうことも考えられるんだよ。花陽が好きなものが凛ちゃんの嫌いなものだったら花陽にあげればいいし、凛ちゃんの好きなものが花陽にとって嫌いなものだったら貰えばいい。ギブアンドテイク。お互いがお互いを支え合うのは当然の事でしょ?」
実際、好きなものが被っている場合は物の取り合いになる可能性が出てくる。それは仕方のないことではあるがそれが分かっていて無理矢理好きなものを合わせるのでは本末転倒だ。そう考えると食べ物の場合、嫌いなものをお互いに消費できればお互いにハッピーな気持ちになれる。
「……そうにゃ。確かにそうにゃ!!」
陽の考えが気に入ったのか陽の手を強く握って上下に大きく振った。そこには先ほどまで落ち込んでいた凛の姿はなく、元気で明るいいつも通りの凛に戻っていた。同時に一つ、戻ったものもある。
「ようやく元に戻ったね。いつもの猫語がずっと抜けてたよ?」
普段、凛は常につけているという訳ではないが話しているとき語尾に『にゃ』とつける。しかし、今日は陽と話している今この瞬間までは一切出てこなかった。凛自身キャラを作るために猫語を付けている訳ではないにしても本気で落ち込んでいたため無意識に抜けていた。それが元に戻ったのならもう安心だと思うことができるだろう。
「そうかにゃ?」
「うん。でも戻ったってことは悩みは無くなったってことだよね? じゃあどうすればいいのか、もう凛ちゃんはわかるよね?」
原因が分かったのであればあとは解決する手段を見つけ出すだけだ。そしてこの問題を解決する方法はそう多くないし、難しくもない。凛の様子を見ていればもうその解決方法を思いついているようなそんな気もしてくる。
「うん。ちゃんとかよちんに謝る。そしてもう、凛の好きをかよちんに押し付けるようなことはしない。好きなものを好きになってくれるのは嬉しいけど、どうしても合わないこともある。陽君が言いたいことってこういうことなんだよね?」
原因が分かって、陽のヒントを聞いた凛は自分なりの答えを導き出した。謝るというのは最も簡単な仲直りの方法で、それでいて行動に移すのが最も難しい方法の一つだ。それでも凛は謝るという選択を取り、次からはこういうことが起こらないように直すべき場所をしっかりと理解した。この言葉を聴けばもう凛は大丈夫だということが伝わってくる。
「そう。本当に大丈夫そうだね。じゃあボクはもう行くね」
隣に座っている凛にそう言って陽は立ち上がった。
凛が大丈夫そうだとなれば、もうここに陽がいる理由はない。ここに陽が来たのは落ち込んでいる凛を励ますため。それにいくら花陽の肉体が健康体であったとしても久しぶりに体を動かした陽にとってはリハビリのようなもの。涼しい顔をして凛と話をしていてもかなりの疲労がたまっていた。
「えぇ~!? 久しぶりに会ったんだから遊ぼうよー」
「ごめんね。ちょっとこの後用事があるんだ。大丈夫、また会えるよ」
まだ時間はお昼少し前。年頃の娘なら遊びたいと思うのも分からなくはない。それが久しぶりに会った友人であればあるほど。凛自身この後は遊ぼうと心のどこかで思っていたのだろう。だからこその不服の声。
凛の言葉は次会えるのがいつになるかわからないから。であれば、次会える機会があると凛にわからせてあげればいい。花陽と陽は一心同体。いつでも出てくること自体は出来ないことではないのだから会おうと想えばいつだって会える。
「絶対に約束だよ!! あ、そうだ。せっかくだから陽君の連絡先しりたいにゃ!」
今どきの女の子らしい発言が凛の口から漏れる。陽からしたら凛の連絡先は知っているのだが当然凛は陽が花陽でもあることは知らない。
「あ、そのくらいだったら全然いいよ」
陽は花陽とは別の携帯端末を持っている。だから交換することに何の不都合はない。陽は携帯を取り出し、やたらハイテンションな凛とSNSアプリの一つを交換した。交換した瞬間に陽の携帯に1つの通知が来る。『星空凛にゃ!』というメッセージとともに凛らしい猫のスタンプが一つ押される。
陽も名前だけを送った後、目の前にいる凛に向けて口を開いた。
「ただ、いつも連絡を返せるわけじゃないから、それだけは覚えておいてね」
「わかったにゃ!」
連絡先を交換してからというもの凛の頬は赤く上気し、飛んで跳ねるように喜んでいる凛。若干瞳は潤んでいるようにも見える。
「じゃあまた今度」
「うん!」
そんな凛に陽は軽く手を振って公園の出口に歩いていく。そんな陽に向かって大きく手を振る凛。その時の凛の表情はどこか乙女のような笑顔のように感じた。
凛と別れた後、誰にも見られていないことを確認して陽は自宅に帰ってきた。すぐに花陽の部屋に戻って、陽である見た目を花陽に戻していく。
体が陽から花陽に戻った後、ベットに横たわる。
「ボクの役目もコレで終わりだね」
(……いつもありがとう。陽君。私も凛ちゃんの好きを理解していくよ)
「何? さっきのやり取り見てたの? 全く……。花陽、凛ちゃんの事よろしく頼むよ」
(うん)
「久しぶりに動いたから疲れちゃった。花陽、おやすみ」
陽はそう言って瞳を閉じた。
「おやすみなさい、陽君」
そのすぐあと、今まで陽だった声が少し高めに戻る。今、陽が眠りについて花陽が起き上がった。記憶は共有される花陽は陽がやってくれたことに涙を浮かべながら感謝していた。大切な友達を失わずに済みそうだということに安心した花陽からは不安の色は見られない。きっとこれなら陽が望んだ、理想の仲直りができるだろう。
翌日。花陽は学校に行くために外を出た。いつも凛と待ち合わせをしている場所に駆け足で向かう。するとそこには一昨日、ケンカした相手の凛がいた。電柱に寄り掛かって花陽が来るのを待っていたようだ。
花陽が凛のもとにやって来たと思ったら急に凛は手を合わせて頭を下げていた。
「かよちん、この前はごめんなさい!!」
開口一番凛は花陽に謝った。昨日、陽に言ったことを実行したのだ。
でも、謝るのは凛だけではなかった。
「ううん。私の方こそごめんなさい」
凛と同じように頭を下げて謝る花陽。
「いやいや、謝るのは凛の方だって!!」
「私の方だよ!!」
2人は一昨日にあったことをただ謝りたいだけなのに、お互いが自分のほうが悪かったと言い合いになる。やがて謝っていたはずなのに睨むようにお互いの顔を見つめていた。
しかし、何がおかしいのか突然2人が笑い出した。
「なんで仲直りしようとしてるのに言い合いが始まるんだろうね」
笑いが少し収まると目尻に溜まった若干の涙を指で拭いながら花陽は言う。
「本当にゃ~」
凛も花陽と同じように涙を拭ってもう一度真っ直ぐ花陽のことを見た。
「この前はごめんなさい」
「私の方こそごめんなさい」
お互い握手をしながら謝る。そこにはくだらないことでいがみ合っていた時の2人でも自分が謝るべきと考えていた2人でもない、いつも通りの普通の幼馴染の関係に戻った2人がいた。
仲直りをした直後だからだろうか、手を繋いだまま他愛もない会話をしながら花陽と凛は学校に登校していた。まるで子供の時のように、初めてケンカした後、仲直りをしたときのように2人はゆっくりと歩いていた。
きっとそこで思い出したのだろう。凛がこうして謝る勇気を出せた原因を作った人のことを。初めて花陽とケンカしたときに出逢った一人の少年のことを。
花陽との登校中、凛は赤く頬を上気させながら少し立ち止まった。
「ねぇ、かよちん。凛ね、好きな人ができたよ」
花陽にとって唐突な凛のカミングアウト。
「えぇぇぇぇ!!? どんな人なの、凛ちゃん!!」
驚いたのもある。しかし、女の子というもの特に仲のいい友人の恋の話にはとても強い興味があった。それが今まで男の色を見せてこなかった凛だったのだからなおのことだ。
「うん! 陽君って言うんだけどね! いつも凛のことを助けてくれるかっこいい男の子なんだ~!! 多分、ずっと前から好きだったんだと思う」
凛は好きな人の名前を言った。でもそれは叶うことのない恋なのかもしれない。陽という1人の男の子は小泉花陽という1人の女の子でもあるのだから。
この時、花陽がどう反応したのかはまた別のお話。
(……ごめんね。凛ちゃん)
《そらなりさんより》
今回この話を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます!!
さてさて、今回のお話ですが読んでいる中で、改行が少しおかしいと思った部分があったのではないでしょうか? もし、読者の方々が疑問に思ったと感じるのでしたら1つだけこのお話で狙って書いたところのヒントを公開したいと思います。
ただ、それほど大掛かりなものではないんですけどね……。このお話をパソコンで読んでいる方はこの話の最初から最後までをドラックしてもう一度読み直してみてください。また、スマートフォンで閲覧されている方はページトップから"閲覧設定"から背景の色を白ではない別の色にしてみてください。そうしたらこの話も違った部分が見えてくるかもしれませんよ?
最後に、この企画はまだまだ続きます。この話よりも前の作品、後の作品には読者様一人一人の好みのお話が見つかると思いますのでお見逃しなく!! 企画に携わったすべての方々に感謝し、ここで失礼させていただきます。ありがとうございました!!