ラブライブ!~合同企画短編集~【完結】   作:薮椿

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《薮椿より》
 本日は、原作『ラブライブ!』にて『lost voice ~失った男~』を投稿している、スピリチュアルなカリスマさんの企画小説です!


100%の表情

その子と初めて出会ったのは小学生の時だった。転校生として入ってきた女の子だったからよく覚えている。その子は明るくて笑顔が大好きだった。屈託と何もない100%の笑顔だった。

 

気がつけばそんな女の子に不思議な感情を持つようになっていた。今思えばそれは恋というものだったのかもしれない。

 

だがその子との別れは唐突だった。1年もしないうちにあっという間に転校してしまった。皆とお別れ会もしたが最初に見たときの笑顔、大好きだった笑顔は何処にもなかった。

 

結局、その子に自分の気持ちを伝えられずに初恋は終わった。時が経つに連れて同級生達からの記憶からも薄れ始めていく。

 

髪の色は、好きなものは、どんな性格だったか、名前は一体…

 

 

 

2回目の出会いは中学生の頃、偶然の産物だった。野球部に入部後にあった遠征試合の時に部活か何かの帰りだったのだろうか、その子と再会をはたした。とは言え再会といってもバッタリと出会っただけだった。

 

「ひ、久しぶり…」

 

「…うん」

 

 

とっさのことで挨拶しかできなかった。それでもその子は自分の事を覚えていてくれたようで笑顔で返事を返してくれた。

 

だがその笑顔は違った。何か別の感情を隠しているような複雑な笑顔、自分の好きな子の、大好きだった笑顔なんかではなかった。

 

 

 

 

3度目の出会いは高校生の時だった。帰りの電車に乗るために駅へと向かっていた。その駅へ向かう道の交差点での待ち時間、その子を偶然見かけた。遠くから見てもその子に間違いないと思っていた。だが、近付いて声をかけようとしたとき言葉は喉元辺りでピタリと止まってしまった。

 

笑顔なんてものはどこにも感じられないのだ。口角はまるで無いように感じ、目も緩まずつり上がらず、何を考えているのかもまるで分からないまさに無表情だった。明るかったはずの性格も何処かで真逆になってしまったかのように暗くなってしまっていた。

 

 

不意にその子がこちらを向いてきた。正面から見るとその子の変化が嫌でも分かる。本人には間違いないのだ。本人であることに間違いはないのだが、別人のようにしか捉えられなかった。

 

しばらくするとその子は口を開いて声をかけてきた。

 

「あぁ…久しぶりやなぁ…?」

 

 

自分は涙を流していた。彼女のあまりの変貌を認めたくなかった、認めたくなかったのに認めざるを得なかったのだ。

 

自分の知っているこの子は屈託のない笑顔が可愛い女の子で関西弁なんて喋るわけがない。その子に似ているだけの子だと思いたかったのに、声をかけてきた。中学生の時よりも複雑になってしまった笑顔で声をかけてきたのだ。

 

 

こんな笑顔じゃない

 

こんな喋り方じゃない

 

こんな暗い子じゃない

 

 

 

分かっているはずなのに認めざるを得ない、相手は自分の事を知っているのだ。自分自身もこの子の事を間違いなく知っている。ただ、その事を認めたくなかっただけだった。

 

「…いえ、人違いだと…思います」

 

 

気がつけばそんな言葉を口にしていた。人違いなんかではない、間違ってなんかいない、知っているのだ。間違いなく知っている。

 

「そう、か…。そうやったんやね、ごめんなさいね…」

 

 

やめてくれ

 

そんな悲しそうな目で見ないでくれ

 

間違ってなんかいない

 

出会っている

 

人違いなんかではない

 

謝らないでくれ

 

俺は知っている

 

お前の事を知っているのだ

 

 

信号は青になると一斉に人々が動いていく、ちょっと目を離した隙にその子はあっという間にいなくなってしまった。

 

嘘つき人間だ、自分は嘘をついた。知っているのに知らないと言った、自分が初めて好きになった女の子に対して嘘をついたのだ。それが悲しくて悲しくて仕方なかった。

 

その日を区切りに再びその子を見かけることはなくなった。高校でも野球部に所属した自分はその後に寮で生活をすることになったのだ。

 

その為、家に帰ることや遊びに行く機会もメッキリと減っていった。 そう言った機会が減っていけばあの子と会う機会も減っていく。そこで自分は覚悟を決めた、あの子の事は忘れてしまおうと。

 

そして彼女との時間は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2年の時が過ぎた、高校野球最後の年の3年生。自分はチームの纏め役となってひたすら甲子園を目指し続けていた。

 

そんなある日の事だった。寮に帰ると後輩の何人か、とある話をしていた。野球とはまるで関係ないアイドルの話だった。寮の中での話題は基本自由なので注意することでもないが別にそんなものに興味はなかった。普段であればその場からさっさと離れて行くのだがそれはどうも普通のアイドルとは違っていたのだ。

 

 

 

スクールアイドル、女子高生達が学校直属のアイドル活動を行っているというモノだった。そしてそのスクールアイドルの台風の目となり始めているのがμ'sという音ノ木坂学園のスクールアイドルとのこと。廃校になりかけていたところから再び存続のために活動を始めたという背景があり、一部からは支持を集め始めていたとのことだった。

 

 

アイドルという言葉を聞くと可愛い女の子のイメージが出てくる。そんな自分の中で出てくる可愛い女の子は皆同じだった。2年前に忘れよう決めていたあの子だった。

 

(あの頃の笑顔なら間違いなくアイドルだって出来るだろうな)

 

 

気がつけば自分はその日を境にμ'sの活動について調べ始めるようになっていた。μ's、音ノ木坂、そんな事を調べているうちに音ノ木坂の制服の写真を見つけた。その制服に見覚えがあった。

 

(この制服…あの時!)

 

 

2年前のあの日、間違いなくあの子はこの制服を着ていた。もしかして、そんな期待を込めてさらに調べるがその子の名前は何処にもなかった。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。それでも期待していただけにショックもあった。

 

 

 

 

それからまた少しした。都大会が迫ってきた時、風の噂で耳にした事があった。

 

 

 

μ'sに新メンバーが2人入った。

 

 

 

練習終了後、急いでサイトを調べるとそこには間違いなくあの子の名前があった。あまり大声を出しては怒られてしまうのでなるべく声を出さないようにして喜びを爆発させた。その日からは再び毎日のようにμ'sについて調べるようになった。

 

忘れようとしていても忘れられなかった。この2年、歯がゆかった思いもあったが忘れることができなくて良かった等と思うのは初めてだった。

 

心配もあった。果たして彼女は自分の知っている頃のようになったのか、それとも別人となってしまったのか。そこが心配で仕方なかった。

 

だが、そんな心配も杞憂だった。写真やSNSで拡散されていくμ'sの写真、その中にはかつて自分が好きになった笑顔が写っていた。その笑顔を待受にして苦しいとき、限界を感じたとき等に勇気をもらった。

 

 

 

甲子園の夢が絶たれたのは都大会の決勝戦、あと一歩のところだった。甲子園を目前にしていただけにショックも大きかった。

 

そんな傷心を癒してくれたのもやっぱりμ'sだった。野球部を引退してからは進学を考えて勉強をし始めた。無論、μ'sの活動をも調べつつである。

 

ライブがあればすぐにチケットを買いに行き、イベントがあれば参加する。そこで養った英気を勉強等に注ぎ込んでいった。

 

 

無論、μ'sも全てが上手く行っている訳ではない。

 

中でも学園祭でのライブ中にリーダーが倒れて中止、大会そのものを辞退と時は応援している側からしてもショックは大きかった。

 

きっと彼女達の無念の方が応援している自分達よりもずっと大きかったはずだ。そんな苦難を乗り越えながら戦い続けたていた。

 

 

そんな時こそ、応援し続けるのがファンである。μ'sに救われた事は少なくない、だからこそ微力ながらでもμ'sを、μ'sメンバーである彼女を支えたかった。

 

 

そして無念の辞退から半年後、再びμ'sはラブライブへ帰って来た。絶対的王者とも言えるA-RISEを予選で倒して本選へとたどり着いたのだ。

 

本選の当日、死ぬ気でチケットをかち取った自分は会場へと向かった。案の定本選は超満員で熱気に溢れていた。高校野球の甲子園、いや下手すればそんなものではないかもしれない。こんな空間で彼女達は戦うのかと思うと気が気でない。

 

様々なスクールアイドル達が華麗に魅せてくる、全国というだけあってレベルは非常に高い。だが、μ'sも負けていない。絶対的王者を倒した実力は本物のはずだ。その実力を信じるしかないのだ。

 

 

 

いよいよ彼女達の出番が来た。その瞬間会場の空気は一気に変わった。ボルテージが最高潮に上がったとでも言おうか、やはり一番の注目度を誇っていた。あちらこちらから歓声が飛び交う中、密かにあるタイミングを狙っていた。

 

それは自分の声がステージまで届き、かつ邪魔にならないタイミングだった。2年前の嘘を謝る意味合いも込めて、培ってきた声で届けたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のぞみぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は誰の声よりも大きかった。その声は誰よりも存在感を表す声だった。

 

返事を返さなくても良い、俺はここにいる、俺はお前の事を知っているんだ。

 

そんな思いも込めた声、伝わらなくても良い、やり遂げた気持ちすらあった。そんな心持ちのなか、顔をステージにあげると彼女は見ていた。間違いなく、真っ直ぐ、こっちを見ていた。

 

 

 

 

 

―そして笑ってくれた―

 

 

 

 

 

 

ずっと見たかった、この現場で、その場で、10年近く前に見せてくれたその笑顔、屈託のない笑顔を見せてくれた。何も混ざっていない純度100%の笑顔、限界だった。

 

自分も笑って返したかった、それなのに涙が止まらなかった。2年前に流した後悔の涙なんかではない嬉し泣きである。涙を流しながら、目を潤ませながらもその勇姿をしっかりと見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくの月日が流れた。4度目の出会いはそれから少しした4月、大学生となった桜が咲き乱れる春のことだった。互いの格好はランドセルを背負っていた私服からスーツと着物に変わっていた。

 

「久しぶり…やね?」

 

 

彼女は確認するように声をかけてくる。その顔は控え目ながらも可愛らしい笑顔だった。

 

間違いない

 

もう間違えない

 

もう嘘はつかない

 

もう後悔はしない

 

 

「あぁ、久しぶりだな!」

 

 

 

その返事が全てだった。それ以上は何も言わずとも理解しあえた。自分も返した100%の笑顔に彼女は、東條希もまた100%の笑顔で返してきた。

 

止まっていた時間が再び動き始めた瞬間だった。

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