ラブライブ!~合同企画短編集~【完結】   作:薮椿

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《薮椿より》
 本日は、原作『ラブライブ!』にて『般若と龍と女神のドタバタ騒動記』を投稿している、アリアンキングさんの企画小説です!


再開する女神達と歩んだ軌跡

 秋が深まった晴れた日。秋葉原の街中に高坂穂乃果、園田海未、南ことりはいた。

 彼女達が此処にいる理由、それは解散したμ'sメンバーに寄る女子会の為である。スクールアイドルの活動を終えた9人はそれぞれの道を歩んでいった。

 

 

 それ以来、彼女達は会う機会も減って疎遠になってしまう。しかし今日…10年ぶりに9人が揃う事になったのだ。皆と会うのが待ち遠しいのか、穂乃果はそわそわして、落ち着かない。その様子を見て、傍にいた海未が溜まらず声をかけた。

 

 

 

「…穂乃果。少し落ち着きなさい。いい大人がみっともないですよ」

「うっ、ごめん海未ちゃん。でもさ…皆と会うのって、10年ぶりなんだよ。昔は毎日の様に会っていたけど、今は全然会ってないだもん。そう思うと何だが落ち着かなくて~」

「そうだよね。私も同じだよ。昨日からずっとドキドキしてるもん」

「まあ…気持ちは分かります。だけど、二人がそれでは皆に気を使わせるだけですよ」

「そうよ。海未の言う通りね。変に緊張されると私も困るわ」

 

 

 落ち着かない二人を嗜める海未に賛同する言葉が聞こえてきた。一体、誰だと三人が振り変えると居たのは西木野真姫、小泉花陽、星空凛の後輩組三人であった。彼女らの姿を見た途端、穂乃果は駆け寄ると真姫達に思いっきり抱き付いた。

 

 

「真姫ちゃん!! それに凛ちゃんと花陽ちゃんも…。うわぁ~ 皆久しぶりだね」

「ちょっと穂乃果!? いきなり何をするのよ。危ないじゃない」

「あ、ごめん。真姫ちゃん達を見たら…我慢出来なくて」

「全く。貴女は先輩なんだからしっかりしてよ」

「う、真姫ちゃんが冷たいよ~」

「自業自得です。だけど、今は私も…えい」

「うん。私もそれ~」

 

 

 真姫のきつい一言に泣き真似して、穂乃果は海未に助けを求めるが…彼女は突っ撥ねた。しかし、その後で彼女もまた穂乃果と同じく真姫達に抱き付いた。海未に続いてことりも。思わぬ行動に三人は驚いたが…ふと込み上げた懐かしさから真姫達は笑みを溢し、穂乃果達もまた笑みを浮かべた。

 

 

「何か…こんな事をするのも久しぶりだね。昔はよくやってたけど…」

「そうだね。てか、かよちんの言葉。少しおばさん臭いよ」

「そ、そんな事は無いよ。…無いよね」

「ごめん。花陽。私も少しそう感じたわ」

「えええ!? そこは否定しようよ」

「なーにやってんのよ。揃いも揃って。私達を差し置いて盛り上がるなんてご法度よ」

 

 

 

 かつての様なやり取りをする穂乃果達を咎める声が響いた。聞き慣れた高い声。もしやと思って全員が声の方へ向けば…立っていたのはアイドル研究部の部長であった矢澤にこだった。その後ろにはにこと同様に支えとなってくれた二人の先輩。東條希と絢瀬絵里の姿もある。そして怒った表情で穂乃果達を睨んでいたにこは、パッと笑顔を見せると彼女達にあの挨拶をしてきた。

 

 

「にっこにこにー 何はともあれ…お久しぶりね。皆、元気そうで良かったわ」

「そうやね。うちらもこの日が来るの楽しみやったんよ。おかげで昨日は寝れへんかったわぁ」

「希は意外にシャイだものね。こういう所は昔と変わって無いのよね」

「む~、にこっちだって昔と変わってないやん。まあ…何処がとは言わんけど」

「…何よ。意いたい事があるならハッキリと言いなさいよぉ」

「二人共、そこまでよ。折角、全員が揃ったのだから喧嘩はやめましょう。それに周りの迷惑にもなるわ」

「そうね。確かに会って早々に喧嘩なんて馬鹿らしいわね。希、揶揄って悪かったわ」

「ううん。うちもごめんな。それに嫌な事を言ってしまったし…」

「気にしてないと言えば、嘘になるけど別にいいわよ」

 

 

 揶揄われた事にムッとしたのか。にこのある部分に視線をやり、彼女に反撃した。当然の事ながらにこも黙ってはおらず、怒りを露わにして希へ食って掛かった。あわや喧嘩になると思った六人だったが、そうなる前に絵里が間に入って二人を宥める。幸いにも絵里の説得で事無きを得た。

 

 

「さて、穂乃果。漸く全員集まったし、移動しましょう。女子会をやる場所は貴女が決めるって言ってたわよね」

「うん。それなら大丈夫。もう場所なら抑えてあるから。早速、行こう」

 

 

 そう問い掛ける絵里に穂乃果はすんなりと答えた。その様子に絵里は内心、驚きを隠せない。昔ならうっかり忘れる事が多く。その度に周りから叱られる。そんなイメージが強かった。無論、やる時はやる。その事も自分は分かっている。だが、あれから10年近く経つのだ。変わっていない人間がいる訳が無い。絵里はそれを実感する。

 

 すると笑っていた穂乃果は…困った顔をして絵里に言葉をかけてきた。

 

「もしかして…絵里ちゃん。私が場所取りを忘れてると思ってた? 大事な日にそんな失敗はしないよ」

「そ、そうよね。ごめん穂乃果。実はちょっと思ってたわ。ほら、昔はよく忘れては海未に叱られていたでしょ」

 

 思っていた事がどうやら顔に出ていたらしい。剥れる穂乃果に絵里は謝った後で弁明をした。そういう穂乃果だったが、本人も怒っている訳ではない。膨れっ面から笑顔に変わる。ああ、こうして彼女が見せる笑顔。これだけは変わっていない。流れる時と共に訪れる変化の中、変わらないものがある。絵里はそれがとても嬉しかった。

にん9

 

「もう~ 絵里ちゃんってば、酷いよ。私だってあの頃のままじゃないよ。まあ、三日前に慌てて予約したけどさ」

「うん? 何か言ったかしら?」

「え? あ、ううん。何でもないよ。じゃあ、場所に案内するね。皆も付いて来て」

 

 

 その直後、ぼそっと呟く穂乃果。言った事が聞き取れず、絵里が尋ねると穂乃果は手を振って誤魔化した。正直、気にはなったが…敢えて突っ込む事もあるまい。皆を先導して移動を開始した穂乃果の後を付いていった。後ろでは希はクスリと笑い、にこは苦笑いを浮かべていた。

 

 

 この二人もきっと私と同じ事を思っているのだろう。絵里はそう感じていた。

 

 

 

 

 それから9人は久しぶりの秋葉原の街中を歩いていた。過去に在った店が無くなっていたり、また見た事のない店が出来ていたりと時の流れを皆はひしひしと感じていた。そんな中、にこは以前に贔屓していた店が在った場所を見て、ぽつりと呟いた。

 

 

「あそこに在ったアイドルグッズ店。今は喫茶店になってるのね。流石に10年経てば…店も消えるか。分かっていたけど、いざ見ると寂しいものね」

「うん。私が通っていた洋服店も閉まってたもん。寂しいよね」

「そうやね。うちも良く行ってた焼肉店は…あ、まだやっとるね。良かったわぁ~」

「希…。嬉しい気持ちは分かるけど、少し空気読みなさいよ」

「ごめんな~ 二人共。だけど、うちはしんみりした空気が嫌なんよ」

「そうですね。確かに希の言う通りです。それと穂乃果、貴女が予約した店はまだ着かないんですか? まさかとは思いますが、迷ったなんて事は無いですよね?」

 

 

 漂う空気を変える為、砕けた様子で話をする希ににこが叫ぶ。無論、にこも希の機転には感謝していた。それに乗っかる様に海未も話題を変えようと穂乃果に話を振る。

 

 

「うーん。スマホの地図では‥店はこの辺りなんだけどね。何処だろう…あ、在った。あそこだよ。私が予約したお店」

 

 

 地図を見て、唸っていた穂乃果だが目的の店はすぐに見つかった。彼女が指差す方にあった店は大きい角を生やした牛の看板がその存在感を放っていた。

 

 

「何よこの店。見た所、飲食店っぽいけど…」

「真姫ちゃん、正解。此処は今人気の焼肉店だよ」

「焼肉店!? 確かに看板からしてそんな感じだね」

「うん。それにしても、あの看板の牛。何処かで見た記憶があるよ」

「あれはミノタウロスね。店名にも書いてあるわ。でも…この店が本当に人気あるの?」

「本当だよ。とにかく入ろうよ。予約の時間も迫ってるからさ」

「そうやで。時間はきっちり守らなあかんよ。ほらほら、えりちもにこっちも早く早く」

 

 

 店を前にして、入る事に躊躇していた一同だが、目を輝かせた希が渋るにこと絵里の背中を押していく。強引な行動を取る希に抗議する二人だったが、こうなった彼女は止まらない。なす術も無く、店内に消えていった三人を見て、残った穂乃果達も店に入る事にした。

 

 

 希達を追って、店内に踏み入れると穂乃果達を迎えた光景に驚いていた。壁は緑豊かな森、天井は青く済み渡った空、そして床に色鮮やかな花畑が広がっていた。外の看板にも力が入っていたが、内装にも力を入れているのが分かる。何だか妙な店だと、全員が呆けているとカウンターの奥から女性の店員が姿を見せた。

 

 

「いらっしゃいませ! お客様は何名でしょうか?」

「人数は9名です。それと先日、此処を予約した高坂といいます」

「ご予約された高坂様ですね。今、確認しますので少々お待ち下さい」

 

 

 穂乃果の話を聞いた女性店員は丁寧なお辞儀をして、カウンターの奥に下がり一冊のファイルを手に戻ってきた。手にしたファイルをペラペラと捲った後、女性店員は穂乃果に笑顔で話しかける。

 

「大変お待たせしました。高坂様のご予約。ご確認致しました。それでは席の方へご案内いたします」

 

 

 案内する女性店員に付いて行くと、奥の一室に通される。そこは多人数の部屋なのだろう。9人全員が入ってもスペースに余裕がある広さだった。中は畳が敷かれており、部屋の入り口に靴を脱ぐ場所もある。

 

 

「こちらは予約されたお客様専用の部屋でございます。メニューの方は備え付けのタブレットからご覧になれます。ご注文の方もタブレット、又はテーブルのボタンからも出来ます。それとお冷はセルフとなっておりまして、お手数ですが壁にある機械からお汲み下さい。では、私はこれで失礼します。どうぞ。ごゆっくり…」

 

 

 部屋の説明を終えた後、女性店員は立ち去ると皆はそれぞれの場所に腰を下ろした。個室での焼肉が珍しいのか。穂乃果達は座ったまま、部屋の中を見渡していた。この静寂を破ったのは、意外な事に花陽であった。

 

 

「ねえ皆。折角だし、メニュー見てみない? このままぼーっとしていても、時間が勿体ないよ」

「そうですね。じゃあ、私は皆のお冷を汲んできます」

「私も手伝うよ。一人じゃ大変だもん」

「ありがとう。ことりは汲んだ水を運んでください」

 

 

 花陽の言葉に賛同し、海未とことりが動く中。穂乃果達はタブレットに手を伸ばした。適当に操作していると希があるメニューを見て口を開いた。

 

 

「なあ皆、注文はこれにせえへん?」

 

 彼女が指差すメニュー。それは鳥肉がメインのコースであった。見れば、当店で女性に人気があるコースらしく、脂っこい物が苦手な人でも食べやすいと書かれていた。またがっつり食べたい人も満足できる様。肉の量も決める事が可能と細かい配慮もされている。希のチョイスは焼肉に慣れてない絵里にとっても幸いだった。だけど、皆の意見も必要だと絵里は穂乃果達に聞いた。

 

 

「鶏肉三昧コースね。確かに良さそうだけど…皆はどうする?」

「私は構わないわよ。花陽と凜はどうなの?」

「うん。私もそれでいいよ。あとごはんが欲しいかな」

「凜もかよちんと同じで」

「真姫達は賛成ね。穂乃果達は?」

「私達も平気だよ」

「そう。最後はにこだけね」

「私もそれでいいわ。他はこの野菜スープを追加して」

「分かったわ。じゃあ、注文するわね」

 

 

 一通り皆に聞いた後、注文する品が決まって絵里が注文をした。数分して先程の女性店員が台を押して肉を運んできた。

 

 

「お待たせしました。鶏肉三昧コース三人前と野菜スープ。それとライスが二つです。他にご注文はございませんか?」

「はい。今は大丈夫です」

「畏まりました。それでは失礼いたします」

 

 

 流れる仕草で運んだ物をテーブルに置いた後、女性店員は追加注文の有無を尋ねたが、絵里は大丈夫だと答えた。それを聞いて女性店員は笑顔で退室していった。

 

 

 

「ほな、早速焼くよ。まずはこれからや」

 

 

 運ばれた肉を希は慣れた手付きで次々と網に乗せていく。するとじゅーと焼ける音が響き、肉が放つ匂いが皆の食欲を刺激した。その後、程よく焼けた肉を希は皆の皿に分けていく。全員に渡った所で、箸で肉を摘まみ頬張ると皆に衝撃が走った。

 

 

 焼けていても非常に柔らかく、また鳥肉特有の匂いもない。付いて来た店特製のタレや塩が一層、旨みをひき立てていた。全員は何か憑かれた様に暫くの間、鶏肉を頬張る事に夢中となっていた。

 

 

 

 大方、食べ終えた後。皆は満足した顔を浮かべていた。喉を潤す為、水を一口飲んでから穂乃果が思った事を口にする。

 

 

「そういえば、皆は今何をしてるの? 音ノ木坂を卒業してからは、皆と連絡を取る事も減ったし、気になってたんだ。海未ちゃんとことりちゃんは知ってるけど…絵里ちゃん達が何をしてるか。詳しくは知らないからさ」

「私は大学に進学してそこを卒業してからロシアへ行ったわ。今は祖父母と一緒に住みながらバレエの講師として活動してるの」

「へえ。今はバレエの先生なんだ。そういえば、昔やってたと言ってたわね」

 

 

 絵里がやっている仕事に真姫が感嘆の声を上げる。彼女が幼少の頃、賞が取れずに辞めた過去を知っていた。だけど、今は乗り越えて苦い思い出がある物に取り組んでいる事が素直に凄いと思っている。

 

 

「ええ。あの時、私は諦めて辞めてしまったけど…もし諦めずに続けていたら。そう思った事もあるわ。だけど、今の私があるのも穂乃果のおかげよ。貴女から最後まで諦めない。それを教えてもらったもの」

「うーん 何だか恥ずかしいね。そ、そうだ。真姫ちゃんはどうなの?」

 

 

 絵里の言葉に恥ずかしくなったのか。話を逸らす様に穂乃果は真姫へ問い掛けた。最初はキョトンとする真姫だが、彼女はすぐに穂乃果の問いに答え始める。

 

 

 

「私? 私はセラピストをやっているわ。音楽で人の心を癒す。父とは違った方法で人を救う道を選んだのよ。当初は医者になるつもりだった。でも…音ノ木で皆とスクールアイドルをやって、自分の音楽が終わってない事に気付いた。だから音楽家の道も行こうと迷っていたの。だけど、父の期待も裏切る訳にいかない。悩んだ結果、導き出した答えがさっき言ったセラピストよ。勿論、反対はされた。それでも進みたい道だから私も退かなかった。じっくり話し合って最後は認めてくれた。皆も何かあったら私の所へ来て頂戴。私の馴染みという事で割引にしてあげるわ」

 

 

 真姫は当時の事を思い出しながら、自分が進んだ軌跡を語った。この答えに辿り着くまで彼女が如何に悩んだのか。それは穂乃果達には分からない。だけど、真姫が心に宿す信念の強さだけは穂乃果達にも伝わっていた。それだけ彼女が多くの人を癒して来た事も…。

 

 

「私が気になるといえば、花陽と凛ね。貴女達は何してるのよ?」

 

 

 自分の話が終わった後、真姫は同年代の二人に質問した。思えばこの二人の事が真姫は気になっていたのだ。突然、話を振られて驚く花陽と対象に凜は意気揚々と話し出した。

 

 

「凛は九州の方で龍王というラーメン屋に努めてるんだ。最近、実力が認められてスープ作りを任せてもらえる様になったんだ。皆が九州に来たら食べに来てよ」

「へえ…。凛がラーメン好きなのは知ってたけど、まさか仕事に選ぶとは思って無かったわね。貴女、男性が苦手じゃなかったの?」

 

 

 真姫の疑問は尤もだった。確かに凛は男性に対してある種のトラウマを持っている。無論、それは小学生の時に起きた事だが、小さい頃に負った心の傷は時間が経っても完全には癒える事はない。

 

 

「うん。最初はそうだった。何度も怒られたり、馬鹿にされたりもしたよ。その度に昔の事を思い出して逃げたくなった。でもね。同じ店で働く女性の人が凜を励ましてくれたおかげもあって、凜は逃げずに頑張る事が出来たんだ。それにかよちんがあの時に言ってくれた言葉。今でも凛の支えになってるんだよ。まだ遠いけど、いつかは自分の店を持つのが目標なんだ」

「そうなの。嬉しい反面、少し恥ずかしいよ」

「凜も大分、変わったわよね。それで花陽は?」

 

 凜は笑顔で花陽を見つめて、そう言った。思わぬ凛の言葉に花陽は照れた様子で笑みを浮かべる。そして真姫は改めて、花陽に今の様子を尋ねた。

 

「私も凛ちゃんと似たようなものかな。今は田舎のおばあちゃんの所で米作りをしてるんだ。元々、そっちの道に進むつもりだったし…何よりおばあちゃんの後を継いで美味しいお米を作りたい。それが昔からの夢だったから。まあ、これは今初めて言う事なんだけどね」

 

 

 花陽は自分の目標を力強く語った。その姿は以前の彼女と違って、自信に満ち溢れていた。それは真姫と凛も同じで自身がやりたい事や目標。これが三人を大きく変えたのだろう。話を聞いていた皆はそう感じていた。

 

 

「それで穂乃果達や希とにこちゃんは? 私達の事を聞いておいて、自分の事を話さないってのは無しよ」

 

 

 次に真姫が尋ねたのは穂乃果達の事であった。この話の言い出しっぺは穂乃果である以上は話さない訳にいかないだろう。別段、隠す必要も無い。そう思って、穂乃果は自分の今を口にする。

 

 

「私は当然、家の穂むらを継いだよ。今は雪穂と一緒に店を切り盛りしてるんだ」

「雪穂ちゃんと一緒か。姉妹で頑張るのって、楽しそうね」

「うん。大学に行けと言われたけど…特にやりたい事もなかったからね。だったら、家業に専念するのが良いと思ってさ。和菓子作りの勉強は大変だったけど、雪穂も助けてくれてね。時々、和菓子作りと接客。交代しながらやってるよ。継いだ当初は上手く行かずに客足が減った事もあったけどさ。最近では穂むらに来るお客さんも戻って繁盛してるよ」

 

 聞く限りでは苦労したのだろう。だけど、それをさらりと話せる所が穂乃果という人の強さであり、魅力である。こういう所はやはり変わってない。続いて口を開いたのは海未であった。思えば、彼女が何をやっているのか。実の所、皆も興味があった。何においても優秀な海未が進む道は多いだろう。それ故、彼女がどんな道を進んだのか気になっていた。

 

 

「私ですか? 私は…音ノ木坂で国語の教師をやってますよ。大学卒業後に地元の企業に就職をしたのですけど、自分のやりたい事がこれなのか? 暫く考えて見つけた答えが今の職業だったんです。最近、私が入っていた弓道部の顧問も任せてもらって、毎日がとても充実してます」

 

 

 満面の笑みでそう口にする彼女の表情は、幼馴染の穂乃果やことりも見た事は無い。海未が選び進んだ道は、彼女に大きな遣り甲斐を与えた様だ。海未の話が終わると、次はことりが口をひらいた。

 

 

「予想が付くと思うけど、私は服飾の道を進んだよ。大学を卒業した後、アメリカに渡って服飾の勉強をしてたんだ。一時は私の我儘で断ったから、もう取り合ってくれないと思っていたけど…先方は快く迎えてくれて沢山の技術と知識を私に与えてくれた。日本に戻った後、私は夢だった服飾の仕事に就いたの。学んだ事を生かして、今は通信販売のみだけど、自分の店を持つ事が出来たんだ。ヴァネッサって名前で検索すれば、すぐ分かるよ。良かったら、皆も利用してね。注文して作る形式だから、サイズや模様とか細かい所もお客さんが決められるし、少しずつだけど人気も出てきてるんだ」

「自分の好きな服を作ってもられるのは良いわね。今度、私も利用させてもらうわ」

「うん。皆からの注文。私も楽しみにしてるよ」

 

 

 この話には皆も夢中になって、耳を傾けていた。ことりが作る洋服がどれも素晴らしい物であるのは、この場にいる誰もが知っている。そんな彼女が知識を深め、技術を向上させて作り出す服。それは言葉に出来ない一品になる事だろう。

 

 

 楽しみが出来た余韻の中、凜が希とにこへ視線を向けた。未だ話していないのはこの二人だ。凛に釣られる様に残りの7人も二人に視線を送る。有耶無耶にしようと企んでいたが、この空気では無理そうだと、二人は深い息を吐くと話す事にした。

 

 

 そして先に口を開いたのはにこであった。

 

 

「私は今やってるのは…保母さんよ。偶然、大学でその求人を見つけてね。不運な事にどの会社からも内定が取れなくて、この際やってみようと思ったの。そうしたら予想以上に向いてると自分でも分かってね。この仕事に決めたのよ。まあ、家でも妹や弟の面倒を見てたからね。この経験が生きたのもあるわね」

「そうだったんだ。私、にこちゃんはアイドル関連の仕事に就くと思ってたよ」

「私もそうしたかったけど、現実は優しくないもの。願いが叶う事は無いわよ。それでもアイドルが好きだから、趣味としてグッズ集めはしてるけどね」

「へえ‥にこっちの保母さん姿。うちも見てみたいわぁ」

「はいはい。あんたが子供作って、私が勤めてる保育園に来れば見れるわよ」

「う、うちの子供って…。にこっち、何言うんよ」

 

 

 此処で希はにこを揶揄おうとしたが、思わぬ反撃を受けて希は赤面した。普段は斜に構えて彼女だが、意外と初心な一面があった。これを好機と見て、にこは更に畳み掛ける様に言葉を続けた。

 

 

「そんな事より、最後は希だけよ。あんたは何をしてるのよ?」

「へ? ああ、ウチは観光専門の雑誌を作る会社で記者をやってるよ。思えば、親の都合で全国に行ったけど…塞ぎ込んでたから各地の名所とか全然知らなくてね。偶然、お父さんから風景写真が送られて来てね。それが切っ掛けとなって興味を覚えたんよ。仕事の一環で以前に行った場所に足を運ぶ事で新しい発見がある。これが一番楽しいんだ」

 

 

 目を閉じて希は自分がやっている事を話した。数えきれない転勤で友達も作れず、辛い記憶でしかなかった。けれども…そんな過去があったから今の自分がある。それもまた事実であった。すると話を聞いていた穂乃果が目を輝かせて、希に話しかけてきた。

 

 

「記者さんか。という事は誰かをインタビューしたりとかするの?」

「ううん。そういうのは無いよ。まあ…地元の人に尋ねるだけで、穂乃果ちゃんが思ってる記者とは別だからね。ウチが取材するのは、あくまで観光に関する内容だから」

「記者でも色々あるんだね。ねえ、希ちゃんが撮った写真…見てみたいけど、今持ってる?」

「ウチが撮った写真かぁ。残念やけど、今は持ってないんよ。でも、三日後にウチの写真が掲載した観光専門の雑誌が発売するから、それを買えば見る事が出来るよ」

「そうなの? それってどんな名前の雑誌?」

「ああ、ごめんね。雑誌名は名所探訪って言ってね。単に名所を紹介するだけでなく、余り知られてない場所も紹介するから、意外と好評なんよ」

 

 

 饒舌に雑誌の事を語る希の姿は、いつもより楽しそうであった。引っ込み思案な所がある彼女は自分の話をする事はない。だが観光記者としての仕事が希の気持ちに変化を与えたのは一目瞭然だ。9人全員共、自分が進んだ道で大きく変わっていった。

 

 

「ねえ。皆…この後、まだ時間はあるかな? 良かったら、皆で街を廻ってみない?」

 

 

 皆の話が終わった頃、穂乃果はある提案を思い付き。それを皆に進言した。8人は穂乃果の言葉に考え込む仕草を見せた。もしかしたら、駄目かな?そう思った時、皆は笑顔を浮かべて首を縦に振った。

 

 

 そして会計を済ませ穂乃果達は街へと繰り出した。10年の時間を埋める様に遊んだ後、陽も暮れて楽しい時間はこうして終わりを迎えた。

 

 

 9人は来年も会う事を約束し、別れを告げてそれぞれの道へと戻っていった。月日が経ち、多くの時間が過ぎて彼女達が変わったとしても。この絆は綻ぶ事は無い。それだけは確かである。

 

 

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