ラブライブ!~合同企画短編集~【完結】   作:薮椿

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《薮椿より》
 本日は、原作『ラブライブ!』にて『偽りの笑顔の先に』を投稿している、黒っぽい猫さんの企画小説です!


記憶と想い

陽の光が窓から降り注ぎ、私の目を直撃する。

 

「ん……もう、朝なのね…」

 

そっと上体を起こして、隣で幸せそうな寝顔を浮かべる(女性)の頬を撫でる。

 

くすぐったそうにしながら薄らと瞼を開く。

 

「ふみゅ……絵里ちゃん?」

 

「私よ、希。朝ごはん作るからもう少し微睡んでなさい。昨日も遅くまでレポートやっていたのだし」

 

「それは絵里ちゃんも同じなんだから私も……」

 

「いいの、今日は私が当番なのだから。全く真面目なのはいいけど体を壊したら元も子もないのよ?」

 

「……うん、わかった。大人しくしてる」

 

「ふふっ、いい子ね」

 

「あ……もう!子供扱いしないでよ!!これでも絵里ちゃんと同じ歳なの!」

 

「はいはい」

 

そんな風に騒ぐ希を置いて、私は台所へ向かう。時間のかからないものを、と考えて冷蔵庫を覗くと卵とベーコンが目に入る。

 

「食パンはまだ残っているからそれとベーコンエッグかしらね。早く済ませてしまいましょうか」

 

メニューを頭の中で考えて、冷蔵庫から取り出したベーコンを切る。単純作業の中で、ふと考えてしまう。

 

今日が、6月9日だと。

 

「もう二年……いえ、まだ二年かしら?」

 

一度その事に思いを馳せてしまうと、数珠なりになって当時のあらゆる感情が戻ってきて涙が出そうになる。慌ててそれを抑え込みながら溜息を吐く。

 

「ダメね、私。強がりも虚勢も張れなくなってるわ。弱くなってる……」

 

私のせいで、希は。その言葉だけが最後に私の頭の中に残る。

 

止められない。脳裏に焼き付いた映像が走馬灯のように私の中を駆け巡る。だがその思考は、突然訪れた指先の痛みに掻き消される。

 

「痛っ!」

 

よく見ると、包丁が指に当たって血が出ている。普段ならこんなミスはしないのに、そんなことをぼんやりと考えていると──。

 

「絵里ちゃん──?!怪我してるじゃん!治療しないと!」

 

「いえ、このくらいかすり傷だから平気「ダメ!ちゃんと消毒するから!」でも朝ごはん──「そのくらい私がやるよ。とにかく先に怪我の治療だよ!」……」

 

そこまで強く言われると思っていなかった私は、黙ってなされるがままになる。腰掛けさせられ、消毒液を染み込ませた綿で患部をそっと触れられる。

 

「〜〜っ!」

 

「ごめんね、少し我慢して」

 

「いえ、大丈夫よ。私の方こそごめんなさい…少しぼーっとしていて」

 

どこか他人行儀な受け答え。機械的な自分に少し嫌気がさす。

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

その後、希が私に変わって作ったベーコンエッグを食べ、私が食後に入れたコーヒーを飲みながら会話をした。

 

「ね、絵里ちゃん。今日病院が終わったら美術館に行かない?」

 

「ええ、いいわね。その近くでお昼も食べましょっか」

 

「やった♪今日はね、とある画家さんの展覧会なんだ、ずーっと気になってたの!」

 

子供みたいにはしゃぎながら希はチラシを見せてくる。

 

「!!」

 

そのチラシに、私は見覚えがあった。二年前に私が希を誘って見に行こうと()()()()ものだったから。

 

「?どうしたの絵里ちゃん。顔真っ青だよ…?」

 

「い、いえ…なんでもないわ。先にシャワー浴びて準備してくるわね」

 

「え………あ、うん」

 

平静を装って立ち上がり、着替えを持って風呂場に駆け込む。希の影が近くに見えないことを確認してから、静かに涙を零す。嗚咽が漏れないように、必死に堪えながら。

 

「……っ、どう……してっ…!今日に限ってあんなに思い出させるのよっ……うぁ……今日は……今日一日だけは…笑っていなきゃいけないのにっ!」

 

臆病な私は、希に彼女が全て(記憶)を失う事になったきっかけを打ち明けられていない。拒絶されるという恐怖からだった。

 

「………もう…大丈夫かしらね」

 

その嗚咽を無理矢理押し潰す。私には弱音を吐く権利も、許しを乞う権利も無い。

 

私にできるのは──笑顔を作る事だけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ絵里、ちょっといいかしら?」

 

病院で希が検診を受けている最中、私は真姫に話しかけられた。彼女は今、研修生として彼女の父親の病院で研修を受けている。

 

「ええ、構わないわ」

 

着いてきて、と顎をしゃくられた先は近くにある自販機。カシュッ、と軽快な音を立てながら開けた缶コーヒーを煽って真姫は切り出す。

 

「ねぇ、絵里──貴女、何時まで希に隠しているつもりなの?」

 

真姫から向けられる視線は、とても冷ややかなものだった。

 

「貴女は何時までそうやって逃げているつもり?自分を何処まで追い込めば気が済むの?」

 

彼女が言っている事の意味は理解している。話せと言っているのだ。希に隠している事(私の罪)を全てうち明けろと。

 

「そんな事──できるわけないじゃないの!!

 

私の……私のせいで希は記憶をなくしてしまったのよ?!

 

そんな事を話して──私は、私は嫌われたくないのっ!嫌よ…私は、二回も大切な人を失いたくない」

 

「絵里──でも、貴女…酷い顔してるわよ。

 

希がいる時には明るい顔をしていたけど、居なくなった瞬間別人のような、辛そうな表情をしているわ。

 

貴女は少しずつ壊れているんじゃないの?」

 

解っている、そんなことは指摘されるまでもなくわかっている。

 

「でも──なら!どうしろって言うのよ!どちらにせよ私はあの娘のいない世界なんかに生きてても意味が無いのよ!!

 

全てを話して嫌われる(失う)か、誤魔化し続けて壊れるか。それのどこに差があると言うのよ?

 

──もう遅いのよ。二年も経ってしまった」

 

それに対して、冷静沈着な態度を突き通す真姫は溜息を吐いて言ってくる。

 

「絵里……貴女、希の事を全っっ然信用していないのね」

 

その言葉に、真姫を睨みつける。

 

「なんですって──?貴女今──「だってそうでしょう!!!」っ!」

 

いきなり声を荒げられ、一瞬止まった動きを見逃さず襟元を掴まれ壁に叩きつけられる。先程の大声で周りの人がこちらを見ているが、それにお構いなく真姫は怒鳴り散らす。

 

「何が『話をしたら嫌われる』よ!!希がそんなに軽い女だと思っているわけ?!希がそんなに人の気持ちに鈍感だ思っているの?!

 

確かに貴女が希に言った言葉は酷い言葉だった。それは私もそう思うから間違いない。

 

でもね!!二年間、記憶の無い希に対して貴女は本気に向き合ってきた!!その事を希が何とも思わないと思っているの?!

 

自分の中の被害妄想に浸って悲劇のヒロインぶってるんじゃないわよ!!

 

私の友人をこれ以上愚弄するなら、たとえ貴女であっても許さないわよ!!」

 

「あ──」

 

「忘れないで、絵里。希はずっと貴女と一緒にいたのよ?苦しんでる事にあの娘が何も気づいてないと思わないで。

 

──多分知ってるわよ。貴女が、無理してる事」

 

怒鳴ってしまってごめんなさい。そう言って白衣を翻した真姫は去っていった。周りで見ていた人達がまばらになっても、私はその場から動けなかった。

 

私は、ずっと希に嫌われたくなかった。でも、もしこの話を受け入れてくれるとしたら?そんな都合のいい話があるのだろうか──?

 

「私は一度、希を裏切っている。そんな私をあの娘が受け入れてくれるというの?そんな事ある筈が──「絵里ちゃん!!」──希?!」

 

ベンチに座って項垂れていた私は、目の前に希がいる事に、声をかけられるまで気づかなかった。

 

「あ…いつから、聞いてたの?」

 

希はキョトンとした顔をしている。

 

「へ?なんの事?」

 

聞かれていなかった事に安堵しつつ、笑顔を作って希に向ける。

 

「……いえ、なんでもないわ!検査の方は?」

 

「うん!もう定期検診もこれで終わりって言われたよ!傷もすっかり良くなったって」

 

「そう……それじゃ、美術展に行きましょうか!お腹も空いてしまったしね」

 

「………うん」

 

「…?どうしたの、希」

 

「ううん、なんでもない。行こう絵里ちゃん」

 

そっと手を握って、希は先頭で歩いていく。その手はとても温かくて、心地良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絵里ちゃん、ありがとう。今日は付き合ってくれて」

 

美術展からの帰り道、夕暮れに照らされた希の顔はとても綺麗だった。

 

「き、急に何を言っているの?私も楽しかったわよ?色々なものを見れたし」

 

いきなりの事で少し面食らってしまう。そんな風に言われた事はこれまでに無かったから。

 

「………それとごめんね。私、絵里ちゃんに嘘吐いてた」

 

「──え?」

 

「本当は聞いてたんだ、病院で独り言を言ってるの」

 

頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなる。あれを聞かれていた──まさか。

 

「…なんて、言ってたのを聞いたの?」

 

「『私は一度、希を裏切っている』って所から」

 

「………そう。全部、聞いてたのね」

 

「うん………それでね。私、絵里ちゃんにお願いがあるんだ。ほら、今日って私の誕生日でしょ?」

 

だからね、と続ける。

 

「話……してくれないかな?絵里ちゃんと、私の間にあったこと」

 

……想像は、していた。だから覚悟もしていたしいざとなれば話をする気でいた。

 

「少し………待ってもらえるかしら…家に戻って……お風呂に入って…ご飯食べて……その後に…話をさせて……」

 

私の身体は酷く震えていた。恐れている、それは間違いない。怖い、二年間ずっと恐れていた事が今現実になろうとしている。

 

「大丈夫……大丈夫だよ絵里ちゃん」

 

私は希に抱き締められていた。安心する希の匂いと温もりに、涙が零れ落ちそうになり、踏み止まる。

 

「私は、絵里ちゃんを嫌いになったり、絶対に、しないから」

 

ハッキリと、耳元で区切るように言う希。私はその言葉に、黙って頷いた。

 

「……ごめんなさい、もう大丈夫」

 

「そっか……うん、それならいいの」

 

そっと、距離を取る。

 

「……今すぐ、話を聞いてくれる?」

 

もしも、これが最後になるのだとしたら。希の言葉があっても、そんなふうに思ってしまう自分がいるのは確かだ。

 

「……また時間を置いたら、覚悟が鈍りそうだから」

 

「うん……わかった」

 

私は強い人間ではない。何か支えがないと簡単に意思が折れてしまう、そんな弱さを持った人間だ。だから、私の中に彼女の与えてくれた温もり(勇気)が残っているうちに、話をしたい。

 

 

 

近くの公園のベンチに腰掛け、少しの間深呼吸を繰り返す。

 

そして私は口を開いた。二年前に、私が犯した罪を話す為に。

 

 

 

────────────

 

五年前、の話になるわね。私達はスクールアイドルμ'sとしての活動を終えて、高校を無事卒業した。

 

貴女は覚えていないけれども、私達は結構有名人だったのよ。まあ、今は関係ないからその話は置いておくとして。

 

それから二年、私と貴女は同棲を始めた。高校は真面目だった貴女が寝坊したりするとは思ってなかったけれど……とても、幸福な毎日だったわ。私にとって、かけがえのない日々だった。

 

どうでもいい事で笑いあったり、映画を見て一緒に泣いたり、そんな日々の繰り返しだったし、ずっとそんな生活が続くものだと思っていたわ。

 

──残念ながらそんなことは無かったけれど。

 

雨の日、だったわ。6月8日の朝の事。私達は口喧嘩をしていたの。

 

きっかけが何であったのか、今はもうよく覚えていないのだけれど、本当に大したことない事だったと思う。それから、それはどんどんエスカレートしていった。

 

『……女同士で恋愛っていうのが間違ってるのかもしれないわね』

 

ポツリと、零れた言葉。頭に血が上っていた私はその言葉の意味なんて、その時は考えてもいなかった。

 

『絵里ち………何を言って……』

 

『だってそうでしょ?!大学を見ても私達みたいな人はどこにもいない!浮いて当然よ、変な目で見られて当然だわ…普通じゃないのだもの』

 

今となってみれば──いえ、数秒後の私ですらこの言葉がどれだけ貴女を傷つけるのか解っていた。

 

『そんな…………絵里ち…』

 

『ぁ……希……これは…違……』

 

『っ!!バカ!!!』

 

貴女は、出ていってしまった。私は自分がそんな言葉を放ったことに呆然として動くことが出来なかった。

 

『私……は…っ………なんて事………』

 

追い掛けなきゃ、そして謝ろう。そう自分を奮い立たせ、家を出たのはそれから一時間後だった。

 

それから、私は貴女を探して走り回った。何ヶ所も見て回ったし、μ'sの皆にも手伝ってもらいながら貴女を探し回って──

 

『希!!』

 

『絵里………ち…?』

 

向こう側の道路に、貴女が歩いているのを見つけた。信号も青だったから、急いで貴女に謝ろうと思って走って渡っていたの。そうしたら貴女も私の方に走ってきて──

 

『危ない!!』

 

『え──』

 

貴女は私を突き飛ばした。タックルされるような形で押された私はその場に尻もちをついてしまった。

 

『希…何を──』

 

視界を貴女の方に向けて、私は貴女の姿が見えない事に気付いた。咄嗟に周りを探すと数メートル程離れた場所に貴女が倒れているのが見えた。

 

『希っっ!!』

 

ぐったりとした貴女を抱えると、貴女は笑いながら言ったわ。自分が死にかけてるのによ。

 

『全く……周りはよく見んとアカンで絵里ち…。

 

あぁ、朝はごめんなぁ…いきなり出てってしもうて…』

 

『何を言って……悪いのは私で………っ』

 

『ふふっ………確かに、ウチらは普通じゃないけどな…絵里ちのこと好きって想いは、誰にも負けへんのやで……?』

 

朦朧としているのか、話が噛み合っていない。

 

『泣いたらアカンで絵里ち……笑ってる絵里ちが、ウチは大好きなんやから………』

 

その言葉を最後に、貴女は何も言わなくなった。私にはただ、貴女を揺らすことしか出来なかった。

 

『希……?ねぇ……返事……してよ…!お願い……だからぁ…っ!』

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「……それからは、貴女が目覚めてからの話になるわね。

 

私は、貴女に向かって酷い言葉を投げかけて貴女の思いを裏切った。その矢先、私は真姫から貴女が記憶を失っている話を聞いて──償う事を決意した。

 

何があっても貴女の隣で貴女を守る。そう自分自身に誓ったの

 

いいえ、それすらも私の自己満足だったのかもしれないわね。

 

私は結局、貴女と一緒に居ること自体に、私自身が依存している。だからこそ『償い』なんて隠れ蓑を使っているのかもしれないわね」

 

どちらにせよ、私は最低な人間だ。人の想いを踏みにじって弄んでいる。

 

「ね、絵里ちゃんはさ。今の私の事どう思ってるの?」

 

「私が貴女に何かを抱く権利なんて──「そんなの関係ないよ。今の絵里ちゃんの気持ち、聞かせてくれないかな?」……」

 

柔らかく、それでも有無を言わせぬ希の迫力に押されるように──背中を押されるように──言葉を紡ぐ。

 

「都合がいいってことはわかってるわ…私が最低だってことも……。

 

でも私はそれでも──」

 

東條希の事が、大好き。

 

「それは、今の私、それとも記憶を失う前の東條希(わたし)?」

 

「……どっちも、よ。だって貴女は口調が違うだけでそっくりなんですもの…」

 

フッと、自分の口元が緩むのを感じる。

 

「どちらかが好き、という訳じゃないの。だって二人とも貴女でしょ?」

 

「そっか──よかった。これで記憶が無い時の私の事が好きなんて言われちゃったら、ウチの立つ瀬が無いもんね」

 

どこか、希の雰囲気がおかしい。第一、呼び方がいつもと違う。私をそう呼ぶのは──

 

「ぇ──何言って…?」

 

「二年ぶり、になるのかな?この二年間の事もちゃんと覚えてるから変な気分やけどね。

 

──ただいま、絵里ち」

 

「その呼び方──まさか……思い…出したの…?」

 

信じられない。主治医の先生に話を聞いたところによれば、記憶が戻る可能性はほぼゼロであるそうだ。

 

「思い出したよ、絵里ち。絵里ちから話を聞くまではぼんやりモヤがかかってるみたいやった。けど、話を聞くうちに何もかも、ね」

 

「──ッ!!!」

 

「おっとと……今まで、よく一人で頑張ってきたね…絵里ち。お疲れ様」

 

飛びつき、涙が流れるのを見られまいと希に顔を押し付ける。どんな気持ちか、などと言えるようなものでは無い。この二年間のあらゆる感情が溢れ出てきて止まらないのだ。

 

「わたしっ……ずっと、謝りたくって……!でも覚えてない貴女に話して……嫌われたくなかったの…!ごめんなさい……ごめんなさい………私のせいで貴女は二年も……!!ごめんなさいっ!!」

 

「ええんよ、絵里ち……ウチの方こそあんな事で急に飛び出したりしてごめんなぁ……。

 

ずっと寂しい想いさせて、ずっと無理させてきてごめんなぁ……」

 

希は目を合わせるとそっと涙を拭ってくれた。そのまま目を逸らさずに言ってくる。

 

「もう、自分で自分を苦しめなくてええんよ、絵里ち。ウチがずうっと隣にいるから」

 

「…私は……私は自分を許せない……貴女に…「絵里ち」………」

 

「ウチは、ここにいるよ。ちゃんと、いる。

 

もし、絵里ちが自分を許せないなら、許せるようにウチも手伝う。

 

…もう何もかも一人だけで抱える必要なんてないんやで。ウチにも半分背負わせてよ、絵里ちが背負ってる物」

 

「どうして……そんなこと言えるのよ…」

 

私は希を傷つけ、記憶を失ったあとの彼女を利用した。そんな人間の為にどうして希は──。

 

「好きだから、だよ絵里ち」

 

「ぇ……」

 

優しく、本当に優しく希は私の額に唇を押し当てた。恥ずかしそうに照れ笑いしている希に私は目を丸くしているだろう。

 

「──だから、ね。仲直りしよ、絵里ち」

 

そっと、手を差し出される。

 

「貴女は変わらないのね──ずっと」

 

そして私はその手を──

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、あの二人……世話が焼けるんだから」

 

「え、真姫ちゃん、それどういう事なの?」

 

とあるカフェの一席で二人の女性が話をしている。

 

「希、大分前から思い出してたみたいなのよね、全部」

 

「はぁ?!じゃあずっと──」

 

「言い出せなかったんですって。それに記憶にも確証が持てなくて不安だったそうよ」

 

「あっきれた……そんなのさっさと話しちゃえばいいのに」

 

「誰もがにこちゃんみたいにバカ……単純じゃないのよ」

 

「うっさい!余計なお世話よ!!……で、なんで私を呼んだわけ?これでも売れっ子アイドルだからそんなに暇じゃないんだけど」

 

「………絵里に言った手前、私も少し自分に素直になってみようと思っただけよ」

 

「んな──!」

 

 

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