ラブライブ!~合同企画短編集~【完結】   作:薮椿

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《薮椿より》
 本日は、原作『ラブライブ!』にて『ラブライブ! 〜少年少女が奏でる物語〜』を投稿している、ちゃーもりさんの企画小説です!

《ちゃーもりさんより》
恐らく多くの読者様が初めましてだと思われます。
ちゃーもりと申します。

自分自身、他の参加されてる方々に比べると、物語の構成、文章、劣る所は多々あります。
ですが、作者として最高傑作と思えるぐらいの作品には仕上げたつもりです。ぜひ読んでいただければ嬉しいです。


浜辺少女とのパス

 突然だが、いくつか質問したい。

 

 

『夢』とはなにか?

  眠っている間に、現実にない事象の感覚を起こすこと。

  将来実現させたいと思っている事柄。

 

  今回の質問の場合、後者で捉えてほしい。

『夢』とは、「国民を守る自衛官になりたい」、「祖父のように部下から慕われる人になりたい」といった人がそれぞれ持ってるであろう憧れ、理想、願いである。

 

 二つ目の質問。

『努力』とはなにか?

 人が目標を実現するために、心や身体を使って務めること。

 

『努力』とは「試験に合格するために、勉強を頑張る」、「あの人に負けない為に強くなる」といった人がそれぞれ抱くものに対して、一生懸命になること、没頭すること、足掻くことである。

 

『夢』を叶えるために努力する。

 

 それはこの社会で多くの人がやっている若しくはやってきたことだ。

 

『努力』が実って『夢』を実現させた人もいる。

 

 ならば、逆は?

 

 ここで最後の質問。

 

 君達は、挫折をした事があるか?

 

 

 俺はある。

 

 俺にとっての『夢』は目標から呪いに変わった。

 俺にとっての『努力』は無意味な物に変わった。

 

 

 

 これから綴られる物語はそんな俺と浜辺の少女の物語だ。

 

 

 ――――――――――

 

 

  冬を越え今は、花が芽を出し始める春と白い肌も健康的な小麦色に焼ける夏模様の狭間。

 

 いつの夕暮れも綺麗な物だが、この時期の夕暮れはまたいっそう美しく見えるものだ。

 そんな景色を独り占めできる防波堤で俺は思いふける。

 

  夕焼けを独り占めできるこの場所は俺にとってお気に入りのスポットだ。

 普段なら誰にも邪魔されることは無い。

 

 そう、普段ならの話だ。

 

  だが、今日だけは違った。

 

  俺がいつものように夕焼け浸っていると、後方からものすごい足音が近づいてくる。

  ぶっちゃけ、ものすごく気になる。だが、ここで振り向いたら負けな気がする。だって、走ってきてる人が必ずしも、俺めがけてるとは限らない。

  のに、振り向いて目が合ったとする。「なに、この人。お前なんかに用ないし。きもいからこっち見んなよ」って思われたくないじゃん?

 

 だから、俺は振り向かない。

 

 そんな事を考えてるうちにも、足音は近づいてくる。

 

「そこの人、ちょっと待ったぁ!!」

 

 

 この場には俺しかいない。つまり。

 結局、俺に用があるのかよ…。

 

「あ?」

 

  叫び声と共にやってきた足音は俺のすぐ後ろで止んだ。

 一体なんなんだ。俺の時間を邪魔するやつの顔でも拝んでやるか…。

 

 

 

  そこには、長く青い髪をポニーテールに纏めダイビングスーツで身を包んだ少女の姿。

 ダイビングスーツのジッパーから除く白と黒のラインのビキニ。そして、その水着が包み込む大きな胸に一瞬目が向いてしまう。

  それなりに遠い場所から全力疾走でもしてきたのか、息は完全に上がっており、肩で息をして手に膝を置いている。

 

「なんだ?俺に用事か?」

 

「なんだ、じゃないよ!」

 

  少女は一つ息を吐くと、ものすごい剣幕で俺に詰め寄ってくる。

  近い。顔が近い。よく見ればこの子…かわいいし。

 

「今、君海に飛び込もうとしてたでしょ!!」

 

 ん?なんの話してるんだコイツ。

 

「は?海に飛び込む?俺が?何言ってんだアンタ」

 

「え?」

 

  俺と少女の歯車がうまく噛み合わっていない。というかもう既に少女の思考は停止していた。

 

 ――――――――――

 

「つまり、アンタは俺が海に飛び込もうとしたと勘違いして走ってきた…と?」

 

「はい……」

 

  話を聞いてみれば、防波堤に突っ立って思い老けていた俺の姿を彼女は、今まさに海に飛び込み自殺しようとしてるように見えたらしい。早とちりもいいところだ。

 

「ぶっ……くっ…くは、くははははは……アンタ、ドジだな」

 

  早とちりしてしまった恥ずかしさ故に、少女は顔を真っ赤に染め俯く。

 

「しかも、挙句の果てには全力疾走ときた……ぷくくく」

 

「ちょっと君!笑いすぎ!」

 

  ぷくーと頬を膨らませ、怒る少女。その姿は彼女には失礼だが可愛らしくも、面白かった。

 

「悪ぃ悪ぃ」

 

「悪いと思ってないでしょ!」

 

  まぁ、ぶっちゃけ別に俺は悪くないし。ただ、夕焼けを見てただけだからな。

 

「でもなんでこんなところに?」

 

  と、聞かれても特にこれ!という理由もなければただの日課に近いものだ。だから答えられるような理由なんてない。

 

「別に理由なんてないけど」

 

 

  だから、こう言うしかない。

 

 

「理由もなくこんなところに来るなんて……ひょっとして君やっぱ危ない人?」

 

  やっぱってなんだ。やっぱって。失礼な奴だな。

 

「アンタの方がよっぽど危ないと思うんだけど?」

 

「まーたそういう事を言う!そんな人はモテないぞー」

 

  グサッ。彼女の言葉が俺の胸に刺る音が確かに聞こえた。

 顔に出てたのか少女はしてやったりと笑顔を見せる。

 

 が、途端にふと彼女の目線が時計に向き、わたわたと慌て出す。

 

 

「もうこんな時間!?お店の手伝いしなきゃ!!じゃあね!飛び込んだりしちゃだめだよ!」

 

 

「飛び込まねぇつーの」

 

 俺の言葉を聞く前に少女は、走り去ってゆく。

  最後まで俺の言葉聞いてねぇし……まったく…嵐のようにやって来て嵐のように去ってったな…。

 それに、気が付けば夕焼けはその殆どを海に沈め辺りは少しずつ暗くなり始めていた。

 

 

 ――――――――――

 

  あの少女と出会ってから、数週間後。特になにか変わるわけでもなく、ただひたすら同じ毎日。

 

  そう。変わらない毎日になるはずだったんだ。今日もあの日と同じように一変を迎える事になるとは誰が予想できただろうか?

 いつも通りに終礼を終え、いつも通り歩いて下校してた。今日はまっすぐ家に帰ってゲームでもするかとか呑気に考えていると、曲がり角で人影が現れる。ぶつかりそうになり反射的に避けたが次の瞬間、目の前の光景につい目を疑ってしまった。

 

「すみませ………あっ!?」

 

「あっ!」

 

  なんと今、あの日、俺を飛び込み少年と勘違いしたポニーテールの少女が目の前にいたんだ。

 

「君っ!なんでここに!?」

 

「それはこっちのセリフなんだが…」

 

  よく見てみれば、少女が着ている制服は浦の星女学院の制服なのだ。

  浦の星女学院は、俺の通ってる学校からさほど遠くない場所に位置してるんだ。

 そう考えるとここで出くわすのも納得がいくじゃないか。

 俺がそんなことを考えてると同じく、少女も俺の姿をマジマジと見つめていた。

 

「へぇー……君あそこの生徒だったんだ…やっぱ世間って狭いんだね〜」

 

 まぁ、確かに世間は狭いがこんな田舎町なんだ。沼津周辺だと高校なんてだいぶ限られてくる。

 

「ここであったのも何かの縁だし、一緒に帰ろうよ」

 

 女の子二人で下校なんて、知り合いにでも見られたら変な誤解を招きそうで嫌なんだが。

 というか人の話は聞かない、変な勘違いをするような人と帰ってたらろくな目に合わない気がしてたまらん。

 

 

「今、ものすごく失礼な事を考えてない?」

 

 ちっ。なんでわかるんだよ。

 

「気のせいだろ。ていうか、俺がアンタと一緒に帰るメリットがないから断る」

 

 

「ひどい!そんなこと言わずにさ!」

 

 少女は俺の肩をしっかりと握ってものすごい勢いで揺さぶる。

 

「やめろ!!脳が揺れる!」

 

「なら、一緒に帰ってくれる?」

 

「わかったよ……けど、途中までだからな」

 

 俺の承諾を得るなり、少女はニコニコと歩き出す。

 一体なんでこうなる………俺は頭を抱えながら、彼女の後を歩く。

 

 ――――――――――

 

 一方的に話しかけてくる、少女に相槌を打ちながら俺は後ろを歩く。

 

 一緒に歩き出して十分くらいに足しそうな時、コロコロと俺の足元にサッカーボールが転がってきた。

  風に吹かれてきたのだろうか?ボールを拾い上げ、それが来た方向を見つめるとそこには、幼さを余り残し、ワーワーと幼い声を上げ楽しそうにボールを追いかけピッチを駆け回るサッカー少年たち。

 

 サッカー……か。

 

『上がれー!!』

 

『5番マーク!』

 

『DF、抜かせるなよ!!』

 

  無邪気にボールを追いかける少年達の姿を見ているとある感情が込み上げてきた。

 

 

『羨ましい』と。

 

  数年前までは俺もサッカープレイヤーだった。

 サッカー一筋で、本気でサッカーで飯を食うことを考えていたもんだ。チームメイトと共に毎日練習を繰り返し、『夢』の為に『努力』を続けていた。

 

 だが、その『夢』はある日のある事件を境に『呪い』に変わり果ててしまった。

 

 そんなことを思い出してると、自然とボールを持つ手に力が入る。

 

「ボール……返さないの?」

 

 少女はキョトンとして心配そうに顔でこちらを見つめている。

 それにさえ気づかないほど夢中になって見ていたんだろうか。

 

 我ながら、未練がましいったらありゃしないな。

 そんな自嘲をしながら少年達を横目にボールを投げ返す。

 

 それを、見届けると俺達は無言で歩みを再び進める。

 

 何歩何分歩いたか。気まずい雰囲気のまま無言が続く。それをぶち壊すように少女が口を開いた。

 

「今日、暇?」

 

  唐突だな。俺も年相応の男子高校生だから、デートの誘いなら嬉しいもんだ。俺だってそういう事には興味はあるさ。けど、今はそんな気分ではない。

 

「暇だけど、生憎と………」

 

「よし!決まり!今から海にでも行こっ!」

 

  そう言って少女は俺の手を握り小走りに走り出す。

  人の話聞けよ。しかもほぼほぼ強制連行じゃねぇか。

 まぁ…帰り道の海ぐらいならかまわないか。

 

 ――――――――――

 

  どこまでも続いているように錯覚させる水平線に、沈んでゆく夕焼け。

 

「夕焼け綺麗だね」

 

  いつもなら1人で眺めていたはずの景色を少女と2人で眺めている。

 

「綺麗じゃなかったらしょっちゅうこんなところに来ない」

 

 自分1人のお気に入りの場所が他人に知れてしまったという後悔はありはするが、何となく嬉しくもあった。

 

「さっき、サッカーボールが転がってきた時様子変だったけど何かあったの?」

 

「別に……」

 

「嘘だ。お姉さんに言ってごらん?思う所があるなら相談に乗ってあげるよ?」

 

  誰がお姉さんだ。俺は高3だぞ。アンタが制服着てるって事はタメか年下しかありえねぇだろ。留年とかしてなければだけど。

 彼女に俺の何かを言ったところで何かが変わるはずがない。のに、俺を見つめる少女の瞳には敵いそうもない。

 

「俺も数年前までサッカーをしてたんだ。けど、怪我で二度とサッカーができなくなった」

 

「え?」

 

「膝前十字靭帯断裂っていう怪我さ」

 

  スポーツをしていれば多少の怪我は付き物だ。サッカーによくあるのは足首、膝の靭帯の損傷。

  その中の一つに挙げられるのが膝前十字靭帯断裂。それは、サッカープレイヤーにとって致命的な怪我。

 その怪我故に、引退を余儀なくせざるを得なかったプロの選手もいたほどだ。更に、残酷な事に俺の場合半月板損傷も伴っていた。

 

「靭帯断裂って……それ試合中に?」

 

「試合中の接触も原因ではあるみたいだけど、そもそも膝が弱ってたらしい」

 

  俺の膝は過度な練習による負担、そして度重なる試合中の相手との接触によりボロボロになり既に限界を迎えようとしていたらしい。

 

 痛みは時々あったけどそれでも、俺はサッカーを続けた。

 

『どうにかなる』と自分に言い聞かせて。

 

 そんな時に、あの事故は起きた。

 

  あれは、中学最後の大会。1対1と同点で残り時間もほんのわずか。ここでゴールを決めたチームが勝つのは目に見えていた。互いに負けじまいとボールを追いかける両者に、遂に勝利の女神が微笑むかのように俺らのチームにコーナーキックのチャンスが訪れた。

 メンバーの殆どがゴール前に張り付き、無論俺もゴールの目前にいた。

  ピリピリと空気が張り詰める中、ぼーるは弧を描きながら俺の足元へと落ちててきた。チャンスだと、俺も足を伸ばしたが、相手側もボールを触らせまいとボールを弾こうとした…………その瞬間、俺の膝裏に相手の勢いの付いた蹴りが飛んできてそのままゴールポストに強打。

 それでも試合は続行し、俺もアドレナリンが出てたからか痛みは全く感じてはいなかった。

 

 

 そして、同点のまま試合終了のホイッスルと共に俺は膝から崩れ落ち、そのまま病院に搬送され、残酷な診断を受けることとなった。

 

  医者からはサッカープレイヤー復帰はほぼほぼ不可能。あるいは、復帰できたとしても、大幅な能力低下は否めないと診断された。

 

  それが、俺の夢への挫折の瞬間。

 

  サッカーが大好きで、サッカー選手を目指して一心不乱に続けてき努力さえ全てが無駄になったんだ。

 

『サッカー選手になる』

 

  その夢はもう二度と叶わない理想という名の鎖で俺を縛り付ける呪い。

 諦めのつかない夢に縛られた俺は、どっちつかずでなあなあに流されたまま、今ここにいる。

 

  だから、無邪気に走ってボールを追いかけ回せる少年達が羨ましかった。

  1つのことに夢中になれる楽しさを俺は知っているからなおさら。

 

 ――――――――――

 

 

  変えようのない残酷な過去を気が付けば少女に語っていた。なぜ、彼女に話したんだろうか。答えはわかってる。きっと、誰かにわかって欲しかった。聞いて欲しかったんだ。

 横目で様子を伺うと少女は難しそうに考え事をしている。

 

「そっか………んー……」

 

「なんだよ」

 

「じゃあ、私と一緒にサッカーしようよ」

 

 この女は何故いつも俺の話を聞いてないんだ?聞く気がないのか?それとも聞いててあえてそうしてるのか?

 

「だから、俺はサッカーはもうできないって…」

 

「軽いパスくらいなら出来るんじゃないの?」

 

  ニカッと少女は微笑む。その笑顔は夕焼けに照らされて一層眩しい。

 その笑顔に逆らえる気はしなかった。

 

「わかったよ……」

 

「じゃあ、明日ボール持ってきてね!」

 

  しかも、明日からやんのかよ。行動力のあるお方で。折角、こっちがあんまり考えたくない事を話したっていうのにバカバカしくなってきたわ。

 

 

 だが、これが彼女の魅力なのかもしれない。

 

 ――――――――――

 

  俺のお気に入りの防波堤近くの砂浜にて。

 

「むー……うまくボールが蹴れない……」

 

  昨日唐突にパスサッカーをしようと言い出した少女。

  その本人は今、うまくボール俺の足元まで届かない事がご不満なようだ。

 膝を抱え込み頬をふくらませてブスくれている姿がその証拠だ。

 

  素人にいきなり足元に綺麗にパス出されてたまるかよ。

 パスを出すといっても、単純に蹴ればいいわけじゃない。

 軸足の位置、膝の落とし方、蹴る足の力の入れ方、当てる位置、体の重心、上半身は起こす、言い出したらキリがない。これらは実際に経験を積んでから得るものだから。

  ましてや、ここは砂浜だ。ボールの力は地面に吸収されてしまう。ならばただのパスでは駄目。では、どうするか?普通のバスより強く出すしかない。だが、普通のパスを出せないとその先は難しい。

 であれば、基礎をしっかりしなければ。

 

「ボールを蹴る時、軸足をもう少しボールから離しみろ。じゃないと蹴る足の可動域が狭まって力も入らない」

 

  ボールを蹴る上で一番と言っても過言ではないほどに肝になってくるのは軸足。近すぎず遠すぎずの距離に持ってくるのがポイントだ。

 

「なるほど……よし!もう少しやるよ!」

 

  俺が少し離れたところまで来ると、それを合図に少女はボールを蹴り出す。 さっきまで俺の足元にすら来なかったボールが俺の足元にきちんと渡ってきた。

  それには俺も驚いた。きっと彼女自身運動神経は良いのだろう。たかだか少しアドバイスしただけでこれほど変わるとは。

  俺もボールを右足で蹴り出し彼女の元へと送る。

 

  他愛もない話をしながらただ、ボールを蹴り合いパスをするだけの事をひたすら二人で繰り返す。

 それだけなのに何故か心地いい。

 

 

 

 

 

 

 

 心地の良い時間はあっという間に過ぎていき、気づけば夕日もほぼ姿を隠す刻になっていた。

 

「はー!楽しかった。また明日もやろうね」

 

「どうせ断ったって無理やりやらせんだろ?」

 

「おっ。わかってきてるじゃん」

 

 ケラケラと笑う少女。それに釣られて俺も笑をこぼす。

 

「さて、そろそろ帰らないと…」

 

「あいよ。気をつけて帰れよ」

 

「じゃあね!バイバイ」

 

  別れの言葉を告げると姿が見えなくなるまで少女は手を振り続けた。

 

 ――――――――――

 

  砂浜でたった二人だけのサッカーをするようになってから数日後。

 数日も経てば少女もだいぶコツを掴んでき、綺麗なパスを出せるまでに至った。

 

「いやー、やっぱ難しいねー」

 

  そう言いながら当たり前のように俺の隣に座る少女。

 

「筋はいい方みたいだけどな」

 

「そう?なんか照れちゃうな…えへへ」

 

  ここ最近、毎日彼女と会っているからか彼女の事をだいぶわかってきた。

 同い歳であること。

 自分の身体能力が非凡であることに本気で気づいてないこと。

 

 だけど、分からないことが一つだけ。

 

 

 何故、俺に構うのか?

 

 それだけがわからなかった。

 

「なぁ、アンタは何で俺に構うんだ?」

 

「唐突に変な事聞くね。んー…なんかあったかもしれない私みたいだから…かな?」

 

「 あったかもしれない、私?」

 

  俺にはその言葉の意味がわからない。その真相は彼女の中にあるから。

 

「そ。私もね、一時期はある事に夢中だった。努力もした………けど、上手くいかなくて諦めちゃった。だから君と同じなんだよ」

 

  つまりは、彼女もまた夢に挫折した一人だ。

 

 ――――――――――

 

 

  スクールアイドル。その言葉は何度か俺も耳にしたことはある。

 芸能プロダクションを介さず一般高校の生徒を集めて結成されたアイドルの事。

 所謂芸能人ではなく、ご当地アイドルのようなもの。

  だが、そのスクールアイドルという言葉をよく聞くようになったのもここ数年の話だ。

 なんでも、廃校寸前だった学校をたった9人のスクールアイドルが救ったんだとか。それはスクールアイドル界では伝説扱いされてるらしい。

 

 伝説のスクールアイドルの母校と同じように、少子化の影響で生徒数が年度右肩下がりの学校があるのも事実。

 それは、浦の星女学院も同じらしい。これ以上生徒数が増えなければ廃校もやむ得ない。

 

 だから、自分の大好きな学校を守るために彼女もまたスクールアイドルになり、廃校阻止を目指していたんだと。

 

  幼い頃からの知り合い3人と共に立ち上がり、努力した。

 その努力を嘲笑うかのように悲劇は起きた。

 大会のさなか、メンバーの1人が足首を怪我するという事態が発生。

 その1人にこれ以上の負担をかけてしまえば、再起不能になるかもしれないと悟った彼女は敢えてチームを解散へと導いたという。

 

「現実って無慈悲だよね」

 

  彼女の言いたいことはわかる。努力を続けたとしても必ず報われるとは限らない。

  俺や少女のように途中で挫折を味わう事もある。

 

「今…私の幼馴染が2年前の私達と同じようにスクールアイドルになって学校を救おうとしてるんだ」

 

 そして、彼女もまたその幼馴染から力を貸してほしいと何度も頼み込まれているらしい。が、一度味わった挫折から立ち直るのはそう簡単なことではない。

 

 彼女は『救いたい』という夢と、『また同じ事になるかもしれない』という恐怖の間で葛藤しているのだ。

 

 ただ、挫折してその後の答えを持ち合わせない俺に言えるのは

 

「アンタのやりたいようにやればいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

  聞く側によってはいい加減で適当な返しにしか聞こえないかもしれない。けど、彼女が今後どうするのかは俺が決める訳でもない。それは他でもない彼女自身なのだから。

 

「なんか…君がそんなこと言うなんて意外だね」

 

「そうか?」

 

 正直に思う事を言っただけなんだけどな。

 

「私のやりたいようにか…………だったら、私は学校を守りたい……かな」

 

 それは、偽りのない少女の真っ直ぐな想い。

 なら、俺に出来るのはその彼女の想いを密かに応援することだけ。

 

「俺が言えた義理じゃないかもしれないけど、過去とか云々関係なくやってみればいいんじゃないか?」

 

「そうだね…………けど、私はあの場所には戻れない」

 

 やりたいなら、やればいい。のに戻れないってなんだ。

 

「なんでだ?」

 

「怪我した子は私の事を逃げたと思ってる。そう思われてもおかしくないことを私はした」

 

 彼女は、怪我をしたメンバーの可能性ある未来を潰したくないがために、偽りの挫折を演じた。

 

 果たしてそんな自分をそのメンバーが許してくれるかどうか。

 

「メンバーを思って、グループを解散。けど、そのメンバーはスクールアイドルを続けたかったが、解散になってしまった為にアンタを逃げたんだと思い込んでると?」

 

「うん……」

 

 俺の意見は言えても、彼女らの関係を変える力は俺にはない。

 

「それはアンタがその人と正面から本音でぶつかるしかないと俺は思う」

 

 

「だよね。多分、ここら辺で踏ん切りつけて向き合わないといけないよね」

 

「そういうこった」

 

 

「なんか、君に話したら少しだけ気持ちが楽になったかも。ありがと。」

 

 礼を言われるような事はしてないんだけどな。とりあえずありがたく受け取ろう。

 

「お礼の代わりにっていのもおかしいけど、私も君に一つだけアドバイスがあるんだけど」

 

「アドバイス?」

 

「そう。君は夢を諦めるしかなかったって言ってたけど、私思ったんだ…サッカーコーチになってみたら?」

 

「コーチ?」

 

 コーチといえば、プレイヤーに対して指導する人のことだよな。

 

「そ。君、教えるの上手だし。それに、サッカーが好きなら辞めるんじゃなくてその知識経験を活かせる方がいいじゃんない?」

 

  確かに彼女の言う通りだ。だが、教えるのが上手いというのは自分自身全く気づいてなかったし、むしろ俺一人ではその道を思いつきすらしなかった。

 

「コーチ……か。それも悪くないな」

 

 夢を追えなくなったら、夢を追わせてやる側になるのも悪くは無い。

 

「「ぷっ……く……ははは」」

 

 何故か同時に笑いが零れる。

 

「なんだか1人で難しく考えてた事って他の人の簡単な言葉で動いちゃうんだね」

 

「だな」

 

 まったくだ。俺のたった一言は彼女のたった一言は、俺たち互いの考えを景色が変わりゆくようにいとも簡単に変えてしまった。

 

「じゃあ、もっと知識付けなきゃな」

 

「私は、過去とメンバーと向き合わないと」

 

「さて、そろそろ続き始めるか」

 

 夏に差し掛かる夕日はあの日よりも確かに長く俺達を照らしてる。まだ時間はある。だから、俺達は時間の許す限りパスを出し合おう。

 

 ――――――――――

 

 

  夏は過ぎ、紅葉茂る秋。数ヶ月前と変わらずに俺と少女は時間のある時は砂浜で二人だけのサッカーをやっている。

 

「そういや、スクールアイドルの方はどうだ?」

 

  少女は2年前のメンバーと和解を経て、浦の星女学院スクールアイドル…Aqoursとして前に進み出した。

 

「うーん…ぼちぼちかな」

 

 スクールアイドルとして再出発してからも周りのメンバーに引っ張られ、悩みの種が消えそうにないらしい。

 

「君の方はどうなの?」

 

 俺はというと小学校の時に世話になったチームのコーチをやっている。んだが相手は小学生……好奇心の塊だ。人の話は聞かないし、暴れたい放題だ。全く手に負えねぇったらありゃしねぇ。が、だからこそ教えがいがある。それをわかってくれた時の嬉しさがある。

 

「大変……だけど楽しい」

 

「そっか!」

 

  彼女は満足そうに笑顔を咲かせ、まっすぐとボールを俺の足元に蹴り出す。

 

  少女には夢がある。昔と変わらない学校を守りたいという夢。

  俺にはもうあの頃の夢は追えない。だから、それに代わる、新しい夢を見つけた。

 

 夢は違えど、経験は同じ。だからこそ、俺らは笑い会えたんだ。

 ――――――――――

 

 最後に、いくつか質問したい。

 

 

『夢』とはなにか?

  眠っている間に、現実にない事象の感覚を起こすこと。

  将来実現させたいと思っている事柄。

 

  今回の質問も、後者で捉えてほしい。

『夢』とは、「国民を守る自衛官になりたい」、「祖父のように部下から慕われる人になりたい」といった人がそれぞれ持ってるであろう憧れ、理想、願いである。

 

 二つ目の質問。

『努力』とはなにか?

 人が目標を実現するために、心や身体を使って務めること。

 

『努力』とは「試験に合格するために、勉強を頑張る」、「あの人に負けない為に強くなる」といった人がそれぞれ抱くものに対して、一生懸命になること、没頭すること、足掻くことである。

 

『夢』を叶えるために努力する。

 

 それはこの社会で多くの人がやっている若しくはやってきたことだ。

 

『努力』が実って『夢』を実現させた人もいる。

 

 ならば、逆は?

 

 ここで本当に最後の質問だ。

 

 君達は、挫折をした事があるか?

 

 

 俺はある。

 

 俺にとっての『夢』は目標から呪いに変わった。

 俺にとっての『努力』は無意味な物に変わった。

 

 だが、そこから何も変わろうとしなかったら、その夢と努力は一生形を得ずして、消えゆくのだ。

 諦めるだけが答えではない。その知識は、その経験はなにかに活かせるかもしれないんだ。

 

 挫折から俺はそれを知った。

 

 

 そう、呪いは新たな目標に変えれる。

 

 だから、挫折した時は1度周りを見てほしい。新しい夢、道が見つかるかもしれない。

 1人で無理に見つけようとしなくてもいい、誰かとそれを共有してこそ見つかるものもあるのだから。

 

 怪我でサッカーを諦めた俺にすらできたんだ。

 

 その選択次第で貴方の人生は大きく変わ………っと、カッコつけてたところにボールが。

 

「何ボーッとしてるのー?」

 

「悪い悪い」

 

  俺は受け取ったボールを、力強く、まっすぐに蹴る。

 あれから数年後も俺と少女はこうやってパスサッカーを続けている。

 

 そして、今日もあの日と変わらない二人の間をボールが転がる。

 

 




《ちゃーもりさんより》
この度、企画参加させていだけたこと心より嬉しく思います。
作者自体、小説の更新が遅いとかで、参加されてる方々に比べると知名度は低い方だと思われます。

今回は果南ちゃんと鞠莉が和解する前の話として書かせていただきました。

私の前の方々の作品は充分にお楽しみいただけてると思いますが、ラスト大トリが残っておりますので最後の最後までお楽しみください!
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