ラブライブ!~合同企画短編集~【完結】   作:薮椿

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《薮椿より》
 本日は、原作『ラブライブ!』にて『ラブライブ!~みんなで奏でる物語~』を投稿している、紅葉久さんの企画小説です!


願いを言葉にするからこそ、意味がある

 

 

 それは学校が冬休みになる少し前のある話から始まった。

 μ'sとして活動して二度目のラブライブの最終予選が終わり、無事に本戦への出場が決まった年末の部室での会話だった。

 

 

「ねぇねぇ! 来年の一月って流星群が来るらしいよ!」

 

 

 μ'sの九人が練習を終えて、部室で帰るまでのひと時を過ごしていると、高坂穂乃果はそんなことを言い出した。

 サイドポニーを揺らしながら楽しそうに可愛らしい顔を笑顔に変えて、穂乃果は部室にいる全員にそう言っていた。

 穂乃果を除く八人のメンバーが彼女の話に呆気に取られた。しかし穂乃果の話を少しして理解した一人が彼女に問い掛けていた。

 

 

「えっと……確か最近ニュースでやってた流星群の話?」

 

 

 思い出すように考えながら、南ことりが穂乃果に訊く。

 穂乃果と幼い頃からのかけがえのない友人、そして幼馴染である。

 柔らかい表情が綺麗な、いつも穏やかな笑みを浮かべることりも唐突に穂乃果が突拍子もないことを言い出したことに僅かに呆れた顔を作る。

 しかしそれもいつものこと。穂乃果はそんなことりの内心も知る由もなく、彼女は楽しそうに頷いていた。

 良い意味で天真爛漫。悪い意味で自分勝手。しかしそんな人柄でも皆に愛される人間が――高坂穂乃果という人間だった。

 

 

「うん! ことりちゃんも知ってたんだ!」

「前にお母さんとテレビ見てる時にそのニュースを見てたから、確か流星群って流れ星がたくさん見えるんだよね?」

「そうらしいんだ! 穂乃果、たくさん降る流れ星なんて見たことないからどんなのか気になるの! ことりちゃんは見たことある?」

 

 

 穂乃果の興味津々な様子に、ことりは圧倒されていた。

 μ'sを結成した時のように、興味のあることに一直線に進む穂乃果に今回も振り回されると――この時、ことりは思った。

 そんな穂乃果の言葉に、ことり自身も実のところ彼女の話に興味がないわけではなかった。

 

 

「私も見たことないかな? テレビでちょっと見たくらい?」

 

 

 ことりも、穂乃果が話した流星群というモノを実際に見たことがなかった。

 流星群については聞いたことがある程度、そしてテレビなどの映像で見たことがある程度の知識しかことりは持ち合わせていない。

 

 

「流星群ですか? そういえば……そんな時期ですね」

 

 

 そんな穂乃果とことりの会話に、また一人加わった。

 お淑やかな、少し古風な雰囲気を感じる少女――園田海未は窓から見える外の景色を見ながらしみじみと呟いた。

 

 

「海未ちゃん、流星群見たことあるの⁉︎」

 

 

 そんな海未に、穂乃果が目を輝かせる。

 しかし海未は穂乃果に対して、小さく首を横に振っていた。

 

 

「見たことないですよ。私も知識で知っている程度です。この時期になると大きな流星群が二つあるのは知っている程度で……」

「ほんとうっ⁉︎」

 

 

 海未の話を遮って、穂乃果が驚いた声を出す。

 話を遮られて驚く海未だったが、いつものことと思うと少し呆れた笑みを浮かべていた。

 

 

「確か今月の上旬にふたご座流星群というのがあったらしいです」

「がーん……もう終わってるよぉ」

 

 

 絶望感を漂わせた穂乃果が部室のテーブルに力なく倒れこむ。

 今の日付は十二月の下旬。つまり世間で騒がれたふたご座流星群は既に終わっていた。

 

 

「あとひとつが来年の一月にあるらしいですよ」

「まだあるの⁉︎」

「えぇ、確か名前は……」

 

 

 そう言って、海未が考える素振りを見せる。

 しかし海未は考える様子を見せるだけで一向に口を開こうとしない。

 ふたご座流星群というのは世間では有名なのだが、この時期にあるもうひとつの流星群の名前が海未は思い出せないでいた。

 先程から穂乃果が言っていた流星群は、その海未が思い出せない名前の流星群だと海未は思った。

 しかし海未は、その名前が思い出せない。困ったように眉を少し寄せると、海未は申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「申し訳ありません。忘れてしまいました」

「えぇぇ! そんなぁ!」

 

 

 穂乃果が残念そうに口を尖らせる。

 しかし海未も思い出せない以上は答えようがない。

 残念そうにしている穂乃果に、ことりと海未が顔を合わせて苦笑いする。

 携帯電話で調べてみようか、海未とことりがそう思うと――今まで椅子に座っていた一人が口を開いていた。

 

 

「――しぶんぎ座流星群よ」

 

 

 穂乃果と海未、ことりが声の方を向いた。同じように話を聞いていた他のメンバー達も、同じように。

 その流星群の名前を言った少女は、肩まである赤みのある髪の毛先を指で退屈そうに触りながら退屈そうに言っていた。

 

 

「真姫ちゃん、知ってるの⁉︎」

「知ってるも何も……私の趣味よ」

 

 

 視線を逸らしながら、言いづらそうに西木野真姫が穂乃果に答える。

 綺麗な顔立ちに、手入れの届いた肩までの髪。不思議と気の強そうな印象を受ける少女。

 

 そんな真姫は、内心思わず穂乃果に答えてしまったことを少しだけ後悔していた。

 

 昔から真姫は天体観測が好きだった。空に輝く綺麗な星や惑星を見るのは、いつから好きになったのかを忘れるくらいに昔から好きだと答えられる。

 それと同じように、その綺麗な光景を写真に残るのも好きになっていた。

 天体観測と写真。数少ない真姫が持つ趣味だった。

 

 

「真姫ちゃんって天体観測が趣味なん?」

 

 

 そんな真姫に興味を持って、一人の少女が問い掛けた。

 二つに結ったおさげの髪。おっとりとした優しい顔立ちの少女――東條希が部室の端に座る真姫に訊く。

 真姫は予想通りと思いながら、先程の後悔の念を更に強くした。

 こういう話には自分を含めて九人もいるのだから、必ず興味を持つ人が一人はいるに決まっている。

 ただでさえμ'sには騒がしい人が多い。こと新しいことには目がない人達が多いのだ。

 真姫は訊いてきた希を横目に、渋々答えた。

 

 

「えぇ、そうよ。ふたご座流星群も見に行ったわ」

「真姫ちゃんも意外とロマンチックやね〜」

 

 

 にひひと笑みを見せる希に、真姫は少しムッと顔を歪ませた。

 からかわれているのは嫌でもわかる。特に希はそう言ったことを好んでする人間なのは、短い付き合いだとしても良い意味でも悪い意味でも分からされた。

 

 

「別に希には関係ないでしょ。私にだって趣味の一つくらいあるわよ」

「そんな怒らんといてよ〜」

 

 

 真姫の反応から、希も彼女が天体観測を心から好きなことと理解したのだろう。

 希は少し拗ねた真姫に近づくと、目の前で両手を合わせていた。

 

 

「真姫ちゃん、許してな?」

「別に……怒ってるわけじゃないわよ」

 

 

 謝罪する希をチラリと見て、真姫が居心地が悪そうに毛先を弄る。

 そして真姫は照れ臭そうに、希から目を逸らしながら答えた。

 

 

「綺麗なモノを見るの、好きなのよ」

 

 

 真姫がここまで素直に答えるのは、希には随分と珍しいと感じた。

 いつもは素直にならずに遠回しな言い方をすることが多い真姫がここまで素直に答えるのは、希にはかなり意外だった。

 つまり真姫が本当に星を見るのが好きなんだと理解するのに、希はそこまで時間は掛からなかった。

 

 

「流星群ってそんなに綺麗なん?」

 

 

 そんな真姫を見て、希が思わずそう訊いていた。

 希自身も、流星群は見たことがない。希もことりと同じようにテレビの映像などでしか流星群は見たことがない。

 天体観測、というより星について詳しい希も流れ星自体を見たことはあるが流星群を見たことはほとんどない。

 だからこそ、真姫がこんな反応をするモノに希も次第に興味を持っていた。

 真姫が希の顔を見る。希の顔は素直に気になると言いたげな表情をしていた。

 コトッと小首を傾ける希に、真姫は素直に答えていた。

 

 

「……綺麗よ。すごく、こんな綺麗なモノがあるんだって思えるくらい」

 

 

 その言葉を口にして、真姫は小さく微笑んだ。

 真姫を除く八人のμ'sメンバーはその顔を見た途端、思わず見惚れていた。

 

 綺麗な笑みだった。

 

 楽しそうに笑う表情などではなく、心から好きと分かるような柔らかい笑み。

 真姫のそんな表情を見たことがほとんどなかった全員は、そんな彼女の表情に心を惹かれた。

 あの真姫に、そこまで言わせた流星群というモノに、全員が興味を持つのはある意味必然とも言えた。

 

 

「真姫ちゃんがそんなに好きなら凛も気になるにゃー!」

 

 

 そしてその気持ちをいの一番に伝えたのは、ショートカットの少女だった。

 活発そうな、元気な姿が似合う少女――星空凛は、真姫の膝元に行くと彼女を見上げて訊いていた。

 

 

「真姫ちゃん! 真姫ちゃん! 凛も見て見たい! 流星群!」

「えっ……?」

 

 

 流石の真姫も、凛から言われるとは思ってなかった。

 凛は芸術を見たりするタイプの人間ではない。動いたりすることが好きなアウトドアな人間だ。

 家で読書をするよりも、外で走り回るのが好きなタイプの人間。それが真姫が思う凛の特徴だ。

 そんな凛が自分から綺麗なモノを見てみたいと言い出したことに、真姫は素直に驚いた。

 

 

「凛ちゃん、ずるい! ウチも見てみたい!」

「穂乃果も忘れないでよー!」

 

 

 そして希と穂乃果が同時に真姫に詰め寄る。

 凛と希、穂乃果の三人に詰め寄られながら、真姫は反応に困りながら眉を寄せた。

 このままでは埒があかない。真姫は目の前の三人が次第に鬱陶しいと思い、突き放そうとする。

 

 

「三人とも、真姫が困ってるわよ。とりあえず離れなさい」

 

 

 しかしそこで、三人を窘める声が聞こえた。

 金色の髪を一つに結ったポニーテイル、日本人離れした綺麗な容姿から外国人の血が入った顔立ちの少女――絢瀬絵里は真姫に群がる三人に呆れていた。

 

 

「流星群の話は良いけど、それは真姫から離れて聞きなさい」

「えぇ〜! だって穂乃果気になるんだもん!」

 

 

 むくれる穂乃果に、絵里は頭を抱えてため息を吐きそうになる。

 しかしそんな穂乃果の気持ちは、少しだけ絵里も理解できる。

 だが穂乃果と同様に凛と希も同じようにむくれている姿に、この三人が全員歳下に絵里は見えそうになった。

 実際のところ、希以外は歳下なのだが……二年生の穂乃果も一年生の凛と一緒に扱われるのはいかがなものかと思う。三年生の希も大概なのだが。

 μ'sの中でもダントツで騒がしい三人のメンバーに、絵里は思わず肩を落とした。

 

 

「でも三人が興味持っちゃうのもわかるな。私も見たことないから……」

「かよちんもそう思うでしょー!」

 

 

 肩を落とす絵里の隣で、凛に“かよちん”と呼ばれた少女――小泉花陽は呟くように言った。

 凛は花陽の話に大きく頷いて、真姫の方を向いた。

 

 

「真姫ちゃん! そのなんとか流星群って一月のいつ見れるの⁉︎」

「あ! それ穂乃果が訊こうとしてたのに!」

「あなた達は私の話を聞いてなかったのかしら……?」

 

 

 凛と穂乃果が真姫にまた群がって行く姿に、絵里は深く溜息を吐いた。

 自分に群がる二人に、真姫は心から先程の口から出た言葉を後悔していた。

 真姫が顔を苛立ちで少し歪ませて二人の肩を掴む。そして真姫はそのまま二人を引き剥がすと、

 

 

「二人とも落ち着いて! ちゃんと話すわよ!」

 

 

 そう二人に言い放っていた。

 ムッとした顔で真姫が凛の方を向く。

 

 

「凛! しぶんき座流星群は来年の年始に見られるわよ! しぶんき座流星群は三大流星群のひとつで年の一番最初に始まる流星群!」

 

 

 続いて、真姫が穂乃果の方を向いた。

 

 

「穂乃果! 見たいなら徹夜よ! 今回の流星群は深夜に始まるの! あなた起きてられるの⁉︎」

 

 

 怒涛に言い放つ真姫に、凛と穂乃果が呆気に取られるが二人が互いに顔を合わせると揃って頷いていた。

 

 

「穂乃果頑張るもん! 流星群見る!」

「凛も真姫ちゃんが綺麗って言ってた流星群見るにゃ!」

 

 

 揃って答えた二人に、真姫が諦める気がないと察して頭を抱える。

 毎年、真姫は一人で天体観測をしていた。来年も、年始に一人で家のベランダで見ていようと思っていたくらいだ。

 しかし話がここまで進んだ以上、おそらく真姫が思う通りに話が進むと察してしまった。

 

 

「決まりやね。今年の年始は、みんなで流星群見に行こっか?」

 

 

 真姫と凛、穂乃果のやり取りを見て希は満足そうに頷いていた。

 真姫を除く八人が希の発言に満更でもないような反応を見せる。

 その光景を見て、真姫は肩を落とした。

 

 来年、初めて見る流星群は一人では見れないらしい。

 

 来年の密かな楽しみを奪われたような気がして、真姫は穂乃果に少しだけムッと顔を顰める。

 それくらい許されても良いだろう。そんなことを思いながら、騒いでいる穂乃果に口を尖らせていた。

 

 

「たまには、そういうのもええと思うよ。真姫ちゃん?」

 

 

 隣で希がそんなことを囁く。

 真姫はそんな希の言っている意味が、よく分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、年を越していた。

 今日の日付は、一月四日。正月の三が日が終わり、年が明けてから既に四日目になっていた。

 と言っても三日から四日に日付が変わっただけで、今の時計の針は四日の深夜三時を指していた。

 息を吐くと、白い息が出てくる。いくら自分達が住む地域に雪が積もらないと言っても、気温が低いことには変わりはなかった。

 厚着をして更にコートとマフラーを着ていても、顔に直に感じる寒さは確かに今は冬なんだと感じるのには十分な冷感だと感じられた。

 

 

「うぅ〜寒いにゃ〜!」

「凛ちゃん、カイロは貼ってる?」

「貼ってるけど全然足りないにゃ〜!」

 

 

 視界の隅で騒いでいる凛を宥める花陽を眺めながら、持参していた折りたたみの椅子に座っていた真姫は首に巻いているマフラーの中に顔を半分隠した。

 マフラーから感じる温もりにずっと包まれていたいと思うこの季節が心底寒いと思いながらも、真姫は思いの外嫌いにはなれなかった。

 

 結局のところ、μ'sメンバー全員で流星群を見るという名目の天体観測会はしっかりと実行されてしまった。

 集合場所は真姫達が今いる国立音ノ木坂学院の屋上。深夜の学校に立ち入る為に、影でことりが活躍していた。

 

 本来、冬休み中に深夜の学校に生徒が立ち入るなど不可能だろう。

 本当なら真姫の家の庭で行う予定だったのだが、それは絵里と海未から却下されてしまった。

 静かに見るならまだしも、μ'sメンバーには必ずと言っていいほど騒ぐメンバーがいることを察した二人の真姫への配慮でもあった。

 真姫の家は住宅街にある。深夜の寝静まった時間に高校生が騒いでいるともなれば、近所迷惑でしかない。

 流石の真姫も絵里と海未にそう言われて渋々納得した。しかしそれなら当日の深夜に天体観測をする場所はどうするのかという話になる。

 深夜に公園に集まるのは、勿論却下された。未成年である女子高校生九人が深夜に集まって良い場所ではない。

 μ'sメンバー全員の家も住宅街やマンションなどから真姫の家同様に選択肢に入らない。真姫の別荘などの意見もあったが、三年生組のアルバイトの関係で彼女の別荘に行くことができない。

 そんな話し合いで九人が考えられる限りの場所を探してみたが、結局は天体観測ができる場所が見つからずにいた。

 それこそ九人で見る天体観測という計画が頓挫するとすら思われていたくらいだ。

 

 しかしその後、ことりがあることをしていた。

 

 ことりはあろうことか自身の親に“そのこと”を去年の内に相談していたらしい。周知の事実だが、ことりの親は真姫達が通う音ノ木坂学院の学園長であった。

 天体観測で深夜に流星群を見る。そのことをことりが親に相談すると、割とすぐに快諾されたらしい。

 保護者同伴もなく、生徒だけで深夜の学校を使用することに事前申請書なるものを提出することを強いられたが……たったの一枚の紙でそれが快諾されるならμ'sのメンバーにとっては安いものだろう。

 

 そうしてμ's全員は、今日に行われるしぶんき座流星群を見るための天体観測に、運良く学校の屋上を使えることになったのだ。

 名目上の保護者として三年の絵里と希が名前を挙げ、こうして九人のメンバー全員が一同に集まれる場が出来たわけである。何故、矢澤にこだけ保護者として名前が無かったのかは、真姫には知る由もない。むしろある意味真姫自身も知りたくなかった。

 

 

「ふぁ……眠い」

「穂乃果ちゃん、さっきまで海未ちゃんの家で寝てたのに……」

「穂乃果は寝過ぎなんです。いつまで経っても起きないんですから」

「えへへ……だってお布団が気持ちよくて」

 

 

 欠伸をする穂乃果に、ことりと海未が少し呆れている。

 真姫はそんな穂乃果を見て、本当によくこんな時間に全員が集まれたと思った。

 穂乃果辺りなら、寝ていて来ない。なんてことも十分に予想できたのだが。

 

 しぶんき座流星群の天体観測。その当日の予定は、三日の日付を跨いだ四日の深夜二時に一度集合して、その後に全員で学校に向かう流れだった。

 

 三年である絵里と希、にこの三人は三が日の神社でのバイトを終えて、各人一度自宅で仮眠を取ってから集合。

 一年生の花陽と凛は、花陽の家で仮眠という名のお泊まり会をしてから集合している。

 二年生は寝坊に定評がある穂乃果を心配して、海未の家でことりを交えて三人で仮眠を取って集合していた。

 

 真姫に関しては、深夜の天体観測は過去に何度もしていることだったので夕方の時点から仮眠を取り、十分に朝まで起きていられるようにしていた。

 

 この分なら、朝まで起きていても何も問題ない。どうせ自宅に帰ったら思う存分に真姫は寝るつもりでいる。

 

 たった一年に一度しか見られないしぶんき座流星群。そんな機会を寝ていて見られなかったなど真姫には考えられなかった。

 毎年違った綺麗な星空を見たいと思える自分が誇らしいと、真姫は密かに胸を張りたいくらいだった。

 

 

「どうして私もこんなところに……」

「なに? にこ、ノリ気じゃなかったの?」

「別に興味がないわけじゃないわよ。わざわざ集まって見る必要もないんじゃない?」

「にこっち、そんなこと言ってぇ〜! そんなにこっちにはこうしてやる〜!」

「ひゃぁぁぁ⁉︎ 冷たいっ! なに私の首をその冷え切った手で触るのよ⁉︎」

「にこっちが悪いんやもーん!」

「なにがよっ⁉︎」

 

 

 にこをからかって遊んでいる希と絵里を見て、真姫は一年から三年生まで歳が離れてるといえど、ああいう風に騒ぐ姿はあまり変わらないなと思った。

 真姫はそんなことを思いながらカバンからポットを取り出し、保温していたココアをカップに注いだ。

 温かいと主張している湯気を見つめながら、真姫はゆっくりとココアを啜る。

 そして星空を見ながら、また一口啜る。少し肌寒いと感じながら飲むココアはやっぱり良い。この時期にしかできないことだ。

 本当なら一人でのんびりと楽しんでいたはずなのだが、本当に今日は随分と騒がしい。

 

 

「穂乃果、寒くないですか?」

「ううん! カイロたくさん貼ってるから大丈夫!」

「温かいしょうが湯を持ってきていますが、飲みますか? 温まりますよ?」

「ほんと⁉︎ 飲む飲む! 穂乃果もお茶持ってきてるんだ! 海未ちゃん、交換しよ!」

「ことりも紅茶持ってきたんだ〜!」

 

 

 仲良く持参した飲み物を交換している二年生達。

 一年から三年生まで、それぞれが楽しそうに過ごしていた。

 去年の今頃の自分なら、まさか今こんなことをするようになってるとは思ってもみないだろう。

 思えば、一人でいることが多かった。別に友達が少ないというわけではなかった気がするが、特別仲が良い友達がいたかと訊かれれば……真姫には正直微妙だった。

 音楽――ピアノを弾いていれば退屈ではなかったし、将来医者になるために勉学に勤しんでいたら、いつのまにか今の自分になっていた。それだけの話だ。

 だからこういう全員がいる場で、自分がどういう風に立ち回れば良いのか真姫にはよく分からない。むしろ一人でいる方が気楽だと思うくらいだ。

 しかし去年、μ'sに参加した時から一緒にいる友達の凛や花陽と過ごしている内に、たまにだが少しだけ一人でいるのが寂しいと思える時が真姫には気づけばあるようになった。

 

 少しずつ、自分は変わっているのだろうか?

 

 そんな疑問が、稀に真姫は思う時がある。

 ふと空を見上げれば、街並みの光が消えた空で綺麗に輝く星達の景色が広がる。

 同じ星空がいつもあるわけではない。今も見ている空で、星は変わっている。

 

 それと同じように、自分も変わっているのだろうか?

 

 星空を見るたびに、そんなことを真姫はぼんやりと考えるようになった。

 こんなことを考えるようになっただけで、十分に昔より変わっていると思うのが普通かもしれないが。

 

 

「真姫ちゃん。なにを考えてたん?」

 

 

 そんな時、いつの間にか希が真姫の隣に立っていた。

 空を見上げていた真姫が、少しだけ首を動かした。

 

 

「別に、なんでもないわよ」

 

 

 ぽつりと、素っ気なく真姫が答える。そして彼女はまた空に視線を向けた。

 希は「ふーん」と相槌を打つと、真姫と同じように空を見上げる。

 真姫は唐突に自分の隣に来た希に、思わず訊いていた。

 

 

「……絵里達のところに行かなくていいの?」

「別にええよ。二人とも穂乃果ちゃん達のところにいるみたいだから」

 

 

 空を見上げていた真姫が希にそう言われると、そっと視線だけ動かした。

 確かに穂乃果達三人がいる場所で、絵里とにこが五人で楽しそうに話してあるのが見てた。

 

 

「希も行ってくれば良いんじゃない?」

「ええよ。ウチは別に」

「なによ? なんでわざわざ私のところに来るわけ?」

「なんだか……少し寂しそうに見えたんよ。今日の真姫ちゃん見てると」

 

 

 突然希に言われた言葉に、真姫は少し目を大きくした。

 この人は本当によく人のことを見ている。それを改めて真姫は実感した。

 

 

「そんなわけないでしょ。希の勘もたまには外れるわね」

 

 

 しかし真姫は素直に頷かなかった。

 人からよく言われることが多くなったことだが、素直になれない真姫の分かりやすい返事だった。

 希はそんな真姫が小馬鹿にしたような顔を見て、少し呆れたような、困った顔を作っていた。

 

 

「相変わらず、素直になれないところは変わらんね……面倒な人やな」

「……希に言われたくないわよ。あなたもでしょ?」

 

 

 真姫の返しに、希が「そうやね〜」と苦笑いした。

 ここ最近知ったことだが、希は面倒な人だ。

 少し前にμ'sでラブソングを題材に新曲を作ろうとμ'sメンバーに促して、自分の本当の気持ちを隠していたことがある。

 それをキッカケに、真姫は東條希という人間は割と面倒な人だと知った。

 以前に希から面倒な人と言われたことを思い出して、真姫はふてくされたように鼻を小さく鳴らした。

 

 

「ウチな。今日、こうやってみんなと集まれて良かったと思ってるんよ」

 

 

 また面倒なことを言い出したのかと真姫が希を一瞥する。文句のひとつでも返してやろうかと。

 しかし希の顔を見て、真姫は少し反応に困った。

 真姫を見る希の顔がいつも見るおちゃらけた様子はなく、そこには時折見せる大人びた表情があったからだ。

 

 

「……別にいつでも集まれるじゃない」

 

 

 そんな希の表情に、真姫は咄嗟に答えていた。

 今日が最後、そんなわけがない。離れるわけでもなく、μ'sという仲間として共にいるのだから、集まろうと思えばいつでも会える。

 真姫の答えに、希は少し悲しそうな顔を作った。そして「そうだけど……」と言い、しばらく間を開けてから希は口を開いた。

 

 

「真姫ちゃん。μ'sとして集まれるのは、が抜けとるで」

「あっ……」

 

 

 その言葉を聞いて、真姫は希の表情の意味に気づいてしまった。いや、気づいていたが気づかないようにしていた方が正しいかもしれない。

 目の前にいる希は三年生。つまり、今年の三月には卒業してしまう。

 スクールアイドルの全国大会の“ラブライブ”を終えたら、その先は卒業が待っている。

 今からあと二ヶ月もない。そんな僅かな時間しか、真姫は三年生と一緒にいることができない。

 

 

「だから、こうやってみんなと遊べてウチは嬉しいんよ」

 

 

 それをよく知っているからこそ、希は今こうして部活関係なく友達として、そして“μ's”として集まれている時間が、希には貴重な時間なんだと真姫は理解してしまった。

 思えば、μ'sが九人になってから文字通り“遊ぶ”ことをした覚えはほとんどない。ほぼ毎日を練習に費やしていたので、休みの日に集まって遊びに行くなんてことは数えたくらいしかないだろう。

 そんなこと、いくらでもできる。しかしμ'sとして集まり、遊ぶことができる期間は……今年の三月までしかなかった。

 

 μ'sは、三年生が卒業すると同時に解散する。つまりもう残された時間は本当に少ない。

 

 しかしラブライブの本戦は三月なのだから、それまでは練習に明け暮れるだろう。

 だからμ'sとして“遊ぶ”という名目で集まることは、おそらくこれからほぼない。

 

 

「こういうことをウチが言うのはダメやと思うけど、みんなと練習関係なく集まってるとウチは思うんよ」

「……なにをよ?」

「時間っていうのは、有限なんだって。いつまでもこの時間が続くわけじゃないから、終わってから色々気付くんだろうなって」

 

 

 そして希は真姫から視線を外すと、空を見上げた。

 

 

「あの時、あの話をしておけば良かったなとか。話したり、してみたいことが沢山あるはずだけど……今は分からないんだって、だって今が楽しいから後悔してない。だから終わった後に後悔するんだって」

 

 

 星空を見上げ話す希に、真姫は返す言葉が見つからなかった。

 それはきっと、自分もなのだろうと真姫も思ってしまったからだ。

 こうやって仲間と一緒にいる時間が楽しいと思って、きっと終わった後、真姫自身も後悔する時が来るかもしれないと。

 やりたいこと、話したいこと、あれこれと言えばキリがない。そしてそれに気づかないまま、μ'sを終えた後に――気付く。

 三年生が卒業後にすれば良いだけの話だが、μ'sとして出来るのは今年の三月が最後。だから終わってからでは、遅い。

 μ'sでできなかったこと。それを後悔して、ただ胸の中で握りしめて、しわくちゃにしてしまい込む。

 これからも、この九人の関係は続く。だけど、μ'sとしての関係は今だけしかない。

 だから今に後悔はない。だからこそ、終わってから後悔するんだと。

 

 

 

「あっ! 流れ星にゃ!」

 

 

 

 希の話を聞いていると、ふと凛が大きな声をあげていた。

 咄嗟に真姫が空を見上げると、そこにはもう流れ星は見えなかった。

 

 

「えっ! どこどこ⁉︎ 穂乃果は見えなかったよ⁉︎」

「私は見えましたよ?」

「海未ちゃん見えたの⁉︎」

「はい、ちょうど空を見てたら見えました」

「えぇぇぇ‼︎ 海未ちゃんズルい! 穂乃果だってにこちゃんとにこにーしてなかったら……!」

「穂乃果! にこの所為にしてもらったら困るんだけど!」

「にこちゃんが夜空にこにーとか変なこと言うから!」

 

 

 穂乃果とにこが口論している間に、真姫が夜空を眺めていると――またひとつ、星が流れていた。

 

 

「また来たわよ。流れ星」

「えぇぇ⁉︎ 絵里ちゃん、どこどこ⁉︎」

「……また見逃したわね、穂乃果」

「そんなぁ〜、まだ穂乃果ひとつも見れてないぃ……」

 

 

 肩を落としている穂乃果だったが、絵里は苦笑いして空を見上げているとそこに見えた光景を見た瞬間――穂乃果の肩をそっと掴んでいた。

 

 

「穂乃果、空を見て」

「えっ? なに……?」

 

 

 絵里に促されて、穂乃果が空を見上げる。

 そして穂乃果の目に映った光景に、彼女は息を呑んだ。

 

 

「始まったみたいやね」

「えぇ……いつ見ても、この光景は綺麗だわ」

 

 

 希の言葉に、真姫は空を見上げて頷いた。

 星々が輝く夜天の空に、ひとつの光が流れる。

 それに続くようにひとつ、またひとつと光が流れていく。

 光という星達が、夜空を駆け抜けていくその光景はまさしく――流星群の始まりだった。

 しぶんき座流星群が始まる。流れ星が駆け抜ける光景に、真姫はただ見惚れていた。

 

 

「トップアイドルになれますように! トップアイドルになれますように! トップアイドルになれますように!」

「ラーメンがたくさん食べれますように! ラーメンがたくさん食べれますように! ラーメンがたくさん食べれますように!」

「体重が減りますように! 体重が減りますように! 体重が減りますように!」

 

「あの……三人とも、なにをしてるんです?」

 

 

 そんな流星群が降り注ぐ最中、にこと凛、穂乃果が両手を合わせて三度願い事を早口で言っている姿に、海未は顔を思わず顰めていた。

 

 

「なにって願い事に決まってるじゃない!」

「いや、それはわかりますが……」

 

 

 にこの勢いに海未が苦笑いする。

 そしてにこは拳を強く握りしめると、海未に言い放っていた。

 

 

「流れ星が流れるまでに願い事を三回言うと願いが叶うのよ! これだけたくさん流れ星があればひとつくらい叶えてくれるわ!」

 

 

 そう言って、にこはまた両手を合わせて何度も願い事を早口で呟きだした。

 海未はにこを可哀想な人を見る目で見つめると、そっとにこから視線を外すことした。

 

 

「なにやってるんだか、あの三人」

「別にええやん。流れ星に願うのは自由やん?」

「それならラブライブ優勝くらいにしておけばいいじゃない」

「それは神社の神様に願ったから大丈夫やと思うんよ」

 

 

 くすくすと笑う希に、真姫が呆れた笑みを浮かべる。

 希はそんな真姫に視線を向けると、面白そうに笑みを作った。

 

 

「真姫ちゃんもなにか願い事、言ってみたら? 叶うかもしれんよ?」

「そんなわけないでしょ」

 

 

 そんな無粋なことを真姫はする気はなかった。

 この綺麗な光景を、ずっと見ていたい。それだけで十分だった。

 人の手で作られたわけじゃない。空の神秘で作られたこの綺麗な空を目に焼き付けるだけで、真姫はそれだけで良かった。

 

 

「願い事っていうのは、願うだけで十分なんよ」

 

 

 流星を眺めていると、希の声が聞こえた。

 横目で真姫が希を見る。彼女も真姫と同じようにずっと空を見上げていた。

 

 

「星に願うと、いつか叶うって言うけど……そういうのは言葉にするからこそ、意味があると思うんよ」

 

 

 随分とロマンチストなことを言ったなと真姫は思った。

 そう言われて、真姫は別に悪くない考えだと思ってしまった。

 

 

「本当に綺麗だね。海未ちゃん」

「えぇ、ことりの言う通りです。テレビで見るよりも、ずっと綺麗です」

「穂乃果ちゃんも……って、まだ願い事言ってる」

「放っておきなさい。私達は私達で見ていましょう。どうせ飽きたら穂乃果もこっちに来ますよ」

 

 

 まだ願い事を早口で言っている三人に、海未とことりが呆れていた。

 

 

「本当に綺麗ね。おばあさまのところで見た星空と同じくらい綺麗だわ」

「あれ? 絵里ちゃんも流星群見たことなかったんじゃ……?」

「私も流星群は見たことないわよ。昔、おばあさまのところで夜空を一緒に見たことがあるの。その光景がとても素敵だったから、それと同じくらい今見てる空が綺麗だわ」

「そんなに綺麗なら私も見て見たいな、絵里ちゃんがお婆ちゃんと見た星空」

「ふふっ、いつか花陽に見せられる日が来ると良いわね」

 

 

 絵里と花陽が空を見上げて楽しそうに話していた。

 それぞれが楽しそうにしている声を聴きながら、真姫はマフラーで口元を隠した。

 寒いからではなく、不思議と……勝手に口元が綻んでいた。

 それに気付いて、真姫は咄嗟にマフラーで隠してしまった。

 

 

「一人で見るよりみんなで見るのも、たまには悪くないでしょ?」

 

 

 希の諭すような言葉に、真姫はあえて反応しないことにした。

 希からすれば、それが答えとも言える反応なのは真姫には知る由もない。

 口を綻ばせた真姫を見て、希は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「真姫ちゃん! 真姫ちゃん! 凛と一緒に流星群見よ!」

「って凛⁉︎ いつの間にこっち来たのよ⁉︎」

 

 

 そうしていつの間にか、凛がそう言って真姫の目の前に来ていた。

 凛は真姫の返事に不思議そうに小首を傾げたが、気にせずに凛は座っていた真姫の手を取っていた。

 

 

「こんなところに座ってないでみんなで一緒に見よーよ! 流星群ってこんなに綺麗なんだって真姫が教えてくれたし!」

「私はここで良いわよ。凛こそ、みんなで見てなさいよ」

「やーだ! 凛は真姫ちゃん達みんなで見るの!」

「ちょっと! 無理に引っ張ったら!」

「良いからー! こっち来てよー!」

 

 

 そう言って凛が真姫の腕を引っ張る。それに思わず真姫は凛に引かれるまま立ち上がってしまった。

 凛の強引なところは相変わらずだ。真姫は強引な凛に溜息を吐きたくなる気持ちだったが、渋々頷くことにした。

 

 

「あら、希と真姫もこっちに来たのね」

「凛に強引に、よ」

 

 

 強引に凛に全員が集まったところまで連れてこられた真姫を見て、絵里は驚いた表情を見せた。

 絵里の意外そうな笑みに、真姫は肩を竦めて答えた。

 

 

「真姫ちゃんが一人でいるのがいけないにゃ!」

 

 

 真姫の呆れた発言に、凛は少し不満げに口を尖らせた。

 腕を大きくあげて、身体を使って不満を表している姿は子供のように見えた。

 そうして凛はハッと何か思いついたような顔を作ると真姫の手を取って、満面な笑みを浮かべていた。

 

 

「真姫ちゃん! 凛ね! 真姫ちゃんと流星群見れて良かったと思ってるんだ!」

 

 

 そして凛は真姫から離れて、少し離れたところに小走りで行くと空に両手を広げていた。

 凛を除く全員が凛の行動に小首を傾げる。

 全員が見守る凛が両手を広げたままその場で一回転すると、嬉しそうな表情で真姫に向かって叫んだ。

 

 

「だから凛も星空好きになったよ! “星空”凛だけに!」

 

 

 全員、一瞬理解するのに時間が掛かった。

 数秒後、ようやく凛の言ったことを理解した全員がたどたどしく「おぉ……」と声を揃えた。

 

 

「なに馬鹿こと言ってるのよ」

「えぇ〜! 凛、上手いこと言ったと思ったのに〜!」

 

 

 真姫の反応を見て、凛はつまらなそうに頬を膨らませた。

 そんな凛の態度に、真姫はつい笑みをこぼした。

 

 

「ふふっ、何言ってるんだか」

「あっ! 笑ったにゃ! 真姫ちゃんがデレたにゃ!」

「なっ……⁉︎ デレてないわよ!」

「顔赤いよ?」

「これは寒いだけよ!」

 

 

 怒った真姫を見た凛が「真姫ちゃんが怒ったにゃ〜!」と言って笑いながら逃げて行く。

 凛が逃げて行った先で穂乃果に飛び掛っている光景を見ながら、真姫は疲れたと言いたげに肩を落とした。

 

 

「ねぇ、真姫ちゃん。良かったらこっちで一緒に見よ」

 

 

 肩を落としていた真姫に、彼女の近くで座っていた花陽が隣に手を置いて座るように促していた。

 

 

「花陽? まぁ……そこまで言うなら良いわよ」

「うん。こっち、クッション下にあるから座っても寒くないよ」

「……ありがと」

 

 

 花陽の凛とは違った物静かな雰囲気。真姫は個人的に好きだった。

 物静かなというより、大人しいというのが良いかもしれない。

 自分は凛のように騒ぐタイプではない。勿論、友達としては十分好きだが、真姫的には花陽の方が一緒に居て落ち着くと思っている。

 花陽が用意した隣に置かれたクッションに真姫が座る。

 真姫が隣に座った後、花陽は空を見上げながら楽しそうに呟いた。

 

 

「空、本当に綺麗だね」

「えぇ、綺麗でしょ?」

「うん。まるでひとつひとつが宝物みたい」

 

 

 こういう可愛いことを平然と話す花陽が、真姫にはとても可愛らしく見えた。

 花陽と同じように、空を見上げて真姫も星を眺める。

 空に輝く星。流れ星が流れている空を見て、花陽の言葉が真姫にはとても印象に残った。

 

 

「空にある星くらい私達も思い出でが作れたら素敵だな」

「……思い出?」

 

 

 思わず真姫が訊き返した。

 花陽は真姫に少し恥ずかしそうにすると、照れながら答えていた。

 

 

「私達もこれからたくさんの思い出が作れたら良いなぁって、今日の天体観測も……私には大切な思い出になるから」

 

 

 花陽らしい例えだと真姫は思った。

 夜空の星が宝物で、そしてその星達の数だけμ'sで思い出が作りたい。その考えはとても花陽らしい。

 

 

「なら……私にとっても、大切な思い出よ」

 

 

 つい、真姫はそう呟いた。

 花陽がそれを聞いて微笑む姿に、思わず真姫は視線を逸らす。

 花陽がこうして自分と一緒に星を見に来ていることを大切な思い出も言うなら、それは真姫自身にとっても同じだ。

 μ'sでの練習の日々も、笑いあったり、悲しいことがあったり、くだらないことがあったり、色んな日々が真姫には大切な思い出。

 決してそれを口にすることはないが、真姫は心からそう思っていた。

 

 

「星が思い出、か」

 

 

 だからこそ、ふとその言葉が真姫の口から出ていた。

 星が思い出というなら、

 

 

「なら流れ星はなんなのかしらね?」

 

 

 一人で、真姫は小さく呟いた。

 輝く星が思い出ならば、流れる星はなんだろうかと。

 消えていく星。それは思い出が無くなることだ。

 消えていく思い出。それは本当に良いのかと。

 綺麗に流れる星。それか思い出なら、悲しいことだ。

 そう思って流れ星を真姫が見たら、不思議と悲しい気持ちになった。

 まるで涙のように、容量を超えた器から溢れる水のように、悲しいほど綺麗に流れて消えていく星という名の思い出。

 そうやって記憶の中で思い出が色褪せてなくなることに、真姫はどうしようもなく悲しくなった。

 

 

「じゃあ、また作ればええやん?」

 

 

 真姫の後ろで、そんな声が聞こえた。

 

 

「星が流れてくなら、また新しい星を作るだけ。色褪せた思い出があっても、また新しい思い出を作れば良いんよ。そうやった積み重ねで、ウチらの星空を作れば良いだけやん」

 

 

 真姫と花陽が振り向くと、希が優しい笑顔で空を見ていた。

 振り向いた真姫が希の話に、呆気に取られて苦笑した。

 

 

「随分とクサイこと言うわね。希らしくない」

「そう? ウチ、割と“こういう”タイプなんよ?」

「……冗談でしょ?」

 

 

 あっけらかんとして答えた希に、真姫が目を大きくする。

 しかし希はそんな真姫の隣に座ると、どこか悲しそうな表情を見せた。

 

 

「μ'sとしての思い出。私にはすごく大切な思い出だけど、きっと色褪せる日が来るかもしれない。何年後、何十年後かわからないけど……楽しかったってことしか覚えてない日が来るかもしれない」

 

 

 花陽と真姫が、空を見上げて語る希の話を黙って聞いていた。

 その顔は、これから卒業する三年生だからこそできる。学校を立ち去る人間だからこそする顔なんだと、真姫達は分かってしまったからだ。

 

 

「だからこれから先に仮にμ'sが無くなっても、私達はその時に作れる思い出をたくさん作れば良いと思うんよ。悲しいこと、楽しいこと、色んなことを一緒に分かち合えるμ'sが、私は好き。みんなと一緒にいるこの時間が好きなんよ」

 

 

 そう言って、希が真姫と花陽に笑みを向ける。

 その言葉に、真姫と花陽は返す言葉に困ってしまった。

 卒業する三年生に向ける言葉が見つからない。

 

 

 

「なに柄でもないこと言ってんのよ……希っ!」

 

 

 

 そんな時、にこが顔を顰めながら座る希の後ろに立っていた。

 そしてにこが自分の手袋をしてない手で希の首を思い切り掴んでいた。

 

 

「ひゃっ⁉︎ にこっち何するの⁉︎」

「希が珍しいこと言うからよ! あとはさっきやられたお返しよ!」

「にこっち〜!」

「なによ! やるっているの⁉︎」

 

 

 希とにこが隣でじゃれ合い出したことに、真姫と花陽が揃って苦笑いしてしまった。

 正直、にこが来てくれて良かったと二人は思っていた。あの時の希の言葉に、返す言葉がなかったから。

 

 

「二人とも、あまり考えないようにして良いわよ」

 

 

 にこと希が互いの手を顔に押し当てているのを横目に、絵里が二人に声を掛けていた。

 絵里はにこと希を一瞥して、困ったように苦笑しながら言った。

 

 

「私達三年が卒業しても、別に疎遠になるわけじゃない。そんなことで私達の関係が終わるわけないでしょ?」

 

 

 そう言って絵里が「この手の話をするのは本当はルール違反だけどね」と続けた。

 真姫がそこでふと思い出した。卒業を控えた三人が学校から居なくなる話は、μ'sではラブライブが終わるまで禁止にしていた。

 

 

「希が珍しく感情的になったみたいだから、こういう希は珍しいわね」

 

 

 呆れた表情で絵里がじゃれ合うにこと希を見つめる。

 その顔も、真姫からすれば先程の希と“同じ顔”のような気がした。

 

 

「私達の関係はこれからも続くに決まってるんだから、そういうのを気にしても仕方ないわ。だから今を大事にすれば良いのよ」

 

 

 今を大事に、その言葉が真姫には妙に重く感じた。

 花陽の隣に絵里が座る。そして絵里は和かに笑っていた。

 

 

「流星群、見ないとともったいないわよ? こんなに綺麗なんだから」

 

 

 そう言って、絵里は空を見上げた。

 その横顔が心なしか寂しそうに見えたのは、きっと気のせいではないと花陽と真姫は揃って思っていた。

 

 

「ねぇねぇ、さっきからみんなで何の話してたの?」

「凛も混ぜてよー!」

 

 

 しかしそんな時に限って、一番騒がしい二人が真姫達のところに来ていた。

 穂乃果と凛。二人が真姫と花陽の気も知らずに、呑気に来ていた。

 

 

「別に大した話はしてないわ。流星群が綺麗ねって話よ。ね? 二人とも?」

 

 

 絵里が穂乃果と凛に答えて、真姫と花陽をチラリと見る。

 うまくごまかしてくれるらしい。花陽と真姫はそれに気づくと、揃って絵里の話に頷いていた。

 

 

「うん。絵里ちゃんの言う通りだよ、凛ちゃん」

「別に大した話はしてないわよ、凛」

「なーんだ。つまんないにゃ」

 

 

 楽しい話をしていると思っていたらしい凛が口を尖らせる。

 そして凛はそんな顔をしていたが、すぐに笑みを浮かべると勢いよく花陽と真姫に向かって飛び掛かっていた。

 

 

「ちょっと凛!」

「凛ちゃん⁉︎」

「じゃあ凛は真姫ちゃんとかよちんの間で星を見るにゃ! 星空だけに!」

 

 

 花陽と真姫が座っていた間に、凛が無理矢理入り込む。

 真姫は「くだらないこと言ってんじゃないわよ!」と言いながら凛と間を開けようとするが、凛は真姫の腕を抱きしめるように掴んでいた。

 

 

「いーから! 真姫ちゃんもここに座ってよー!」

「暑苦しいのよ! まったく!」

「寒いからこれぐらいが丁度良いにゃ!」

「凛ちゃん、おしくらまんじゅうじゃないんだから……」

 

 

 そして凛が花陽の腕を右腕で掴み、真姫の腕を左腕で掴んでいた。

 先程まで三年生達とあったしんみりとした雰囲気はどこへ行ったのか分からなくなるくらい、騒がしくなっていた。

 真姫と花陽は間で笑っている凛を見て苦笑したが、二人が顔を合わせると“いつものこと”かと納得してしまっていた。

 こういうところが、凛の良いところなのだろう。二人は揃ってそう思った。

 

 

「なになに⁉︎ おしくらまんじゅう⁉︎ 穂乃果もやるー⁉︎」

「絶対に違いますよ! 穂乃果!」

「じゃあ私もー!」

「ことり⁉︎ なにをして――あっ! コートを引っ張ると!」

 

 

 凛と花陽、真姫がおしくらまんじゅうをしていると勘違いした穂乃果が凛に飛び掛かる。

 それに続いて、ことりも海未の腕を掴むと穂乃果を追うように凛達に飛び掛かっていた。

 一年生と二年生、六人が押し合う形になっていた。その中で三人は、望んでしているわけではなかったが。

 

 

「にこっち! ゴー!」

「はっ⁉︎ あんなのに混ざりたくな――ってなに押し込もうとしてるのよ⁉︎」

 

 

 にこを強引に六人のおしくらまんじゅうに押し込めた希が、続いて自分自身もその中に入っていく。

 

 

「みんな、なにやってるのよ……」

「絵里ちゃんも来るにゃ! あったかいよ!」

「私は良いって――ちょっと穂乃果⁉︎」

 

 

 そして最後に絵里が穂乃果によって、八人の中に追加されてしまった。

 九人が詰め寄って押し合う状態に、真姫が頭が痛くなってくる。

 確かに温かい、というより暑苦しい。

 早くこの場から出ようと動くが、凛の腕が絡んでいる所為でその場から離れられなかった。

 

 

「これでみんなで星を見たら温かいにゃ!」

 

 

 九人が押し合っている時、凛が笑いながら叫ぶ。

 その言葉を聞いて、全員が動くのをやめていた。

 凛の子供のように楽しそうな笑みに、全員が顔を合わせて頷いた。

 確かに、一人で居るよりも暖かかった。

 

 

「動きにくいですね。これ」

「でも、意外と悪くないわね」

 

 

 海未と絵里が、動きにくそうに身体を動かす。

 しかし全員が不思議と離れることはしなかった。

 

 

 

「あっ! また流れ星にゃ!」

 

 

 

 そうして凛が空を指差すと、全員がその方向を向いた。

 確かに、そこには流れ星があった。

 

 

「綺麗だねぇ」

 

 

 穂乃果の呟きに、真姫はふと訊いていた。

 

 

「ねぇ、穂乃果。今日……来て良かった?」

「うん! 真姫ちゃんのおかげだよ!」

「そう……なら、良かったわ」

 

 

 笑顔の穂乃果の返事に、真姫は小さく微笑んだ。

 そして真姫も、みんなと同じように空を見上げた。

 黒い空に輝く小さな星々。その空に、流星が落ちる。

 流れ星がひとつ、またひとつ流れていく。

 

 星が思い出というなら、星のひとつひとつが宝物だと花陽は言った。

 

 輝かしくて、空に滲むように光る星の思い出。

 そしていつかそれは流星になって消えていくかもしれない。

 儚い光が最後に輝き、消えていく。

 それが思い出なら、悲しいことだろう。

 それが流星なら、悲しいほど綺麗な光に違いない。

 

 だからこそ、新しい思い出を作れば良いと希は言った。

 

 悲しい思い出も、楽しい思い出も、些細なことでも、ひとつずつ増やして自分達の星空を作れば良い。

 色褪せて消えても、最後に涙のように消えるのなら新しい思い出をたくさん作れば良い。

 

 

「今日、来て良かったわ」

 

 

 その光景を見て、真姫は本当に小さな声で呟いた。

 μ'sとしての時間は、残り少ない。

 μ'sが続いたとしても、三年生は居なくなってしまう。

 この九人ができるμ'sは、今しかない。

 だから今日、花陽の言葉を借りるなら新しい思い出という星が出来たのだろう。

 今までのことを振り返るように真姫が目を閉じる。

 

 μ'sに入ってから今まで色々なことがあった。それは確かに大切な思い出と言えるものだと。

 

 色んなことを思い出して、思わず真姫は笑みを浮かべた。

 そして目を開けて、真姫は星空を眺める。

 この時間が、とても煩わしくもあり、愛おしい。

 この時間が、みんなといる時間が続けば良いのにと思ってしまうくらいに。

 

 星に願うと、願い事が叶うらしい。

 

 迷信過ぎて、子供の頃にしか真姫はしたことがない。

 しかし、希が言っていた。

 願うことに意味がある。言葉にするから意味がある。

 

 

――たまには、希の言葉に乗ろうじゃない

 

 

 心の中で、真姫はそう思う。

 このμ'sの時間が終わらないように、ずっと続いてと願って。

 空を見上げて見える数々の流星に、流れる思い出の光に向かって、叶うことはなくても、叶ってほしいと願いながら。

 真姫はそっと……誰にも聞こえない声で告げた。自分のワガママな願い事を。

 それが例え、叶わないと知っていても――関係ないと。

 願いを言葉にするからこそ、意味があるのだから。

 

 

「この時間が、終わりませんように」

 

 

 星がひとつ流れる。

 

 

「みんなとの時間が、ずっと続きますように」

 

 

 また、星が流れる。

 

 

「μ'sが私の大切な思い出になりますように」

 

 

 そしてまた、星は流れた。

 

 

 




《紅葉久さんより》
読了、お疲れ様です
たーぼさんとあやかさんに続いて私の出番だったので、良い流れを作れれば良いなと思います。
私、紅葉久の作品は真姫がみんなと流星群を見に行く話でした。
卒業する三年生、μ's全員が一緒に居られる時間は残りわずか、そんな中で真姫がμ'sで居られる時間について考えたりする話ですかね?

起伏のない、淡々としたストーリーと書いた後に思いましたが……好き勝手に書いた結果でしたので、ご容赦ください(>人<;)

久々に今回、企画に参加させて頂き真姫を含めμ'sを書かせて頂きました。
久々だったのでキャラが正しく書けている不安ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

この後、前半戦の後半に入ります。
残りの作者陣にも名のある方々が多いので、楽しみにして頂ければと!
良いバトンを次の方へ渡したいです!
それでは、また紅葉と会うことがありましたらよろしくお願いします!

それでは、またどこかで!
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