エンドスタート   作:まゆう

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出来るだけ早めにお送りしたつもりです!

後編になります!今回少し話が重いです。



篠宮束と玉狛支部②

「おれが…攫われる…」

 

 近界民がこちらの世界に攻めてくる目的はトリオン能力の高い人間を向こうの世界に連れて行くためだ。

 トリオン能力が高ければ兵隊として、低ければトリオンだけを抜いて使うために近界民はこちらの世界に攻めてくる。

 

 だが、ボーダーの正隊員には緊急離脱がある。攫われることなんてなさそうなものだけど…。

 

「緊急離脱があっても攫われるってことですよね?」

 

 とりまる先輩がおれの疑問を言葉にしてくれた。

 いや、どちらかというと気を使って一旦落ち着かせるために話をおれ以外で回そうとしてくれているのかもしれない。

 

「ああ、でもあくまでも最悪の未来だから必ずしもそうなるわけじゃない」

 

 迅さんは未来を見ることができる。

 

 トリオン能力が高い人は先天的にもしくは後天的に稀に副作用(サイドエフェクト)と呼ばれる能力を発言することがある。

 迅さんのサイドエフェクトは『未来視』その名の通り未来を見ることができるものだ。ボーダー基準ではSランクの超感覚に位置するサイドエフェクトだ。

 

 ちなみにAランクは超技能、Bランクは特殊体質、Cランクが強化五感になる。

 

 未来視のサイドエフェクトは未来が見える、それだけ聞けばいい能力に思えるが見える未来を選ぶことはできないし、見たことのない人の未来は見えない、なにより見たくもないような未来を見てしまうこともある。

 今回のがまさにそれに当てはまると思う。

 

「だから迅さんは玉狛に入れって言ってたの?」

 

「ああ、そうだ。うちに入れば束用に調整してたうちのトリガーを使える。それはこの最悪の未来を変えるための力になってくれるはずだ」

 

 玉狛で桐絵たちが使ってるトリガーは本部の企画から外れたワンオフものだ。

 本部のトリガーが大人数での運用を想定して継戦能力を重視して規格化しているのに対して、玉狛のトリガーはそれぞれの使用者のスタイルに合わせた、オリジナルのトリガーを使っている。

 このトリガーは近界民技術(ネイバーテクノロジー)を活かした規格外のトリガーで、性能は高いけど汎用性とかは完全に度外視してる。

 

 おれは玉狛に結構入り浸っているので遊びの一環として玉狛でしか使わないおれ専用のトリガーを開発してもらった。

 ただそのトリガーは本部の企画を外れているのでもし使うのなら玉狛に移動するしかない。だから迅さんはおれを玉狛に入れたいんだ。

 

「まぁ、散々断ってきたことだし今すぐ決めるのは難しいだろ?」

 

「うん…、ちょっと頭が追いつかないかも…」

 

「なら、もうこの話は一旦おしまいにしましょ!」

 

「そうっすね」

 

「ご飯食べて片付けちゃおか。食後のデザートも用意してるよ〜」

 

「たばね、大丈夫か?心配しなくてもいざとなればおれが守ってやるぞ!」

 

「陽太郎…、ありがとな…」

 

 ぽん、と、おれの頭に大きい手が乗っかりそのままわしゃわしゃと力強く撫でられる。

 

「レ、レイジさん?」

 

「心配しなくても俺たちもお前のことを守ってやる。だから安心しろ」

 

 今の言葉をみんなが思ってるよというようにみんな笑って頷いてくれる。

 

 ほんとにこの人たちは…、自分の身が危なくなる可能性だってあるのにそれでもおれを助けてくれるって笑って言ってくれる。

 

「うん…、ありがとう!でも、おれもみんなを守ってみせるよ!そのために強くなったんだから!」

 

「ほんとは防衛戦に出てもらわないのが1番なんだけどな…」

 

 迅さんは、はぁと大きく息をついてそして笑った。

 

「ま、束ならそういうだろうと思ったよ。束は強いからな、あてにさせてくれ」

 

 おれも迅さんに大きく笑みを返して。

 

「サイドエフェクトが言ってた?」

 

 迅さんの口癖を逆手に取ったような言い方に迅さんは苦笑いだ。

 迅さんから一本取れる機会はあんまりないからおれは勝ち誇ったような笑みを浮かべて大きく笑った。

 

 このやり取りにつられたように玉狛支部に笑い声が響いた。レイジさんはやれやれと言ったようにかぶりを振って、とりまる先輩はいつも通りの無表情だったけど。

 

「お、どうした?なんか盛り上がってるな」

 

 ガチャリとリビングのドアが開き入ってきたのはこの支部の支部長にしておれ助けてくれた恩人にして師匠、林藤匠さんだ。

 

「林藤さん!お帰りなさい!」

 

「おう、遅くなって悪いな」

 

「ほんとに大遅刻よボス」

 

「いや〜ちょっと忙しくてなぁ」

 

 これで県外にボーダー隊員をスカウトに行っている2人以外全ての玉狛のメンバーが揃った。この8人がボーダー最強とも言われる玉狛支部の全メンバーだ。

 

「さ、束。約束通り模擬戦やるわよ」

 

「よっしゃ!今日は負けないからね」

 

「束、それ終わったら後で俺んとこ来てくれ。少し話そう」

 

「うん、わかった!」

 

 そう言い残しておれと桐絵はリビングをでて模擬戦に向かう。

 なぜか陽太郎も付いて来たけど。

 

 

 

 ・

 

 

 

 コンコンと二度ノックをしたら中からいいぞ〜という声が聞こえたので、ドアを開けて支部長室へと入る。

 

 中にいるのは当然支部長である林藤さんだ。

 

「おう、待ってたぞ。で、どうだった?」

 

 ニヤッといやらしい笑いを向けながら模擬戦の結果を聞いてくる。この様子だと絶対に想像ついて言ってるな、この人…。

 

「負けた…、7対3で…」

 

「かぁ〜、やっぱりか。まだ桐絵には敵わないな」

 

「うっ…でも最近はいいとこまで行くようになったし…」

 

 桐絵は強い。旧ボーダー時代から所属していてその長さは迅さんよりも長い。戦闘経験はおれとは全然違う。

 それでも最近は負けるにしても惜しいところまでは行くようになった。これも林藤さんや忍田さんたちおれに戦い方を教えてくれた人たちのおかげだ。

 その中に桐絵が入ってるのが悔しい限りだけど…。

 

「ほれ、コーヒー。これ持って屋上行くか」

 

「うん、ありがとう」

 

 おれのコーヒーにはちゃんと砂糖とミルクが入ってる。林藤さんはよくコーヒーを淹れてくれるのでわかってるからね。

 

「一本ずつでよかったか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 屋上へと出るドアを開けると冷たい風が吹いた。

 

「さむっ!」

 

 おれは慌ててコーヒーを両手で持って暖をとる。

 

「もうだいぶ寒くなって来たなぁ」

 

「うん」

 

 おれはたまにある林藤さんと2人で夜コーヒーを飲みながら屋上で話すこの時間が結構好きだ。気分がサーっと落ち着いて行くのがわかる。

 

「あれから4年だな。どうだ、心境の変化はあったか?」

 

「4年も経てばね。今でもこんな風に笑っていられるのがたまに信じられないくらい」

 

「そうだな、実を言うと俺はこいつはダメかもしれないなって思ってたんだ」

 

「おれが、だめ?」

 

 そんな話は聞いたことがなかった。おれがだめって言うのはどう言うことなんだろう。

 

「あぁ、家族がみんないなくなって精神的に追い込まれていずれ潰れちまうんじゃないかってな。ハラハラしながら見てたよ」

 

 確かにあの時のおれは余裕がなくて、ずっと訓練をして意識を失ってまた起きて訓練を始めるみたいな生活をしてた。

 誰もいなくなってしまって、体を動かしていないともう一歩も進めないような気がしてがむしゃらに訓練を積んでいた。

 

 …家族を殺した近界民に復讐をするために。

 

 林藤さんは一度コーヒーを飲んで一息ついてから続けた。

 

「だから嬉しいんだ。今、お前がこうして笑って、楽しく暮らしてるのを見るとな」

 

「それは、桐絵に風間さん忍田さんにボーダーのみんな、そしてもちろん林藤さんのおかげだよ。もし、林藤さんと忍田さんに助けてもらわなかったらおれはあのまま死んでた」

 

 近界民に壊された家から逃げられたのはおれと姉ちゃんだけ。妹とばあちゃんは家の下敷きになって助けられなかった。外に出てたお父さんとお母さんも建物倒壊に巻き込まれる形で死んだ。

 姉さんと2人で逃げてたけど姉さんもおれを逃がすために死んだ。

 たった1人で逃げるのは辛くて、心細くて、何度も来た道を引き返そうと思った。いや、林藤さんと忍田さんに助けてもらわなければ確実に戻っておれは死んでいた。

 

 あの時、おれの目の前に現れた近界民を倒しておれを助けてくれたその時から、おれはもう一度生きることができるようになったんだ。

 

「そして、桐絵と風間さんがおれを変えてくれてボーダーの仲間たちがおれの新しい家族みたいになった。復讐じゃない、守るために強くなれたんだ」

 

 あの時の荒れて荒れていっぱいいっぱいのおれを変えてくれたのは桐絵と風間さんだった。忍田さんと林藤さんだけじゃない、この2人との出会いが無ければおれはおれとして今ここに立てていない。

 そしておれが変われば周りも変わる。いつのまにかおれの周りにはたくさんの仲間ができた。信頼できる先輩、切磋琢磨して時にふざけあえる同級生、たまに生意気だけど慕ってくれる後輩、本当にたくさんの仲間ができた。

 

「だから、おれの今の目標はボーダーの仲間たち、いや新しくできた大切な家族たちを、守るために強くなることなんだ」

 

 ふわっと柔らかく先ほどよりも少し暖かい風が吹いた気がした。

 

 林藤さんは一度つけている眼鏡をあげて目頭を揉むようにしてから、泣き笑いのような顔でこう言ってくれた。

 

「束、お前にはまだまだ楽しいことがたくさんある。俺たちもお前を守るから、絶対に無事でいるんだぞ」

 

 きっと林藤さんも迅さんの予知を知っている。おれの話を聞くだけじゃなくて、予知のことを聞いたおれに対して精神的なケアをするのもこの話の目的だったのかもしれない。

 

 おれの答えは決まってる。

 

「もちろん、おれもみんなを守ってみせる!おれはみんなのことが大好きだからね!」

 

 

 

 ・

 

 

 

 翌日朝起きて目をこすりながらリビングに入るといい匂いが漂って来た。スパイシーなスパイスの匂いだ。

 

「ふぁ〜、おはよう…」

 

「おはよう束!早く顔洗って来なさい!」

 

「また、カレー?」

 

 つまり今日の朝は昨日の残り物のカレーらしい。

 

「なに?文句あるの?」

 

「ううん、ないです…。顔洗ってくる」

 

 昨日あんなにいっぱい作ってどうするんだと思ったけどこの分だとおれの部屋にカレーのストックを差し入れしに来そうだ…。

 

「束、学校まで車で送っていくか?」

 

「大丈夫、早めに出れば間に合うし歩くよ」

 

「結構遠いし乗せて貰えばいいんじゃないか?俺も小南先輩も宇佐美先輩も乗ってくぞ?」

 

「そうよ、あんたも乗せてもらいなさい」

 

「そうそう遠慮なんてしなくていいんだよ〜」

 

「ああ、その通りだ。遠慮なんてしなくていい」

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 今日も今日とて学生の仕事は学校でお勉強だ。ボーダー隊員だって例外はない。まぁ一応防衛任務の都合上学校を早退したり遅刻したりはあるけどそれは公欠扱いだし。

 

 今回は登校にレイジさんが車を出してくれるらしいからお願いした。

 いつもは警戒区域の中をトリオン体で突っ切って、警戒区域から出たら歩いて登校している。ぶっちゃけトリガーの私的利用で隊務規定違反だけど登校に関してだけはなんとかして例外を取ってくれた。鬼怒田さんと忍田さんと林藤さんが。

 

 朝飯を食い終わったらそれをみんなで片付けて学校に行く用意をする。

 それが終われば全員が玄関に集合だ。

 

「それじゃあ、全員気をつけてな!」

 

「きをつけて行ってくるんだぞ」

 

 林藤さんと陽太郎はお見送りだ。

 

「「いってきます!」

 

「いってきます」

 

 レイジさんは軽く手を挙げただけだしとりまる先輩も相変わらずのローテンションだ。

 

「なに笑ってんの?」

 

 桐絵から声をかけられる。

 どうやら思っていたことが顔に出てしまったみたいだ。

 

「最高にたのしいなって思ってさ」

 

 桐絵はこの答えに満足したのか一つ息をついて、それからニッと笑いながら俺の頭をわしゃわしゃする。

 

「そうね、すっごくたのしいわ」

 

 そう言ってまた大きく笑った。




いかがでしたでしょうか。束の過去が少し明らかになったお話です。
小南と風間さんのエピソードはまたいずれどこかで

次が終わったあたりで原作入りたいなぁと考えています。

感想や評価などお待ちしてます!
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