RD/ストラトス   作:ハナガネ

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※インフィニット・ストラトス10巻のネタバレがあります。ご注意下さい。


チャプター 10

「小賢しいけどやるね。この束さんを一瞬でも出し抜くとは」

 

篠ノ乃束はIS学園中、更にその近辺のカメラをハッキングし、同時に全て確認していた。常人であればその全てを確認し切れるはずもないが、彼女からすれば容易いものだった。それも、常人が1つのモニターに集中するよりもずっと正確に。

しかし、彼女はそれでも見落とした。

だからこそ、RDの手腕を認めた。

 

「でも、頭が足りない。ま、束さん相手にどんな頭積んでも勝てるわけないけどね」

 

しかし──届かない。

天下の篠ノ之束の目を欺くことはできない。それは天命にも等しい結果だ。

それでもIS学園にACが運びこむことできたのはちょっとした見落としの隙をつくことができたからに過ぎない。

RDが考えたと思われるトリックのキモは二つ。一つはダリル・ケイシーのISを移送していたVTOLとそれを迎撃したダリル・ケイシー本人。それから、もう一つはその残骸を回収した大型トラックだと、束は見抜いた。

まず、前者においてIS『ファング・クェイク』は確かにアメリカの代表候補生のダリル・ケイシーが、正式な文書で申請した。しかし、それは落とし穴だ。彼女の調べはついている。その正体はついている亡国機業が抱える敏腕スパイだ。

ちょうど、その少し前にRDとクロエのアジト──ゴビ砂漠の山間から何度か武装ヘリとクロエのISが飛んでいた。

理由は直ぐに物資の補給のためと分かった。最初はのこのこと外に出てきたバカを自らの手で叩くべく近くの軍事施設をハッキングし、撃墜を試みていた。しかし、何故かその時に限ってだけ武装ヘリはルートを変え、攻撃の手を逃れる。ならばと思い、近くの軍事施設に迎撃を『依頼』したところ──どういうことか、武装ヘリを捉えられるようになった。思えば、それは物資を取り損ねたという体で分けたACのパーツを亡国機業に渡すための演技だった。

それに気が付き、すぐさま追跡するとパーツはワシントン、北京、オーストラリアの3つに渡っていた。

 

まず、ワシントンへと渡ったパーツは核と腕部、脚部の三パーツ。そのうち核──つまり全ての基幹、コアとでも呼ぶ部分は簡易的にVTOLに組み込まれた。そして、腕部と脚部。これを一纏めにし、カバーを被せ遠目から見れば『IS』のシルエットに見えるように偽装された。確かに、ACとISの大きさの差はある。しかし、元のファング・クェイク自体が既存のISより一回り大きく、もし問われたとしならダリル・ケイシーがさらに装甲強化型を希望したとでも言えば通る。そのACを出立時に本物のファング・クェイクにもカバーをかけてすり替える。

後は、亡国機業がVTOLにハッキングを仕掛け、連絡を受けたダリル・ケイシーが撃墜、VTOLからカバーのかかったACのパーツを持ち出し、「自分のISは何とか持ち出した、国家の威信を守った」とでも小芝居を打つだけ。学園のチェックは代表候補生を理由に試作機故に秘匿義務があるとぬかし、パスしたのを確認している。

残るは破壊されたVTOLの中に組み込まれていたコア。アレは大方、更識家が指揮するサルベージで回収され、IS学園に調査のために運ばれた。

ここで北京に運ばれたパーツ、ジェネレーターとFCSが関係してくる。北京から通常の貨物に偽装し運ばれたそれらは、大型トラックに組み込まれた。それこそが、コアを積載したトラック。

当然、学園のチェックも更識家のチェックもあったと思われるが、このサルベージというのがミソだ。怪しいものだからこそ、調査をしなければならない。そうして、まんまと運び込まれたコアとジェネレーターとFCSは内部で、時期を見計らってダリル・ケイシーが腕部と脚部と同じ格納庫の中へと収めたという訳だ。

 

残るオーストラリアからのパーツ、ヘッド、武装は襲撃に合わせて運び込めば、ACは完成する。

すると、どうだ。外部ばかり警戒しているせいで疎かになったIS学園内部から急襲を仕掛けることができてしまう。そうなってしまえば、ISも高さの活かせない地下空間であれば容易く制圧できるし、亡国機業の連中は好きなだけISを回収できる。

なるほど、シナリオとしては面白い。

 

「そんなことさせるかよ」

 

港につけようとしていたタンカーが突如、炎に呑まれる。そこへ次々と叩き込まれていくミサイルの雨。カメラに収まらない破壊の爆発が乗船員すら巻き込んで、積載されているであろうACのパーツを藻屑へと変えていく。

これで仕舞い。ヘッド、武装がなければACは所詮、多少硬いだけであべこべに地を這うしかできない大きな的でしかなくなる。

だが──それでも足りない。束は、トドメを刺しにいく。

 

「さあ、ケリをつけようじゃないか──RD」

 

コックピットの中に熱源あり。ISコアの反応はなし。それが表す人物はただ一人、RDのみ。

混乱に乗じてヘッドと武装が運び込まれてくるまで、撒かれたチャフで学園の目を欺いていたのだろうが、その手は散々見てきた。

 

「隔壁閉鎖。セキュリティ……なんだこれ、威力低いなぁ……セーフティ解除、パラメータ更新っと……あぁ、まだ気付いてないのか……送信」

親友、織斑千冬が薦めていた更識楯無にメールと映像を送る。そして、すぐさま更識家の行動を待たずして、かき集めておいた爆発物──IS用の武装を起爆。狙いはブースター、関節の損傷。機動力を奪えば、地を這うことすらままならなくなる。

後は到着しな更識の人間がACからRDを引きずりだして、始末してくれれば全てにカタがつく。

 

「チェックメイト──」

 

そして、束は虚空に向けて、不敵に笑った。

 

「なぁ、見てるんだろ?どうだ──所詮、これが人間の可能性の限界なんだよ」

 

 

オペレーション・ナイツパージ──それは予定通りに進行していた。エムから手渡されたリムーバーという装置は確かに機能し、オータムの手に白式が渡った。

 

「はああああ!」

 

だが、それも先程までの話。突如、参戦した更識楯無の助言で白式を直ぐに呼び戻され、形勢は逆転。織斑一夏の白式の単一使用能力『零落白夜』によってオータムのIS『アラクネ』の脚は既に3本切り落とされ、オータムは押されつつあった。

1vs2。実力者がいると言えど、その程度の数であれば彼女はここまでの失態は犯すことはなかっただろう。

 

「セシリア、ラウラ合わせて!」

 

「了解ですわ!脇が空いてましてよ!」

 

「了解だ!」

 

ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡが展開する弾幕で退路を防がれたアラクネをスターライトmkIIIから放たれたレーザーが襲う。

オータムはアラクネの姿勢を地面スレスレまで並行に近付け、レーザーをすり抜けようとするも、待っていたのはシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界(AIC)。ガクン、と急に全ての慣性が絶たれた機体は這いつくばったまま停止してしまう。

 

「クソがあああっ!ウザったいんだよ!ゴミムシ共が!」

 

だが、その程度はオータムも事前に学習していた。すぐさま、効力外にあったアラクネの二脚で反撃。

 

「させない!」

 

「ふっ!」

 

だが、その一方は甲龍の双牙天月に、一方は紅椿の空裂にいとも容易く切り落とされる。

 

(なんで、なんでこんな──こんなはずじゃ……!)

 

オータムが追い詰められた原因は、1年生の代表候補生達の完全に息のあった連携だった。

自分の仕事は白式を回収し、可能ならば織斑一夏も回収すること。その周りの代表候補生もエリートであろうが、所詮は殺しを知らない子供。

だが、それがどうだ──何故か、こんなにも追い詰められてしまっている。それでも救援を要請しないのはオータムのプライドが許さないからだった。

 

「無様ね」

 

「あぁ!?」

 

幕の裏から声が響く。ステージの照明に照らされる揺れる蒼い髪と、水を纏った機体。霧纏の淑女──ミステリアス・レイディを纏った更識楯無はオータムを嘲笑った。

 

「這いつくばらせてやる意気込みで来たら、もう這いつくばっているんだもの。さて、改めまして。ごきげんよう、亡国企業のオータム。残念ですが、あなた達の目的はもう叶いません」

 

「はぁ!?」

 

「あなた達の作戦実行の要──アーマードコア。既にかの天才のご助力もあり既に、破壊させて頂きました。今頃、中にいたパイロット、RDも捕らえられていることでしょう」

 

「「「RD!?」」」

 

その言葉に驚いたのはオータムではなかった。一夏を含めた代表候補生達だった。

何せ、彼女らは語っていた。もし、機会があるなら必ずや捉えたいと。彼は考えていた。世界中に知れ渡っているなら、そう長くない命だと。

だが、まさか。IS学園にいたとは思いもしていなかった。

 

「更識さん、そのアーマードコアというのは」

 

「話は後。まずはこのおマヌケを捕らえちゃいましょうか。ラウラちゃん、AICはそのままにしてて──」

 

楯無が捕らえようと細心の注意を払い、オータムに近付く。

 

「──がっ……!?」「ぐああっ!?」「きゃっ!?」「うわぁっ!?」「あっう……」「うぐっ……!」

 

だが、オータムに触れる寸前、天井を突き破った超高速の何かが取り囲んでいたIS乗り達を吹き飛ばした。

出遅れた一夏はその凶刃を受ける事はなかったのだが、それ故に見た。

 

「お前は……」

 

「……」

 

流れゆく銀光。高速でありながら、まるで輪舞曲でも踊るように、滑らかな太刀筋。残心し、舞い上がる長い銀髪とその隙間から覗く黒と金色の瞳。

機械でありながらどこかゴシックロリータの衣装を感じさせる黒いその機体に乗っていたのは、先刻、一夏が観客で見たあのラウラに酷似した少女──クロエだった。

クロエは一夏をしばらく見つめ合う。だが、直ぐにクロエは視線を逸らし、別の人物を見た。

 

「……C0037」

 

ラウラ・ボーディッヒ。彼女と似た瞳──いや、同じ瞳を持つ者。

 

「そう──あなたは恨まなかったのね。……良かった」

 

「その、瞳……貴様ッ!?」

 

驚愕に染まるラウラ。その問いに、クロエは何も返さず空へと浮上する。

 

「ラウラさんに関係される人物なのかもしれませんが──きゃあッ!?」

 

「セシリアッ!?」

 

体勢を吹き飛ばされたものの直ぐに復帰し、クロエを逃すまいとビット兵器、ブルー・ティアーズを展開しようとしたセシリア。だが、ティアーズはすぐさまその横で撃墜される。

 

「迎えに来たぞ、オータム」

 

「てめぇ、エム!」

 

「この場はヤツの仕事だ。それに、私達にはまだ仕事が残っているのを忘れたか」

 

侵入してくるティアーズと、蝶を思わせる蒼い機体。セシリアはそれが目に入った瞬間、声を荒らげた。

 

「その機体は──サイレント・ゼフィルス!?あ、あなた達が奪っていたのですわね!?」

 

その機体はセシリアの駆るブルー・ティアーズの第2号機。イギリスで開発され、何もかが強奪したとセシリアは報告は受けていた。その怨敵が目の前にいる。すぐさま狙い撃たんとスターライトmkIIIを構える。

しかし、その前に立ちはだかった者がいた。

 

「回線つながりました。お初にお目にかかります、IS学園の皆様──我々は亡国機業です」

 

クロエだ。刃を片手にサイレント・ゼフィルスの前に立ちはだかり堂々と正体を明かす。

 

「本日は織斑一夏様の白式を頂きに参ったのですが──どうやら、それも皆様のご尽力により叶わなくなってしまったようです」

 

「……何が言いたい」

 

たまらず口を開いたのは一夏。ラウラに似た少女と言えど、皆を傷付けた存在だ。黙ってやられる訳には行かない。零落白夜を構え、じっとその動きを警戒する。

クロエはじっくりと彼女らを見渡した後、ただ事実を述べるように淡々と告げた。

 

「ですので、皆様には──再起不能になって頂きます」

 

「再起、不能だって?」

 

「命までは命令にないため頂きません。ですが、IS。それだけはここで処分させて頂きます」

 

クロエはその言葉に反してブレードを腰に帯刀した。

それを見た楯無が笑う。

 

「そのおマヌケさんを抱えて、その人数で?無茶だと思うけどな。逃げることすら難しいんじゃない?」

 

「その心配には及びません」

 

「もしかして、アーマードコアの参戦を期待してるのかな?だとしたらさっき破壊したって──」

 

「──いいえ」

 

楯無の言葉をクロエの強い否定が遮る。

 

「──あなた方は一つ大きなミスを犯しています」

 

「な、に……え」

 

楯無のISに突如、送られてくる部下からのエマージェンシー。そのエマージェンシーは今更送られてきた10分前のもの。急いで確認すれば、そこに映っていたのはACの写真。だが、それはRDを捕縛したものでは無い。ACが()()、爆発した直後のものだった。

楯無の背筋が一気に凍り付く。

 

「──まさか」

 

『そ、い、──!直ぐにその場を離れろ──!』

 

刹那、一夏たちにノイズ混じりの千冬の叫びが鳴り響く。

 

「では、後はお任せします──RD様」

 

閃光。遥か上空で一筋の雲を描いていたソレはIS学園の上空で光を放った。

それは直視していなにもかかわらずこの場に居合わせた全ての目をしばし眩ませ、そして彼らが再び目を開けると、いつの間にか辺りは翳っていた。その理由は雲に太陽が遮られたからではない。

耳を劈く轟音、PICがあるのにも関わらず機体が流される暴風。

 

──そして劇場の壁を突き破り、ソレは降り立った。

 

「……アーマード、コア」

 

誰がその言葉を発したか。

立ち上った土煙の中で灰白色が光り、そして瞬きの間の後に夥しい数の熱が飛び出した。それは濃厚な死の香りを纏うガトリングガン(KO-5K4/ZAPYATOI)より吐き出された銃弾。一瞬にして土煙は切り裂かれ、そしてついに鉄の巨躯──ヴェンジェンスはその姿を顕にする。

彼らに芽生えていた淡い希望。その尽くは無に帰し、戦いは今、幕を開ける。

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