RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 14

戦いは続く。

ラファールを落としたヴェンジェンスはアリーナから撤退し、通路を後退していた。

 

「逃がさねぇ!」

 

シャルロットが落とされたことで激昂した一夏はひたすらに突撃してくる。

先までなら狙っていただろうが、今は違う。

 

(織斑一夏、アンタは後だ!)

 

いかなる手段でシールドエネルギーを回復したのか、再び白式は零落白夜を発動させていた。

白式の射程距離は雪羅もあるが、実質的にはあの刃だけと短い。更にはISの高さを制限する狭い通路、明らかにこちらが有利。

だが、それでもヴェンジェンスは白式から逃げる。現状、零落白夜こそがヴェンジェンスに一撃で致命傷を与える唯一の脅威。他の数を減らして、集中的に狙うべきとRDは判断した。

システムはスキャンモード。弾幕などばらまいているヒマはない。EN回復力を上げ、ただ、ひたすらに織斑一夏から後退。

すると、とある部屋へと到達する。

 

(格納庫──?──!!!)

 

『ヤバい』。RDはシステムをスキャンモードから戦闘モードに切り替え、今度は逆に織斑一夏へと突撃していく。

 

「うぉおおおおっ!」

 

白式が瞬時加速。

接近するのは危険だが──それ以上に格納庫の中にいる方が不味いと訴えかけてくる。

一か八か。こちらもハイブーストし、交錯する一瞬にブーストチャージをかましてやる──ように見せかけ、ヴェンジェンスは両手の銃器を掃射した。

白式の判断は早く、ガトリングガンは展開装甲で受け、レーザーライフルは切り払う。

 

「があっ!?」

 

その雪片弐型を振り下ろした体勢目掛けて、今度こそブーストチャージ。だが、白式も刃を直ぐに翻し応戦した事に両者の攻撃はぶつかり合い、位置が入れ替わる。

 

(メインブースターがイカれたか!)

 

零落白夜を受けた事でアラートが鳴り響く。ヴェンジェンスのAPは今の一撃で一割近く減少し、さらに今度は背部の片方のメインブースターが機能を停止していた。

 

「一夏くん!」

 

ただ、白式もヴェンジェンスのブーストチャージを受けて無傷ではない。大きく後方に吹き飛び、格納庫の奥から現れたおぼしきミステリアス・レイディを操る楯無に支えられた。

 

(ミステリアス・レイディ……清き激情(クリア・パッション)か!)

 

自身の撤退の判断は間違いではなかった。ミステリアス・レイディの切り札の内の一つ、清き激情の発動条件はあの格納庫であれば整う。

密閉空間にあの水を充填し、水蒸気爆発を起こす。自分の防御力が落ちる分、威力は勿論高く──ヴェンジェンスでさえも喰らえばただではすまない。だが、未然に躱した。条件が厳しい以上、多用してくることはないだろう。

 

(どうする──)

 

だが、ブースターの出力が上がらないとなれば再び使用してくる可能性もある。今の内に外へと出たいが、動けば悟られる。

ガトリングガン──決め手に欠ける。レーザーライフル──零落白夜がある以上、弾かれる可能性が高い。

 

(──ダメだ)

 

過ぎったもう一つの手──RDは即座にこれを捨てる。使えば全てを片付けられるだろうが──あまりにもリスクが高過ぎる。

手が無いなら、打開する手ができるまでの時間を稼ぐ他ない。肩部からフラッシュロケット(UFR-23/R)を射出、同時にガトリングガンも発射。

 

「な、何!?」

 

「楯無さん!」

 

フラッシュロケットはミステリアス・レイディのガトリングガンによって叩き落とされるが、起爆。薄暗い通路に突如、現れた白い光に視界が灼かれる。

ガトリングガンの銃弾を防ぐのは難しいはずだが、HUDにHITの表示はない。声と既にいなくなっていることから察するにいち早く気が付いた織斑一夏が後退させたのだろう。

 

(クソ、今のうちに……!?)

 

背面からの感覚。ヴェンジェンスを横へスライド。一拍遅れて、ヘッドの横をレーザーが通り抜けていく。

 

「はああああああああっ!」

 

(追ってきた!?有利を捨ててでもいいっていうのか!)

 

後ろに方向転換すればいたのはブルー・ティアーズと紅椿。ブルー・ティアーズがスターライトmkIIIは神がかり的な腕前で先陣を切る紅椿に当てぬように、されどヴェンジェンスの行動を奪う。

援護を受けて紅椿は空裂を上段に、雨月を中段に構え突撃してくる──その刀身に展開装甲のエネルギーを纏わせて。

ヴェンジェンスの高い装甲。その能力が十全に発揮されるのは基本、物理攻撃に対してのみだ。熱エネルギーと爆発にはそれほど耐性がない。

ACの規格ではないISの物理攻撃なら被弾しても殆どは弾く。だが、爆発と熱エネルギーは装甲で減衰こそできても少なくないダメージが入ってしまう。特に一撃の威力が高いものであればそれは顕著に現れる。

零落白夜程ではないだろうが、そう何度も受けるわけにはいかない。

 

(やっとか!)

 

その祈りが届いたようにブースターがようやく機能を取り戻す。

だが、既に紅椿は眼前。2つの剣閃がヴェンジェンスのヘッドに迫る──

 

「何っ!?ぐうっ!?」

 

だが、ギリギリで動きを見切ったRDは僅かに機体を後ろに引くことで間一髪で回避。さらに流れるようにガトリングガンを至近距離で浴びせてやる。

紅椿は数発被弾したものの、直ぐに刀で正面を防御しつつ身体を反らせてダメージコントロール。ターンし、墜落を防ぐと同時にヴェンジェンスの追撃の手から逃れる。

 

(ここしかない)

 

追撃を逃れたのはヴェジェンスも同じだった。紅椿、白式が再び向かってこない間にこの通路を突っ切ろうとする。

 

「お待ちなさい!先程の借りはここで返上させていただきますわ!」

 

その正面に立ちはだかるのはブルー・ティアーズ。射程距離を完全に理解しているようで、引き撃ちのレーザーはこちらに届くが、こちらのレーザーは射程距離外だ。

当たらないなら撃つ必要はない。銃口から軌道を予測し、放たれる前に回避する。ただ、それでもブルー・ティアーズは射撃を止めない。

 

『エネルギー残り30%』

 

エネルギー切れの警告。ヴェンジェンスはすぐさま着地。そのままスライドへと移行しつつ、エネルギーの回復を待つ。

その時間こそがブルー・ティアーズ──セシリアの策だった。

 

「──この距離で避けられまして!?」

 

ヴェンジェンスの左右から突如、ミサイルが飛び出す。それは通路の物陰。そこに隠されていたミサイルビットから放たれたものだった。その狙いはヴェンジェンスではなく──その両手の武器。

セシリアは射程距離だけではなく、エネルギー切れすらも予測し、ヴェンジェンスを誘導していた。射撃の名手──いいや、それは最早、獲物の習性を理解した狩人の如く。

例え、ヴェンジェンスがリコンを設置していたのだとしても読めない、BT兵器だからこそできた完璧な奇襲にしてタイミング。

ヴェンジェンスは回避できず、その爆発に呑み込まれる。

 

「やりまし──」

 

立ち上る黒煙。だが、直ぐにそれを突っ切りヴェンジェンスは現れた──レーザーライフルをセシリアに合わせて。

 

「な、なぜですの!?きゃああああっ!?」

 

ヴェンジェンスはようやく射程距離内に入ったブルー・ティアーズにチャージしていたレーザーライフルのトリガーを引く。

束ね、凝縮された熱の一線。回避が間に合わないと悟ったブルー・ティアーズはすんでのところでビットを盾にする事で凌ぐも、ついには受け切る事ができず三門のビットを融解させ、セシリアの胴体を貫く。しかし、かいあって何とか踏みとどまることに成功する。

 

(──これで2機)

 

だが、その生存を許さない。その隙に回復したブーストで接近しつつ、ガトリングガンを連射。

辛く、持ち直そうとしたブルー・ティアーズは突如、現れた銃弾の波。狭い通路のため逃げ場がなく、ビットも破壊されてしまっていた。僅かに残っていたシールドエネルギーをあっという間に削り取られ、墜落。

RDはブルー・ティアーズが量子化したのを確認し、前進。戻ってきたアリーナの観客席を保護しているシャッターを踏み超え、IS学園の中に戻る。

 

(……危なかった)

 

先のミサイル。セシリアの作戦は実の所、成功していた。エネルギーが尽きる瞬間はACの隙。本体が倒せないならば、爆破による武器の無力化。

実に見事な手際だった。RDがブースターを停止させ、ブレーキをかけさえしなければ。

RDがミサイルの存在に気がつけたのは直感ではない。先までよりも一回り、ブルー・ティアーズが小さかったためと、露骨にBT兵器を使わなかったためだ。

何かある。そう予期したRDはセシリアの射程外に逃げるために、ブースターを停止した直後、機体の前方で2つのミサイルがぶつかり合った。結果、ヴェンジェンスこそ爆発に突っ込むことにはなったが、武装は無事だったというわけだ。

ただ、もしも。RDが気が付かなければ。彼らIS乗りは絶大なアドバンテージを得ていた可能性は高かっただろう。

 

(残り時間は20分弱──そろそろか)

 

RDはIS学園の中を駆け巡りつつ、連絡を取る。

 

「こちらRD。作戦の進捗はどうっすか。どうぞ」

 

『こちらエム。問題ない、順調に進行している。むしろ、セキュリティが相手にならないのが問題だ。どうぞ』

 

通信先はエム。銃声も、剣撃も、悲鳴も、聞こえない。あちらの作戦──訓練機である打鉄の強奪は上手くいっているようだ。

 

「こちらRD。そりゃ、よかったっすね。こっちもそろそろ撤退を開始するっす。どうぞ」

 

『こちらエム。進行を──』

 

「こちらRD。エム、応答するっす。エム……?エム!こちらRD!クロエ、スコール、オータム!クソっ!」

 

通信にノイズが入り、急に繋がらなくなる。何事かと何度も連絡しようとするが、結果は同じ。

 

(──!!!!!)

 

そして、同時にゾクリと背中に冷水──いいや、身の毛もよだつ恐怖を感じた。『ヤバい』、走行していたヴェンジェンスは即座に停止し、身構える。

そして、それと同時にソイツは現れた。

 

「──見つけたぞ、貴様がRDだな」

 

ソイツが纏っているISは打鉄。何の変哲もない量産機だ。

だと言うのに──オーラがまるで違う。専用機に比べて劣るはずの性能なのに、その人物から感じる危険度は白式の零落白夜以上。

後ろで一つに結んだ長く、黒い髪がどこからともなく吹いた風で大きく揺れる。

 

「うちの生徒達が随分と世話になったようだな」

 

凛とした佇まい。何処にも隙がない。

RDは目を見開いた。ブリーフィングで聞かされていた、篠ノ之束と対となるもう一つの伝説的な人物。

世界IS大会『モンド・グロッソ』の第一回優勝者。その者はIS乗りで最強の異名『ブリュンヒルデ』が与えられた。

 

(織斑、千冬──!!)

 

「礼だ──ここから帰れると思うな」

 

相対し、打鉄のブレード『葵』を構える織斑千冬。

そして、RDが瞬きした次の瞬間──ヴェンジェンスのヘッドは大きく揺さぶられていた。

 

 

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