「ほう──硬いな」
揺ぐ映像。その一撃の衝撃は候補生の攻撃の比では無かった。
(ヤバい、ヤバい、ヤバいヤバいヤバい──ヤバい!!!)
エネルギーを纏っているとか、刃に爆発物が仕込まれているとか、そういう小細工は一切無い。ただの鉄の板、なまくらなブレードで、担い手はただの訓練機。
ヴェンジェンスの装甲にはかすり傷しかつかなかったが──反面、APは減少していた。
寸勁と呼ばれる中国の武術がある。他の格闘技ではワンインチパンチとも呼ばれるそれは打撃自体ではなく、その衝撃を相手の内部で衝撃を炸裂させる技だ。ヴェンジェンスがダメージを受けた理由はまさにそれ。千冬は装甲を刀で斬る、のではなく威力を奥へと押し込むことで内部へとダメージを与えたのだ。
言うは易い。だが、それを実践の場に持ち込み、あまつさえ完璧以上に成功させてみせた。恐るべく極められた剣術。
だが──
(オレが戦う必要はない!)
自分の仕事は誘導。
「中々に面白い手を使う──だがな」
だが、再び大きく揺れるヘッドの映像。遅れて鳴り響くアラート。そして──遠ざかったはずの千冬の声。
「私には通じん」
音を置き去りにした神速の猛追。極限まで無駄を削ぎ落とし、ただひたすらに相手を倒すことに特化した戦闘。
捉えることすらできない斬撃の嵐はヴェンジェンスが逃げようとも追ってくる。
『機体がダメージを受けています 回避して下さい』
ヤバいのは分かっている。だが──そうは分かっても逃げることが出来ない。
逃げていてもこちらがジリ貧。RDは研究棟のような建物を蹴り、踵を返す。
空中ですれ違う千冬とヴェンジェンス。ここで先手を取ったのはヴェンジェンス。予め撃っておいたガトリングガンが千冬に注ぐ。だが、直ぐに千冬は小さな円を描いて打鉄を回転させて華麗にその弾の全てをスレスレで躱し──その頭上にガトリングガンによって支柱の鉄筋までもが砕かれ、崩れたコンクリートの建物が落ちてくる。
「フンっ!」
だが、千冬の判断は早い。葵を上へと振り上げることで、易々とその建物を砕き割る。
(そこ!)
刹那、RDは空いた胴を狙撃。迸った熱線が、千冬を呑み込む──寸前、千冬は剥き出された鉄筋を掴むことで建物を引き寄せ盾にする。
「なに──!」
それをRDは狙っていた。ブーストチャージ、それは千冬を狙ってでは無い。千冬が隠れた瓦礫と化した建物に、だ。
より重い機体の突撃を受け、砕かれつつ大きく彼方へと飛んでいく。
瞬間、RDはそこへガトリングガンを叩き込みながら、即座にグライドブースト。織斑千冬の射程距離から離脱する。
コレで倒せはしないだろうが、不利な戦いでは無くなるはず──!!!
「RDッ!」
(織斑一夏──!)
だが、その行方をもう一つの脅威、織斑の名を関する人物──一夏が阻む。
ここで、阻まれる訳にはいかない。白式に向け、ガトリングガンの照準をRDはすぐさま合わせる。
だが、その照準は次の瞬間にはあらぬ方向を向いていた。
「貴様には落ちてもらう、ここで!」
またもや、レーゲンのリボルバーカノンだった。弾かれてもなお、僅かな銃弾はウイング・スラスターに掠りはしたが、それでも突撃してくる一夏の速度は落ちない。白式はヴェンジェンスが一方的に狙える安全圏を突破、雪刀弐型から蒼い光刃が展開される。
立て続いた連携攻撃、そして千冬の連続攻撃。こちらにあれを受けられる程の余裕はもうない。
(狙うしかない──!)
ガトリングガンは間に合わない。
左手にマウントされていたレーザーライフル。零落白夜に当てたところでレーザーは切り裂かれてしまう。
ならば──狙うべきポイントは一つ。白式の性能は驚異的だ。だが、操縦者の一夏にはまだ動きに無駄が多く、また織斑千冬、篠ノ乃箒に剣の癖がよく似ていることからどこかの剣術をそのまま戦術のベースにしている可能性が高い。
よく狙え、動きを予測しろ。自分に言い聞かせるようにFCSのロックだけではなく、機体も動かし照準を狙うべき一点に合わせていく。
(ここだ──!)
「うおおおおおおおおっっっ!!!」
発射。それと同時に裂帛した雄叫びを上げて一夏は刃を振り下ろす。
果たして──その結果は。
「一夏!」
(掠っただけか……!)
白式の狙いを大きくズラし、回避には成功。だが、狙いが合わせきれなかったのか白式は地面スレスレで体勢を立て直し、空へと舞い上がる。
RDが狙ったのは、右足。武道の癖なのか前に出た右足を撃ち抜き、その衝撃で機体を回転、振り抜かれるはずだった本来の位置よりも速く振り下ろさせることで攻撃を無力化したのだ。
ただ、回避という目論見は達成こそしたが、この一撃で仮に白式を仕留めることができていたら戦況は好転していたはずだ。
RDは歯噛みしつつも、深追いする事なく互いに少し踏み込めば撃てるギリギリのラインに立つ。
「クソ、仕留めきれなかった!」
「慌てるな、馬鹿者」
「痛ァ!?……って、千冬姉!?」
「今は織斑──まぁ、いい。ボーディッヒ、状況は?」
互いに睨み合う距離。そこへやはりというかシールドがへしゃげた程度の損傷こそあれど無事だった千冬が合流する。
「はっ、教官……襲撃者の数は4。内、3人はIS搭乗者で現在、
「……そうか。よく凌いでくれた」
「織斑先生、生徒会長はあの兵器をアーマードコアって──」
「知っている。ヤツを学園内に侵入させてしまったのは私の責任だ。だが──私一人では手が足りん」
「それは……」
「あぁ、力を貸せ、小童共。ヤツをここで抑えるぞ」
一方──RDは手をこまねいていた。
千冬一人。それなら厳しいではあるだろうが、向こうのエネルギーも無限ではない。この距離であれば何とか逃走は可能だろう。
だが、火力の白式、高速機動の紅椿、優れた状況判断と射撃能力有するレーゲン、パワーの甲龍、彼らの機体まで加わるとなれば状況は芳しくない。
(!クソ──!)
だが、対策を練る時間は与えてくれない。後方にはレーゲン、正面からは甲龍、空からは紅椿、左右には白式と千冬。甲龍はヴェンジェンスに対して決定打に欠ける、紅椿は射程外、左右に展開した白式と千冬は接近しているが建物を盾にしているため遠回り。
ならば──
「私か!くっ!」
RDはまずレーゲンを狙う。レーザーライフルで、カノンの構えを崩す。
レーゲンはすぐさま建物の裏へ退避、追撃を逃れる。
そうなると甲龍が空くが、RDはこれを無視。その場で跳躍し、狙ったのは──白式。千冬から離れるように回り込みながらガトリングガンで面を制圧する。
狙われたと分かった白式は、ヴェンジェンスのガトリングガンの照準が追いつかない高速で飛行することで躱す。
「──余所見をしたな」
(!?)
──何故。
RDは機体が大きく震えたと同時にそれを理解した。
(甲龍か!)
甲龍は近距離型のIS。他のISに比べてパワーが高く、それを活かし即席のカタパルトとして千冬を射出。一瞬で射程距離に到達したのだ。
(そう、何度も食らえるかよ!)
ヴェンジェンスは通過し、再びスラスターを熟れた手際で操り反転してきた千冬にあえてハイブースト。すれ違いざまの一撃こそ命中するものの、更なる攻撃を避ける。
「取ったっ!」
だが、白式は目を離した隙にヴェンジェンスへと迫っていた。しかしそれは想定の範囲内。既に駆動していたガトリングガンを放とうとして──突如、その動作が停止した。
「ぐぅぅぅぅああああっ!」
レーゲンのカノンの砲身が無理矢理ガトリングの銃身にねじ込まれていた。RDはハイブーストで振って振りほどこうとするが、レーゲンはさらにワイヤーブレードを絡ませ、決して離れようとしない。
──不味い。
「──今だ!やれええっ!」
「うぉぉおおおおおおおっっっっ!」
苦し紛れのレーザーライフルも切り伏せ、白式が迫る。ブーストチャージも間に合わない。
──不味い!
先からの攻撃のダメージは全て斬ることによって受けたもの。だが──突き刺されれば。
一夏の狙いは、ヴェンジェンスのコア。その中には──自分がいる。
(こんなところで──オレは……!)
しかし──もう打つ手はない。ヘッドのカメラ映像が蒼い光に満ちてゆに──そして。
「な──!」
雪片弐型が空に舞った。現れた黒いその人物は続けざまに白式とレーゲンを一振で叩き落とし、ゆっくりとヴェンジェンスへと振り向いた。
「──ご無事ですか、RD様」
流れる銀の髪、握られた銀の剣、ゴシックロリータの服のような機体。
『クロ、エ。どうしてここに、向こうは』
「連絡が途絶えましたので、救援に。現場指揮の私の判断です。それより撤退準備を。援護致します」
そう言うが早いか、突如として現れRDの危機を救ったクロエは銀の剣を構え、あの紅椿の速度よりも速く、空へと駆けた。
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