RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 16

「貴様──!」

 

飛び上がったクロエをすぐさま追うのは紅椿。

 

「篠ノ乃束博士の妹様ですか。なるほど、良い機体を与えられたのですね」

 

「くっ!」

 

八の字を描いてぶつかり合う紅と黒。その主導権を握るのはクロエだ。

紅椿から放たれるビームの刃とレーザー。それを一切の速度を落とすことなく、小さく一回転で通り抜けるクロエ。既存のISとは違う容貌も相まってか、その戦い方はまるで演舞のように華麗だった。

 

「止めたか、やるな」

 

「あなたは──織斑千冬」

 

その舞を破ったのは、千冬。葵の厚い刀身とクロエの黒鍵のブレード──エストックが僅かに拮抗。押し切ろうとする千冬の太刀筋を、クロエはエストックを握る力を僅かに緩めることで流す。

だが、千冬はそれでは終わらない。すぐさま、クロエの刃を打ち払うべく切り返す。対して、クロエも驚異的な反射でその鋒を刺突。耳を覆いたくなる不協和音が響いた後に、クロエは打鉄の浮遊する装甲を踏み台に僅かに距離を離す。

 

「技量も中々。反射能力と情報処理能力は桁外れ──だが関心はせんな」

 

「……」

 

「それは遺伝子強化強化と神経をケーブルに置き換え、ISコアと肉体を直接接続しているからこその動きなのだろう?アイツから聞いている。強化された肉体だから──いや、そうであってもいつ、脳が焼ききれていてもおかしくないと──」

 

「……お心遣いは感謝致します。ですがそれは、ブリュンヒルデ 、あなたには関係のないこと!」

 

クロエはエストックを胸の前で構え、千冬を狙い──その直前で機敏に左に構えていた紅椿へと突撃。虚を突かれた紅椿は、遅れて空裂を構えるが僅かに間に合わない。

 

「これも、止めるのですね……!」

 

だが、エストックは飛んできたブレードに弾かれた。

視界の端に映るのは投擲の体勢はそのままに拡張領域から更なる葵を呼びしつつ、踏み込みに切り替えた千冬。クロエは弾かれた勢いを回転斬りに応用することで紅椿に一撃与えることには成功するものの、それ以上は何もせずに翻って後退する。

 

「篠ノ乃!」

 

だが、その後退は千冬を警戒してでは無い。

地上より空へと駆ける一条の光線。虎視眈々と狙われていた一撃が衝撃で受身を取ったばかりの紅椿を穿つ。

 

「箒!」

 

「い、一夏!」

 

そこへ割り込んだのは白い翼、白式。零落白夜でレーザーを2つにしつつ、紅椿を抱え、飛び去ろうとする。

 

「逃しません」

 

「うあっ!?」

 

だが、レーザーの光の後ろに隠れていたクロエが白式の右足を掴む。

ミシリ、と直ぐに金属の軋む音。先の狙撃で白式の装甲は半壊していたのはいえ、一夏から見ればそれは悪夢のような光景だったかもしれない。ただの華奢な少女の素手がISの皮膜装甲を突き破り、白式の装甲を次々と引き剥がしていくのは。

 

「一夏!……ちっ!」

 

千冬はそこへ駆けつけようとするが、その行く手を鉄の嵐が阻む。

千冬は空中で銃弾の雨を潜り抜けようとするが、少しずつガトリングの弾は一夏達へと近付いていく。しかも、クロエはエストックを羽交い締めの要領で紅椿へと突き立てることで逃げられないようにし、白式と紅椿をガトリングガンの正面へと向けていた。

 

「小癪な!」

 

千冬は急旋回し、狙いをヴェンジェンスへと変更。

当然、そうなることはRDも予測していた──だからこそ、ヴェンジェンスの照準はそのまま一夏達に向けたままにする。

千冬は当然、照準を変えるべくブレードを構える。ヴェンジェンスはそれと同時にブースト。千冬ではなく、クロエの方へと接近していく。

 

「な、アイツ!」

 

その狙いに真っ先に気が付いたのは、クロエを引き剥がそうと龍咆を撃っていた甲龍。遅れて、千冬、一夏、箒もその意図に気が付いた。

 

(これで!)

 

ヴェンジェンスの出せる最大速度、加えて向かってくるクロエの速度。その衝突が生み出すであろう破壊力は、想像に難くない。

白式、紅椿は展開装甲とPICの操作を用いて脱出しようとする。しかし、クロエは動体視力と情報処理能力、さらに加わったハイパーセンサーにより致命傷のみを的確に回避。そして、素早くエストックを引き抜き、ヴェンジェンスがハイブーストした瞬間、2機を差し出す。

体勢を立て直す時間はない。最大威力のブーストチャージの会心の一撃。

 

「ああ──もう!仕方ないわね!」

 

衝撃、破砕の手応えあり。

だが──ヴェンジェンスが捉えたのは白式でも紅椿でもなく、甲龍。モニターを確認すれば、なんということかヴェンジェンスが僅かに上へと持ち上げられていた。

 

(まさか!?)

 

「……バーカ、ぼーっと、してんじゃ、ない、わよ……」

 

「鈴っっっっっっ!」

 

──甲龍撃破。

だが、そうでは無い。あのブーストチャージを甲龍一機のパワーで逸らされた。近距離型とは聞いていたが、ここに来てそれが活かされるとは。

白式と紅椿をまとめて落とすRDとクロエの目論見は失敗。再び、彼らの前に排除しきれなかった脅威が立ち塞がる。

 

「申し訳ございません、RD様。仕留め損ねました」

 

『向こうが避けたんだ。流石、候補生か』

 

「それでRD様、通信の方は」

 

『近距離での通信はともかく、遠距離はまだ回復してないっすね』

 

「私も通信不可能です。ですが、作戦終了はもう間もなく。戦力は削りました。頃合です、ポイントに移動を」

 

『分かってるっすよ……でも』

 

RDは遠方で出方を伺っている4機のISを見遣る。

 

『アイツらが逃がしてくれるとは思えないっす。ヤバい感覚が肩にのしかかっているような、そんな感じがするっす』

 

「……分かりました」

 

『クロエ?』

 

「一つ、奥の手を使います。それであの4機のISを食い止めますので、RD様はその間に撤退を」

 

クロエはヴェンジェンスの前に立ち、エストックを改めて構え直す。

だが──

 

『む、無茶っすよ!1人じゃ勝てっこない!』

 

「勝つ?いいえ、食い止めるだけです」

 

『でも!』

 

「大丈夫です。任務は必ず遂行します」

 

クロエは話は終わりだ、そう言外にRDに伝えるようにエストックを振るい、()()()姿()を解放する。

立ち上る焔。大気を大きく歪ませ、クロエ自身すらも焼き付くしてしまいそうな程の灼熱が辺り一体に撒き散らされ、そして次第に刀身にまとわりつくように凝縮されていく。

 

『……あぁ!もう、どうなっても知らないすからね!』

 

「ええ、後で落ち合いましょう」

 

RDは撤退を決意。肩部のフラッシュロケットをありったけ射出し、戦場から遠ざかる。

ふと、後方を振り返れば宣言通り、クロエが炎を纏った剣でIS乗り達を食い止めており、その実力は一見、拮抗しているように見えた。

 

(そんなわけあるものか!)

 

だが、どうしようもなくRDには分かる。

クロエは勝てない。良くて白式、レーゲン、紅椿。だが──あの化物、織斑千冬には勝てない。

 

「……クソっ!オレには関係ない!」

 

そうだ、忘れていた。自分はこれでいい。そうやって生きていた。

でも──

 

(どうして、今)

 

引っかかった。何故故に自分がクロエの心配などしたのかと。

他人の心配など、自分らしくもない。

 

(……オレが優先、そういう約束だ)

 

借りは返すと言った。だが、それはあくまでも自分の命の次。

あの場所は危険だ、APから考えても自分の命の保証はない。

 

(……)

 

だから、RDは──

 

 

「何故、貴様は祖国に背いた!何故、亡国企業などという混乱の種に加担する!?」

 

「……あなたには分からないわ」

 

「くっ!」

 

「ラウラ、下がれ!」

 

プラズマ手刀で競り合っていたレーゲンの横を機体の何倍もの大きさの炎が通り過ぎていく。

クロエが手にしていたのは最早、剣とは呼べぬ代物だった。火柱

──いいや、巨大なバーナー。一振するだけで、広範囲を焼き、近づく全てを溶かす。

レーゲンの右腕は既に溶解、頼みのリボルバーカノンも砲身が歪んでしまっており発砲すれば暴発は免れないだろう。

ラウラはそれでもクロエに突撃した。生まれは同じ、だと言うのに辿る道は全くの逆、その理由を問いただす、ただそのために。

 

「何で、こんな事を!?大量に破壊をして、その結果、世界がどうなるのか分からないのかよ!?」

 

ラウラに変わって叫ぶ一夏。抜刀した零落白夜が焔を切り裂き、本体のエストックとぶつかり合う。

人の道と書いて人道、その道を往き、人の幸福の安寧の道を願う少年の声にクロエは冷淡に返す。

 

「報復、復讐、禍根。ええ、そこには人のおぞましい欲望によってさらなる暴力を求める武力社会が形成されるのでしょう」

 

「そこまで分かっているならどうして!」

 

「信念を貫く者に報復の力を、弱き者に復讐の力を、いがみ合う因縁のために禍根を終わらせる力を、我々のビジネスは常に戦乱と共にある。所詮、平和を生むのは暴力だけ」

 

「違う!」

 

一夏はクロエの腕を掴んで無理やり、鍔迫り合いに持ち込み、さらにその上で瞬時加速。クロエをビルの壁面へと追い込み、クロエの動きを制限する。

 

「それはみんなが暴力に怯えて、心が貧しくなっているだけだ!言葉で平和をうたっても、心に平穏がない!」

 

「左様ですか。では、あなたはどうすると?」

 

「俺は、俺は──!」

 

一夏はクロエの胴体に荷電粒子砲『月穿』を向ける。いくら一夏が射撃武器が苦手と言えど、この距離ならば外さない。

 

「──そんな世界ではないから、私のような存在がいるのです」

 

「!?」

 

クロエは壁面を蹴りつけ、鍔迫り合いから離脱。そして、空中で体を捩り、刃を回転させる。

一夏は直ぐに零落白夜で炎を無力化し離れるも、掠ったようで荷電粒子砲の表面は溶け落ちていた。

 

「一夏、相手にするな!」

 

「分かってる。分かってるんだけどさ……なんて言うか……悲しい──」

 

「──口を閉じなさい」

 

一夏が絞り出そうとした声は冷たい声に上書きされる。

 

「あなたの理想は分かりました。だが、こちらにも叶えたい野望がある。2つが分かり合えないなら、戦い、どちらかが滅びるしかない。同情は不要。ただ、それだけの話です」

 

「違う……!それだけじゃない!そんな戦って押さえ付けるだけがやり方じゃない!」

 

「ならば、そのやり方とやら、証明してみせてもらいましょうか。今、ここで──」

 

黒鍵の出力を上昇。一気に流れ込んできた膨大な情報量に視界が一瞬、揺らぐが問題ないとクロエは判断。

さらに規模を増した業火を纏った剣で全てを焼き払うべく、飛翔する。

 

作戦時間終了まで──後5分。

 

 

 

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