RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 01

──目が覚めるとそこは暗闇だった。

 

「──……オレは…」

 

途端に走る頭にハンマーで殴りつけられたようか頭痛。それが起点となって手足の関節や、胃が痛んだ。最悪な目覚めだ。しかし、それは逆にRDをボヤけていた意識から覚醒させることに繋がった。

 

「オレは確か───ッッッッ!オェ"エ"ェ"エ"エ"!!!」

 

そして、記憶を遡るまでもなく思い出した。思い出してしまったというべきか。

その瞬間、体感では一瞬前のあの死が訪れる恐怖感が体を襲い、腹の底からせり上がってくる激しい吐き気にたまらず胃液を吐き出してしまう。

忘れたくても忘れられない、あの熱さ、痛み、恐怖。

 

「ハァ…ハァ…ぁっ…あぁ…ああ、そうだ、オレは。オレは、あのAC(アイツ)に間違いなく殺されたはずじゃ──」

 

あの爆発の衝撃、爆炎によって焼かれる身の感覚、あのACが佇む姿、そして──死の感覚。どれも記憶にも、心にも鮮明に焼き付けられている。あれが夢であるはずがない。だからこそ、生きていられるはずなかった。

 

「──でも、今。オレは生きている。」

 

その事態にただただ困惑するしかない。

しかし、それは紛れもない事実だ。手も脚もしっかり動く。体を触ってみても、火傷のような傷の感触すらない。それどころか、パイロットスーツも損傷していない、完全な『無傷』。それは決してありえない。仮に本当にマグレで爆発によってコックピットだけ吹き飛んで、地面に放置されて生きていたのだとしても、衝撃によるムチウチもない、火傷もない、パイロットスーツも損傷してない、そんなことは決して有り得ない。

いや、そうなのだとしても、爆発が侵入しているほど破損しているはずのコックピットだ。一筋の光も入っていないというのはあまりにも異常だ。

 

「──じゃあ、座っているこの場所は……」

 

口をズボンのポケットから取り出したハンカチで拭きながら、周りを確認する。一筋の光もない真っ暗闇。よって、視覚ではなにも情報は得ることは出来ない。

 

「……嘘だ。信じられない。」

 

だが、RDは周りを一通り探った手の感覚がこれが一体何なのかを教えてくれる。だが、『ソレ』は決して有り得ないものだった。

 

「……信じられないが。でも、この感覚は間違いない。コイツは──AC(ヴェンジェンス)……」

 

そんなはずないと、心は否定している。

なにせ、機体はアイツからの攻撃と自身の奥の手であるOWの反動によって再起動なんて考えられない程に大破したはずだからだ。

だが、姐さん (ロザリィ)の元で積んだヘリの操縦士の経験と、僅かだとはいえ搭乗した感覚が、この座っているモノがACだと言ってやまないのだ。

 

「──確かめるには一つしかない」

 

そう、ACであれば単純に起動すればいい。起動出来れば、ヘッドパーツに取り付けられたカメラによって今の現状を確認することが出来る。反対に起動することが出来なければ、人力でコックピットのハッチは開けられないため、その時点で詰み。

 

RDは一か八かACを起動させようと感覚で覚えているコンソールに右手を伸ばし──起動を躊躇った。

 

「……っ」

 

もし、起動させた瞬間、目の前にアイツがいたら。

 

そう、考えてしまった。

 

「……っ…っ」

 

あの迫り来るような恐怖感は今は感じない。

でも、もし。もしアイツがいたのならば。オレはあの時感じた恐怖感以上の恐怖感に襲われる。いや、それだけでない。もう、二度と体感したくない、あの死の感覚を味わうことになるというのは想像にかたくない。

 

「…オレは、もう…あんなのはゴメンだ…」

 

手が恐怖で震えてくる。吐き気が巻き返してくる。悪寒が止まらない。冷や汗も止まらない。恐怖が臨界点を超えて、大粒の涙がとめどなく奥から溢れる。

 

「…うっ…くっ…」

 

つい、少し前まで簡単に手が届いたコンソールがあまりにも遠くに感じた。企業の連中は平気で味方を撃ち殺すようなやつだ。少なくともオレは捨て駒程度にしか思われていないだろう。そんなヤツらが助けになど来るだろうか?いや、来るはずがない。

ましてや仲間(レジスタンス)は裏切ったオレを許しなどしないだろう。

 

──つまり、もう自分には既に行くアテなどない。

 

そんなこと知っていたはずなのに、何故かそれが悲しい。何故、悲しいのか分からない。分からないが、悲しかった。

 

「でも、オレを癒せるのはオレだけなんだ…」

 

感情が零れる。

自分の能力によって死が常に隣り合わせにあると感じる人など会えなかった、いなかった。故に、一人だろうが複数人だろうが、この感情に変わりはない。この孤独の感覚を共感し、癒せる人間など、この先もきっといないのだから。

 

しかし、結果としてその吐露が皮切りとなって、RDは一頻り泣いた。

暗く、狭いコックピットの中で小さくなって啜り泣いた。恐怖によってなのか、悲しさによってなのかは分からないが泣いた。小さなコックピットでは自分の嗚咽がよく反響して聞こえたが、システムが起動していない以上、拡声マイクや通信によって声が漏れることは無い。

だが、だからと言って、何時までも閉じこもって泣いてばかりでは、事態は進まないとRD自身も理解している。それでも、一回死んで滅茶苦茶になってしまった感情を落ち着かせる時間が必要なのな。

そう自分に言い聞かせるように泣いて、泣き続けて──その涙が枯れた時、RDの意思は揺らぎながらも決まった。

 

 

「……ヤバい感じは今はしない。」

 

「でも、アイツじゃなくたっても何があるか分からない。出たとこ勝負…それに賭けるしかない。……まるで姐さんみたいだな」

 

もう面向かって姐さんとは言えないロザリィの顔を思い浮かべながら、コンソールに今度こそ、その手を伸ばした。

もちろん起動してくれと思っていた。反面、起動しなければしばらくは安全だという思いもあった。どれだけ意志を固めるほどあのACは今、恐ろしくてたまらない。アレを倒せると意気込んでいたのならまだしも怯える今の自分なぞ、相手にもならない。

そう分かっていても、そうなるのだとしても。それでも、RDはACを起動させることを選んだ。常に危険を避けようと引くことを考えていたRDは、前に進んだ。否、進むしかなかった。なにせ、もう後ろに引ける居場所はないのだから。

 

「───」

 

──そして運命の審判は下った。

 

 

 

 

 

 

[MAIN SYSTEM ENGAGED]

 

 

 

 

『おはようございます』

 

 

『メインシステム パイロットデータの認証を開始します』

 

 

『メインシステム 通常モードを起動しました』

 

『これより作戦行動を再開 あなたの帰還を歓迎します』

 

 

「───ッ──マジかよ…」

 

ACは起動した。RDの賭けの最初は勝ちだった。

女性オペレーターをイメージしたノイズのない機械音声がメインシステムが起動したことを告げると同時に、ブン、とコックピットに照明が灯る。

 

(──でも、ボケている時間はない)

 

驚愕など、している時間はない。もしレジスタンスかもしくは敵になりえる存在が近くにいるのだとしたら、メインシステムが起動したことに勘づかれた時点でこのなぜか生きている時間も終わるだろう。

その光を頼りにコックピットを素早く、そしてくまなく見渡し、確認する。操縦桿に、ペダルに、コンソール、そしてディスプレイ。ありとあらゆる場所を確認して──直ぐにRDは、本来このコックピットに無くてはならないモノが見当たらないことに気付く。

 

(……?おかしい…)

 

 

「──損傷がない…?」

 

 

あれだけ激しい爆発と衝撃があったのにも関わらず、コックピットの内部には損傷したようなものは一つもなかった。いや、それだけではない。左右2つに取り付けられた操縦桿には埃が被っていて、握られた痕跡すらなかった。

 

(まさか…!?)

 

そんなまさか。有り得ない話だ。

RDは自身の思考が辿り着いた有り得ない答えを否定する。だが、その可能性しかどうしても有り得ない、いや、それ以外に説明の仕様がない。RDは弾かれるようにコンソールを操作し、機体をスキャンする。そして数秒後、スキャンが完了した機体のコンディションと搭載されている武装が表示された。

 

──そのRDの予想は的中していた。

 

(…コイツは確かにヴェンジェンスだが…だがこれはアイツと戦う前の…)

 

機体名 ヴェンジェンス。

その下には機体のステータスのパラメーターの羅列が並んだがどれもオールグリーン(異常なし)。ヘッドも、コアにも、レッグにも、パージしたはずのレフトアームにも、どこにもまるで戦いなどなかったかのように損傷はなく、電気系統にも熱暴走によるショート一つない。それどころか、確かに撃ったはずの弾も1発消費されていなかった。

そして──使用すれば大破するまで止まらない、まさに決死兵器と言えるOWも当然のように使用可能(グリーン)と表示されていた。

 

あれだけ、大破し火も爆発も起こっていたのに損傷なし。それどころか弾も満タン。

誰かが直したのかもしれないが、それでは自分がコックピットにいる理由に説明がつかない。

 

そう、ならば考えられる可能性はたった一つ。

 

「時間が戻ってるのか…?いや、はは…はははは。そんな、まさか。」

 

あまりにも飛躍した考えに腰の力が抜けて、コックピットに落ちるように座り込んでしまう。

とんでもなく非現実的な話だ。時が戻るなど、妄想の産物でしかない。理論は確立していようとも、成功した実験結果など聞いたことも無い。だからこそ、笑う。馬鹿げていると。

 

しかし、どう考えても方法はそれ以外にしか思えなかった。

 

(いや…そもそも。時が戻っているなら、ここはシティのはずだ…)

 

(なのに、あまりにも静か過ぎる…)

 

そう、シティだというなら砲声や爆発の一つが聞こえないのはありえない。RDはそのことをよく知っていたが、恐怖がそんな些細なことを忘れさせていた。

仮に時間が戻っているのであれば、ヴェンジェンスの装備から、既に自分はシティの激戦区にいるはずだった。その時、ある程度の遮音性を備えたコックピット内にも確かに戦の音が響いていたことを覚えている。

 

(なにより、起動したというのに企業の連中からの"指示"を受信していないのもおかしい。)

 

「はは……もう───自分の目で確かめるしかないってことかよ……」

 

メインシステムは現在、通常モード。

本来は司令からの指令がある場合は通常モードであっても戦闘モード同様カメラが起動するように設計されている。しかし、現在この機体は本来の通常モード──所謂、メンテナンスモードで起動している。それはつまり、本来いるはずの司令(企業)が存在していない、もしくは通信圏外ということだ。

全くを持って何が起きているか、分からない。異常な事態が多すぎて分からないことだらけで頭がオーバーフローしそうだ。その頭で今、完全に理解できているのは事態を解決するには確認する以上に有効な手立てはないということだけ。

 

ならば──

 

「スー、フゥー…──行くぞ、ヴェンジェンス」

 

RDは大きく深呼吸。そしてコンソールを操作し、メインシステムを強制的に戦闘モードへと変更する。もう、引き返せない。もし、アイツがそこに立っていたのだとしても、目を背けることは出来ない。身構える、その戦闘モードが起動する瞬間を。

 

コックピット内の照明が全て落ち、そして直ぐに機体のジェネレーターが起動する。機体がその起動によって胎動するように揺れた。各種センサーも次第に起動し、ディスプレイにパラメーターが表示された。そして──

 

 

 

 

 

 

 

『メインシステム 戦闘モードを起動します』

 

 

 

 

 

──起動したカメラによって、外の世界が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、生唾を飲んでいたRDはただ、ただ驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

「これは全部──砂…?」

 

自分の過大な妄想に反してカメラは砂しか捉えていなかった。逆に言えば、砂以外を捉えていなかった。つまり、それが意味していたのは──

 

 

 

 

 

「!まさか、ここは砂の中──!?」

 

 

そう、ヴェンジェンスは──砂漠に埋まっていたのだった。




通常モードと戦闘モードの切り替えはゲーム中の描写から予測して書きました。

後、RDの荒れ?口調が不安なのでなにかご意見があればお願いします。

※2018/11/30 頂いた修正案を元に一部の描写の修正を行いました。

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