──こんな夢を見た。
私はまたACに乗っている。コックピットのモニターに映される腕は白──あの、ACだ。
(また……)
ぞくりと身体が震えた。あの屍の大地、吐き出された自分、そして迫るAC。嫌悪感でまた吐き気が襲ってくるが、吐けない。身体が言うことをてんで聞かない。その光景から目を離すな、そういうようだった。
ACは海上施設のような場所で戦闘を繰り広げていた。先も見た盾付の兵器に、それからレーザーで照準を合わせ狙撃してくる四脚の兵器。
何れも相手にならない。容易く撃破したACはトンネルへと突き進んでいく。
(これは……列車?)
その暗闇より走り出したのは2両の装甲列車。だが、その装甲に反して大した武装はないようで一方的にACの攻撃が列車に突き刺さっていき、あっという間に大破。
しかし、それはただの前哨戦に過ぎなかった。
(AC……)
次に現れたのはAC。軽い身のこなしが特徴のようで、狭いトンネルを右へ、左へ、それから跳躍と、ACを翻弄するように動き回る。
だが、それも一瞬。この主観のACの蹴りの一つで大きくよろめき、その隙に赤い炎で焼き切られた。すぐさまACは制御を失い、壁に衝突、機体がバラバラになり、沈黙した。
(え)
私はそこで気が付いた。ACの右手に握られたブレードのその炎は。
「……私の、剣……」
形はエストックではない。どちらかと言えば、先の四角いマチェットが近い。
だけれどその今、敵を焼いたその炎の光は──紛れもなく、私の奥の手の炎。
(どうして、あなたが……)
思わず、手を伸ばす。
だけど、届かない。その途端また視点が切り替わった。
ACはまた、装甲列車と戦っていた。だが、今度の装甲列車は尋常ではなかった。機関銃、ミサイル。ここに近づこうものならマッハで蜂の巣にされることが目に見える武装の数々。加えて取り囲むビルの上には先に見かけた四脚の狙撃手。それらが狙う矛先はたったの一機、このAC。
そう、このACに味方はいない。孤軍奮戦──果たして軍と呼べるのかはさておいて──このACはそれでも戦っていた。
しかし、戦いは無情にも一方的だった。
(……恐ろしい)
ACが圧倒するという展開で。蹂躙と言っても良かった。
特別高い性能をACが有している訳でもない。武器が他と比較して優れているわけでもない。ただただ圧倒的に不利なはずなのに、その持ち前の技量で全てを返してしまう。
生き抜き、勝つ為に洗練され、無慈悲なまでの殺戮の極地。呆けている間にも、列車は機関車を穿たれ、大破。
だが、このACはそれを確認し、すぐさま次なる目標へと向かう。
(なに!?)
そして、しばらくした時、急にACが揺れた。続いて、視界を埋め尽くす程の爆発。その隙間に見えたのら青い残光。爆発が収まり、そこに見えたのはまるでヘビのようにうねる軌道を描く、大量のミサイルだった。ACはそのミサイルを撒きつつ、大元と思しき地面に突き刺さったミサイルを破壊し、都市部から逃げるように鉄橋を渡っていく。
(一体、何が──)
『あ、もしもーし。聞こえてる?そろそろ、時間だからさ。また今度ね!』
突如、聞こえた知らない男の声。私は振り返ろうとして──あの日、『あの怪物』が放った青い光に呑み込まれ、意識を失った。
■
「うぅ……あっ……ここは」
「……気がついたっすか」
「……RD、様?」
ゆっくりと体を起こそうとして、酷い頭痛と眩暈。思わず、クロエは手で頭を抱える。
「……あれだけやったんだ。しばらくは脳のダメージ回復を優先させないと動くのは無理っすよ」
そう言って、RDが取り出しクロエに読み上げたのは一枚のメモ。それはクロエのポッドに貼られていたもので、そこには小さな文字──エムの筆記でクロエの容態が簡易的に記されていた。
「そう、ですか。ところで、ここは」
「新しいベースっすよ……はぁ」
「新しい、ベース……?」
そう言われ、一瞬瞳を開けて見回してるみると、明らかに内装が違うことにクロエは気が付いた。
自身が寝ているベッドは作りの悪い、硬いベッドで、この部屋はプレハブ。また、ガラス越しに見える外は設備が揃っていた前のベースと違い、荒っぽくくり抜いた洞穴に意味があるのか分からない、鉄骨を差し込んだだけの洞窟。その中央にはキズだらけのヴェンジェンスが跪いており、その傍にはACのパーツが入っているコンテナが乱雑に転がっていた。
「あれは……」
「ヴェンジェンス”には”触れない。そういう契約だったと言って、前のベースから連中がここに運んできたらしいっすね」
「一体、なんのために……」
「さぁね。アイツらの意図なんかオレには読めないっすよ」
ぶっきらぼうにRDは答える。
「RD様……何かございましたか」
「……何もないっすよ」
「嘘、ですね。RD様は今、怯えていらっしゃいます」
「アンタに何が分かるって言うんだ」
「心拍数、呼吸に、足踏み──それ以上に、RD様のその語気。まるで。まるで……篠ノ之束博士と初めて邂逅した時と同じ反応です」
「……っ」
RDは息を飲んで、途端に静かになる。
だけれども、目を閉じていようとクロエには分かる。RDが自分に背を見せて俯いている事、それからホルスターの拳銃に手をかけていることも。
でも、クロエは動かない。掛け布団をきゅっ、と掴んで彼の言葉を待つ。
「……アンタは……アンタはどこまで知ってたんすか」
一分たった頃、ついにRDは重い口を開いた。
「……RD様が前線で専用機持ち達に囲まれることはスコール様を通じて存じておりました」
「ああ……結局、アンタもグルだったわけか」
「……返す言葉もありません」
「そういう薄っぺらいのはいいんすよ。言葉の重みなんて、所詮その場だけだ。どうせ、軽くなる。それに……騙された方が悪い」
弁明しようとなんてクロエは思っていない。何せ、彼女は初めから知っていた。
──この事はくれぐれも内密に。
ブリーフィングが始まる前。スコールから送られてきた作戦でRDが
彼は非常に勘の冴えた臆病者。だから、逃げられないようにするために作戦の内容は伝えても、詳細は伝えない。
確かに専用機とそのパイロットの情報は与えた。その結果、撃破にも成功した。だが、RDにはそこに専用機持ちが固まっているということは伝えられていなかった。それはつまるところ、対応に追いつく前に大破する危険性が多分に含まれていたということ。
「RD様──」
「──でもね」
それを伝えようとして、RDが遮る。
「騙されたからって、おめおめとその結果を受け入れるわけじゃない……アンタはどうする」
「どうする、とは」
「今の内なら、復讐の芽を摘めると言ってるんだ」
復讐──それが何に対してのものなのかは考えるまでもない。
RDは近い将来、必ず亡国機業に対して牙を向く。そう、宣言した。
ただし、今なら止められる。その宣言を聞いたクロエなら、不調であろうと即座にISを展開すればRDの首を跳ね飛ばす程度、容易い。
「……どうもしませんよ。私も私のためにRD様が必要ですから」
だが、クロエはその選択を取らなかった。
「なら、アンタはこれからも死地に行けって命令する。そういうことでいいんだな」
「えぇ……ええ、そうです。RD様が成し遂げたい復讐があるように、私にも成し遂げたい復讐がある。それまでは死ねない。だから──あなたを利用して、私は生きる。それと同じようにあなたも私を利用して生きればいい……あなたが仰られていたように。今は、それで手打ちにしませんか」
「……そうっすか」
RDは、クロエに背を向けたまま立ち上がる。
「……動けるようになったら声かけて欲しいっす。やることあるんで」
そして、何もその言葉に対しては返すことなく、プレハブの外へと覚束無い足取りで出ていった。
「RD様──私は」
あなたに聞きたいことがあるのです。
そう、ずっと口に出したかった言葉。だが、それは行き場を失い、ついには深く、呑み込むしかなかった。