RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 20

ACのメンテナンス、触られたACのパーツを全ての確認、コンテナを一つ空にし、その中を居住できるようにするなどの作業が終わり、一息つけたのは1ヶ月後。

 

「RD様、紅茶を淹れますがお飲みなりますか?」

 

「じゃあ、もらうっす」

 

──あれから、RDとクロエの関係に何か大きな変化があったかと問われれば、そのようなことはない。

ただし、信頼関係に関しては強くなったと言える。互いが、互いを利用し合い生き長らえる。人情とか、契約とか、そんな表面上だけであやふやなものよりも、本能的な欲求を理由にしたことにより、互いに裏切るメリットが無くなったためだ。

 

「RD様、明日は一昨日伝えたようにISの精密検査に一度行って参ります」

 

「あぁ、精密検査……今まで、そんなのしてたんすか?」

 

「いえ、過去に一度だけです。ただ前回、過度な負荷をかけてしまったので一度、チェックしたいとのことで。検査自体は直ぐに終わるそうなので、即日に帰れるとは思うのですが。ただ──」

 

「篠ノ之束っすね」

 

「えぇ。この1ヶ月、有り得ないほどに静かでしたから」

 

そう、この1ヶ月、RD達の身にはなんの危険も、それどころか毎日のようにあった『ヤバい』感覚の一つすら無かった。

明らかな準備、或いは隙を伺っているのか。何れにせよ、クロエがいなくなり一人になってしまうという状況は非常に危険な状況ではあった。

 

「念のため、明日はヴェンジェンスのコックピットに乗り込んでおくっす」

 

「かしこまりました。帰投する際にはまた連絡いたします」

 

ずずっ、とRDとクロエはお互いにドス黒い紅茶を飲む。茶葉はアールグレイ。互いに眉一つ変えていないが、部屋には異様に焦げ臭い匂いが漂っており、なおかつ味は日本のセンブリ茶など優に超えた苦さをしている。

クロエ自身は不味いと思っているが、RDが顔色一つ変えないのでこの味が好みだと思っている。が、それは完全に勘違い。RDはそんなことなく、劣悪な環境で育ったためにただ味が分からないだけであった。

閑話休題。紅茶を飲み終わったRDとクロエは、互いの作業を行いつつ禍根を生んだ元凶について考えていた。

 

「正体について検討はつきましたか」

 

「……正直なところさっぱりすね。ただ、2つ分かったことはあるっす」

 

「それは」

 

「一つ、上は俺と同じ世界の人物であること。ヴェンジェンスを見て、アーマードコアと呼んだ事とそれからあまりにも早い弾薬の製造が理由っすね」

 

そう、アーマードコア。この兵器の名前をアーマードコアと呼んだ以上、間違いなく上にいる存在は同じ世界でしか有り得ない。それに加えて、あまりにも早かった弾薬の製造。AC用の規格であるにも関わらず、ほぼ即日だったのは確かに亡国企業の技術力もあったのだろうが、そもそも弾薬のデータがあったと考える方が妥当だ。よっぽど戦うことを期待されていたのだろう。

 

「そして、2つ。相手は篠ノ之束が協力し、なおかつ脅威と思っている程度には優れたやつってことっす」

 

IS第一主義、さらにAC嫌悪。上はACを知っているはずなのに、篠ノ之束は何故かソイツとは手を組んでいる。当然帰着する結論は、何かしら手を結ぶことで篠ノ之束にもメリットがあり、それでいてソイツと戦えば篠ノ之束とて痛い目を見るということ。

 

「……白い、AC」

 

「なんすか?」

 

「……あ、いえ。何でもありません」

 

クロエの頭に過ぎったのは夢で見る白いAC。だけど、それは違うと断言できる。アレはこんな回りくどい方法を取るような存在ではない。立ちはだかるのであれば破壊する、そういう性格だ。

 

(──そういえば)

 

ふと、思い出す。あの夢の終わり、誰かの声が聞こえた。あの光景ではなく、自分に対して語りかける声だった、気がする。

あれは確か男の──

 

「──エ、クロエ?聞いてるっすか?」

 

「えっ!?はっ、はい!」

 

「その様子だと聞いてなかったっぽいすね」

 

「……申し訳ございません」

 

「まぁ、いいっすよ。次の作戦が終わったら、本部とやらに行きたいってだけっす。場所、どこか知らないすか」

 

「本部……いえ、私も存じて上げておりません」

 

「情報統制はしっかりされてる、当然か……」

 

RDはヴェンジェンスの関節部にオイルをさしながら、考える。クロエが知らないとなると、知っていそうなのは──スコール。だが、あの女は誰よりも信頼できない。取り巻きのオータムも同列。

時点でエムだが──

 

「クロエ、エムってどんな人っすか」

 

「エム様、ですか」

 

「何でもいいんすよ、経歴とか」

 

「私も詳しくは聞いたことはありませんが、そのエム様は……忠誠心が欠如されていたため、体内に制御用のナノマシンを投与されているとか」

 

「なるほど、ね」

 

RDは頷いて、確信する。エムは本部の場所を知らされていないと思われる。

 

「ですが、RD様。ことを起こされるなら、まだ時期尚早かと」

 

「別にそんな気はないっすよ、今は。ただ、ちょっと聞きたかっただけすよ」

 

間違いなく嘘なのだが──それに、クロエはそれについては追求しなかった。ただし、代わりにRDに別のことを訊ねる。

 

「RD様はそのもし。もし、全てと戦って自由が手に入ったら何をされたいのですか」

 

「そりゃ、自由を謳歌するんすよ。戦いから逃れてね」

 

「自由を謳歌、ですか」

 

「そうっすよ、色々やりたいことはあるっすからね」

 

RDは楽しそうに語る。

 

「……具体的に何をされるのですか?」

 

「具体的?」

 

「実は、私は何もしたいことがないんです。だから、もし全部に片付いて生きていたら、他人の模倣から始めようかと」

 

「なら、まずは──」

 

(あれ)

 

言葉が出てこない。RDは必死に解答を探すが、出てくるのは漠然とした幸福や、安心のイメージだけ。

 

(そんなことないはずだ。オレは、生きて──)

 

生きて、どうしたい。ふっ、と頭に過ぎった最期。

死にたくない。死んでも死ぬのはごめん。それは、間違いない。死が怖いから生きることにしがみついている。

だが──

 

(生きて、どうしたいんだ)

 

「RD様……?」

 

「あっ、ああ。やりたいこと、やりたいことっすよね。えーと……」

 

「やっぱり、やめましょう。この話こそ時期尚早でした。申し訳ございません……お先に就寝させていただきます。それではおやすみなさいませ」

 

「あ……了解っす」

 

クロエは何処か萎れた笑顔を浮かべ、プレハブへと歩いていく。

 

(オレの……やりたいこと)

 

その遠ざかる小さく孤独な背中に、RDは自身を思わず重ねていた。

生きる目的は死なないため。だが、それは手順が目的になってしまっている。

生きる、生きる──考えても、納得する答えは出てこない。

 

「はい?なんでしょう?」

 

すると、何故か遠ざかっていたはずのクロエが目の前にいた。

 

「あ、え?オレ、なんか言ったっすか」

 

「今、私をお呼びになられませんでしたか」

 

どうやら、RDは知らぬ間にクロエの生えり呼んでいたらしい。クロエはじっと、RDに耳を傾け、首を傾げている。

動揺に動揺を重ね、声が上擦るRD。だからなのか、RDの口は思わず口走った。

 

「あー、その。明日、また。ほら、さっきの話の続きしないっすか」

 

「……?えぇ、構いませんよ」

 

「そ、そうっすか。じゃあ、また明日」

 

「えぇ、また明日」

 

クロエはRDがヴェンジェンスに戻っていく後ろ姿に気が付かれないようにクスリと微笑む。それから、再びプレハブへと戻って行った。

 

(オレ、なんでこんなことを)

 

一方、RDは自分自身の発言に困惑。だが、一度吐いてしまった言葉は元に戻らない。結局、頭に残り続ける違和感をどうすることもできず、明日、どうやって話を誤魔化すかだけを必死に考えていた。

 

でも、RDはこの時当たり前のことを忘れていた。明日は来れど、それが今日のような明日である保証なんてどこにもないことを。

 

──次の日、その次の日にもクロエは帰ってこなかった。

 

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