敵意、殺意──四方八方から明確にそれ等は感じられるが、攻撃の手は一行に訪れない。
誘われ、来るのを今かと待ち構えているのだと、理解する。上等、決戦の時が早くなっただけ。機体の改修、準備──全ての手は今は揃っていないが、それでもやるしかない。
進むこと事、はや4時間。慣れてきたコックピットのモニターが捉える映像の先に、ついに発信源と思しき場所が見えてくる。
一度、ヴェンジェンスを停止させ、見上げる。巨大な雪山──大自然の脅威をひしひしと感じさせる荒れた天候と斜面の状態もさることながら、それをゆうに上回る内部からの威圧。
ギリリ、と歯を食いしばり前進。急激に切り立った傾斜をブースターの力で無理矢理、登攀していくと正面の傾斜が急に
入ってこい、そう言わんばかりに現れたのは、怪物の口のように大きく開けた内部への通路。躊躇わない、RDは内部へと侵入し──入口を蹴って、飛んできた2つのロケット弾を回避する。
ロケット弾は支柱に当たり、爆発。入口を乱暴に閉じる。
『中々にいい墓穴だろう?後は死体を入れるだけなんだ──なぁ、RD?』
通路に響く束の声。
パイロット──RDはインカムのスイッチを入れて、応答する。
「……クロエは」
『それに答える義理はないけど──そうだね。ここにはいるとは言っておくよ』
「そうかよ」
RDはそれだけ返すと、再び奥へと進もうする。
『行かせると思う?』
だが、そう易々と行くはずがない。その行く手を横の壁から飛び出してきた3機のISが阻む。
女性的なフォルムこそしているが、直ぐにRDは気が付く。
それを確かめるべく全く同じ挙動で、横一列に並ぼうとしたソレの虚を突き、
「無人兵器か」
弾丸は命中。腹部の装甲の一部が凹み、中に収められていたものが露出する。
それはやはり、パイロットであるはずの人ではなく絡んだコード。だが、それも一瞬で、時間でも巻き戻したかのように直ぐに傷一つなく復元されてしまう。
『ゴーレム。オマエは見るのは初めてか。ISの七割程度の性能だけど、痛覚が無い分、継続戦闘能力は高い──特に、力だけが取り柄の相手とかだとね』
「なら、お望み通りマッハで解体してやるよ」
開戦の合図は既になされている。
旋回するヴェンジェンスを囲って、展開しようとするゴーレム達。2機はヴェンジェンスの視線の誘導、残った1機はレーザー砲をチャージしながら死角に入り込もうとする。照準はブースター、ではなく脚部とコアの繋ぎ目。装甲とコアをレーザーによって溶接し、動作を鈍らせるのが狙いか。
「一つ」
たが、それが発射されることはなかった。
誇るように見せ付けた先の自己修復能力を発揮することなく、スクラップと化すゴーレム。突如として爆発したのだ。
『なに……!?』
高みの見物と決め込もうとしていた束も思わずそれに腰を浮かせカメラを巻き戻し、そして舌打ちをした。
ゴーレムを一瞬の内にして落としたのはヴェンジェンスの肩部に搭載された
そう、RDは旋回中に自身の死角に回ろうとするゴーレムの死角にロケットを
RDは機体のすぐ側に墜落していくゴーレムを尻目に、直ぐにライフルを次に切り替える。
随伴していた1機を失ってもゴーレム達の動きに乱れはない。直ぐに狙ったゴーレムは射線から逃れるように、斜め上に離れつつ太いレーザーを照射してくる。
「2つ」
だからこそ──狙いやすい。RDは通路の壁を蹴り、ブーストドライブ。レーザーを躱し、即座に反転。
ゴーレムは背後を向いたままだが、ハイパーセンサーによってヴェンジェンスの動きは捉えている。予測通り、放たれたライフルの回避行動に移る。
しかし、そのゴーレムは自ら被弾しにいった。
ジャミングや、クラッキングといった妨害でも、ましてや、AIの不調でもない。
RDは放ったライフルの弾丸の後ろにもう一つの武器、
絶妙なタイミングで放たれた2つの弾丸はその速度差から空中で密着。ゴーレムはライフルの弾丸を躱すことには成功する。だが、その後ろのバトルライフルの弾丸を見落とした。
結果、長さを見誤ったゴーレムは次の弾丸を回避しようとして、体当たりをしてしまったのだ。
「3つ」
残るは1。しかし最早、動きのパターンを理解したRDの恐れるところではない。ライフルとヒートロケットで牽制、そして動いた先にバトルライフルを。
『……馬鹿な、こんなことは……』
そうして、3機全ては撃墜された。所要時間は僅かに1分。
炎上するゴーレムの中から転がった黒と灰の波打つ模様の球体、ISコアを踏み潰しながら、RDはつまらなさそうに鼻で笑う。
「こういうまどろこっしいのはいい。墓穴が埋まっちまって、アンタが入れなくなる」
過去全ての戦闘データをかき集め、そこか、ヴェンジェンスの行動を分析。2倍速以上の動きにも対応できるまでには学習していたはずなのだが、まるで役に立たなかった。RDが実戦でISと戦ったのはこちらに来て4回。
つまり、それは初めと今ではRDの技量に天と地程の開きがあるという査証。恐るべき成長速度。
『ふっ、ふふふ……あはははははは!』
だが、それでもなお束は狂ったように笑った。
『この程度、想定の範囲内だよ!』
「!?なっ!」
何事かと警戒した次の瞬間、なんということか通路自体が下降し、そしてみるみるうちに天井と横の壁が遠ざかっていく。
そうして、通路だと思っていたその場所は一切遮蔽物のない高さ30m、縦横300mの直方体のスペースへと変貌していた。
「これは!?」
『アリーナさ』
「!」
──『ヤバい』
ほぼ、反射的に跳躍。その真下を高速の何かが通過し──壁に火炎が走る。
反射的にそちらにライフルを向け姿を捉えるが、そんなことしなくてもその正体は、既にその身に覚えがある感覚で分かっていた。
「外しましたか」
黒く焼けた壁を背景にし浮かび上がる銀と金。
『あれ──君の番はまだなはずだけど、クロエ?』
「申し訳ございません。しかし、あまりに彼らが愚鈍だったもので。それに、こうなったのは私の責任でもあります」
『あぁ、そういうこと。じゃ、いいよ。先におっぱじめて』
「では、お言葉に甘えて」
空中へ舞い上がり、再び相対するRDとクロエ。
見せたことも無い苦虫を潰したような顔でクロエは問う。
「……何故、来たのですか」
「アンタに文句を言うためにっすよ」
「今更、何を。あなたと私の縁は既に切れているでしょう」
「ああ──そう。
ペダルに足を乗せ直せば伝わってくる、その重さ。操縦桿を握り直せば感じる、鉄の冷たさ。目を閉じれば分かる、外界の脅威。大きく息を吐く。それは目覚めの合図。RDの感覚が全て繋がっていき、そして──
「来いよ──そのつもりなら付き合ってやる」
「……望むところ!」
復讐の名を冠した炎の軌跡と復讐の炎の軌跡が再び、交差した。