RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 26

先手を取ったのはRD。

威力こそ劣るもののライフルは連射に優れた武器だ。全ての銃弾をエストックで溶かし尽くすことはできるかもしれないが、その場合、攻撃は当然行えない。

 

「なら!」

 

ならば、狙いを絞る。クロエが逃げた先は空ではなく地。敢えて、ISの強みである高さを捨てたのは低空飛行を行うことで狙いを単調にさせるためだ。

回避に撤し、重い一撃を与えて離脱。ヒットアンドアウェイ。それ以外にヴェンジェンスを撃退する方法はない。高速機動による回避に徹し、時折命中しそうになる銃弾のみを受け流し、クロエは一気に20mの距離に入る。

 

「……はん、やる気もないくせに!」

 

だが、それはRDも何度とも食わされた手。

ヒートロケットをすぐ下の床に向けて発射。クロエは身を捩るようにして躱すが、巨大な爆風により撒き散らされた黒煙が視界を一瞬、奪う。

それだけで充分。晴れた先に待ち構えていたのは、銃弾。

 

「何が──くっ!?」

 

その程度は予想していたクロエは銃弾を叩き斬ろうとして、その寸前で急ブレーキをかけつつ背を逸らす。

鼻先を掠めていくその弾は、先のライフルの弾ではない。もう一方のバトルライフルの弾だった。もし、斬っていたのならば誘爆し、多大な損傷を受けていただろう。

だが、回避に成功したことこそ失敗だったとクロエは直ぐに気がつく。仰向けになったことで見上げたのは、跳躍したヴェンジェンスが繰り出した全武装攻撃(フルアタック)

低空飛行が仇となり、回避する隙間はない。

 

「何が、やる気がないものですか!」

 

エストックの炎を最大出力に切り替え。同時に調整されたことで脳のリソースを補うため世界から色覚と音が抜け落ち、ただひたすらに迫り来る全てを反射と炎で溶かし、燃やし尽くし──そして、鉄がいた。

 

「がっ…ああっ……ああああっっ!」

 

ヴェンジェンスのブーストチャージをクロエのエストックが受け止める。接触面から激しい火柱が吹き上がり、じわじわとヴェンジェンスの装甲は溶け、損傷の度合いを表すAPも減っていくが、それでもヴェンジェンスはブーストを続ける。

それもそのはず、彼女の剣を受け止めているのは左のレッグパーツの分厚い追加装甲。本来であれば大型武器の構え中に防御力を高めるものだが、この状況においてはクロエの武器に対して強く出られる装備の1つとなっていた。

そして、出力では圧倒的にヴェンジェンスが上。このままクロエを壁に叩きつけようとする。

 

「これで大人しく話を──ッ!クソっ!」

 

しかし──その時、第六感が警告を発した。

脚を振り上げ、競り合いを中断。

カメラには捉えられなくとも、こんな水を差すマネをしてくるヤツなど、一人しかいない。

 

「──白式はどこだ!」

 

大きく空中に投げ出されたクロエとヴェンジェンスの間を、いくつもの小規模の爆発とエネルギー弾が阻む。

RDは旋回し回避。そして、その気配の元を探り──上を見上げた。

一瞬の静寂。蒼い流星のような一筋の軌跡を描いて天井を突き破り、白いその機体は推参した。

 

「RDッ!」

 

現れた織斑一夏──白式は雪片弐型を零落白夜を起動させ、抜刀。純白の光を凝縮した刃を構え、ヴェンジェンスへと一直線に向かってくる。

 

「織斑一夏……!」

 

RDは邪魔された怒りのままにブースト。

2つは空中で大きな火花を散らし、衝突。そして、反発し合うように互いに離れていった。

 

「……余計な真似を」

 

「言ってる場合かよ!」

 

地面で膝をついたクロエを庇うように前に立つ白式。

 

「突っ走りすぎだ、新兵」

 

「今は協力関係だろう。少しは私達の言うことも聞け」

 

さらにレーゲンと紅椿。

 

「……ふん」

 

そして──『力』の体現、織斑千冬。

 

「退けよ、アンタらに用はない」

 

「お前になくても俺にはある。これ以上、俺の仲間を傷付けさせない」

 

「そうか──力づくで通させてもらう」

 

一夏の言葉を待たずして、RDは攻撃を再開。だが、一夏は覚悟を決めた顔で回避ではなく、防御を選んだ。

バトルライフルは展開装甲で、ライフルは零落白夜で分散し回避。どうやら、短い期間に彼も相当に機体操作を向上させたようで、滑らかで隙が少なくなっていることはRDの目にも明らかだった。

 

「ラウラ、クロエを頼む!」

 

「了解!行ってこい、嫁!」

 

レーゲンはその言葉に合わせ、リボルバーカノンでヴェンジェンスを牽制しつつクロエを横に抱いて空に撤退。

合わせて白式、紅椿、千冬も動く。白式は僅かに弾幕が切れるタイミングを見計らい、ウイングスラスターにエネルギーを充填、斜め上へ。

紅椿は千冬に自身の肩部を掴ませ、最短距離を突貫する。銃弾の嵐は問題ない。全て織斑千冬が斬り払っていく。

白式、千冬、紅椿は全員、近接距離、つまりヴェンジェンスが苦手とする距離が得意としている。

 

「くどいんだよ!」

 

だが、繰り返しになるがもうそれはRDが何度も見た手。

ヒートロケットで白式を、分散した紅椿にはライフル、千冬にはバトルライフル。一度に三人全ての回避行動を読み、回避ではなく銃弾の迎撃を強要する。

 

「甘いな、小童」

 

「アンタはそうだと思ってたさ!」

 

白式と紅椿は防御し、立ち止まったがやはり千冬の技量のみは怪物。弾を受け止めたと同時に、ブレードを胸の前に構えて、()()()()()()()()()()することでやり過ごし、さらにその爆風でさらに加速し、向かってくる。

しかし、RDもそれは想定内。紅椿に向けていたライフルとバトルライフルを千冬に一点集中させ、迎え撃つ。

 

「その程度──貰った!」

 

それでもくぐり抜け、千冬はついに一足一刀の間合いに入る。

ヴェンジェンスの武装では狙えない必殺の射程。裂帛の気合いと共に、振るわれた大太刀がヴェンジェンスを揺らす。

 

「何っ──!」

 

ことは無かった。

ギリギリでRDが左にハイブーストしたことにより、千冬の太刀はヘッドではなく肩部ユニットに狙いがそらされ、威力が発揮される前に止められた。

そう──肩部ユニット。ミサイルハッチは既に開いている。頭を見せたミサイルが千冬の胴体に押し付けられる。

 

『させないよ』

 

響く束の声。

そして、爆発。何かしようとしたのかもしれないが、確かに千冬には直撃していた──はずなのに。

 

「……助かった」

 

千冬はあろうことか装甲の表面が溶けた程度で、ほぼ無傷だった。それは、千冬専用にチューンナップされた打鉄だからでは無い。

 

『だいじょーぶだよ、ちーちゃん!ここは私のフィールド。任意の座標に展開装甲を生み出すなんて余裕だよ!ぶいぶい!』

 

やはり、篠ノ之束の仕業だった。

おちゃらけた言動に舌打ちをし、RDはすぐさま後ろに距離を取り、仕切り直す。

 

「……」

 

千冬が後退したことで進退を伺っているのか、白式も紅椿も、そしてレーゲンも照準を向けたまま、静止していた。

RDは攻めてくる気のない彼らに一部の隙もない警戒をしつつも、頃合と見極め、呟く。

 

「もうこの茶番、終わりにしないっすか──クロエ」

 

「……だから、何を」

 

「オレ、言ったすよね。守るとか、守られるとかそういうお節介は鬱陶しいって。そうなんでしょ?でもなければ──非常用の脱出路なんて起動させなかったはずだ」

 

そう、RDが助かった理由、それはRDとクロエが万が一の為に作ってた非常用の脱出路にあった。

あの爆発は確かに地盤を崩落させるものではあったが、ヴェンジェンスを埋めるものではない。本来の役割は床を爆破し、下にある脱出経路に入った後、追跡を振り切るものだった。

クロエは大方、それを順番を入れ替えて作動させた。RDが驚いたのは、埋められたからでは無い──裏切ったと言ったにも関わらず、逃がすような真似をしたからだ。

 

「っ……知りません、そんなの!」

 

「あっ、待て!」

 

クロエを抱き抱えてレーゲンを弾き飛ばし、エストックの炎を再放出。一瞬にして最大速となり、炎の一矢となり、微動だにしないヴェンジェンスのコアを穿つ──

 

「……ほらね」

 

ヴェンジェンスの機体は確かに揺れた。だが──損傷は殆どない。せいぜい、エストックの切っ先が掠っただけだ。

ヴェンジェンスを通り過ぎたクロエはターンして、もう一度、もう一度とエストックを振るが、どれも結果は同じ。

次第にその攻撃の手も遅くなり、ついにはヴェンジェンスに背を向けてクロエは剣を下ろした。

 

「……認めましょう。私はRD様を守るつもりで、最初はあなたの死を偽装しました。亡国企業の仲間の一人でしたから。でも──」

 

「……」

 

クロエはグッ、と拳を握り締め、それから天を仰いでからヴェンジェンス──RDに振り返って、見せたことも無いような笑顔で笑う。

 

「見つけたんですよ。私、やりたいこと──ISで世界を変える」

 

「……ISで世界を?」

 

「えぇ、そうです。私の復讐が終わったら、篠ノ之博士についてISで世界を良くするんです。それが、私のやりたいこと──だから、ここで私は!あなたを!」

 

「──具体的には、どうするんすか」

 

「だから……!」

 

声を震わせ、荒らげクロエ。直ぐに言い返そうとするも、出てこない。ISを良くする、そうは言っても思いつかない、どうして。

声を詰まらせたクロエにRDは畳み掛ける。

 

「どうせ、思いついてないんだろ!あぁ!?」

 

「……っ!あなたに何が分かる!」

 

「分かるんだよ!オレだって……オレだって……オレだって、生きて何がしたいのか分かんないんすよ……!」

 

「──っ」

 

死ぬのが怖い。だから、生きたい。認めたくないが、RDは認めた。今までの自分の人生は生きるということに目的がなかったことを。

RDは操縦桿から手を離し、自分の両手を見つめ、握る。

 

「今だって篠ノ之束を倒して、自由になるために来ただけだ!オレのために来たんだ!」

 

「だったら!」

 

「でも!」

 

クロエの反論の芽を、RDは怒号で押さえつける。それから、一呼吸おいてから、叫んだ。

 

「まだ──未来の話をする約束が不履行のままだ。だから、アンタには去られちゃ困るんすよ」

 

「……わた、しは……」

 

「あー、あー、もういい?その茶番」

 

「「!?」」

 

顔を歪ませていた、クロエがいきなり地面へと叩きつけられる。

コツコツと響く、足音。青と白のエプロンドレスが揺らし、その手に鉄だらけの戦場と相反する魔法少女のステッキのような装置を持った女が、クロエの傍に悠と立つ。

 

「から、だが、……!」

 

「篠ノ之束!」

 

RDは突如として現れた篠ノ之束にライフルの銃口を向けるも、立ち上る煙幕。それでもライフルを放つが、煙幕が晴れた先には篠ノ之束もクロエも忽然と消えていた。

 

『っと、ここだよ。ここ、話長いんだよ』

 

「……クロエ!」

 

挑発的に開いたのは壁の中央──もとい、ラボの入口。透明なアクリル板のような先に、束とクロエはいた。クロエはISであるにも関わらず完全に制圧されており、反対に束は主観から見れば裏切ったにも関わらず、にこやかな笑みでクロエを見ていた。

 

『クロエ。君はよくやってくれたよ──ここまで、RDをおびき出してくれて。最高の仕事だった』

 

『……なっ……まさか、初めから!』

 

『信用なんてこれっぽちもしてないよ。ここに君がいれば難癖つけてRDが来ると思ってたからおびき寄せて利用した。それだけだ。ありがとう、助かったよ』

 

『この──!』

 

クロエが束に反撃をしかけようとするもまるで、歯が立たない。束はそれからRDを見て笑みを浮かべ──

 

開門(オープン)

 

手を振り下ろした。

刹那、この空間全てから、一瞬で伝わる殺意。束の号令と共に部屋の至る所から展開されたのは、機関銃、ミサイル、レーザー砲台などなどのタレット。その数はあまりにも多く、一瞬では判別出来ないが、それでも100以上の数があることは確か。

それらはヴェンジェンスただ一つを狙い、一斉に射撃を開始する。

 

「くっ、おおおっ!」

 

ただ、黙ってやられるわけではない。RDはレーザーやミサイルを重点的に避け、反対に全ての武装を使用し、そのタレットを優先的に潰していく。

回避、迎撃、回避、迎撃、回避、回避、回避──間に合わない。

ならば、せめて篠ノ之束だけでも──

 

『撃っていいのかい?』

 

クロエがいる、撃てない。その判断こそが命取り。

二丁のライフルの銃口が突如、跳ね上げられた。

 

「「はああああっ!」」

 

「吹っ飛べっ!」

 

敵意に囲まれたこと、動揺していたことでIS乗りの存在を失念していた。ライ右腕をレーゲンと紅椿、左腕を千冬が根元からかち上げ、ヴェンジェンスがなんということか、僅かに後ろに倒れそうになる。

すぐさま体勢を立て直そうと、ブースト。だが、そこでようやく気が付いた。気がついてしまった──何よりも、恐れていた『恐怖』がすぐ後ろに迫っていたことに。

 

「今だ、やれ!一夏!」

 

「今だ!」

 

「うおおおおあああああっっっっつ!!!!」

 

(しまっ──)

 

瞬時加速に、さらに瞬時加速重ねた二次加速。他の追随を許さぬ音速を超えた速度。ヴェンジェンスの回避はもう間に合わない。白式の零落白夜は今、ヴェンジェンスを──そのジェネレーターを穿った。

零落白夜の能力は全てのエネルギーをゼロにすること。それが、エネルギーを発生させるジェネレーターに突き刺さった。

 

『あはっ、あはは……あははははははは!やった!ついにやった!ナイスだいっくん!』

 

『RD様!逃げて──!』

 

『無駄だよ!できない!無駄!ジェネレーターがやられたんだ!もうACは動けない!』

 

ヴェンジェンスの各種ブースター全てが停止。それどころか、エネルギーの供給がほぼゼロにされたことで、もはや歩くこともカはおろか、カメラすらも機能を停止していた。

 

「はあっ……はあっ……はあっ……」

 

『よーし、撃ち方止め!いっくん、そのままね。解除しちゃダメだよ。シールドエネルギーは気にしなくていい。今から砲台のエネルギー、白式のシールドエネルギーに回すからね』

 

「あっ……はっ、はい!」

 

一夏は言われた通り、零落白夜を展開し続ける。なにか困惑していたようだが、束はそれを無視してRDに話しかける。

 

『今度こそ本当にチェックメイトだ。もうオマエにできることはない。諦めて武装を解除して出てこい』

 

「……」

 

『なに、負けたからダンマリってわけ?往生際が悪い──』

 

『退いて!』

 

『!』

 

拘束され続けていたクロエが一瞬の隙をついて束を蹴り飛ばし、脱出。透明な壁を焼き切り、白式へと駆けていく。

 

『行かせないよ』

 

「うあっ……!」

 

だが、それも叶わない。再びステッキが振られればクロエは、地面へとさらに強く叩きつけられ、今度こそ指の一本すら動かせなないほどに強く、拘束される。

だが、それでもクロエは──

 

「……逃げ……て。生きる、んでしょう──あなたは」

 

それでも、RDに手を伸ばした。

 

「……」

 

それは暗いコックピットの中にいるRDには見えていない。

だけれど、RDには伝わっていた。殺意、恐怖。そんな、自身に仇なす負の感情ではない。あまりにも鬱陶しく、お節介で、押し付けがましくて、唾棄するべき──その感情。

前は、死にたくないから怖かった。それは今も変わらない。

だけど──今はそれ以外にもう一つ、怖い事がそんな感情を向けてくるヤツのせいで、できてしまった。気付かされてしまった。

本当に嫌になる。ソイツ──クロエにも、それ以上にその理由で動かされている自分にも。

 

だけど──覚悟はできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パージします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不明なユニットが接続されました』

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