「──馬鹿な!?再起動だって!!」
束は急いで、手元に呼び出したパネルでヴェンジェンスのステータスを確認。
そして──有り得ざるデータに驚愕した。
「ジェネレーターの出力再上昇……!?零落白夜を上回るっていうの!?ありえない!」
「うわあっ!?」
「……!」
直後、ジェネレーターから逆流したと思しきエネルギーで機能不全を起こす白式。
そして──全ての人間はソレを見た。
「なん、だ、これ……」
地面に転がる武器諸共吹き飛ばされたヴェンジェンスの左腕。その場所に接続されていたのは、全てが終わり、そして始まったその日から背負われていたモノ。限界以上に稼働させられたジェネレーターから莫大なエネルギーが供給され──ついに『規格外』は目覚める。
逆流制御モノリスによって行き場を失いエネルギーによって、熱暴走を起こしヘッドパーツの装甲は弾き飛び、顕になるモノアイ。
背部から、右腕にマウント。唸り吠え、回り出す巨大な6枚の刃。刹那、接続されたアームの供給口から抑えきれず溢れ出た夥しいエネルギーの放熱が、空間を大きく歪ませる。
「退避しろ──!」
その正面で体勢を崩していた一夏に千冬が叫ぶ。アレは不味い、あの千冬の第六感が全力で警鐘を鳴らす。
その声にハッとし、一夏は瞬時加速で離脱を試みるが──遅い。
「なっ、はや──」
自身のブースターの耐久を超えた出力により生み出された推進力。それは、瞬間的にISの速度を悠に上回る。
地に一直線の跡を刻み付け、聞くものに悲鳴を想起させる轟音を携え『規格外』──オーバードウェポン、グラインドブレードは、白式を完全に捉える。
『だから……だから、なんだってのさ!』
束はステータスチェックを中断。白式、砲台に回していたエネルギーの全てを用いて刃が触れる紙一重で、白式の正面に再び展開装甲を展開。突っ込んできた刃は展開装甲に受け止められ──
「あ”あ”あ”あ”っ”!?」
「「「一夏──!!!」」」
──一瞬で、白式を貫いた。
展開装甲、絶対防御──そんなものはその猛り狂う刃の前ではまるで意味をなさない。希望の空に飛び立つ白亜の翼、搭乗者の精神を現すような太刀。それらは一瞬にして、 へし折られ、粉々に粉砕された。
だが、ヴェンジェンスは止まらない。白式を微塵にするだけでは飽き足らず、後ろの壁をも粉微塵にしたヴェンジェンスはゆっくりと振り返る。ひび割れたモノアイを見た。
「──ッ」
切れかけた蛍光灯のように何度も点滅し、揺らめく赤い光。
ヴェンジェンス。彼女ら全員にとって、大事な人間である織斑一夏を今、目の前で傷付けた許されざる敵。今……今さっきまで、敵として捉えられていたはずの存在。
「はっ……はぁっ……はぁっ……っ」
だと言うのに、心臓が跳ねた。幾度の戦いを経て、成長したはずの彼女達の呼吸は乱れ、上がっていく。気が付けば身体が震え、奥歯がカチカチと鳴っていた。
アレは大きく見えるが所詮は近接武器。ならば、ISの方が絶対的に有利。
そんなことは分かっている。分かっているのに、刻みつけられてしまった恐怖が足を掴んで離さない。ISがバイタルの異常を検知したアラートを送り付けてくるが、抑えようとすればするほどアラートが増えていく。
だが──それでも、絶望の音は再び鳴り響く。
「ちぃっ!」
炎を纏って突撃体勢を取ったその狙いは──白式が解除されたものの、まだ辛うじてか細い呼吸のある織斑一夏。
その狙いに気が付き、飛び出していくのは千冬。倒れた一夏を拾い上げようと、加速をしていくが──それが誘いであることは、あまりにも明白だった。
『ちーちゃん!』
束が聞いたこともない悲痛な叫びを上げるが、千冬はそれでも一切減速することなく一夏の正面に立ち、ヴェンジェンスに刃を構える──
(ああ──これは、ダメだ)
眼前でブーストを炸裂させ、迫る緋色──これは受け切れない。
百戦錬磨の世界最強。だからこそ、
「……馬鹿者だな、私も」
千冬は
『ちーちゃん──!』
だが、その言葉は虚しく、轟いた一撃に掻き消えた。鮮血を巻き上げて打ち上げられる織斑千冬。
ガシャンと、その人の重さには見合わない軽い音を背にヴェンジェンス──RDはついに、本命に矛先を向ける。
『次h、お前d、篠n之たばn』
──それは全てを焼き尽くす『暴力』
RDの殺意に呼応するように熱暴走でさらに燃え上がる機体。いつしか火の手は全身に周り──そのエンブレムすら黒く、焦げ付かせていた。
「……あ……」
それを見たクロエは驚き、そしてその目尻から一粒の雫を流れ落とした。
「黒い、鳥……」
自分を救ってくれた救世主。記憶の奥底にあり続ける、今の自分がいる理由。そして──あの夢で見る白いACのエンブレム。それと全く同じだった。
黒い鳥──ヴェンジェンスは壁を一気に蹴り上がり、束に接近していく。
『ISが負ける!?そんなの……認めない!認められるもんか!』
束もエネルギーを再び砲台に回し、ヴェンジェンスに集中砲火を仕掛けるが、RDはもう躱さない。
ブーストの限界を越え、ただひたすらに上へ。この因縁を全て終わらせるために──!
『……くっ、群咲──』
「や、やあああああっっ!」
『箒ちゃん!?』
射程までもう間もなく。その時、紅い機体がヴェンジェンスの目の前に飛び出す。
それは紅椿──妹である箒。刷り込まれてしまった恐怖は顔にも声にも如実に現れていた。
それでも彼女は恐怖を振り払い、ヴェンジェンスの前に立ちはだかった。
『邪mだ!』
だが──彼女の献身は障壁にすらない。
突き出された刃を2振りの刀を交差させ受け止めようとするも、一瞬で破壊。先の一夏と千冬と同じく、美しい和模様の機体がへしゃげ、赤と金の破片と散っていく。
『──これd終わりだああaあaァァッ!』
「──」
束のIS展開も、回避ももう間に合わない。
箒を砕いた刃をもって、ヴェンジェンスは勢いをそのままに壁を容易く突き破り──
「……は、はは……はは』
『──……クソッ!』
「あは、ははは……ははははっ!」
……僅かに、届かなかった。
後、少し。それこそ──箒が飛び出さなければ、確実に篠ノ之束の命を奪っていた、ほんのわずか。その距離でブレードは止まってしまった。
『まだ──!』
だが、この距離ならまだ押し込める。さらにペダルを踏んで、ハイブーストを行おうとして──大きく機体が右に揺れた。
『システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止して下さい』
(な、こんな、ところで──!)
オーバードウェポンは強力無比だ。だが、その代償もまた大きい。
ヴェンジェンスに限界がついにきた。コックピットに鳴り響くアラート。途端に大幅に落ちるヴェンジェンスのジェネレーターの出力。ブーストを維持できなくなり、怨敵から離れ、落ちていく。
『稼働限界までわずかです。回避してください』
熱暴走と突貫で負った損傷で機体は大破寸前。これ以上は戦えない──悔しい。悔しが、撤退しなければ死ぬ。
しかし──膝をついたヴェンジェンスに突撃してくる最後のISがいた。
「ここだ!」
レーゲン。恐怖に震えていたラウラ、彼女もまた恐怖を振り切った。プラズマ手刀を展開、螺旋回転──自らの機体をドリルに変え、貫かんとしていた。
RDもグラインドブレードが収納され、再び右腕にマウントされたライフルを発射。だが、ジェネレーターの損傷による出力低下のせいか、射撃が安定しない。至近弾はあっても、有効弾は1つもない。
「でも、まだ──死ねないんすよ!」
ならば、RDはライフルをレーゲンに投げ捨ててパージ。レーゲンは直ぐに躱すが、その一瞬があれば十分。
ヒートロケットを壁の一点に向けて、発射。爆発と共に現れたのは、RDが入ってきた入口。
『クロエ!』
「……投げて、下さい!」
RDはすぐさまその指示に従い、クロエを掴み投げる。
瞬間、クロエは重圧から解放され、空に帰還。RDも僅かなブーストを管理し、グライドブーストで脱出を急ぐ。
『逃がすか、逃がすものか!』
しかし、そう易々と束が逃がしてくれるわけがない。
三度、砲台が露出し──
『たばねん、仲間はずれはよくないなぁ。オレも入れてくれないと』
──不気味な男の声が、ハイジャックされたスピーカーから響いた。
「おま、えは」
その声をRDは知っている──いいや、忘れるわけがない。
篠ノ之束、ACを知る亡国『企業』。全てが繋がっていく。
『ハングドマン!?オマエ、約束が違う──!』
『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』
陽気な声で楽しそうに笑い声の後ろ側で聞こえる、何かが充電される音。
「RD様!?」
その瞬間──RDはクロエを掴んで、急いで踵を返す。
「──主任ッッッ!!!」
入口から差し込んでくる眩い青白い閃光。
そして──全てが消し飛んだ。