RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 28

──こんな夢を見た。

 

(……)

 

もう何度目かになるACの夢。さしもの私でも慣れた。

届く先全てが酷く黒ずんだ不毛の大地に時折、映るいくつかの放棄された工場の跡地。空の雲はふわりとした柔らかいものではなく、まるでスクラップを寄せ集めたように黒く硬い。

これまでのどこよりも、酷く汚染されているように思えた。

 

(……大きい)

 

その戦場でACはやはり戦っていた。

円盤に六つの太い脚を大地に突き刺す、見果てる程に巨大な兵器。ACがライフルでその脚を攻撃するも、まるで効果がない。ACの数倍──あるいはもっと堅牢であるようだ。

ACも攻めるに攻められないようで、どこからか放たれたあの蛇のようなミサイルを回避すると同時に、弱点を探るように兵器を中心に円を描いて解析を進めていた。

すると、巨大兵器の脚の一本の装甲が開く。中から現れたのは、鉄の球。その中央には大きな穴が空いた眼球のようなそれは青白い光を蓄えており、私はその光に見覚えがあった。

 

(レーザー……!)

 

程なくして、熱はこちらに放たれた。

ACはそれよりも早く廃墟を蹴って加速。直後、カメラを埋める光。後方を振り返らなかったため詳しくは確認でないが──少なくとも蹴った廃墟が原型を留めていないことだけは察せられる威力であったことは間違いない。

掠めれば大損害を免れない矛と、並大抵の攻撃を寄せ付けない盾。不必要に巨大で移動しない──もしかすれば動けるのかもしれないが──その二点以外を除けば極めて強力な兵器。

だが──

 

(この、ACなら)

 

何となく私は確信している。あの兵器はこのACによって打ち倒されると。

そして、その予想は的中する。

再び展開し、エネルギーを充填するレーザー砲。その矢先、銃声が鼓膜を打つ。ACは両腕の形の違う二丁のライフルでそのレーザー砲を攻撃し始めたのだ。

しかし、その装甲がある以上、銃弾は無力──ではなかった。青白い光を膨張させていた砲台に銃弾が次々と突き刺さり、そしてついに暴発した。蓄えられていたエネルギー、その内部からの爆発はあの装甲でもタダでは済まなかったらしい。

黒煙を上げるその脚の装甲は吹き飛んでおり、機能を停止させていた。

それが分かったなら、もうこのACの相手ではない。再びACに狙いをつけて、開いた脚に叩き込まれる銃弾、起こる爆発、爆発──繰り返す事、三度。ついに、その巨体は炎上し、完全に沈黙した。

 

(──ああ、やっぱり)

 

もう驚きは無かった。むしろ──負けるイメージなど無かった。

見上げる巨大兵器の残骸。派手な爆発が収まり、暗くなった視界に明るさを調整しようと瞬きをする。

 

そうすれば、既に次の戦いは始まっていた。

今度の舞台は海に面したプラント。辺りに散らばった兵器の残骸を踏み付けて、ACは高速の弾丸を回避する。

 

(今のは──)

 

その方向を見れば、屋上から屋上へと飛び移るAC。かなり離れていたが、私には見えた。

二丁の大型の銃。一丁は折り畳まれたスナイパーライフル──いや、スナイパーキャノン。もう一丁は以前、ヴェンジェンスが装備していたものによく似たレーザーライフル。はっきりいって、ピーキーな狙撃特化の機体構成。

 

(……え)

 

だが──機体が揺れる。モニターには『DANGER』の表記。それが意味する事は1つ。

 

(被弾……!?)

 

そう、このACが連射でもない武器に被弾させられたということ。私は呆然とその遠くの機体を見る。今までこのACが戦ってきた機体達と明らかに違う性能を有している訳でもないはずだ。

こちらが攻めれば、向こうは適正な距離を保ち続ける。決して当たらないことに憤り、無理な突貫もしない。ただ高所を取り、明確なタイミングを見計らいそこを狙い撃つ。

それでようやく理解した。あの乗り手はピーキーな機体を御しうる技量を持っている、そういう単純な話だと。

何度かはある程度の接近に成功し、攻撃は命中こそするもののその度に逃走を繰り返す敵のAC。そのせいで決定打を中々与える事ができていない。

驚異的な命中精度のセンスに、油断なく攻め切るセオリー。今までの誰よりも苦戦を強いられているように見えた。

だが──それは長くは続かなかった。

 

『隊長、仲間はずれはよくないなぁ。オレも入れてくれないと』

 

(──っ!)

 

無音の世界に聞こえてきたその声。脳細胞に強い電流が走ったような衝撃と共にその声、そのセリフを思い出す。

 

『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』

 

遠くに見える全てを塗りつぶす青い光。その光は、今さっきあの場所で見た光で──

 

──そしてそれは、あの日。RDと邂逅した日に私を襲った『化け物』が吐いた光だった。

 

「あなたは──!」

 

『アハハハハハハッ!さ、お目覚めの時間だよ!』

 

敵のACが青白い光──恐ろしく巨大な閃光に呑まれたと同時に、私の意識も夢から追い出され覚醒する。

 

 

「うっ……あっ……」

 

冷たい床の上でクロエは目覚めた。

 

「……!RD様!」

 

直ぐに過ぎるのはあの声の主と閃光。クロエは最後にヴェンジェンスに握られ、庇われたことを思い出し、振り返り──戦慄した。

 

「……なに、これ」

 

太陽が見えていた。空が見えていた。何も無かった。

先まで戦っていた地下空間は何処へ。場所が移動したのかと思ったが違うことに直ぐに気が付く。自分が寝ていたこの床は確かに

先までの地下空間のものだ。

それは、つまり──この山が消し飛んだということに他ならない。

そして、クロエは自身に大きな影が被さっていることに気が付く。

 

「──!」

 

炎上し、スパークするヴェンジェンス。こちらを向いたその機体からはジェネレーターの稼働音はせず、また赤く光っていたモノアイは完全に消えていた。

クロエは弾かれたようにヴェンジェンスのヘッドの下──ハッチをこじ開けようと浮上して、自身のISがアラートにも気が付かさられる。

 

「何、この放射線量!?まさか──核」

 

『もしもーし、それ開けちゃっていいの?彼、死んじゃうよ?ま、もう死んでるかもしれないけどさ!』

 

「あなた、は!」

 

自身の回線に割り込んできたその声。

 

「答えなさい!あなたは誰です!」

 

『怒っちゃって怖〜い!……なんてね!』

 

『ハングドマンッッッッッ!』

 

おちゃらけたその声をハングドマン、そう呼ぶ声があった。

束だ。激昂したノイズ混じりの声をスピーカーが拡散する。

 

『オマエ、オマエ!どういうつもりだ!』

 

『ドアをノックしただけだよ、もしもーしって!こっちでは必要だって、言うからさ!アハハハハハハッ!』

 

『……ッ……この、クソ野郎……!』

 

話が全く通じていない。束の折れそうな歯軋りを一頻り嘲笑した──ハングドマンは、今度はクロエに話しかけてくる。

 

『ふーん、研究所に来た時より、ちょっとは成長したかな。ちょっとだけね』

 

「研究所──やっぱり、あなたが、あの時の……!」

 

『まぁね。あぁ、あそこはウチの傘下だから。本当だったら、処分だけど初回だからお咎めナシ!今度からは気を付けてね!』

 

「……答えて!何故、何故、あんな非道なことを繰り替えすのですか!」

 

『答えてもいいけどさ。そんな時間、あるのかな?』

 

「何を──っ!しまった!」

 

怒りに呑まれかけて、自身のアラートが何を警告していたのか忘れていた。

今、ここは高濃度の放射線に汚染されている。ISの保護機能のおかげでなんとか無事だが、その代償としてシールドエネルギーが凄まじい勢いで削られていた。

ここでもし、シールドエネルギーが尽きてしまったのならば。

だが、更なる絶望が襲いかかる。

 

『これでお開きってのも味気ないし、頑張ってる部下にオレからプレゼントをあげちゃいまーす!それじゃあ、頑張ってね!』

 

『「なっ──」』

 

クロエと束の声が重なる。そして、その考えも。

超高エネルギー接近のアラート。遠くに見えるのはあの光──超高速で発射された核弾頭。先は山のおかげで直撃を免れた。

だが次は?避けられない、確実に直撃してしまう──耐えられるわけがない。

するの、その時。沈黙していた影が動いた。

 

「RD様──!?」

 

ヴェンジェンスが再々起動。もはや、繋がっているだけが限界の機体を立ち上がらせ、壊れて出力が安定しないブースターに火が灯る。

 

『……逃げるぞ!』

 

その声に呼応するようにヴェンジェンスは最後の出力を振り絞ってグライドブースト。瞬間、軋み、歪な音を立てていた左脚部が爆発。空中分解を起こすが、止まってなど居られない。

クロエも頭を切り替え、自身の出せる最高の出力を持って、外へと急ぐ。

 

『アハハハハハハッ!アーハッハッハッ!』

 

加速、加速。右腕、右脚、背部、ヘッド。ヴェンジェンスの機体が勢いと比例して、少しづつ機体が爆発し、バラバラになっていく。

 

(──あぁ)

 

知っている。RDはこの爆発を知っている。

あの炎に焼かれたあの時と同じだ。自分が負けて、ヴェンジェンスの爆発に飲み込まれて死んだ、あの時と同じだ。

 

(結局、こうなるのかよ)

 

操縦桿もペダルも、もうどこにも繋がっていない。

死にたくない。しかし、どれだけ願っても死ぬのは一瞬だ。

上部が強く揺れる。コアも、もうじき限界か。

 

「クソ──もう少し、だったのかもな」

 

死にたくない理由──生きる理由は結局、見つけられなかった。でも、もう少しで。その一歩は踏み出せそうだった。

しかし、遅い。RDは目をつぶって──

 

「──掴まって!」

 

その閉じる瞳に光が差し込んだ。

 

「……ああ!」

 

伸ばされた白い、毎度毎度お節介なその手。RDはその手を握り、引き上げられる。クロエはRDを胸に抱き寄せる、その場を急速に離脱。

そして──核弾頭が着弾。コアの爆発すら呑む大爆発を引き起こし、あの戦場は全て核の光によって無へと帰した。

RDとクロエは振り返らなかった。ただ、その耳には──世界の歯車が大きくズレてしまった音が残り続けていた。

 

 

『たばねん、死んだー?』

 

「オマ、エ……その、機体は」

 

『ま、そんなわけないよね』

 

全てが吹き飛んだ跡地。一夏、千冬、箒、巻き込まれたラウラを回収、退避させることを優先した結果、回避が遅れた束。辛うじて、展開していたIS、更にオーバースペックな身体のおかげで命拾いしたが、跪き、呼吸するのがやっとだ。

だが──そこにソイツは現れた。

 

「なん、で、ACを」

 

青みがかったシルエット。太い脚部と腕部、戦闘機を思わせる大きなコア、装甲が飛んだのか壊れて露出した内部の双眼のような窪み。そして──その大型の機体の大きさよりも一回り大きな背部の巨大な砲。白い煙を上げるソレは間違いなく、今、ここを跡形もなく消し去ったものだろう。

それは紛れもなく、AC。

 

『ハングドマンって言うんだ』

 

「……持って、ない、はずじゃ──」

 

『言ってなかったっけ?まぁ、どうでもいいよ──時は来たからさ』

 

ハングドマンは『彼』が飛び去った方向を見て、言った。

 

『──『プロジェクト・レイヴン』を実行に移す。モザイカの続きはもう必要ない。そういうわけで──おやすみ!アハハハハッ!』

 

乾いた音に、閃光。

それからしばらくして──地面に広がる赤を降り出した雨の黒が染め上げていった。




《ヴェンジェンス》 クロエ戦アセンブル

HEAD:UHD-10 TRISTAN
CORE:UCR-10/A
ARMS:UAM-10/A
LEGS:ULG-10/A DENALI
FCS:UFC-11 GLANCE
GENERATOR:UGN-70/Ho VITAL
BOOSTER:UBT-25/H
RECON:STK-16/EL HETSU
R ARM:OXEYE HG25
L ARM:KO-3T5/MAHAON
SHOULDER:USC-1 DHANBAD
OVERED WEAPON:GRIND BLADE

《解説》
ベース内戦闘を前提としているため、小回りとベースへの被害を最重視し、取り回しやすくなおかつ一撃の威力が高いセミオートの武器で構成されている。肩部のサブコンピューターは飛び回るISに最速でロックオンするため。
万が一に備えたグライドブレードがこのアセンブルと噛み合っていないことだけがネック。

《ヴェンジェンス》 ラボ強襲アセンブル

HEAD:UHD-10 TRISTAN
CORE:UCR-10/A
ARMS:UAM-10/A
LEGS:ULG-10/A DENALI
FCS:UFC-11 GLANCE
GENERATOR:KV-3D2/XINZANG
BOOSTER:UBT-25/H
RECON:無し
R ARM:LAMPOURDE RF23
L ARM:LOTUS BR429
SHOULDER:KO-8C5
OVERED WEAPON:GRIND BLADE

《解説》
オーバードウェポンの運用を前提にRDが地下空間で土壇場で組み直したアセンブル。大きな変更点はジェネレーターの変更とリコンの除去。また、EN消費を抑えるために武器は実弾のみとなっている。RDのセンスが開花の兆しを見せたため、ヒートロケットも無視できない強力なものとなっている。
なお、このグラインドブレードはRDがストーリーミッションで使用したものであるため、本来よりも使用時間が長いのだが、ジェネレーターの損傷によりそこまで動かせなかった。
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